■2024年7月21日 第4回 かぼちゃ・プラム 〜 講演「かぼちゃ」について 朝日アグリア(株) 島田政男氏
◇はじめに
  • 私ども、朝日アグリア(株)のスローガンは、「ASAHI2024」です。1つめの「A」は、大きな志を持つ。「S」はスペシャリティー、この分野のリーダーになるような仕事をする。3つめの「A」はアクション、すぐに行動する。「H」はハイクオリティ、高品質のものを出す。「I」はイノベーション、変革。既存の考え方の中から、変革を起こし、課題をクリアする意志を持って取り組む。これが会社の方針です。

  • 事業部門は、肥料・牧草・種苗、と3つあります。
朝日アグリア(株) 島田政男氏
  • 世界的な人口増加、異常気象、環境問題などを背景に、今後、食糧に関連するさまざまな問題が出てきます。肥料では不安定な原料が問題で、資源をどう活用するか。農水省の「みどりの食料システム戦略」も重要視されています。2050年までに、化学肥料・化学農薬の使用量低減、有機農業の取組面積の割合改善など。種苗部門では、病害への抵抗性、栽培現場の改善の中での品種の育成が必要です。山積みの問題を1つずつ解決する企業として、動いています。

  • 種苗事業は部員20人ほど。かぼちゃの育種のほか、トマト台木、メロン台木、ブロッコリーなどを扱っています。一部他社との共同開発品や、販売代理店としてスイートコーンの種を扱っています。

  • 品種の育成には約15年、みなさんのところに届くまでに約20年。非常に長い年月をかけて、新しい品種が登場します。私どもは、特にかぼちゃは、生まれたところから、最後の消費者の方の感覚まで、自分たちで掴むように努力しています。
◇かぼちゃの育種と品種について
  • 開発農場は、埼玉県の北部に位置する神川町にあります。

  • かぼちゃの育種を極めようとした理由の一つは、健康への関心です。β-カロテンやビタミンが多く、がん予防への期待など、非常に健康的な食べもので、育種・育成者として面白い作物です。

  • 栽培面積は、約10年前は北海道だけで9000ヘクタールと記憶していますが、2022年度には、国内全体で1万4500ヘクタール。北海道が6800ヘクタール、その他は長野、鹿児島、長崎、茨城、沖縄などです。北海道の面積と青森から沖縄が同じくらいで、海外も北海道と同じくらいのイメージで考えています。2024年、北海道の作付面積は減っており、他の産地も同じような状況なので、生産量を向上させないといけません。

  • 海外ではニュージーランドとメキシコが知られています。ニュージーランドの面積は、2022年にサイクロンの影響で少し減りました。メキシコは減少するのではないかと見られています。

  • かぼちゃは、世界の国々で食べられており、韓国、中国、イタリアなどでも作られています。

  • 7月は、茨城や鹿児島、三浦半島などの産地。月末くらいから北海道の早い道南産。9〜10月は道央、道北の産地、そしてメキシコ産ですが、早生系の品種が少なくなり、入荷が遅くなってきている印象もあります。その後抑制栽培の九州産。年明けに国内は沖縄産。2月頃を中心に、ニュージーランド産。このように、海外産と国産が産地リレーをして、1年中、いつでもかぼちゃが食べられる状況になっています。

  • かぼちゃは、冬至の食べものとして知られています。冬至とは北から南に向かうことを意味しており、縁起物として「南京」と書くかぼちゃを食べるようになった、といわれているようです。栄養豊富なかぼちゃを食べることで病気を予防できる、という面もあるのでしょう。

  • 冬至の時期はかぼちゃの旬ではないので海外産が多く、国産かぼちゃの青果が少ない時期になります。そこで、この時期に収穫できるかぼちゃの開発をめざしました。課題は、9月の台風と栽培時期の高温。かぼちゃの花は高温の高い状況ではうまくいきません。着果するには雄花と雌花が必要ですから、抑制で安定した着果が、開発の課題でありポイントでした。

  • 台風対策は、一般的にはソルゴー、沖縄ではキビで暴風壁を作りますが、ツル性なので、風が強いと壊滅してしまうことがあります。弊社の品種、「プリメラ115」、「プリメラクイーン」などは、葉柄が短いので葉が折れにくく、風に強い、との評価をいただいています。

  • 「プリメラ115」は、風に影響を受ける鹿児島県奄美の喜界島や南大東島などでも受け入れられました。長崎県では「プリメラ117」と「プリメラクイーン」が、6年前ぐらいから浸透していきました。

  • 初代は「プリメラ115」で、着果後、55日くらいの遅い品種となります。今は着果後50日くらいの品種が標準的かと思います。2番目に出た「プリメラ117」は、40〜45日で収穫する品種です。短節間気味で、初期は節間が詰まって、ツルが短く伸びていきます。

  • 「プリメラクイーン」は、50日ぐらい。非常に店持ちがよく、貯蔵性にすぐれています。

  • 「プリメラビスタ」、「プリメラエース」は早生品種となり、40〜45日ぐらいで収穫に至ります。

  • かぼちゃは収穫後、キュアリング、風乾をします。早生品種は比較的早く食べてもおいしく食べられる品種かと思います。ただ、長期貯蔵は難しく、腐敗したり、味が落ちることもあります。中生、晩生の品種は、置いておくと甘みがのってきて、少し時間が経ったときにおいしいかぼちゃです。

  • 「プリメラビスタ」は、喜界島など南の一部の産地がよく適して、使われています。

  • 「プリメラエース」は、色の濃い黒皮で、サイズも5〜6玉に揃うようにしています。

  • 「マロンスター157」。「プリメラ115」をバージョンアップさせた新ブランドは、食味が非常によくなり、玉もやや大きくなります。南のほうで、試験的な販売を含めてスタートしている商品です。

  • 「栗響」という名前の新ブランド「栗響147」、「栗響150」があり、150については少し動き始めています。「プリメラクイーン」の後継で、食味ののったおいしいかぼちゃです。

  • 今回の試食には試作品種で未販売の早生品種をお持ちしました。早生には、長距離輸送などで腐敗が出るケースがありますが、この品種は安定して扱えます。
◇新しい品種を作るには
  • おいしくて作りやすいかぼちゃは、味のよいものに味はよくないけれど病気に強いものなどを掛け合わせて一世代目を作る。一世代目から選んだかぼちゃに、またおいしいものを掛け合わせて二世代目を作る。こうしていいものを選んでいき、最終的な商品になる。実際はもっとたくさんの工程があります。

  • かぼちゃは年1作か2作が限度ですが、北海道、九州、沖縄、海外など外部で作り、どんな特性が出るかを見ます。

  • 品種の検定、食味の検査も、実施しています。

  • 韓国でも、最近特に若い女性に人気で、天ぷら、チヂミ、スープなど、日本と同じようなかぼちゃが使われているとのことです。イタリアでもかぼちゃへの関心が高くなっており、世界的に、かぼちゃの食文化が広まってきているのではないでしょうか。

  • 20代、30代、40代、50代と、年齢層別にみた官能試験を行ったところ、食べた感想は年齢層によってバラバラでした。粉質系から粘質系までいろいろな感想があり、好みの判断が難しい。販売されるみなさんも、安定しておいしいかぼちゃを扱いたいでしょう。私たちは、糖度や粉質なども確認しながら育種を行ってます。

  • タネの生産が抱える課題もあります。高品質なものへのニーズは非常に高まっている一方、生産コストは上がり、気候も不安定になっています。
◇今後の開発戦略について
  • 国内産地の面積は減少しています。大きな課題は、労力不足です。かぼちゃは機械収穫ができません。農家さんも減少しており、生産を維持するのが非常に難しい。

  • 私たちは短節間の品種に着目し、数年前から北海道農業研究センターと新しいプログラムに取り組んでいます。本来、株元に着果するかぼちゃは玉が小さく形が悪いので、1m20cmくらい離れたところに着くようにします。しかし、省力化しなければ産地の維持が難しい中で、密植、放任、収穫作業が容易、という点を重視し、短節間が有効と考え、育成しています。

  • 短節間の品種は、通常のタイプと比べると、同じステージでもツルがなかなか伸びません。節間が詰まってゆっくり動くという特徴があり、労力が20パーセント減少するとされています。

  • 収穫を助ける機械は、人が収穫して置いた玉をコンテナに入れる機械がありますが、自動的な機械収穫はまだ時間がかかると思います。

  • 北海道農業研究センターとの共同開発品種が、「栗のめぐみ1号」です。交配後、45〜50日で収穫。サイズ的に扱いやすく、非常に食味がいいタイプです。北海道での試験で、収量性、着果性などで評価をいただき、沖縄、九州、中京方面からも、取り組みたいというご希望をいただいています。

  • 株元着果は、品質の安定にもつながります。ツル性はどこに着くかわからず、品質の安定性に影響することがあります。特に一斉収穫が求められる産地には、株元に着く品種が適していると思います。

  • また、もう1つは「AJ-139」で、大きくなるかぼちゃです。産地は沖縄と北海道。沖縄は玉が肥大しにくく収量が少ないので、それを上げたい。北海道は逆に大きくなりすぎる傾向があり、密植により小さくできる。場所や状況、用途によって、ご提案が必要な品種ですが、食味や収量的な部分は高評価の、粉質でおいしいかぼちゃです。
◇終わりに
  • 今後、肥料部門など他の部門と連携し、品種のニーズの掘り起こしや開発を行っていきます。

  • 肥料関係についても、有機系の肥料の利用促進や開発、普及に努めていきます。

  • タネの部門は、シードセンターを新設。調整・物流を含めて一括集約し、一層力を入れていきます。

  • 神川農場については変わらず、これからも、かぼちゃの育成に注力していきます。

  • 資源は循環させなければならない時代です。私たちは、農業全体を見て、新しいマーケットを創出することを目指しています。そして、後継者になってくれる若い方に、魅力のあるものをお届けしたい。どうしたらいいものが作れるのか、価値が高められるのか、提案しながら進めていきたいと考えています。
◇質疑応答より

    Q:スイカは積算温度を完熟の目安にしています。温暖化が進み、平均気温が上がっている中、かぼちゃのように日数でやっていると、タイミングが違ってくるのでは?
    A:おっしゃる通り、温度が高いと日数は短くなります。かぼちゃにも積算温度の目安はあり、50日のタイプで約1000℃くらいです。私どもは、生産者さんに、雌花が着いた日、何日ぐらい経っているか、温度の状態などを見るよう伝えています。また、収穫間際のものを切って、タネの充実度をチェックする試し切りも推奨しています。

    Q:ほとんどが海外採種だと思いますが、一般の農家さんが買う値段は一粒あたりいくらですか?
    A:国内では、大体、30〜40円ぐらいで流通されているのではないかと思います。

    Q:冷凍にするかぼちゃと、青果として流通するかぼちゃの品種の研究などはされていますか?
    A:冷凍加工用は北海道が中心です。いくつかある品種のなかで、加工に向く、向かない、という見方をされていると思います。生食用と兼用で使われるケースもありますし、加工だけで使われることもあります。答えになってないかもしれませんが、加工用についてはそうした状況です。

    Q:去年、北海道でも日焼けの問題がありましたが、耐暑性という面での品種開発はされていますか?
    A:非常に難しい課題です。おいしいかぼちゃを作るには、昼間は光があって夜温が下がるところがよく、また、最後まで葉が残っているほうがいい。温度が高いと雌花ができにくいので、育種で耐暑性についても考えなければ、と思っています。今後にご期待ください。

    Q:短節間の品種は、株あたりの玉数は減るということですか?
    A:1株1玉が基本です。ただ、「栗のめぐみ1号」については、2玉着くケースがあるという報告が現地からきています。密植して玉数が上がることによって収量性も上がるのが、メリットです。

    Q:かぼちゃは皮が厚いのが一般的ですが、皮が薄いものの需要はないのですか?
    A:皮の厚さというより、かたさを気にされるケースはあると思います。品種によっては、皮が薄いかぼちゃもあります。ただ、貯蔵すると皮はかたくなる傾向があります。

 

【八百屋塾2024 第4回】 挨拶講演「かぼちゃ」について勉強品目「かぼちゃ・プラム」食べくらべ