■2024年9月29日 第6回 トマト 〜 講演「南郷トマトについて〜100年産地を目指して〜」 南郷トマト生産組合 組合長 高木正貴氏
◇はじめに
  • 福島からリモートで、「南郷トマト」をご紹介します。

  • 「南郷トマト」は夏秋トマトです。7月の七夕の頃から10月いっぱい、約3か月、出荷しています。

  • 9月下旬から10月は気温が下がり、味がのってくる時期です。野球にたとえると、7回の表裏にきており、これからますますおいしいトマトを提供できると思っています。
南郷トマト
  • 本日は「南郷トマト」が作られているところ、作っている人たち、取り組みなどについてご説明します。
◇「南郷トマト」の産地について
  • 「南郷トマト」の産地は福島県南西部、南会津と呼ばれる地区で、南会津町、只見町、下郷町の3町です。合わせると1950平方キロメートル。島嶼部を除く東京都より広いところです。

  • 旧南郷村は平成の合併で南会津市に統合されましたが、栽培を始めた地名から「南郷トマト」と呼んでいます。

  • 越後山脈の東麓の山間部に位置し、標高は300〜800メートルほどです。

  • 日本海側気候で、春夏秋冬がはっきりしています。夏は比較的涼しく、昼夜の寒暖差が大きい。これがトマトの味に影響します。

  • 冬は日本海側の季節風が吹く豪雪地帯です。最近は暖冬で雪は少なくなりましたが、1〜2メートルは積もります。多い年は3メートル以上、パイプハウスが埋まってしまうほどで、ハウスの倒壊を防ぐため、生産者もJAさんも総出で雪掘りし、みんなで産地を支えています。
◇生産組合について
  • 「南郷トマト」は60年以上の歴史があります。1962年(昭和37年)に旧南郷村、現在の南会津町の有志により作付けが始まりました。その後、隣の只見町、下郷町にも産地が広がり、徐々に産地形成がなされていく中、選果場などの施設の改修や整備が進められ、現在に至っています。

  • 2023年度のデータでは、「南郷トマト」の生産地は3町で約30ヘクタール、栽培戸数は105戸。販売額は約12億円、出荷数量は600トン。4キロ段ボール箱で換算すると、シーズンで約66万箱を出荷しています。出荷先は主に京浜と、地元の会津です。

  • 生産組合はトマトを作って農協に全量出荷し、行政、農協とタッグを組んで産地を維持しています。60年続いているのは、この連携関係による面が非常に大きいと考えています。

  • 生産組合は、安心・安全なトマトを出荷するため、生産者の指導、町やJAとの協議立案、その見直しを繰り返して、産地の維持に努めています。

  • 組合員の特徴の1つは、関東など他の地域からの新規就農者が比較的多いことです。105戸のうち2割強から3割弱が、Iターンで新規に就農した方です。Iターンのきっかけは、脱サラして就農したいとか、定年後の第2の人生にトマトを作りたいという方。また、この地域は雪が多く、スノーボーダーには有名な「南郷スキー場」に来られて、夏はトマト、冬はスノーボードという生活スタイルもいいな、と移住して農業を始めた方もたくさんいます。

◇生産組合の取り組み
  • 生産組合は、安心で安全なトマトの生産・出荷を基本原則とし、「南郷トマト」の魅力や知名度、ブランドの向上に努めています。「南郷トマト」を知って、食べてファンになってもらう取り組みに、日々努めています。

  • 生産組合では、定期的に集団指導会を開催し、県の農業指導員や農協の営農担当員が地区を回って、その季節に適した作業を指導し、生産者からの質問に答えています。現在は、集団指導というよりは、うまく生産できない人を助けたり、手が足りないところを重点的に回るなど、産地の底上げや生産者の取りこぼしがないよう、取り組みを続けています。

  • 生産組合は、行政やJA、各組織と連携協力して個別指導や冬期講習会、防除指導、栽培技術などの情報提供のほか、栽培品種の選定、他産地の視察研修、市場との情報交換などの活動を行っています。

  • 農閑期の冬にはトマト講座を開催し、種苗会社や農業試験場、市場並びに流通関係者など、いろいろな先生をお迎えし、栽培技術や農業を取り巻く情勢等を習得し、農業経営に活かしています。

  • 安心・安全の裏づけの1つとして、毎シーズンのはじめに残留農薬検査を行っています。また毎年、JAと協定を結んで、園芸生産基準に基づいて栽培日誌を提出し、生産、出荷をしています。

  • 独自の取り組みとして、冬の雪を活用し、雪室予冷をしています。通常の冷房と違い電気代がかかりませんし、トマトの色上がりが電気だけのものよりよい、というメリットもあります。

  • 秋は最低気温が下がり、トマトの甘みが増してきますので、期間を区切って「南郷トマト秋味」の名称で販売しています。夏のトマトがおいしくないということではなく、温度の変化によって味のバランスが変わるということです。
  • 栽培品種は、「桃太郎みなみ」が主力です。以前に作っていた品種は、秋になると割れや不揃いが多く。秀品率が下がるため、種苗会社さんと共同で品種改良を検討しました。生産組合の役員並びに研究部で試験栽培をして最終的に残ったのが、「桃太郎みなみ」です。名称は、種苗会社から、南郷トマトといっしょに作ったので「みなみ」にしてはどうか、というご提案があり、この名前になりました。品質の特性は、裂果が少なく、秀品率が高い。今までに比べて暑さにも強い。味については今までの品種と同等で、現在、8割の生産者が「桃太郎みなみ」、2割は今までの品種を作っています。
南郷トマト
  • 南郷トマトのブランディング化、差別化を図るためには、第三者に認めてもらうほうがいいので、商標登録、GI、JGAPの登録に取り組んでいます。JGAPは、今年、全農場、全生産者が取得しました。取得にあたっては、関係機関と連携し説明会や内部監査などを実施しました。JGAPとは、直訳すると「良い農業の取り組み」。農業?産の各?程の実施、記録、点検、評価を行って持続的に改善する活動です。一般的には「農業生産工程管理」と呼ばれています。

  • 8月6日と9月10日は「南郷トマトの日」。八百屋さんにも宣伝していただけるとありがたいです。

  • GI(地理的表示保護制度)については、栽培歴史、気候風土、組織、60年続いていることなど総合的に、守るべき地域特有の知的財産と認められ、登録されました。

  • コロナ禍も落ち着き、生産者が店先に出向いて、試食販売できるようになりました。自分たちが作っているトマトを食べたお客さまからどのような反応が返ってくるか、勉強になると思っています。その経験は産地に持ち帰り、ここは改善したほうがいいとか、そういう材料のひとつにもなっています。

  • 続いて「流通の苦労話」、JAの渡部課長にバトンタッチします。
◇流通の苦労話(JA渡部課長より)
  • 品種の切り替えによる等階級の変化についてお話します。「南郷トマト」は、8割が「桃太郎みなみ」、残りの2割が「桃太郎ギフト」と「セレクト」という品種構成になっています。

  • 2023年度から大々的に品種の切り替えを行いました。それまでは、シーズン平均でA級率20%、B級率35%、C級率45%でした。品種を「桃太郎みなみ」に切り替えた2023年度は、A級率43%、B級率31%、C級率26%と、A級、B級率が大きく向上しました。これにより、生産者の方の圃場廃棄も少なくなりました。以前の品種では、今頃が品質の低下期で、100コンテナ分収穫しても50コンテナしか出荷できないこともたびたび発生しました。現在、規格外品が大きく減っていおり、産地・生産者双方にとって大きな武器となります。今までB、C中心に販売をお願いしていた各市場や販売先の方々には、急にA、B中心の産地となったことで、ご迷惑をおかけした部分もありますが、今後はA、Bの産地としてご理解いただければ幸いです。

  • 「桃太郎みなみ」の特性として、着果性はいいのですが、低温期の肥大が弱く、小玉率が増えています。今までは大玉中心で販売していただいていたので、この点もやや変化しています。懸念される部分ですが、本格導入から2年しか経っていませんので、品種の特性をつかみきれていない面があります。早く理解することが、産地力のさらなる向上につながると考えています。

  • 余談ですが、今まで規格外品で「南郷トマトジュース」を作っていました。リピーターのお客さまもいらっしゃいますが、正品率が大きく向上し、規格外品のジュースは将来なくなる可能性も見えています。

  • 品種の切り替えによって商品率、正品率が上がるのは素晴らしいことです。この流れを維持しながら、栽培の方法などについては、まだこれから検証していく必要があると感じています。

  • 食生活の変化、物流・流通環境の変化、温暖化など、外部環境が変わってきています。これに対しては柔軟性をもって進んでいくべきではないかと考えています。
◇終わりに
  • 「南郷トマト」は、自然豊かで、トマト栽培に適した条件のところで作られており、60年余りの歴史があります。これが、GIの認定の根拠にもなりました。

  • 生産組合は、産地形成並びに維持発展のために、町や県、農協と連携協力して活動しています。

  • 生産組合の活動の目的は、まず「南郷トマト」を知ってもらい、高品位で安心・安全なおいしいトマトを安定的に皆さんに届けることに帰着している、というところをご理解いただければと思います。

  • 100年産地を目指して、私たちは、より一層努力しながらトマトを作ってみなさま方にお届けしたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
◇質疑応答より

    Q:今後も持続可能な単価の目安があれば教えてください。
    A:確実に生産コストは上がっており、キロいくらならOKとは、今の状況では誰もわからないと思います。

    Q:4キロ入っていないことがほとんど、というイメージがあるのですがどうしてですか?
    A:カメラで撮ったものを換算して1玉何グラムというやり方で出しているので、品種の切り替えがあり、うまくいかない部分が出ているのかもしれません。見直しを検討します。

    Q:高温への対処方法はあるのですか?
    A:夏場は、比較的涼しいとされる当産地も、年々温暖化の影響で暑くなっていますし、ハウスの中はなおさらで、花落ちはします。対処は、教科書的な話になりますが、涼しい時に受粉をするとか、水の管理、さらに肥料の管理で、樹勢を落とさないでいい花を咲かせるように努力しています。

    Q:雪室予冷の動画ではずいぶん青玉でしたが、熟成させて出荷するのですか?
    A:はい。選果後、一晩予冷庫に寝かせ、翌日の朝、市場に向けて出荷します。販売されるタイミングに合わせて着色基準を生産者の方々と揃えています。着色については、シーズンの中でも前半戦と後半戦でやり方を少し変えています。後半は青めということが多いです。

    Q:「南郷トマト」は大きくてどっしりとしたイメージがあります。小さくなると他のトマトとあまり区別がつかないような気がしますが?
    A:以前は、8月上旬中旬ぐらいから大玉になっていきました。今年もその時期にはある程度大きいものが出ましたが、9月20日過ぎから小玉傾向が顕著になり、今、組合の中で、しっかり摘果しよう、と提案しています。品種の特性を把握しきれてない部分があり、改良を重ねていきたいと考えています。

    Q:生産者さんの数の推移はいかがですか?
    A:Iターンで入ってくる人よりも引退される先輩方のほうが多く、年々微減しています。産地を維持するためには、栽培面積も必要ですし、上京した子供が帰ってきて農業を継ぐ、というUターンも広げていきたい。日本全体はもちろん、特に地方は少子高齢化と人口減少が進んでいます。選果場では、夏場には約70名が必要なのですが、その確保も大変になってきています。農協とも協力して、少しでも産地が維持・発展できるように考えていきたいと思います。

 

【八百屋塾2024 第6回】 挨拶講演「南郷トマトについて〜100年産地を目指して〜」勉強品目「トマト」食べくらべ