■2012年1月15日 第10回 〜 講演「ごぼう」 柳川採種研究会 塚田元之氏
◇ごぼうの来歴など
  • 柳川採種研究会では、採種事業や品種改良などを行っています。ごぼうのタネに関しては、「柳川理想」を中心に、国内の7割ほどを弊社の品種が占めています。

  • ごぼうの栽培が始まったのは、関東近県では江戸中期から、といわれています。ただ、文献などを見ると、縄文時代くらいから存在していたのではないか。原産地はロシアのあたりで、そこから飛んできたタネが、野良ごぼうとして自生していたといわれています。

  • 作り話かもしれませんが、「堀川ごぼう」の栽培を始めたのは太閤秀吉だ、という話があります。太閤殿下はもともとお百姓さんで、ゴミ捨て場に捨ててあったごぼうを、もったいないからと脇に埋めておいたところ、そのごぼうがおいしく育った。太閤殿下は江戸時代より前から京都に住んでいたわけですから、この話からも、ごぼうは江戸時代以前から栽培されていた、と考えられます。
柳川採種研究会 塚田元之氏
  • 日本で野菜として栽培された記録が文献に多く残っているのは「滝野川ごぼう」で、江戸の滝野川という地域で栽培されていたそうです。そこから日本各地に伝来していった。京都や関西でも同じような形で、同時期ぐらいに、各地に広まっていった、といわれています。

  • 戦争中、捕虜として捕まっていたアメリカ人(中国人との説もあり)に、兵隊さんがきんぴらを差し入れして食べさせたところ、後になって、「木の根っこを食べさせられた」と訴えられ、その日本人の兵隊さんが裁判で終身刑になった、という話も有名ですが、これはどうも嘘のようです。ただ、確かに、欧米の方は、ごぼうの食感が好きではないようです。

  • ごぼうのタネの販売先は、ほぼ日本国内で、ほかには中国、韓国、台湾です。中国で栽培されるごぼうは、従来は日本への輸出用が多かったのですが、それ以外にも、漢方薬として使われているそうです。韓国、台湾は、戦時中日本に統治されて日本の文化が入り、ごぼうを食べるようになったようです。台湾では、一時、ごぼうのお茶が流行っていました。利尿作用があり、糖尿病にかかりにくい、といわれています。

◇ごぼうの栄養と成分
  • ごぼうには、水溶性と不溶性、2つの食物繊維が入っています。

  • イヌリンは、水に溶ける食物繊維。腎臓の機能を高め、利尿作用が高くなるので、悪玉コレステロールを外に出してくれるとか、血糖値の急激な上昇を抑えてくれるといった性質があるといわれています。最終的には、動脈硬化や糖尿病の予防になるのではないか、とされています。

  • 水に溶けない食物繊維は、お腹の中に入っていくと、あまり消化されないので、ほうきのような役目を果たし、腸の中をきれいに掃除してくれるそうです。ごぼうには、さつまいも等と同じように、不溶性食物繊維がたくさん含まれているので、食べるとお腹からきれいになり、排便を促してくれる。肌もきれいになる、ということのようです。
◇品種の変遷
  • ごぼうは茎の色で、赤いものと緑のもの、大きく2つに分けられます。緑のものは「白茎」とも呼ばれ、京都等を中心に食べられている「葉ごぼう」や九州の「若ごぼう」。赤いものは「赤軸」と呼ばれ、「滝野川ごぼう」から品種改良した「柳川理想」。これが国内シェアの約7割を占めているといますから、みなさんが目にするごぼうはほとんどが「滝野川」系統か、この系統からの分型です。短いタイプのごぼうも、別の種類ではなく、「滝野川」系統のごぼうを短くしたものです。

  • 「柳川理想」は「滝野川」から生まれた品種ですが、肉のつき方が違います。「滝野川」は栽培日数がかかるので、短縮して栽培できるように作られた早生タイプが「柳川理想」です。

  • 「滝野川」は頭のところが大きく、秋に蒔いて栽培すると、トウ立ちしやすい。花が咲くスイッチが早く入ってしまいます。今のごぼうは、頭が小さくなっています。葉っぱを受ける軸の部分が小さいほど、秋蒔きにしたときに、花のスイッチが入るのが遅く、栽培しやすいので、そのように改良されました。

  • 今、ごぼうの基準となっているのは、「柳川理想」。短いごぼうは、「柳川理想」をさらに早く収穫できるようにしたタイプで、「サラダごぼう」などと呼ばれています。

  • 「大浦ごぼう」、「堀川ごぼう」も、「滝野川」と同じ赤軸タイプのごぼうです。「大浦」、「堀川」は、穴が空いています。穴が空くとごぼうはかたくなる、と思われていますが、必ずしもそうではありません。ごぼうは、もともと、根っこに「す」が入りやすい植物なのです。

  • 「サラダごぼう」などでも、ちょっと太いものを輪切りにすると中に穴が空いていることがあります。これは、もともと穴が空きやすいから空いてしまっているだけです。

  • 「す」が入る原因のひとつは、花が咲くとき、もしくは花が咲くスイッチが入ってしまったとき。スイッチが入ると、ごぼうは、根っこの動きを止めてしまいます。そうすると、花のほうにどんどん栄養分を持っていかれるので、中がスカスカになり、かたくなる。味も落ちます。

  • 「大浦ごぼう」、「堀川ごぼう」がなぜやわらかいのかというと、これらはもともと穴が空きやすいのと同時に、花が咲くスイッチが入っていないから。「堀川ごぼう」は下は大きいのに上が小さいので、花が咲くスイッチが入りようがないんです。で、根っこが動きを止めないから、やわらかい。

  • 夏、ものすごく暑い地方には、ごぼうの産地は形成されにくい。茨城も夏は暑いのですが、ごぼう産地は比較的涼しい海沿いに寄っています。作り手の技術の差もありますが、北海道や青森など涼しいところで管理しているごぼうはやわらかくなります。夏、涼しいので、ごぼうの動きが止まらないわけです。

  • 3〜4月に、新しい芽が動き出すと、ごぼうが自分の中に溜め込んだ糖分を一気に使うので、かたくなったり、おいしくなくなったりします。ただ、かたいごぼうも、十分時間をかけて煮込めば、おいしくいただけます。

  • 「大浦ごぼう」は、もともと肉質がやわらかいのですが、これをちょっと早く「サラダごぼう」サイズで収穫すると非常においしい。知り合いの農家さんに、頼んでみてはいかがでしょうか。

◇ごぼうの調理について
  • 一般的に、ごぼうは水にさらしてアク抜きをしてから調理します。確かに、煮物を上品に白く仕上げたいとき、ごぼうから茶色い汁が出てきてしまうと色よくできません。あまり研究が進んでいないころは、アクはおいしくない、と考えられていました。でも、山菜と違い、ごぼうのアクは、それほどえぐくはありません。

  • ポリフェノールが注目されたときに、ゴボウのアクはクロロゲン酸というポリフェノールの一種で、体にいい成分だということがわかりました。それ以降、栽培の現場や直売所の講習会などに行くと、ごぼうはアク抜きしないで食べてください、とお願いしています。八百屋のみなさんもお客様に、ごぼうはアク抜きせずに食べたほうが健康にいいらしいですよ、といってください。

  • アクを抜いたごぼうと、抜かないごぼうの食べくらべをしたところ、味は違いませんでした。むしろ、アクを抜かないで食べたほうが香りがよくておいしかった、という結果も出ています。

  • ごぼうはいろいろな料理に使うことができます。豚汁、混ぜご飯の具など、色が気にならないときは、ぜひ、アク抜きをしないで食べてください。 豚汁だったら、水を張った鍋に、ごぼうをそのままささがきにしながら入れ、火を通すと一番いいと思います。

  • ピーラーでごぼうの皮をきれいにむいてしまう方がいますが、ごぼうの魅力は香りにあります。香りの成分は皮の近くに集中していますから、泥が気になる場合は、タワシでざっと落とす程度で調理してください。栄養成分的にもあまりおすすめできません。

  • ごぼうは豚肉と合わせて豚汁に、牛肉の大和煮に、鶏肉と一緒に筑前煮や混ぜご飯に、どじょうを使った柳川鍋に…と、クセのある魚類や肉と合わせるとさらに真価を発揮できます。最近はコンビニなどを中心に、サラダにもごぼうが利用されています。

  • わが家では、「煮ごぼう」といって、一回やわらかくゆでたごぼうを砂糖だけで煮ます。きんぴらも太く作ります。全部に皮が残るように切ると、香りがよくておいしい。

  • ごぼうは火が通りにくいと思われていますが、そうでもありません。若い人は歯ごたえを重視する方も多いので、きんぴらなども炒めすぎないほうがいい、ともいわれます。

  • 上の部分は先に肉がついてくる分、繊維があってかためなので、煮物用にお使いいただき、若い細胞が多い下のほうをサラダ用にするといいと思います。

◇ごぼうの産地と今後の課題について
  • 生産量は、10年ほど前までは茨城が一番でしたが、2010年のデータでは、青森に産地が移動しています。次いで、茨城。春先から初夏にかけては、九州で非常にいいごぼうがとれ、九州全体の生産量もあります。その他、関東近県では、栃木、群馬、千葉、埼玉などで作られています。

  • ごぼうの国内生産量は減ってきているのが現状です。以前、ごぼうは「子どもの嫌いな野菜ランキング」で上位でしたが、最近はランキングに入ってこなくなりました。家庭の食卓にごぼうが並ばなくなったことがその理由です。

  • ごぼうの調理方法は和に傾いてしまいがちです。サラダのほかに、もっとさまざまな西洋料理で扱えないと、インパクトに欠ける。調理のお知恵をみなさんからも拝借できればありがたく思います。
◇質疑応答より
  • Q:洗いごぼうには、漂白剤を使っているのですか?
  • A:以前は使っていたという話ですが、今は使っていません。使ったものに関しては表示してありますから、表示がなく、白くきれいなものは、長い間水にさらしているようです。

  • Q:ごぼうは穴が空きやすいとおっしゃっていましたが、穴のないごぼうの見分け方は?
  • A:細いもの。また、季節にもよります。夏は、ごぼうの動きが止まってしまうことがよくあるので、空きやすい。夏を越えて秋口に出てくる青森産の細いごぼうは、休みなく動いている可能性が高いので、穴が空いている可能性が低い。

  • Q:ごぼうによっては、紫色になっていたり、かたいものがありますが、それは種類または栽培方法の違いなのでしょうか?
  • A:紫が入ってくるのは、病気の軽度障害です。ごぼうは、大根や人参と比べて、病気などの障害に弱い作物。水を吸い上げたりする導管という部分にちょっと菌が入っただけで紫色になってしまいます。かたいのは、収穫して日数が経っているから、と考えていいと思います。

  • Q:ごぼうの本来のシーズンは?
  • A:本来、タネを蒔くのは春先。茨城では、4月下旬からタネを蒔き始めます。遅いところでは、青森の6月下旬まで蒔きます。

  • Q:保存方法は?
  • A:畑に埋まっている状態が一番いいのですが、1ヶ月も保存するわけではないでしょうから、洗った状態で、濡らした新聞紙にくるんで冷蔵庫に保存してください。

  • Q:1アールからどれぐらいとれるのですか?
  • A:生産者にもよりますが、短い品種で2t、長い品種で5tぐらい。ただ、この5tには、加工用の品種も混ざっています。すごく長くて太いごぼうです。弊社の品種では、「つねゆたか」という加工用のごぼうがあります。

  • Q:加工用品種はどのようなものに使われるのですか?
  • A:外食、中食関係のきんぴらや煮物に、また、スーパーなどに。真空パックで並んでいるカット野菜にも使われます。

  • Q:「大浦ごぼう」や「堀川ごぼう」の特徴は?
  • A:京都の「堀川ごぼう」の産地では、タネはよそに出してはいけない、という決まりがあります。もとは「滝野川」と同じ赤茎系統で、首が細い系統だけを選抜したもの。花が咲きにくいので、タネも採りにくい。細い状態のうちにいったん掘り上げて、下を切って斜めに伏せ込んで育てます。「堀川」は収穫までに2〜3年かかります。「大浦ごぼう」も赤軸のごぼうですが、「堀川」よりは早生系統。「大浦」は畑に植えっぱなしで、太くしていくタイプ。両者の違いは、栽培方法と、太る部分が違うことです。
 

【八百屋塾2011 第10回】 実行委員長・理事長挨拶講演「ごぼう」|勉強品目「ごぼう」「イチゴ」|商品情報食べくらべ