■2024年4月21日 第1回 開講式 〜 講演「バナナ」について (株)スミフルジャパン 佐藤豊氏、岩田篤幸氏
◇バナナの歴史
  • バナナの歴史は大変古く、紀元前5000年頃にさかのぼるといわれています。

  • 今、食べているバナナにはタネがありませんがもとはタネがありました。突然変異でできたタネがないものを栽培化したのが現在のバナナです。

  • マレー半島で原種が生まれ、東南アジアで栽培化され、東西の熱帯地域に広まったとされています。

  • 諸説ありますが、日本で初めてバナナを食べたのは織田信長、ポルトガル人から献上されたものと伝えられています。

  • 明治36年(1903年)、台湾からバナナが輸入されたのが日本への商業的輸入の始まりです。その後、昭和40年(1965年)に日本バナナ輸入組合が発足。輸入自由化をきっかけに、昭和45年(1970年)にエクアドル産バナナの輸入量が1位になりました。1960年代から日本市場向けにフィリピンに大規模農園が作られ、昭和48年(1973年)には、フィリピン産バナナが輸入量1位になりました。その後は日本にとってはフィリピンがメインの産地になっています。
(株)スミフルジャパン 佐藤豊氏

(株)スミフルジャパン 岩田篤幸氏
◇バナナの生産と輸入について
  • 栽培適地は、気温が高く、ほどよく降水量があり、暴風の少ない地域。熱帯、亜熱帯に分布する、南緯30°から北緯30°の、バナナベルトと呼ばれる地帯で、主に生産されています。

  • 世界の生産量上位4カ国はインド、中国、インドネシア、ブラジルですが、もっぱら自国で消費されるため日本にはなじみがなく、5位エクアドル、6位フィリピンが主な輸入産地国です。42位カンボジアはあまり知られていませんでしたが、インフラが整ったことや、フィリピン産が不安定になったことなどもあり、2023〜2024年くらいから、少しですが輸入されています。

  • 国別のバナナ輸入量は、フィリピン産が1位を継続。昔から日本に輸出しているのでインフラが充実しているためです。近年は、フィリピンが台風の通り道になったり、雨が少ない時期があるため、エクアドルやメキシコなどからの輸入も増えています。気候、為替など、さまざまな要素で年々変化します。

  • 2012年、超大型台風「パブロ」によってフィリピンは大打撃を受けました。日本向けバナナの輸出量も減り、不安定になりました。そもそも1970〜1980年代ごろのフィリピンは台風が通らないので産地化されたのですが、台風の通り道になってしまい、今後はどうなるかわからない状況です。

  • 2016年、エルニーニョ現象による干ばつの影響で、フィリピンからの輸入量がさらに減りました。2024年もエルニーニョ問題が出ており、現在、4〜5週間くらい雨が降っていません。このままでは夏場のバナナに影響すると考えられ、私たちも雨量を注視しているところです。

  • 弊社では、バランスをみながら、エクアドルにあるスミフル管理農園などからのバナナ輸入増も考えています。

  • バナナは病害や菌の影響も受けます。「パナマ病」は、土壌から根にフザリウム菌が侵入し、苗自体を絶やす病気です。土壌に菌があるので、周囲一帯を伐採する必要があり、生産性が落ちます。その場所には数カ月は苗が植えられず、何もできません。「グロスミッシェル」という品種はパナマ病に弱く、現在は、パナマ病に強い「キャベンディッシュ」がメインです。現在は、耐性が変化した「新パナマ病」もあり、今後の対策が課題です。

  • 日本国内のバナナの販売量(重量換算)は、弊社が1位をキープしています。年により、台風、エルニーニョ、雨、為替などの影響を受けますし、インポータ―により強い産地が違います。
◇バナナの特性
  • バナナは、やさしく扱わなければならない商品です。

  • バナナは温度に敏感です。13.5℃以下で保存すると。黄色がくすんだグレーになる「風邪ひき」症状、専門用語の「低温障害」を起こします。果実自体に問題はありませんが、見た目が悪くなり、売りにくくなります。保管温度は13℃〜23℃以下がベストで、23℃を超えると急激にシュガースポットと呼ばれる黒い斑点が出てきます。気温が上がる夏場は、輸送温度にも気をつけています。

  • バナナは衝撃と圧力に弱いフルーツです。「押され」症状は、青い状態では出ませんが、果肉がやわらかくなると、ちょっとした高さから箱を落としたりしても出るので、取り扱いには注意が必要です。

  • 積載効率や価格をキープするために、フィリピンでは15kgボックス、南米は18kgボックスが主流になっています。重いので苦労されていると思いますが、ケースの重量は上がっています。

  • バナナは、植物検疫上、害虫などを持ち込まないため青いまま輸入されます。
◇バナナ用語の説明
  • バナナは「バンチ」といわれる大きな塊からカットされます。バンチは下のほうが小房で、上のほうが長くて太くなります。日本向けは、主に真ん中から下の部分です。バンチは30kg前後あり、1バンチから1.5〜2ケース取れます。加工しにくいため、バンチの状態で輸入されることはほとんどありません。

  • 12〜24本くらいのバナナがついているものを「ハンド」といい、現在は屋台のチョコバナナなど業務用で使用されることがあります。手がかかっていない分、安価で仕入れることができます。昔はハンドが主流でしたが、今は産地で袋詰めする「CP(コンシュマーパック)」が主流です。ハンドは、産地オーダーベースで発注しています。

  • 袋詰めしないで輸入することを「クラスター」といいますが、クラスターをそのままではなく、CPに詰めて持ってくることが多い。ほかに1本パックもあります。

  • ハンドを国内でカット・袋詰めすると手間・コストがかかるため、CPが生まれました。軸が固いので、ケガをしたり、バナナ同士があたって傷つくこともあるので、産地でカット・袋詰めし、「顔」と呼ばれるラベルをつけて持ってきます。

  • 「カリブレーション」はバナナの太さを表します。太すぎると輸送中に追熟するものがあり、細すぎてもあまり果肉が残りません。会社によりカリブレーションは基準化されています。

  • バナナは青い状態でしか持ってこられません。自然追熟は時間がかかり均一な黄色にならないため、「加工室(むろ)」と呼ばれる熟成施設でコンピュータ管理されて追熟されます。5〜7日熟成後、配送、店頭に並びます。

  • 温度と湿度だけでは時間がかかるので、エチレンガスを使って追熟スピードを上げ、ムラなく追熟させます。こうして、温度、湿度、酸素濃度に気をつけながら加工しています。
◇フィリピン産バナナが日本の食卓に届くまで
  • バナナが、現地の栽培農園から選果場に届くと、洗浄・定量カットされて規格毎に詰められ、集荷場や港に運ばれます。港には弊社のバナナ専用港があり、バナナ、パイナップルをメインに積んでいる専用船で日本に輸出します。フィリピンを出港してから、適温管理のもと、約6日間で日本に到着します。

  • 港では通関業務などがあります。植物検疫で不合格になった場合は、燻蒸を行い、カイガラムシなどを駆除します。

  • 産地や季節によっても違いますが、販売計画に合わせて数日、1次保管し、加工室に入れ熟成加工後、配送します。

  • 物流センターを通すルートと、仲卸さんから店頭というルートがあります。青いバナナで販売することもあるので、仲卸さんや市場が加工室を設置していることもあります。

  • バナナは農園での植え付けから食卓まで、最短でも11〜15カ月はかかります。増産するには、苗を植えてから1年くらいかかるので、先を読んだ生産が重要です。
◇バナナの特徴
  • バナナは木のように見えますが、高さ2〜5mの草です。

  • 植えつけた後、半年ほどで「バナナハート」と呼ばれる赤紫色の苞(ほう)ができます。

  • バナナの根茎には生長点があり、これを培養するとかなりの数のバナナを育てることができます。弊社では、たとえば、突然変異によってできる病気に強いバナナの苗、生産効率のいい苗など、研究所の人間が園地で見つけたよいバナナを培養し、栽培しています。

  • 苗を定植すると、約3カ月で大きくなり、12カ月くらいで収穫。1つの苗の横から、サッカーと呼ばれる新しい子株が出てきて、それを育成すると新しいバナナが収穫できます。このサッカーの選定も重要で、栄養が行き渡りやすいように、株の根元の発生位置などを見極めます。

  • バナナハートはバナナの花のこと。成長すると、細いフィンガーのような花(果指)がたくさん出てきて、成長し、バンチになります。花は枯れて硬くなると果実を傷つけることがあるので取り除きます。花を取ったり、バナナ同士がぶつからないように剪定したり、きれいなバンチを作るために、収穫前にさまざまな作業を行います。

  • 苞(ほう)が1枚ずつ外側にめくれると、二列に並んだ小さなバナナの実とその先端の白い花が顔を出します。つぎつぎと苞がめくれて実が現れ、1本の木(茎)に約10から15房のバナナがなります。バナナの実は最初下を向いていますが、太陽の光に向かってだんだん上に曲がって成長していきます。

  • 定植後、6〜8カ月後に開花。バンチ全体に袋をかけ、極力農薬を使わずに害虫を防ぎます。

  • 殺虫、殺菌などを行い、花を取ります。傷防止のために房と房の間にビニールシートを挟んだり、倒木を防ぐために株と株をワイヤーでつなげたりします。苗によって高さのばらつきがあるので、できるだけ一定したものを育て、3〜4カ月後に収穫します。

  • 栄養を果実に行きやすくするための除草作業や、サッカーの選定も大切です。葉が少なくなるとバナナ自体が弱くなるので、収穫時には葉数を確認しながら行います。

  • このほかにも細かな作業工程がたくさんあります。バンチの中の曲がっているバナナは手作業で除きますし、ビニールシートで下のハンドが上のハンドを傷つけないようにしたり、バナナが大きくなれば袋を替えるなど、手間がかかっています。
◇バナナの病害について
  • バナナの病害にはさまざまな種類があります。「シガトカ病」は、バナナの葉を枯らす病気ですが、葉の数が重要で、多少病んだ葉があっても枚数が多ければ問題ないこともあります。果実にはかからない、予防薬剤散布も重要です。雨で薬が流れ落ちることもあり天候にも左右されます。

  • 「モコ・パナマ病」は土壌から感染。株がなくなり、周囲にも影響するので、数メートル内の苗を切り、もみがらや木くずなどで、焼き畑のように燃やします。ここには、かなりの期間苗が植えられません。

  • 「バンチートップ」は、アブラムシが媒介するウイルス感染で、葉が委縮し生育が極度に悪くなります。

  • 「モキリオ」は、ハチなどの花に付く昆虫が媒介する病害の症状。花から果肉の中の器官を通じて菌が入り、かたくて黒く変色し食べられなくなります。ただし食べても人体に毒性はありません。

  • アザミウマという害虫が表皮から吸汁した跡は、かさぶた状の果皮になります。果肉には全く問題がなくても、見た目が悪くなるので輸入できなくなります。

  • 燻蒸の対象となるカイガラムシは、低地の園地に多い。表皮をかじる害虫もいます。

  • 「マチュリティステイン」は表皮にできる赤サビの症状で、天候不順のときなどに発生する生理障害です。今、フィリピンの産地は雨不足です。2〜3週間雨が降らないと、マチュリティステインが出ることがあります。見た目が悪くなり、日本では売りにくくなります。
◇産地でのオペレーション
  • バンチは30kg前後にもなるので、倒れやすい高い木は、ワイヤーや竹で支えます。

  • サッカーコントロールは、苗の回りから出てくる新しい苗を間引くこと。メインの苗にしっかり栄養がいくように、環境を整えます。

  • 葉は、作業員が現場で見て、枚数を調整し、病気にかかっている葉を取り除きます。

  • バナナに栄養が集中していくように除草し、たい肥も活用しています。

  • 選果場では、まずバンチからハンドの状態に切り離し、水洗いタンクに入れます。水に浮かべたときに沈むバナナは廃棄対象。泥、ゴミ、ラテックス(樹液)などの汚れを洗浄し、規格ごとに指定重量に合わせカット、計量、袋詰め、ラベルを貼って、箱に詰めます。船に積み込み、船内では13.5℃の温度管理をした状態で、日本に向けて輸出します。
◇バナナの「カラー」について
  • バナナは、加工時にカラーコントロールが必要です。

  • カラー1「オールグリーン」は最初の真っ青な状態です。お店に並べるには青めがいい、といわれる場合はカラー3〜4くらいで出荷。ただ、冬場にカラー3のバナナは色が着きにくく、弊社ではカラー3は、指定以外はありません。夏場は追熟が早いので、カラー3〜4も求められます。カラー7指定の方はほとんどいません。

  • バナナは、低地、中地、高地と標高で味が変わります。低地バナナはカラーが進みやすく、高地は追熟が遅い。季節やお客さまのご要望により、カラーを変えることが可能です。

  • バナナはデンプンの含有量によって甘さが決まります。デンプン含有量が多いと加工しにくくなるので、コントロールすることが重要です。

  • 食べ頃カラーは6以上です。店頭でシュガースポットが出ているのはよくないとされますが、食べるタイミングとしてはベストなので、むずかしい。ハイランドのバナナは、シュガースポットが出てからが本当においしいと思います。
◇スミフルの取り組み
  • 弊社は高地栽培バナナの元祖といわれます。1970年頃、フィリピンでバナナ農園を始めていた他社は低地の園地しかなく、弊社はミンダナオ島高地にも開くことを考えました。高地でできたバナナは、低地バナナの加工では色がうまくつかなかったのですが、台湾バナナの加工方法を取り入れた独自の熟成加工により、非常においしいバナナができあがった。これが高地栽培バナナの始まりです。

  • 当時から、たい肥の管理など土壌にこだわって栽培しています。現地の研究センターの中でも、土壌分析センターは大きな役割を担っています。バナナ栽培は低地、中地、高地に分けられますが、たい肥や栄養管理によって、低地、中地でもおいしいバナナができます。

  • 「GO GREEN」は、環境配慮、生産性の向上と農薬をできるだけ少なくする取り組みです。害虫を寄せつけないために園地の回りにレモングラスを植えたり、虫の誘因植物を植えた下の池でカエルを飼い、寄ってきた虫をカエルが食べる、というような自然の生態系をいかした環境を農園に作るなど、さまざまな活動を行っています。

  • 苗の研究については、病害に強い苗を見つけて培養するほか、「キウイーナ」、「バナップル」といった季節商材も開発しています。突然変異でできたものや新しい苗を、フィリピンの産地で植えて新しい味を作り出す研究を行っています。キウイーナはキウイフルーツ、バナップルはリンゴのような風味で、さっぱりとした味です。価格は普通のバナナに比べ高くなりますが、アンケート結果では高評価をいただいています。こうした商品開発も弊社の強みです。

  • バナナは温度に敏感なので、収穫から選果場、その後の施設まで、適温管理で日本に運んでいます。温度管理のため、弊社独自のバナナ、パイナップル専用港を現地に作りました。

  • 弊社のブランドカテゴリーは、ローランド(低地栽培)のものが「朝のしあわせバナナ」。ハイランドが「甘熟王」です。標高が800m以上で他の細かな基準をクリアしたバナナが「ゴールドプレミアム」です。

  • 品種は、キウイーナ以外は基本的に「キャベンディッシュ」です。

  • フィリピン産は標高でおいしさや売価のゾーンが変わりますが、エクアドル産、メキシコ産などは標高では差が出ません。ローランドの標高はフィリピンのミッドランドくらいなので、中高地と同じくらいの味のポテンシャルを持っています。低地でもおいしいのが南米産のバナナの特徴です。

  • 南米産の品種も「キャベンディッシュ」ですが、1本1本が大きく、食べ応えがあります。エクアドルやメキシコは、日本向けがメインではなく、北米、南米、ロシア、ヨーロッパなどが主なターゲットなので、好みに合わせて、大きいものが作られます。

  • ハイランドは昼夜の寒暖差があります。昼間はローランドと同様に暑くても、朝晩は温度が下がり、生育に長い時間かかるので、デンプン含有量が多くなります。低地は夜になってもあまり温度が下がらないので、早く育ちます。その結果、低地のバナナはすっきりとした味わい、ミッドランドはそのひとつ上、ハイランドは濃蜜でコクやもっちり感があるバナナになります。

  • ローランドとハイランドのバナナに含まれるデンプンの顕微鏡写真を比べると、ハイランドのほうが1つ1つのデンプン質が大きいことがわかります。デンプンの質をいかによくするかがおいしさのポイントです。

  • 「甘熟王」は食味評価で高評価を得ています。香りや食感、コクなどに、肥料の成分がどのようにはたらいているのかを調べ、適切なタイミングで施肥できるよう管理しています。

  • 「ゴールドプレミアム」は、低地と比べて生育に約5カ月多くかかり、土づくりにも時間とコストをかけ、加工日数も低地より2日ほど長くなります。定期的に実施する食味検査をクリアしないと、「ゴールドプレミアム」にはなりません。横に切ると果肉が黄色く、リンゴの蜜のようになるのも特徴です。

  • 「ゴールドプレミアム」は、ミネラル栽培にも取り組み、土壌分析により、マグネシウム、窒素、リン、カリウムといったミネラルバランスを考えて、健康的な土壌を保つことに注意しながら栽培しています。

  • 「キウイーナ」は、酸味と甘さがあるキウイフルーツのような味のバナナです。酸度は通常の約2倍、糖度も高く、酸度が糖度を引き立てている独自の商品です。希望小売価格は高めですが、通常とは違う味わいのバナナとして、リピーターが多い商品です。
◇バナナの消費者動向
  • 総務省の家計調査のデータによると、2019〜2023年までの5年間、1世帯あたりの果実購入量はバナナがトップです。上位10品目は、バナナ、りんご、みかん、すいか、なし、キウイ、いちご、かき、ぶどう、メロンの順で、バナナは2004年から20年間連続で購入量が1位。年間安定して購入できることもこの結果につながっている、と考えられます。2004年以前はりんご、みかんのほうが購入量が多く、2004年以降はバナナが支持されるようになった、ということではないかと思います。

  • 同じく5年間の主要果実の支出額もバナナが1位です。2018年以降、6年連続1位をキープしています。2位りんご、3位みかんで、バナナが国民食として支持を得ていることがうかがえます。

  • 2023年の月別の果物内バナナ構成比は、どの月もトップ3に入り、例外は10月だけです。旬のフルーツはつねに入っていますが、バナナは季節に関係なく毎日召しあがる方がいることがわかります。

  • 2023年のバナナの支出額は、1世帯あたり前年比109%で、年間5,829円。過去最高を記録しています。物価高でさまざまな食品が値上がりした影響が数字にも出ている、と考えられます。

  • 2023年の1世帯あたりのバナナの購入数量は、前年比96%で、年間18.5kg。1本100gとして1カ月に約15本。2020〜2022年にかけて数量が増えているのは、コロナ禍の影響でしょう。2023年は前年度より減っていますが、コロナ禍前2019年とほぼ同じに戻りました。バナナは値ごろ感もあり、皮をむくだけで簡単に食べられるというところが、購入量の推移に現れていると思われます。

  • 1世帯あたりの年間のバナナ支出額を世帯主の年齢別に見ると、2023年、70歳以上の支出額が最も高く、次いで60代、30代、50代、40代、29歳以下となっており、2019年以前もこの傾向は大きくは変わっていません。栄養摂取のためや嗜好品として果物を召しあがる方は、年齢層が上のほうが多いと思われます。

  • 1世帯あたりの年間のバナナ購入量も、支出額とほぼ変わらない結果です。10年前と比較すると、たとえば、10年前の30代バナナ支出額は2,507円、10年後現在の40代は3,720円。プラス1,213円と、148%アップしています。この傾向はどの年代にも共通し、販売価格の変化もありますが、全世代でより多くの金額をバナナに使っていることがわかります。年齢が上がるにしたがって、より健康面が注目され、バナナの消費量が増えているのではないかと考えられます。

  • 2019〜2023年の月別バナナの支出額と購入量は、大きなトレンドはほぼ変わりません。3〜6月に消費が伸び、5月がピーク。バナナは春が一番の需要期ということです。輸入量は年間を通じて大きくは変わりませんが、春は、国産果実が少なく、輸入果物が中心となる売り場が多いので、バナナを買う機会が多くなる。これが唯一変わったのは、バナナダイエットが流行ったころです。テレビの放映が8〜9月で、その年は山が春と夏の2つできました。このとき以外、変化はありません。バナナは毎日召しあがる方が多く、なくてはならないものという位置づけといえるでしょう。

  • 日本バナナ輸入組合の定期調査において、「よく食べる果物」を1,442名の消費者に聞いたところ、バナナが64%でトップ、りんご42%、みかん29%で、家計調査と同様の結果になっています。

  • バナナを食べる頻度は、「月1日以上」という人の割合が、2023年全体で約6割。70代は、約8割がバナナを週1回以上食べており、家計調査のデータとリンクしています。

  • グループインタビューでは、小さいお子さんがいる家庭では比較的バナナを食べることが多い、という結果でした。また、小・中・高校で部活などに参加しているお子さんは、指導者からバナナ摂取をすすめるアドバイスがあり、比較的食べる機会が多いようです。ただ、部活をやめるとあまり購入しなくなる、と聞きました。大学生、社会人になるにつれ、食べる機会が減り、結婚してお子さんができると、またバナナを食べる機会が増える。従って若い方々にバナナを食べる機会を提供し、バナナのある食卓が維持されれば、家族の誰かがバナナを食べるというサイクルにつながる、と思っています。

  • バナナを食べるタイミングは、朝食が63%、おやつ・間食が16%、昼食が6%でした。

  • 食べ方は複数回答で、そのまま食べる89%、ヨーグルトと一緒に食べる31%、凍らせて食べる11%。調理不要で時間がないときでも摂取でき、パンと牛乳にバナナを加えることで朝から栄養豊富な食事ができるのがメリットです。また、暑い時期は、凍らせたり、冷やして食べるとよりおいしく召しあがれます。冷やす際は、好みの熟度になったバナナを野菜室などに入れてください。

  • バナナを食べる理由は、「手ごろな値段だから」が57%。「健康によい」49%、「おいしいから」が48%でした。

  • バナナを食べない理由は、「日持ちがしない」が25%。追熟する果物なので仕方ない面もありますが、好きな熟度になったら冷蔵庫に入れていただく。シュガースポットが出たり、皮が黒くなっても、果肉は白い状態なので、保管を工夫することで日持ちも多少は伸びます。次いで、「買い置きがない」18%。あれば食べるけれど、なければ食べないという方。そして、「食感が嫌い」17%。こういう方には「キウイーナ」のような普通のバナナとは違うものを提案していきたいと考えています。

  • バナナの栄養素認知について、「食物繊維」35%、「糖質」34%、「カリウム」33%でした。食物繊維は便通をよくする、糖質は運動前後や朝食に食べて元気をつける、カリウムは血圧を下げるなど、さまざまな機能がSNSやメディアの情報で知られていることがわかります。意外なのは、ビタミンCが11%、マグネシウムとビタミンB1が9%、ビタミンB2が7%、と続くことでした。

  • バナナは甘いのでカロリーが高いという誤解がありますが、100gあたり93kcalしかありません。昨今、出ている非常に甘いバナナも自然の甘さです。

  • 食物繊維1.1g、糖質21.4g、カリウム360mgを含み、さまざまな栄養素が摂取できます。運動時の効果的なエネルギー補給、頭のエネルギー源になるほか、整腸作用、代謝促進作用、脂肪燃焼作用、免疫力などの機能性もあり、非常にすぐれた食品です。ただ、消費者に伝わっていない部分もあり、日本バナナ輸入組合では、さまざまな啓蒙活動を行っています。

  • 「健康日本21」が10年ぶりに改訂され、果物は1日200g以上、という目標が掲げられました。中くらいのバナナの可食部が約100gなので、1日の半分。あとの100gは旬のフルーツを食べれば、ハードルは高くありませんが、20歳以上の38%が果物の1日摂取量0g、平均99gで、200gの約半分です。そこで、「バナナ1本から始めませんか」と、バナナをベースフルーツとして、気軽にフルーツを摂取する生活をすすめ、健康なからだ作りに貢献したいと思います。

  • 弊社が展開する機能性表示食品としてのバナナは、研究論文(シスマテイックレビュー)に基づき、消費者庁に機能性表示を届け出たものです。「甘熟王」と「朝のしあわせバナナ」は、「高めの血圧を低下させる機能があることが報告されています」と表示、「ゴールドプレミアム」は、「一時的な精神的ストレスや疲労感を緩和する機能があることが報告されています」と表示をしており、バナナに関心がなかった方々の摂取につながることを期待しています。

  • 消費者が求めるバナナのカラーは、青めからシュガースポットが出たものまで、人それぞれです。高地栽培バナナを食べたことがある男女416名を調査したところ、「購入するとき」のカラーは、全体が黄色くなった状態(カラー6)が178名、約4割。軸の部分に緑色が残った状態が117名、28%でした。「食べるとき」は、茶色い斑点が出始めた状態(カラー7)が163名、約4割。全体が黄色くなった状態が148名、35.6%。メーカーとしては、全体が黄色くなったもの、またはシュガースポットが出たものがおいしく召しあがっていただける状態と考えています。

◇質疑応答より

    Q:私は台湾出身です。台湾のバナナはとてもおいしいのに、あまり流通してないのはなぜですか?
    A:弊社も台湾に事務所がありますが、輸入はしていません。非常においしいのですが、日本では価格が高く、消費者の方がついてこないのではないかと思い、慎重に対応しています。

 

【八百屋塾2024 第1回】 挨拶講演「バナナについて」勉強品目「バナナ」食べくらべ