■2024年5月19日 第2回 まめ類 〜 講演「さやいんげんの動向」 雪印種苗(株) 桜田晃一氏
◇さやいんげんの由来
  • 原産地は、中南米のメキシコ付近といわれています。

  • マメ科インゲン属の一年草の作物です。

  • 日本へは江戸時代に隠元禅師が中国から伝えたといわれ、これが「いんげん」の由来とされます。

  • 当初は、さやの中のまめのみ食していたようです。若いさやごと食べるいんげんは幕末時代に伝わり、品種が分化したとされます。今のいんげんは幕末時代から始まった、ということになります。
雪印種苗(株) 桜田晃一氏
◇さやいんげんの栄養と機能性
  • さやいんげんには、ビタミンK、カロテン、ビタミンBが豊富に含まれています。ビタミンKは、骨を丈夫に保ち、血液を正常に凝固させるのに重要な役割を担う成分。カロテンは、皮膚や粘膜に有効だとされる成分です。便通を促しコレステロールの低下作用が期待される食物繊維も豊富です。

  • 疲労回復作用のあるビタミンB1、貧血予防の鉄分、高血圧防止効果が期待されるカリウムも豊富に含まれており、栄養価が高く、昔から食されています。
◇さやいんげんの最適な保存条件
  • さやいんげんは、温度8℃、湿度85〜90%で、8〜10日間保存可能とされています。この温度帯と湿度帯であれば、冷蔵庫に入れなくても保存が可能です。冷蔵庫の野菜室でも目安は同じで、長くても1週間から10日ぐらいです。

  • いんげん類の鮮度劣化は外からはわかりにくく、見た目には問題がなさそうでも、中の豆が小さくなったり腐ったりしていることがあるので、鮮度のいいものをできるだけ早く食していただくのがいちばんです。

  • 冷凍保存は、ややかために茹でて冷凍するのがポイントです。調理するときは、凍ったまま炒めたり、スープに入れればOKです。
◇さやいんげんの種類
  • 農林水産統計上のさやいんげんに含まれるものについてお話しします。

  • さやの形は、丸ざやと平ざやの2つに分けられます。

  • 青果として流通しているものは、ほとんどがストリングレス、筋なしいんげんと呼ばれる品種です。

  • 栽培上は、つるを出すつるありタイプ、つるが出ない矮性タイプ、その中間の半つる性タイプの3種類に分けられています。

  • さやいんげんは、関東と関西で好まれる品種が違います。関西では丸ざやで、「キセラ」、「ピテナ」のようなややかたい品種です。仲卸しやスーパーでも「いんげん」とはいわず、品種名で指定されます。

  • 関東で流通している品種は、「ケンタッキーワンダー」、「鴨川グリーン」、「いちず」、「ジャンボインゲン」、「スーパーステイヤー」、「モロッコ」など。丸ざや、平ざやともに凹凸ざやが好まれます。

  • 関東では煮物に添える、関西ではステーキの付け合わせや小料理屋さんのごま和えなど、料理方法が違います。

  • 「キセラ」を関東に持っていくと、「これ、いんげんじゃない」といわれることが、今もまだある、と聞いており、産地で関東向け、関西向けを分けています。

  • 「キセラ」やサカタさんの「サクサク王子」などは関東と関西の両方に流通し始めていす。弊社の「ゴールデンランナー」はつる性の丸ざやで、両市場に出荷しています。
◇さやいんげんの作付け面積と生産地、出荷量
  • 2019年度は全国で5,190ヘクタール。上位5県は北海道、福島、千葉、長野、鹿児島の順。その後、右肩下がりで減り、2022年度の農林水産統計では、4,460ヘクタールです。

  • 減っている理由は手間がかかること。花が咲き始めると、すぐに悪くなるので土日もありません。いんげんは暑さに弱い作物で、夏は病気が出やすく、非常に作りづらい。

  • 主な生産地は、上位5県のほか、南は沖縄。熊本の天草はかつて有名ないんげん産地でしたが、最近はレタスかスイートコーンに変わり、ほとんどありません。関東近県では千葉、群馬、茨城、栃木。夏場の長野は、ほぼ関西向けです。関東向けは福島が唯一夏の産地でしたが、東日本大震災以降激減し、夏場の産地がほとんどない状況です。

  • 2019年の出荷量は2万5,800トン。2022年は2万2,000トンで、面積の減少ほど出荷量は減っていません。

  • 関東・関西市場の月別入荷実績を見ると、冬場は沖縄や鹿児島、オマーンなどからの輸入。東京の春先は千葉。関西の4〜6月は鹿児島が中心。関西向けの7〜8月の福島便はほぼなくなりました。各産地のリレー出荷により、1年中ありますが、夏場は激減しています。
◇北海道産冷凍いんげんと今後の課題
  • 北海道産は、ほぼ冷凍いんげんになります。2019年は558ヘクタール、4,470トン生産し、青果としては30トンぐらい、残りは国内産の冷凍いんげんとして流通しています。2022年は激減し、341ヘクタール、2,460トンです。

  • 青果として流通する夏のいんげんは、北海道、東北、長野あたりがポイントになりますが、物流コストの問題も大きく、さまざまな取り組みも長続きしないので、今後も大きな課題になると思います。

  • 弊社では、夏場のいんげん産地として、長野県、青森県でつる性品種「ゴールデンランナー」を栽培し、スーパーとの契約栽培も始めました。この品種は丸ざやの筋なし系で関西好みですが、関東のスーパーのバイヤーさんの試食評価は、やわらかくておいしいので販売可能とのことでした。

  • 福島も夏が暑くなり、去年はほとんど壊滅状態でしたが、福島の試験場で「ゴールデンランナー」を試していただいたところ、耐暑性が強いとの評価を得ており、今後、期待が持てます。

  • 「キセラ」も最近の暑さで作れなくなってきたところがあり、耐暑性を持たせた新品種「キセラネオ」をこの7月から販売します。こうしたことにより、夏産地普及を後押ししていく考えです。

  • 冷凍いんげんの品種は、ほとんど「ピテナ」です。一斉収穫が可能で、北海道では主力です。
◇雪印種苗の枝豆について
  • 弊社は枝豆がトップランナーです。今、17品種ものラインナップを揃えています。

  • 「サッポロミドリ」は白毛の枝豆です。50年前に「サッポロミドリ」が発売され、白毛の枝豆がおいしいと、他社さんも白毛を作り始めました。

  • 今、1番売れているのは、「味風香」、「夏風香」、「神風香」という「豊熟の味わいシリーズ」です。弊社では、見た目は普通の枝豆でしっかり茶豆の香りがするものを風香シリーズとして販売しています。ちなみに「風香」という名前をつけたのは私です。

  • 本日、並んでいる枝豆のうち、宮古島のものは「神風香」だと思います。本土から宮古島に移った生産者の方が、ほぼ1年中、クリスマスの時期も枝豆を作っていて、5月の連休明けで終了します。ここは、弊社と生産者さん協力して作った産地です。冷凍の時期に青果のフレッシュなものをお召し上がりいただけるといった産地作りにもトライしています。
◇質疑応答より

    Q:国内産のいんげんは減っているということですが、輸入が増えているのですか? 輸入品は、原産地であるメキシコ付近のものが多いのでしょうか?
    A:統計上の輸入量はあまり変わっていません。いんげん自体の需要が増えていないのではないかと思います。実は輸入品もほぼ冬の時期に入っています。中南米のアンデスあたり、高冷地で作って輸入すれば売れるかもしれませんが、現状はそういうことにはなっていません。

    Q:「どじょういんげん」は、どれですか? 子供の頃、よく「どじょういんげん」を煮ものにして食べていました。太くておいしいのですが、八百屋がレストラン関係から求められるのは細いものです。
    A:平ざやでデコボコのあるものが「どじょういんげん」。それを丸ざやのようにしたのが「サーベル」という品種です。料理をしないご家庭も増えていますし、お店では細いものが使いやすくて好まれると聞きます。産地では、収量が上がる「ジャンボインゲン」や「モロッコ」のほうが作りやすく、需要と供給がマッチしてない面はあると思います。弊社では、大きくてやわらかい品種「ゴールデンランナー」を出したり、レンジ加熱可能なパックで販売したり、さまざまな取り組みをしています。

    Q:農家さんがいんげんを作ってもいいな、と思えるくらいの単価はどれくらいなのですか?
    A:作らないのは、単価が安いからではなく、手間がかかるからです。収穫は機械化できないので、面積を簡単には広げられません。北海道の冷凍のように、全部機械だったらできると思うのですが…。個人的には、シンプルに茹でてマヨネーズで食べるのがいちばんおいしいと思いますが、いんげん料理のバラエティも増やすなど、需要が増える方策を考えたいです。

    Q:食べくらべのために冷凍いんげんを探しましたが、輸入品しかありませんでした。国産は少ないのですか?
    A:コロナ禍で外食さんが減ったた影響で、国内産の冷凍いんげんが減ったようです。以前は、北海道の産地は増えていました。今、回復しつつあるので、今後はまた増えるかもしれません。

 

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