■2011年5月22日 第2回 〜 講演「マメ類」 MKVドリーム(株) 技術顧問 稲山光男氏
◇マメ類は今が旬
  • 野菜全般の栽培が周年化され、いつでも食べられるようになり、旬がなくなったのが現状だと思います。しかし、本日テーマのエンドウ、ソラマメ、インゲンなどは、まさしく、今が旬です。

  • 私は、ずっと、夏の作物を冬に作れるような方法を研究してきたのですが、今になってみると、やはり、旬の時期が一番おいしい。そのものがおいしい、というのもありますし、気候的にわれわれの体が要求する味や食感だということもあります。
MKVドリーム(株) 技術顧問 稲山光男氏
  • マメ類に限りませんが、みなさんは八百屋さんとして、「この野菜は一年中あるけれど、この時期が本当の旬」、「この時期が一番おいしい」ということを、消費者のみなさんに教えてあげていただきたい。そうしないと、いつが旬で、一番おいしい時期はいつかわからない、ということになります。

  • マメ類は、特に、鮮度が勝負の品目です。実際に、見て、さわって、食べて…、というのが非常に勉強になります。ぜひ、このあとの食べくらべでも、しっかり勉強してください。

  • マメ類は、鮮度が非常に大事である反面、冷凍保存も利きます。平成9年あたりから、輸入も増えてきました。みなさんが扱っているのは青果物としてのマメ類だと思いますが業務用では、かなり、冷凍物が扱われています。
◇野菜としてのマメ類
  • マメは、元来、穀物して扱われていました。その昔は、今のように米が余るなんて考えられない時代で、マメも非常に重要な食料源として重宝されていました。若いうちに収穫して食べる、いわゆる野菜的なマメではなくて、実を収穫して食べるのが主な目的で、いろいろと研究され、発達して普及してきました。

  • 野菜としてのマメ類には、エダマメ、エンドウ、ソラマメ、インゲンマメ、ササゲ、ナタマメ、フジマメなどがあります。

  • 野菜としてのマメ類には、実を野菜として扱うものと、未熟な実とサヤの部分、両方を扱うようなものがある。エダマメ、ソラマメは、中の実だけを野菜として食べます。ですが、エンドウ、インゲンは未熟な実とサヤを利用する。利用法が2つあります。
◇栽培の歴史など
  • マメはもともと穀物として発達したもので、栽培的には、非常に古い歴史を持っています。若ザヤ、あるいは若い実として、子実を利用するようになったのは、比較的、あとの時代になってからです。

  • 江戸時代の中期頃、マメ類や初鰹など、“初物を食べる”という風習が出てきました。そういうなかで、地方では、祭りのときなどに神社へ奉納する献上物として、初めてとれた、というものに価値を見出すようになった。こうしたことから、需要が増えてきたのだろうと思います。エダマメなども、神社のお祭りでお供え物として扱われたのが始まりだろう、といわれています。未熟な若いサヤを食するという文化のルーツは、そのあたりにあるのではないか、と考えられます。

  • その後は、おやつ的な利用が消費の主流だったわけですが、時代が変わると食生活も変化してきて、ソラマメ、エダマメなどは、いわゆる酒のつまみとして好まれるようになりました。日本酒の場合は魚が合いますが、ビールなどの西洋的な飲み物が普及してくると、つまみも変わってきて、ソラマメ、エダマメなどが重宝されるようになった、ということだと思います。

◇「エンドウ」について
  • エンドウは、コーカサス、ペルシャあたりが原産地だといわれています。

  • 極めて古くからある作物で、南西アジアで栽培が始まって、ギリシャのほうに伝わり、ヨーロッパ方面に広がっていきました。

  • アメリカには、15世紀頃に、コロンブスによって持ち込まれ、原住民であるインディアンの重要な食料源として発達したようです。

  • 中国には、唐の時代に入っています。日本には、それからまもなく、奈良時代に入ったようです。つまり、千年以上も前に、日本に入ってきた作物だということになります。当時は「ノラマメ」という呼び名で、それが日本のエンドウの最初の記述、といわれています。日本には 中国から入ってきたという関係で、「園豆」と書いて「エンドウ」と読ませた、という記載もあるようです。

  • 場所によっていろいろな呼び方があり、「ノラマメ」、「エンドウ」、「ブンドウ」などと呼ばれています。ブンドウというのは三重県あたりで呼ばれているようです。私は埼玉出身ですが、子どもの頃、お年寄りが、「サヤブドウ」という呼び方をしていたのを覚えています。

  • エンドウの場合は、ほかのマメのように穀物としての重要性はなかったため、古い書物の中には出てきておりません。ですから、比較的、新しい野菜だといえるのではないかと思います。

  • 明治16年の「舶来国際目録」によると、当時、アメリカ、フランス、オーストラリアから品種を導入した、とあります。まず北海道に入ってきて、試作をして、それが定着していった、ということです。

  • 「30日キヌザヤ」、「フッコクオオザヤ」といった品種があります。欧米で品種改良が進み、それが日本に導入されているわけですが、その中で、サヤ用のもの(いわゆるサヤエンドウ)と、グリーンピースのような品種、それから、熟してマメだけを利用する穀物としての品種が分化されていった。それらが、日本で整理されていった、という流れがあります。

  • 日本には、「フランスオオザヤ」という、大きいサヤのものがあります。明治18年に、フランスから導入され、サヤが非常に大きかったので、「オオザヤ」とつけた。今でもそういう呼称の品種があります。

  • 「アメリカオオザヤ」も、戦後、普及した品種です。もとは、昭和12年頃、和歌山の佐藤さんという方の奥さんが、カナダのバンクーバーから持って帰ってきた、といわれています。バター炒めにすると非常においしいので、「バターマメ」の名前で、大阪の市場に出荷していました。しかし、この名前が原因で、品種的には評価されたのですが、あまり取り扱われなかった。そこで、すでに「フランスオオザヤ」がありましたので、フランスに対してオランダという名前をつけて、「オランダオオザヤ」に名前を変えて、普及していった、という話があります。

  • エンドウの栽培面積は、日本では、約4,310ヘクタール。鹿児島が非常に多く、福島、和歌山あたりが主産地になっています。

  • 鹿児島に、指宿という有名な温泉があります。指宿には地熱発電所があり、その周辺が、エンドウの産地です。見渡す限り、エンドウとソラマメの畑で、たまにキャベツ畑も入っています。減農薬など、きちんとした栽培をしている地域で、1月頃がエンドウの収穫の最盛期です。指宿温泉に行く機会があれば、ぜひ、エンドウの畑も見に行ってください。普通、エンドウは10月にまくのですが、鹿児島の場合は、8月くらいにまく。芽を出したら冷蔵庫に入れ、低温にあてて、花芽分化をさせて、暮れ、正月くらいから出荷をするという栽培方法をとっています。

  • 和歌山では、海岸沿いのあちこちでエンドウを栽培しているのが見られます。

  • 宮崎でも、面積的には少ないのですが、日南からちょっと南のほうに行くと、ササダケを立てた中で、エンドウの栽培をしています。

  • 輸入品は、青果としては、あまり出回っていません。東京市場に入ってきているのが、だいたい400トンくらいでしょうか。多いのは、中国、ベトナム、タイなど。エンドウは、収穫に非常に労力がかかるので、なかなか大面積で栽培するわけにはいきません。私は、中国で、日本への輸出用のエンドウを作っている圃場を見たことがあるのですが、向こうの人たちも、「エンドウは収穫が大変だ」と言っていました。

◇「グリーンピース」について
  • グリーンピースは、実とり用のなかで、若どりをする青み用の品種で、古くから、「ウスイ」という品種が使われています。明治の中頃だと思いますが、アメリカから大阪に入ってきた品種です。

  • どちらかというと、暖かいところと、それから、福島、北海道などで栽培されています。北海道は、春まきです。
◇「ソラマメ」について
  • 野生種が確認されていないので、原産地は定かではありませんが、エジプト、カスピ海あたりではないか、といわれています。古くは、ソラマメのタネがエジプトで発見された、という話もあり、中央アジアから地中海が原産とされています。

  • 非常に古くから栽培されている作物で、中国では、「胡豆」という記録があります。キュウリには、「胡瓜」という字が使われます。「胡」というのは、中国から見ると、西の方角ですから、「胡豆」は、西方から来たマメ、ということになるわけです。ソラマメは、原産地である地中海、中央アジアのほうから、シルクロードを経て、中国に入った、と思われます。

  • 日本には、インドのお坊さんが、中国から来たときに持って入り、兵庫で試作された、といわれています。

  • ソラマメは、「空豆」、「天豆」、「蚕豆」などの字があてられます。花が咲いて実がなるときに、上を向いてなることから、「空豆」や「天豆」、サヤに入ったマメが蚕に似ているということで、「蚕豆」となったようです。

  • 非常に重視された作物で、「農業全書」という古い本では、麦と同じような扱い、評価を受けています。昔は、ダイズに次ぐ作物と位置づけられていました。

  • 10月にまいて、今頃とれるわけですから、冬の間、生育する作物です。寒さはありますが、夏のように台風の害はなく、また、低温のため、虫の害もないので、不作になりにくい作物です。こういうことからも、夏のダイズに対して、冬のマメ類として重宝がられていた、と考えられます。

  • ただし、現在では、アブラムシがよくつきます。冬の間はいいのですが、春になり、いよいよ伸び出してきた頃に、アブラムシがついて、ウイルスにかかってしまう。かつて、埼玉にも産地があったのですが、ウイルスによってなくなってしまいました。

  • 指宿のソラマメ畑では、マルチングといって、一面に反射をするフィルムを使っています。虫がこれを嫌うので、農薬を使うのを減らすという意味と、ウイルスの防止にもなります。

  • 香川には、「サヌキ」という品種がありました。サヤが長くて、小さい粒が6〜7粒入るもの。

  • 「一寸ソラマメ」は、非常に粒が大きい品種です。

  • 「オタフク」という品種も粒が大きい。実の形がオタフクに似ていることから、この名前が付きました。

  • 大きいものだと3〜4粒、小さいものは5〜6粒入る。好みですが、小さいもののほうがおいしい、という人もいます。ただ、食べるには、大きいほうがいい。サヤごとオーブンで焼くとか、そうした利用も含めて、今は、ほとんどがオオザヤです。家庭菜園用には、小さいサヤのものもあるかもしれません。

  • 日本の栽培面積は、約2,500ヘクタール。指宿を中心とした鹿児島のほか、千葉、高知、愛媛も産地になっています。

  • 品種名には、「河内一寸」、「城西一寸」、「仁徳」、「房州」など、地名が付いたものがあります。

  • 青果用の輸入は意外に少なく、東京市場には30トンくらいしか入っていません。多いのはフィリピンから。中国からはそれほど入ってきていません。別のルートで、業務用として入っているところはあるかもしれません。

◇「インゲンマメ」について
  • 「サヤインゲン」、「インゲン」、「インゲンマメ」、「サイゲン」といったいろいろな呼び方がありますが、作物名は、「インゲンマメ」です。

  • 中央アメリカや、アンデスのあたりが原産地だといわれています。原住民であるインディアンは、トウモロコシを主食としていましたが、インゲンマメは、それを補う食糧として、精力的に栽培されていた、という記録があります。

  • 日本には、江戸時代の初めの頃、隠元禅師というお坊さんが伝えた、といわれています。明の時代のお坊さんで、日本に帰化した方です。

  • 古い本には、インゲンの記録がありませんから、栽培の歴史も浅い、ということになります。原産地が中央アジア等の作物は、シルクロードを経て中国から日本へ、というルートがありますが、インゲンの原産地はアメリカなので、歴史的にも日が浅いわけです。そういうことからも、栽培がそれほど発達、普及しなかったのかもしれません。

  • インゲンには、つる性の品種と、わい性(つるなし)のものがあります。

  • 「ケンタッキーワンダー」という品種が有名です。いわゆる「ドジョウインゲン」とか、「尺五寸」とかいわれるもので、非常に長くサヤの肉が厚いので、食べるとおいしいのですが、非常に曲がりやすい。家庭菜園用にはいいと思いますが、出荷用として作っているところは少ないだろうと思います。直売所などに行くと、見られるかもしれません。

  • きれいに揃ったインゲンは、ほとんどがつるなしのわい性のものです。ただ、非常に収穫が大変なので、大量には栽培されません。福島、千葉、北海道、鹿児島などに産地があり、7,000ヘクタールほどの栽培面積があります。

  • 青果用としての輸入は少なく、タイ、ベトナムなどから、300トンくらいが東京市場に入ってきているようです。冷凍インゲンは、業務用として入っていると思います。

  • インゲンによく似たものに、「ササゲ」があります。「三尺ササゲ」はぐるぐると巻けるほど長くなる。 本来は、熟したもののタネを赤飯に入れたりしますが、若ザヤも食べられます。作物的には、インゲンとは別のものです。

◇その他のマメについて
  • 「ナタマメ」は、福神漬けに入っているマメです。昔は、農家で、味噌漬けにされたりもしました。だいたいが漬物用です。

  • トウミョウの栽培は、非常に簡単です。家庭でも、タネから栽培できます。また、カットするときに、上の部分でカットすると、また出てきます。トウミョウに限らず、モロヘイヤでも春菊でもそうですが、手でつまんで簡単に折れるところで収穫すると、ゆでたときに、やわらかい。ハサミで刈ると、かたい部分が入ってきてしまいます。

◇マメ類の扱い方
  • エダマメ、ソラマメなどのマメ類は、「食べごろが3日きりない」といわれるほど短い。

  • ソラマメは、むいてあるものとサヤに入っているものがありますが、もちろん、むいてあるもののほうが、食べ頃の時期は短い。サヤに入っていると、多少の店持ち性はあります。それでも、マメ類は、どんどん栄養価が落ちるので、買うときは、いかに鮮度を見分けるかが大事です。
 

【八百屋塾2011 第2回】 実行委員長挨拶講演「マメ類」|勉強品目「マメ類」「メロン」|商品情報食べくらべレポートより