■2024年12月15日 第9回 ねぎ 〜 講演「今、ねぎに起こっている危機!」 トキタ種苗株式会社 顧問 本澤安治氏
◇はじめに
  • 私は、ねぎに関わって約50年になります。トキタ種苗に入社後、半年ぐらいからねぎを担当していますので、会社の中でもおそらく一番ねぎのことをわかっているのではないかと思います。

  • 北海道から四国まで、ねぎの産地を訪れるために、毎月3000キロぐらい移動しています。現場回りの仕事をまだまだ頑張りたいので、健康でいなければと思っています。

  • ねぎは、他の野菜よりも機械化が進んでいます。昔は篤農家さんが伝統のねぎを作り、その技術を継承していく、ということがありましたが、今は若い人の参入が増えています。
トキタ種苗株式会社 顧問 本澤安治氏
  • YouTube「タネのハシモトチャンネル」のねぎの回に私が出ています。ご興味があればごらんください。

  • YouTubeでは北海道北斗市の岩本ファームも多くの情報を発信していますのでご参照ください。

  • 1本1万円のねぎをご存じでしょうか? 「ねぎびとカンパニー」のねぎです。300万本作って3本くらい、1万円で売れる「モナリザ」という名前のねぎができるそうです。今日は、ねぎびとカンパニーの1本1000円の「匠(たくみ)ねぎ」をお持ちしました。あとでぜひご覧ください。太さが3センチぐらい、白い部分はそれほど長くない、太くして味で勝負、というのが社長の考えです。肥料は有機肥料中心で作っています。

  • ねぎびとカンパニーのねぎは、5日くらい前に届いたので、伸びているのがわかります。温度が5℃以上あれば伸びます。ねぎはそれぐらい根性がある野菜です。買った時に、きれいに横一列になっていないねぎは、やや時間が経っていると思っていいでしょう。

  • ねぎは、緑の葉がついている側が目が細かい。昔は全部表を向けて結束する人がいました。逆に、目が粗い側を見せて、「白い部分が長いですよ」とアピールすることもあります。

  • 昔は、しっかり詰まっているか、持ってブクブクのものは良くない、などと判断したものですが、今は、太さとまっすぐであること、青ぼけがあるかないか、が重視されています。
◇今、ねぎに起こっている危機!
  • 資料表紙の写真、左のほうの葉はどろっと溶けており、少し進むと、水のようになります。真ん中の葉は薄黄色くなっています。これは、長野県の松本ハイランド農協管内で、9月の中旬に、収穫後1日半くらいというねぎの画像です。夏が非常に暑く長く、秋は短く、突然冬がやってくる。そうした急激な変化の中で、とろけ症状が非常に多く出ています。このねぎの生産者さんは、農協に出荷するまで、半日ぐらい置いて様子を見ているそうです。最も困るのは、箱詰めの段階ではまったく問題ないのに、溶けてきたり、葉が黄色くなり、クレームや返品となることがあります。
資料表紙の写真
  • 皮を1枚剥くと、茶色い筋が入っていることがあります。たまねぎの横断面の真ん中あたり、1枚だけ茶色くなっていることがあります。「たまねぎりんぺん腐敗病」で、ねぎの「ねぎ褐色腐敗病」と同じ細菌による病気です。その茶色い部分以外は、内側も外側も問題なく食べられます。

  • 昔は細菌病というと「軟腐病」でしたが、近頃は「サビ病」「ベト病」といったカビ病の病原菌は暑すぎる夏では減少し、それに対し、細菌が最も元気なのは36℃くらいなので、長野県では8月25日ぐらいから9月25日ぐらいまでの約1か月間、とろけ症状が非常に多く出ました。温度が下がればほとんど出ないので、出荷時期で調整は可能ですが、長野県の出荷の主力は、8〜10月なので、来年に向けての私のテーマは、その対策です。

  • 今のところ、予防のための農薬は? 出たときの対策は? 長野県塩尻に、8年間ぐらい作っていて全然出ない人もいる。なぜだろうと思って、何回もミーティングをしたところ、土作りと、肥料を余計に入れないことを徹底しているそうです。そうした話を、他の生産者のみなさんにも話して回ろうと考えています。
◇さまざまな「ねぎ」
  • 松戸の「あじさいねぎ」は、「わけぎ」ではなく、株分けで増やす「わけねぎ」です。わけぎはたまねぎとねぎの掛け合わせです。このあたりについては佐賀大学の田代先生の学会報告があります。

  • 分けつ性のたまねぎは、英語で「シャロット」、フランス語で「エシャロット」といいます。日本の「エシャレット」は、らっきょうです。野菜の名前、分類というのは難しいですね。

  • ねぎにはちょっとかたいところがあり、ほとんど食べないと思います。その部分5ミリぐらいがねぎの茎で、成長点があり根も出ます。

  • ねぎは、寒くなると自分の体を守るために糖分を濃くして凍らないようにします。だから、これからの時期は、ねぎを加熱すると甘くておいしくなるわけです。その典型が、「下仁田ねぎ」です。今日並んでいるものは緑の葉が残っていますが、1月になるとほとんどなくなり、下の部分だけになります。成長点を守るために、葉の栄養分がすべて使われて膨らんでくるので、これからどんどんおいしくなります。1枚1枚皮を剥いてみると、次から次へ葉が上がってきているのがわかると思います。ちなみに、皮を剥く時は爪を立てず、指の腹で剥いてください。後で赤い傷になります。普通の長ねぎと「下仁田ねぎ」の違いは、葉の厚みです。「下仁田ねぎ」は、構成する1枚の葉の肉が厚い。その隙間に、鍋のだしが入り、一層ねぎがおいしくなるというわけです。ひたすら皮を剥いていくと、下にねぎ坊主があります。

  • 普通のねぎは、暖かくなると坊主が上がってきます。12月ぐらいに花芽が分化し、3月のお彼岸ぐらいから4月初に坊主が出てきます。晩抽性は2月に花が分化し、4月から5月にならないと坊主が上がってきません。松戸周辺には分けつ晩生ねぎが多かった。5月にはそれも終わり、その後に出る「坊主不知(しらず)ねぎ」は、坊主が出ないで、株分けで増やす。先ほどの「あじさいねぎ」もそうですが、株分けで増やすとウイルス病にかかったりします。ウイルスフリーの「あじさいねぎ」を作る動きもありましたが、今はどうなっているのかわかりません。全国的に見ても、分けつ性の「坊主不知」はほとんど姿を消してしまいました。それに代わって、5月から6月、ハウスやトンネルを使って、坊主が出にくいねぎを出しているのが茨城の坂東市岩井地区です。晩抽性のねぎには「SB」というマークがついています。

  • 形態で分類すると、高級なお寿司屋さんなどで使われるのは、10センチほどの細い「芽ねぎ」。次に、「博多万能ねぎ」に代表される小ねぎ。ここまでの多くは根つきです。それから、「青ねぎ」「葉ねぎ」。刈り取り方式といって、稲やニラのように、1回切ると、また上がってきてそれを採る。年間3回ぐらい採れます。ねぎ入れ放題の関西系のうどん屋さんなどで使うのは、この葉ねぎ、青ねぎが多い。関東の人が「ねぎ」というと、普通、長ねぎです。葉ねぎが多い関西圏では、長ねぎを「白ねぎ」と呼びます。30年くらい前、関西の価格は関東の1.5倍ぐらいしました。中国から入るねぎは、最初、単価が高い関西マーケットを中心に入ってきたので、ほとんどが「白ねぎ」と書いてありました。

  • 4〜5月に採るねぎは「晩生(おく)ねぎ」と呼ばれました。これを「春ねぎ」と名づけたのは、私が知る限りでは、鳥取の米子の辺り。その地域に合った「春川おく太」は、私の最後の作品で、「晩生ねぎ」の「おく」からひらがなにしました。30年ぐらい前は関東市場にも入っていました。

  • 今、農水省の分類では、「夏秋ねぎ」、「秋冬ねぎ」、「春ねぎ」の3つに分かれています。産地に行くと、さらに、坊主不知の類の5〜7月頭に出す「初夏どり」も始まっており、千葉県九十九里あたりから、5〜6月に「プレミアム夏ねぎ」という名前で、やや高い値段で出てきます。今は大きさだけではなく、出荷する時期などにより名前を変えるので、分類が難しいです。
◇野菜には「グループ」がある
  • ネギ属にはハナニラ、ねぎ、たまねぎ、アスパラガスなどがあります。

  • キャベツと白菜はアブラナ科で、種は違いますが、厄介な「ねこぶ病」が共通しています。

  • キャベツを作るとモンシロチョウが飛んできて、生まれてくる幼虫のために、若い葉に卵を産みつけます。白菜のグループにつく害虫はカブラハバチ。トウモロコシの開花期にやってくるのはアワノメイガで、上だけでなく食べるところまで入ってしまいます。植物と昆虫は、害虫も、益虫も、匂いとの関係があるようです。

  • グループが違うと連作にはなりません。ねぎは機械化され大規模化や周年栽培ができるようになりました。千葉県の九十九里などでは、春先にトウモロコシを作り、収穫後7〜8月に大きなねぎの苗を植えるパターンでした。今は5〜6月に小さな苗を機械で植え、トウモロコシを植える隙がなくなった。ねぎからねぎになって、土壌病害が増えています。

  • 夏野菜は、温度が上がり日照時間も長くなって太陽光線の中の紫外線の量も多くなり、自分の体を紫外線から守るために色がついています。秋から冬の野菜は、温度が下がって日照時間も短くなり紫外線の量も少なくなりますが、寒さが大敵で、体の糖分濃度を高くして凍らないようにします。ですから、秋冬野菜を夏に作って、おいしいものにしろといわれても、無理があります。

  • 学名や染色体数も重要です。白菜のグループはすべて染色体数が20なので、掛け合わせができます。キャベツ類の染色体数は18で、白菜のグループとは滅多に掛かりません。「ハクラン」は人間が白菜とキャベツを掛け合わせて作った野菜で、白菜の「ハク」と、キャベツの別名「カンラン」からこの名前になりました。

  • たとえば、今年は唐辛子、来年はピーマン、その次の年はなす、トマトと続くと、科が同じなので、青枯れによってうまく育たないことがあります。
◇質疑応答より

    Q:今年は溶けたねぎが本当に多く、仕入れの時はなんともなかったのに、1〜2日冷蔵庫に寝かせて、出したら真ん中が全部溶けていたりしました。でも、匂いは全然ひどくなくて、それ以外の部分は提供しても大丈夫そうだと思ったのですが、食しても問題はないのでしょうか?
    A:食べてもまったく問題はありません。ただ、あまり気持ちはよくないですよね。

    Q:来年以降も、溶けるねぎが出てくると思っていたほうがいいのでしょうか?
    A:可能性は高いでしょう。今年は長野県でかなり出ましたが、同じ長野県でも1本も出ていない生産者もいます。原因も特定されてきているので、あと1年ぐらい経つとなんとかなるかもしれません。

    Q:春先の坊主不知がなくなって、トウ立ちの遅い品種をトンネルやハウス栽培で行うのが主流になってきている理由は、食味がいいからですか? それとも採算が合うからでしょうか?
    A:1つは品質でしょう。「SB」というマークがついている晩抽性F1ねぎは、分けつなく(一本で)揃い良く、品質も日持ちも良いです。

    Q:近頃は11月まで暑いことが続いていますが、ねぎにも影響は大きいですか?
    A:平均温度で25℃、雨が多いと、ねぎは大きく劣化します。8月下旬、栃木県小山の水田転作の畑で、ゲリラ豪雨が何回かあって水が溜まり、猛暑でねぎが茹であげたような状態になり、すべて倒れてしまいました。四国・九州でも台風の害が多かった。8月下旬から9月頃、徳島のねぎ畑のねぎは腐ってなくなり、ブロッコリーが植えられていました。山形県北部から秋田にかけては、7月10日ぐらいから8月の上旬にかけて線状降水帯が発生し、ねぎの部会長は「今年はダメだ」と早々に言っていました。ねぎにとって一番怖いのは、暑さと雨です。全然雨が降らない年は枯れてしまい、荷物が揃いません。

    Q:小ねぎや万能ねぎは、1年間を通して品薄で高い状況が続いているのですが、なぜですか?
    A:青ねぎは、本場京都の業者から夏涼しい長野に作ってほしいという依頼が来るぐらい、盆地の京都では作りにくくなっています。長野の飯山で作っている葉ねぎには、九条ねぎの血が30パーセントぐらい入っています。

    Q:ねぎの生産コストについて教えてください。
    A:ねぎの生産コストは上がっています。要因はいくつかあって、1つは機械化です。束ねるのは人手ですが、そこまではほぼ機械化の一貫体制で早く楽に作業できるようになりました。機械を1セット揃えるには相当な費用がかかります。出荷流通規格の問題もあり、労賃、段ボール代、輸送代、ルートによっては手数料。育苗コスト、殺菌剤、除草剤など。原価は高くなる傾向にあります。

    Q:給食の納めをしていて思うのですが、葉っぱはほぼ廃棄されるのに、6:4なのはなぜでしょうか? こちらとしては、8:2ぐらいの比率のほうがありがたいのですが。
    A:ひとつは見た目の問題。そして白身を長くすると細くなる。一定の太さにするために、加工に2度手間かけて、売る部分が少なくなるのは、生産者にとってありがたくないだろうと思います。

    Q:千葉と青森では箱の大きさが5センチ違います。白身の長さかと思っていたら、葉っぱの長さだった。それなら短くていいのでは、と思うのですが?
    A:規格は県によって違います。千葉県も変えてきています。買う方と作る方との対話が必要ですね。

 

【八百屋塾2024 第9回】 挨拶講演「今、ねぎに起こっている危機!」伝統野菜の「ねぎ」について勉強品目「ねぎ」食べくらべ