■2025年2月16日 第11回 レタス 〜 講演「レタス」について タキイ種苗株式会社 関東支店 開発課 課長補佐 新井真琴氏
◇はじめに
  • タキイ種苗は1835年(天保6年)に創業、2025年4月で190周年を迎えます。

  • 本社は京都にございますが、私はつくばにある関東支店から参りました。弊社は北海道、茨城、長野、滋賀、和歌山、熊本と各地に研究農場を設け、その地域に合う品種の育成をしています。

  • 海外につきましても、アメリカ、メキシコ、ブラジル、チリ、韓国、中国、インドなど各国に農場や事務所を展開しています。
タキイ種苗株式会社 関東支店
開発課 課長補佐 新井真琴氏
  • トマトの「桃太郎」シリーズをはじめ、ナス、カボチャ、キャベツ、ハクサイ、ニンジンなど昔からお馴染みの品種もございますし、また現在の産地状況に合わせた品種を提案しています。

  • 私は埼玉県で農業を営む家庭に生まれ、2003年にタキイ種苗に入社、16年間品種育成を担当しました。ブリーダー歴としてはキュウリから始まり、メロン、ホウレンソウ、コマツナ、レタスとさまざまな品目の育種を担当してきました。この業界でこれだけたくさんの品目の育種をすることはめずらしいと思います。その後は本社で中部近畿地区の葉根菜の推進活動をした後、現在は関東支店で東日本地域の葉根菜の推進を担当しています。
◇レタスの特徴と来歴
  • 農林水産省の統計によると、2020年の野菜の産出額は約2兆2500億円。上から、トマト、いちご、ねぎ、きゅうり…、レタスは第10位の741億円です。スーパーの売り場においても四季を通じて欠かせない品目になりました。

  • レタスは春菊やごぼうと同じキク科、アキノノゲシ属に属します。アキノノゲシは、道端に生えている雑草で、夏から秋にかけて花が咲きます。開花後にはタンポポのような綿毛が出ます。レタスの花もこれと似ており、小さな黄色い花の集合体でそれぞれが受粉して種ができます。

  • レタスを切ると茎から出てくる乳液には、ポリフェノールの一種が多く含まれています。このポリフェノールは酸化しやすく、時間が経つとレタスが茶色くなります。生産者は収穫時に出てくる乳液を圃場で洗い流したり、布で拭くなどして、きれいなレタスを出荷しています。

  • レタスの原産地はサウジアラビアやイランのあたりの中東地域とされ、ここから2つに分かれて広がります。1つは中国で、かきチシャのタイプになって日本に伝来しました。もう1つはヨーロッパ経由でアメリカに渡り、今のレタスの原型が育種され、19〜20世紀にかけて日本に入ってきました。

  • 日本で初めて玉レタスが作られたのは、和歌山県すさみ町といわれています。その後、朝鮮戦争の頃に、GHQの指示により栽培が奨励され、千葉の館山、茨城、長野など、産地が広がっていったとされています。
◇レタスの栽培について
  • 農林水産省の統計によると、レタス栽培面積の推移は、1973年に約1万2000ヘクタール、1980年代に面積が急増し2万ヘクタールを超え、90年から現在までは面積は横ばい傾向です。出荷量ランキングの1位は長野県。2位は群馬県と高冷地が続きます。春と秋どりは茨城県。秋から冬にかけては四国・九州など西南暖地で生産されています。

  • 夏場の代表産地、長野県では白いビニールマルチを全面に敷いて栽培しています。群馬県昭和村、岩手も同じような形です。白いマルチには地温を下げる効果があり、高冷地でも夏場は30℃と非常に温度が高くなるなかで良質なレタスを作っています。

  • 春・秋どりのメインは茨城県です。冬の寒い時期は、下に黒いマルチ、透明のビニールトンネルをかけ栽培しています。果菜類の後作として、ハウスでレタスを作る生産者もいます。西南暖地の香川県兵庫、静岡、千葉もトンネルをかけますが、温度が高くなり過ぎないように、裾を開けて栽培しています。

  • 九州は比較的暖かい産地ですので、不織布をかけてレタスを生産しているところも多くあり、近年面積が増えています。

  • 玉レタスはアメリカやヨーロッパでは「アイスバーグ」と呼ばれます。そのほかリーフレタス、ロメインレタス、中国などでは立ちシチャやステムレタスなどレタスの仲間は幅広いです。

  • 日本では玉レタスがポピュラーですが、アメリカではロメインレタスの割合も多いです。ロメインレタスは玉レタスに比べ、非常に葉肉が厚くて品質が保ちやすく、長時間輸送に耐えられます。アメリカのレタス産地はカリフォルニア州など西海岸に集中し、人口の多い東海岸に輸送するために、ロメインレタスの方が扱いやすいともいわれています。

  • レタスの発芽適温は、15〜20℃。25℃以上になると休眠して発芽しなくなるので、茨城、長野、群馬など、気温が高い時期に種まきをする地域では、日陰の軒下に置く、予冷庫の中で発芽させるなど、農家のみなさんは苦労されています。

  • 本葉が2〜3枚出たら、定植。マルチに穴を開け、苗を植えつけます。葉が13枚ぐらい展開すると、玉レタスは結球を始めます。レタスの生育適温は18〜23℃。農家のみなさんは夏は30℃超え、冬場の低温のなか、生育適温を保つため苦労しながら栽培しています。弊社では、この厳しい環境の中でも安定出荷できるよう育種をおこない、各産地に合った品種を提案しています。

  • 夏は、種まきから定植まで3週間、定植から収穫まで約35日と短期間でしあがります。冬は、10月中旬に種をまき、12月頭ぐらいに植えてから3ヶ月かかります。2月ごろ穫れているレタスは1番長く、だいたい120日。夏のレタスに比べると2倍がかかっています。

  • 最近は地球温暖化が深刻になっています。1890年から2020年まで、約100年間で0.74℃、地球全体の気温が上がっているそうです。おそらく、今後もその上がり幅が増えていくと考えられます。

  • 夏場の高冷地のレタスは高温干ばつにより不結球という、玉にならずリーフレタスのような症状になることがあります。8〜9月に玉にならず、レタスの価格が高騰しました。弊社からは比較的結球が安定する品種として「ヒートガイ」を開発、販売をおこなっています。

  • 長野、茨城といった代表産地では、カビの仲間の糸状菌によって根が腐る根腐病が深刻で、根腐病耐病性品種の開発、提供に取り組んでいます。

  • 春、秋、冬にはやや低温で多湿の条件でべと病に悩まされます。べと病耐病性品種の「Jブレス」は病気に強くご好評いただいています。

◇おわりに
  • 2024年3〜4月にかけて春レタスが高騰したのは、2月が非常に暖かく作柄が前進、逆に3月はとても寒く生産が不安定になり、茨城の生産が不安定になりました。ここ数年の9月のレタスの高騰は、不結球、チップバーンなどの発生が多いためと考えられます。そして、冬レタスも本年は産地では降水量が少なく乾燥しているため、小玉になり収量が少ない状況が続きました。生産者の皆様も非常に苦労されてレタスの生産を行っています。

  • 最近のトレンドは、リーフレタス栽培の増加です。比較的栽培が容易で、チップバーンも外から判断でき、やや密植も可能なため、冷涼地の長野でもリーフレタスの栽培面積が増えています。弊社の「フレアルージュ」は、冷涼地の夏場の品種で、きれいな色合いのレッドリーフです。また、冬場に収穫できるきれいな葉色のレッドリーフも試験しており、シリーズ化を行っていきたいと考えます。

  • レタスは収益性の高い品目ですが、近年マルチやトンネルなど資材費が高騰している関係で、ねぎやブロッコリーに転換する生産者さんも多いとお聞きします。

  • また、輸送費も課題になります。九州など遠隔地のレタスを関東まで運ぶドライバーの確保が難しい状況もお聞きします。冬場では比較的近場の静岡や関東のハウス栽培が注目されています。

  • 優良品種の種子を供給し、野菜の安定生産に貢献できるよう、これからも努力を続けてまいりますので、引き続きよろしくお願いします。
◇質疑応答より

    Q:最近スーパーマーケットで、レタスの下のほうを表にして売っているお店があるのですが、家庭内で保存する場合、どの向きがベストなのでしょうか?
    A:そのお店は、「茶色くなっていません」と鮮度の良さをアピールしているのかもしれません。また、手に取りやすいため、下向きにしているのかもしれませんね。野菜は基本的に植わっている状態で保存するといいといわれます。レタスの場合は、根が下にある状態の方が、老化しにくいかと思います。

    Q:レタスの種類によって栄養素的な違いはありますか?
    A:玉レタスもリーフレタスも、栄養素の含有のなかではカリウムなどのミネラルが多く含まれます。玉レタスより緑色の濃いリーフレタスの方が日光に当たっている分、葉酸など若干栄養素的には高いと思います。

    Q:赤いサニーレタスは、赤の色素で栄養素的な違いがありますか?
    A:赤はアントシアニンで、特に目の健康を保持する成分とされます。弊社の「ワインドレス」は通常の2倍以上アントシアニン濃度が高く、機能性成分の高い「ファイトリッチ」シリーズの品種です。

    Q:レタスの旬はいつなのでしょうか?
    A:レタスの旬は一年中という状況になっていますが、特に冬から春にかけて2〜4月がおいしいと思います。選ぶ際は、比較的軽く、ふんわりと結球しているものがおすすめです。弊社の品種では、2月20日以降3月にかけて茨城から出る「クールガイ」がおいしいと定評があります。

    Q:キャベツの場合、春は抽苔という話が出ますが、レタスはキク科なので抽苔しないということですか?
    A:春は抽苔しにくい季節です。抽苔のメカニズムは異なっており、レタスは5〜8月に長日を感じて抽苔します。面白いことに植物工場では、光を当てるほど生育スピードが上がり早く採れますが、当て続けると抽苔してしまいます。生育量と抽苔のバランスを研究しながら、室内で昼と夜を作って栽培しています。

    Q:レタスも抽苔すると真ん中に割れが出てくるのですか?
    A:まず中で花芽がとぐろ状になり、最終的には玉が割れて突き抜けることがあります。夏場は抽苔しにくい晩抽性の品種でなければ作れません。

 

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