■2011年11月20日 第8回 〜 講演「さつまいも」 MKVドリーム(株) 稲山光男氏
◇さつまいもとは
  • さつまいもはヒルガオ科さつまいも属。アサガオに似た小さなかわいい花をつけます。

  • つる性で、つるが短いものと長いものがあります。長いものになると、葛のように5〜7mにもなり、非常に繁茂する作物です。

  • 熱帯原産なので、肥大には温度と日照時間が必要です。葉による光合成で作られたデンプンが、いものところに集まって肥大していくわけです。1日12〜13時間の日照があると非常に発育がいい。
MKVドリーム(株) 稲山光男氏
  • 湿潤なところは嫌う作物で、乾燥に強い。年間500mmくらいの降水量の少ない地域が栽培に向いています。ちなみに東京あたりの降水量は年間で1200〜1300 mmです。

  • 栽培に一番いいのは、温度が高く、日照量が多くて、雨の少ないところ。非常に強い作物なので、寒くないところなら、いつでもどこでも作れます。

  • 酸性土壌には強く、アルカリ性には向かないという特異的な性質があります。アルカリ土壌では栽培が難しく、それが栽培の制限因子になります。

  • 土質は、砂でも洪積火山灰土でも、あるいは九州のシラスのようなやせ地でも大丈夫です。沖縄や鹿児島の南西諸島のように霜が降りないところでは、夏以外の季節でも栽培できますが、関東は年に一作が普通で、今頃が収穫期です。

  • 長野や群馬など、標高700mくらいのところでも、霜が降りる期間が遅ければ、栽培可能だといわれています。

  • やせ地でも栽培でき、台風などの気象災害に非常に強い。ほかの作物がとれないときでもとれる、という特徴があります。昨年の夏のように、毎日40℃近くになって、雨が降らないような時期でも、日中はしおれながら耐えて、収穫できます。意外とそういうときのほうが、おいしいさつまいもがたくさんとれるんです。

  • 鹿児島の大隅半島に行ったとき、さつまいもだけは、固定収入になるので、毎年減らさずに作る、と聞きました。1反あたり7〜8万と決して高くはありませんが、ほかの作物は台風が来たら全滅、ということもあり得るわけです。さつまいもは気象にあまり左右されないので、安定して収穫できる。

◇原産地と日本への渡来
  • さつまいもの生まれ故郷はメキシコ。15世紀にスペインに伝わり、16世紀にアフリカ、17世紀にヨーロッパやアメリカに広まったといわれています。ただ、ヨーロッパではあまり普及しませんでした。

  • アジアへは、16世紀にスペイン人によって持ち込まれました。最初はフィリピンやインドネシアに渡った、といわれています。

  • 中国では、チンさんという人が、1594年にルソン島から今の福建省に導入したのが始まり、といわれています。災害に強く、凶作を免れる作物だということで、「金薯(カネイモ)」という呼び方で非常に広まった。これを作れば食べるのには困らない、ということだったのでしょう。

  • 日本には、1605年(慶長11年)、今から400年くらい前に、中国の福建省から琉球沖縄に持ち帰ったのが最初だといわれています。また、一説には、1698年に種子島に送られて栽培され、そこから薩摩(今の鹿児島)に伝わった、といいます。これらのルートとは全く別に、1600年頃ルソン島から薩摩に入った、という説もあります。いずれにしても、1600年代に日本に入ってきたのは確かなようです。中国から伝わったため、「カライモ」と呼ばれていました。

  • 関東には青木昆陽が普及させた、というのは有名な話です。青木昆陽は、徳川吉宗の時代に、幕府の命で長崎に蘭学を学びに行きました。そこでさつまいもが、災害に左右されない非常に安定した作物だと気がついたのでしょう。江戸に帰ってから、あの作物を作るべきだ、と大岡越前守に進言して導入した、という記録が残っています。青木昆陽は、1735年に薩摩から種いもを取り寄せ、小石川の薬園で栽培を始めた、といわれています。その後、上総の国の不動堂村や、下総の国の検見川、あるいは今の幕張周辺で試作をし、それが広がっていきました。千葉県は今もさつまいもの産地ですが、導入も非常に古かったということです。

  • さつまいもは、昔から、救荒作物として庶民を飢饉から救ってきたという実績があります。若い方はさつまいもというと焼きいものイメージが強いと思いますが、われわれの年代は、子どもの頃がちょうど終戦後ですから、お米が足りず、さつまいもばかり食べていました。ですから、正直、さつまいもにはあまりいい印象がない、という人も多いはずです。

  • 私の出身は埼玉ですが、終戦後、東京の方々が着物を詰めたリュックを背負って、「さつまいもはありませんか」と物々交換をしに来たことを今でもよく覚えています。さつまいもがあったおかげで、食糧難の時代に、何百万人もの人たちが命を長らえたのは事実です。それぐらい、さつまいもは重要な作物でした。

  • 10月31日に、世界の人口が70億になりました。将来、食糧難になる可能性もあると思います。そういう意味では、今後もさつまいもの重要性は忘れてはいけないと思います。

◇さつまいもの名称
  • 市場や八百屋さん、消費者の方は「さつまいも」といいますが、農水省や県の統計を調べるときは、「かんしょ」で検索すると出てきます。作物学会でも「かんしょ」で扱います。つまり、「かんしょ」の中の一部の青果用になるものが「さつまいも」。野菜の本では「さつまいも」が先にきて、別名「かんしょ」と付記がついているのが多い。

  • 中国では「甘藷(アマイモ)」や「蕃藷(アカイモ)」と呼ばれています。

  • 日本国内でも、地域によっていろいろな呼び方があります。関東では「さつまいも」が一般的ですが、関西に行くと「琉球イモ」といったり、肥前や高知では「カライモ」、長崎では「琉球イモ」、「朝鮮イモ」、徳島では「アカイモ」など。当初、伝わったところの地名が残っていることが多い。

  • 「さつまいも」の語源は定かでないのですが、江戸時代に青木昆陽が薩摩から取り寄せたため、「さつまいも」になったのだろうと考えられます。
◇栽培の推移
  • 明治時代の始め頃、さつまいもの栽培面積は15万haほどでした。

  • 昭和12年には、軍事用の航空機の燃料の原料用として、さつまいもの増産が奨励されました。

  • 昭和20〜25年には栽培面積が45万haになりました。食糧難の時代にいかにさつまいもの栽培を奨励したかがわかると思います。当時は食料統制で、昭和25年に撤廃されるまで、さつまいもは米と同様に供出といって強制的に出荷させられていました。私も子どもの頃、稲藁で編んだ俵にさつまいもを詰めて出荷していたのを見た記憶があります。

  • 昭和25年以降は食料統制が撤廃されたこともあり、食用から、デンプンやアルコールなどの工業用の原料になりました。また、食生活が変わって肉を多く食べるようになり、畜産のエサとして位置づけられるようにもなりました。

  • 昭和40年代、高度経済成長時代になると、工業用の原料や飼料にしても、外国産の割安なものを輸入したほうが経済的だということになり、輸入が増えました。こうした経緯があって、平成15年には栽培面積が4万haになり、現在ではおそらく3万haくらいになっていると思います。青果用としてのさつまいもではなく、デンプンなどの加工用がかなり減っています。

  • 3〜4年前、焼酎ブームで、いも焼酎の原料に使われる「コガネセンガン」が足りなくなり、酒造メーカーが探し回っていた時期がありました。「コガネセンガン」は青果用としてもおいしいのですが、主に焼酎の原料として使われています。

  • さつまいもの主な産地は、鹿児島、茨城、千葉。一番多いのは鹿児島で、茨城は鹿児島の半分くらいの生産量です。鹿児島は、原料用が多い。非常に広い面積で栽培されています。ちなみに、ジャガイモの主産地は北海道、長崎、鹿児島、茨城、千葉。さつまいもやジャガイモは、土地利用型といって、耕地面積の広いところで作られます。小さな面積で単価の高いものを作るのとは違うやり方です。面積が広くて、温度の高い地域ではさつまいも、冷涼なところではジャガイモを作っているわけです。

◇さつまいもは野菜? それとも穀類?
  • 八百屋さんはさつまいもを野菜として見ていると思いますが、食糧難の時代は穀物としての位置づけが大きかった。

  • 米、麦などの穀類は酸性食品なのに対し、さつまいもを含め、イモ類はカリウムを多く含み、野菜と同じアルカリ性食品です。そういう意味では、野菜に近い。また、さつまいもには米、麦にはないカロテンやビタミンCも含まれています。成分的には野菜としての評価ができる、といえます。

  • さつまいもはカロリーが非常に高い食品です。一般的な野菜のカロリーと比較すると桁違いで、これは穀類のグループに近い。

  • さつまいもは野菜的な面と穀類的な面の両方持っている作物だといえます。
◇おいしい焼きいもを作るには
  • これからのシーズン、特におすすめなのが焼きいもですが、電子レンジで作らないほうがいい。さつまいもは糖化酵素であるベータアミラーゼを多く含んでおり、デンプンを麦芽糖に分解していくことで甘みが出ます。電子レンジは、高温で中から一気に加熱するため、その過程で酵素が活発に働くことができません。60℃くらいの低い温度で、じわりじわりと外から焼くのが一番おいしい。昔ながらの焼きいも屋さんのように、石の中で焼くのが理想的ということになります。
◇さつまいもの品種
  • 今は市場には出ていないと思いますが、かつて、「沖縄100号」、「護国藷(ごこくいも)」という品種がありました。「沖縄100号」は、終戦後の食糧難を救ってくれた品種です。大きな丸いいもで、非常によくとれる。粉質ではなく、やや水っぽくて、当時でもおいしいとは思えませんでした。とにかく多収なので、食料統制の時代、どこの農家でもこれだけは必ず作っていました。「護国藷」も多収性です。これから食糧難が来たら、またこうしたいもに注目が集まるかもしれません。

  • 今、一般的に出回っているのが、「ベニアズマ」。粉質性で繊維が少なく、家庭で蒸かしても焼いてもおいしい、と評価されています。

  • 「高系14号」は有名な品種で、焼きいもに適しています。「ベニアズマ」ほど粉質ではなく、ややねっとりしていて、焼きいも屋さんはこの品種をよく使うと聞いています。

  • 「ベニはるか」は、最近人気の品種です。蒸かしたとき、「ベニアズマ」ほど粉質ではなく、ややねっとり型。「高系14号」に近い肉質で、非常に甘い。蒸かしただけで、非常においしいと感じる品種です。

  • 「パープルスイートロード」は、紫色で、アントシアニンの色素を多く含む最近の品種です。ただ、「アヤムラサキ」という古い品種と比べると、アントシアニン含量は少ない。普通に蒸かしただけでも、粉質性で非常においしい。紫いもの中には、「山川ムラサキ」、「アヤムラサキ」、「種子島ムラサキ」などがあり、ほとんどは、色を利用して加工用に使われます。「パープルスイートロード」は、平成22年の暑かった夏に、紫色が出なくて問題になりました。あまりにも温度が高すぎるとそういう現象が起きます。

  • 「ベニハヤト」は、肉質が橙色の品種です。お菓子の原料やアイスクリームの色づけなどに多く使われています。

  • 「コガネセンガン」は、肉質が白っぽい黄色。食用として食べてもおいしいのですが、主に焼酎の原料になります。

  • 干しいもに使われるのは、ほとんどが「タマユタカ」か「ほしヒカリ」です。「タマユタカ」は、外皮も肉も白い。「ほしヒカリ」は、外は赤紫で、中は黄白色。粉質のいもは、干しいもにすると崩れてしまいますし、仕上がりのねっとり感も弱い。そこで、干しいも用の品種が別にあるわけです。

  • 「紅赤」は、与野市(現在はさいたま市)の山田いちさんという方が、「八房(やつぶさ)」という品種を育てていた畑から、ちょっと違ういもがある、と見つけたもの。それを親戚の吉岡さんという方が広めました。今でも、所沢周辺では高級品の「川越いも」として栽培しています。赤坂の高級料亭などに天ぷらの素材として納められていました。天ぷらにすると非常においしい品種です。

  • 最近ときどきニュースなどで話題になっている「太白」は中が真っ白なさつまいもで、戦前はよく作られていた品種です。もとの品種はよくわかりませんが、大正時代に埼玉の試験場でいい系統を分離していき、大正8年、「太白埼玉1号」と名付けられました。終戦後、栃木県で全県的に作られました。ねっとり型で甘いのですが、細いものは筋っぽいようです。

  • さつまいもや山芋、里芋などの土ものは、土質を選びます。ですから、どこの土地のどこの畑でとれたのかが非常に大事です。品種だけでうまい・まずいはいえませんし、「誰々さんの作ったさつまいもがおいしい」といっても、どの畑で育ったのかによって違うはずです。さつまいもはどこでも作れるといいましたが、食味やうまみを追求していくと、畑まで辿っていかなければならないでしょう。たとえば、北陸あたりでおいしいと評判の里芋を、私がタネをとって埼玉で作っても、現地でとれたものとは味が違います。今、「安納いも」が人気ですが、道の駅などではさまざまな形のものが売られていて、どれが本当の「安納いも」かわからない。かなり昔に定着したものですから、うちの系統、うちの土質といったものがあるんですね。砂地で作ると丸くなって、洪積の火山灰土だと長くなります。

  • 今はバイオの時代で、収量を増やすためウイルスフリーにしますが、私が現職のころ、「紅赤」をウイルスフリーにしかけたら、性質が変わってしまいました。自然の状態でも、いもを作っていると、山田いちさんが「八房」の中から「紅赤」を選抜したように、ときどき変わったものが出てきます。突然変異ではなく、形質的な変化をすることが結構あります。

  • なんとなく泥臭い地味なイメージのさつまいもですが、調べていくと非常に奥深い。われわれの生命を維持できるエネルギーを持つ作物で、使い道もさまざまです。八百屋さんには、「これはあそこの産地のこういう土質で作っているからおいしいんですよ」とか「電子レンジもいいですが、こういうふうに作るともっとおいしいですよ」とか、お客さまに説明しながら販売をしていただきたいと思います。

 

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