■2011年6月19日 第3回 〜 講演「トマト」 タキイ種苗(株)
東京支店 開発課 課長 藤井厚氏 |
◇タキイ種苗(株)について |
- タキイ種苗(株)は、種子のメーカーです。国内外で、野菜種子、草花種子を取り扱っています。
- 本社は京都で、東京は神保町に支店があります。私は、開発というポジションで、産地に赴き、試作や講習会、栽培指導などをしています。
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タキイ種苗(株) 東京支店 開発課 課長 藤井厚氏
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◇トマトの栽培 |
- トマトの栽培は、まず、タネを筋まきして、それを鉢上げします。ハウスで連作する関係上、台木や穂木(ほぎ)をまき、それを接ぎ木します。それから、定植し、栽培に移って、収穫となります。
- トマトの樹1本当たりからどれくらいの売上げになるかというと、最も長段どりの促成栽培でも、4,000円くらいです。一番短い抑制栽培だと、1本当たり500円くらい。手間をかけるわりには農家さんの収入が少ないので、少しでも高く売っていただければありがたい、と思います。
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◇1世帯当たりの年間主要品目別支出金額および購入数量 |
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2人以上の世帯を対象に、総務省と独立法人の農畜産業振興機構が調べたデータによると、購入数量は、キャベツ、タマネギ、大根があたりが主要品目ですが、トマトも数量的に伸びており、4〜5位の品目です。
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トマトには、ミニ、大玉、中玉、しぼりトマトなど、さまざまなアイテムがあり、支出金額は、1世帯当たり年間6,293円となっています。主要野菜品目のなかでも、トマトは19%を占める重要なアイテムです。
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◇トマトの主要産地 |
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◇「桃太郎」の誕生 |
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◇タキイの品種育種の目標 |
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◇耐病性のあるトマトの品種 |
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トマトで、今、問題になっているのは、黄化葉巻病というウイルス性の病気です。タバココナジラミという0.4ミリほどの小さな虫にウイルスを媒介されると、葉が巻いて黄色くなってしまいます。こうなると、芯がそれ以上伸びません。初期に出るので、たとえば、15段とりたいのに、4〜5段のうちにこの病気が出ると、残りの約10段はとれず、収量が激減してしまいます。熊本から発病し、今は、関東一円で見られます。虫を入れないために、ハウスのなかにさらにネットを張って栽培しているので、夏は非常に暑い。農家さんはそうした苦労をされて作っています。ただ、ウイルスは、それでも出てくるので、万が一、虫が来ても、ウイルスにかからないような品種を育種しているところです。
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葉かび病は、葉っぱの裏にかびが付いて、最終的には、葉っぱがポロポロ落ちてしまう病気です。トマトは葉っぱで光を受け、二酸化炭素と水を使って、同化養分というでんぷん質のようなものを作ります。それを花や実に送ることで、実が肥大し、ちゃんと生育するのですが、同化養分を作る肝心の工場が病気になってしまうと、花がつかず実が肥大しない、ということになります。「CF〜」と付いているのは、葉かび病に耐性を持たせた品種です。
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◇トマトの作型 |
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◇トマトの食味 |
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◇「ハウス桃太郎」 |
- 冬春、促成栽培の代表的な品種です。トマトは、夏から秋にかけてが得意な作物で、冬は特性上難しいのですが、冬場でもしっかり同化養分を作れるような冬型の血を入れています。もう20年以上経ちますが、根強い人気を誇っています。
- 「ハウス桃太郎」の特徴は、色上がりが早いこと。着色がよく、ピンク色でふわっと上がってきます。
最近の品種は、肩の部分に少し緑や黄色が残ったりしてしまうことがあるのですが、「ハウス桃太郎」は、それがほとんどありません。
- 作型の適応幅が広いのも「ハウス桃太郎」の特徴です。冬の栽培はもちろん、春の無加温や、抑制栽培(千葉や茨城で多い、6月まきの7月定植)でも、「ハウス桃太郎」は作られています。タキイのなかでも、重要な品種です。
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◇「CF桃太郎はるか」 |
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◇「桃太郎8(エイト)」 |
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◇「桃太郎サニー」 |
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◇「桃太郎ヨーク」
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◇「桃太郎グランデ」 |
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◇「桃太郎ファイト」 |
- 「桃太郎」シリーズは22品種もあるので、それぞれに特徴があります。「桃太郎ファイト」は、糖度がのる品種です。
酸味は子どもが嫌がるので、甘いトマトがほしい、という場合などは、「桃太郎ファイト」を仕入れるといいかもしれません。
- 8月収穫とか9月収穫の抑制栽培は、日較差(にっかくさ)が出にくく、味がのりにくいのですが、「桃太郎ファイト」は、そういった状況でも、味がのってきます。しぼりトマトなどにも使われており、食味に定評があります。
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◇元祖「桃太郎」 |
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◇「桃太郎ゴールド」 |
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◇「桃太郎プレミアム」 |
- 「桃太郎プレミアム」は、去年、タキイの175周年のイベントで発表した新品種で、まだ市場には出回っていません。
- 「桃太郎プレミアム」は、味に特化した品種です。冬場に、夏のトマトと同じくらいの食味を再現しよう、ということで作りました。玉はやや小ぶりですが、味はいい品種です。今、三重や福岡の農協さんが取り組まれています。
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◇「フルティカ」 |
- 「フルティカ」という品種は、 中玉トマトです。普通の大玉トマトが約200グラムなのに対して、「フルティカ」は約50グラム、ゴルフボールくらいの大きさです。
- 私たちが「弁当箱」と呼ぶパックに5〜6個入れて売っています。軽くて、買いやすい。たとえば、独身女性が仕事帰りにスーパーで「フルティカ」を買い、月曜から金曜まで、毎日1個ずつ食べる、という食べ方もできます。
- ミニ、大玉があるなかで、中玉というのはちょっと狭間になっていますが、トマトの新しいアイテムとして、いいのではないかと考えています。
- JA唐津さんが冬場に、茨城のJA行方農協さんが春の無加温と抑制で供給されています。今、大変人気のあるトマトです。
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◇その他、タキイの新品種 |
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- 「こどもピーマン」も、去年の175周年のときに発表した品種です。子どもが嫌いな野菜といえば、まず、ピーマンです。親御さんはピーマンを食べさせたいのですが、子どもは苦みや臭みが嫌い。そこで、子どもが食べられるピーマン「こどもピーマン」を作りました。
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「こどもピーマン」には、ピーマン特有の苦みや臭みがほとんどなく、小学生にアンケートをとったところ、「おいしい」と大変好評でした。分析の結果、苦みに関与するポリフェノールは、普通のピーマン1に対し、「こどもピーマン」は0.09と、ごくわずかしか検出されませんでした。また、ビタミンCは、普通のピーマンは71、「こどもピーマン」は110。カロテン含量は、40.70に対して92.65。いずれも、「こどもピーマン」のほうが多く、子どもの健康に寄与するコンセプトを詰め込んだ品種になっています。
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ブランド名は「こどもピーマン」、品種名は「ピー太郎」です。マスコミにもたくさん取り上げられ、話題にはなっていますが、まだほとんど出回っていません。食べ方は、肉厚なので、加熱調理に向いています。肉詰めにすると、肉に負けないピーマンの存在感があり、オイスターソース炒めなども美味です。大人は、普通に焼いて、かつお節をかけて食べてもいいのではないかと思います。
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タキイでは、生産者にも、売り手にも、消費者にも目を向けた育種を目指し、多方面で取り組んでいます。今後とも、よろしくお願いします。
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