■2024年6月16日 第3回 にんにく・しょうが 〜 講演「日本国内のにんにくの現状と青森県オリジナル品種の育成について」 (地独)青森県産業技術センター野菜研究所 総括研究管理員(品種開発部長) 鹿内 靖浩氏
◇はじめに
  • 私の職場は、青森県野菜研究所、正式名称は地方独立行政法人青森県産業技術センター野菜研究所といいます。以前は県直営の畑作園芸試験場でした。15年前に県から独立し現在の名称になりました。

  • 青森県の特産野菜であるながいも、にんにくを中心に、野菜類の栽培管理技術、新品種の育成、病害虫対策技術等に関する試験研究と、青森県内のながいも農家とにんにく農家に供給されるウイルスフリー種苗の原原種生産を行っています。

  • 所在地は青森県六戸町、秋葉原からだと新幹線と在来線を乗り継いで4時間弱。県内でも割と冷涼な地域です。
(地独)青森県産業技術センター野菜研究所
総括研究管理員(品種開発部長)
鹿内 靖浩氏
◇にんにくの来歴
  • にんにくは中央アジア原産といわれていますが、本当のところはよくわかっていません。古代エジプト、古代ギリシャの時代にはすでに栽培の記録があります。

  • 日本へは、8〜9世紀頃、中国や朝鮮半島経由で渡来したといわれています。源氏物語の中にもにんにくについての記述があるそうです。

  • 一般家庭に普及したのは、肉食が一般化した明治時代になってからです。さらに増えたのが戦後の高度経済成長期以降。洋食化の進展とともに定着しました。

  • 加工品類の原材料として欠かせない存在で、体に良い食べ物としても注目されています。

  • 特有のにおいを嫌う人が多かったのですが、コロナをきっかけに状況が変化しています。
◇東京市場の卸売り価格と数量
  • 10年間の価格の推移は上下していますが、全体的には上昇傾向。数量は全体的に少なくなっています。市場外を含むマーケット全体は若干違うかもしれません。

  • 価格の上昇は黒にんにくの影響が大きく、2005年頃に量産が始まり、2008年に青森県黒にんにく協会設立、集団化・本格化。黒にんにくブームが始まったあたりで価格が上がり、2017年に青森の黒にんにくが地域団体商標に登録されて、一般家庭に定着しました。

  • 2018年を境に一度大きく下げました。高い価格でも我慢して買い入れていた業者さんたちも限界だったようです。それでも昔に比べれば高い水準でした。

  • コロナ禍の頃からにんにくブームが起き、メディアに取り上げられ、外食でもさまざまなにんにくメニューが増えて、かつてない高値がつきました。流通量が減っていたことも単価の上昇につながったと思います。

  • 今は落ち着いていますが、にんにくブームは続いています。これから先、ブームが収束してしまうのか、それとも黒にんにくのときのように定着するのか、気を揉んでいるところです。
◇国内の流通量と作つけ面積
  • 国の統計によると、国産にんにくの出荷量は10年前から5パーセント上がっていますが、ほぼ変わらないレベル。これに対し、輸入量は10年で2割増えています。にんにくブームといっても、輸入品に頼っている部分があり、国内産地の人間には歯がゆい気持ちがあります。

  • 青森県内の作つけ面積は、10年間で102パーセント。一方、他都道府県の面積は10パーセント増えています。2013〜15年、黒にんにくブームで単価が上がった頃、青森県は他県からの視察を多く受け入れました。私たちは、にんにくの作り方や乾燥の仕方などについて話す機会がよくありました。その方たちの努力が実を結んできているのではないでしょうか。

  • 青森県産の出荷量は10年間ほぼ変わらず、他県産は118パーセントで20パーセント近く増えています。

  • にんにくのりん片を植えると、6月頃に1球のにんにくになります。青森県産は1球にりん片が6〜7個くらいついていますから、増殖率は6〜7倍、他県のもので10倍くらい、と非常に低い作物です。種にするものの価格も高価で、作つけ面積や出荷量を迅速に増やすことができません。需要の急な変化への対応が難しく、そのため価格が不安定です。
◇日本のにんにくの現状
  • にんにくは、この10年、健康への関心の高まりや新商品の開発、定着から需要は増加傾向です。

  • 需要増を背景に、作つけ面積、出荷量とも増加傾向、輸入量も増加傾向です。

  • 国産の66パーセント、7割弱は青森県産。かつては7〜8割ありましたが、やや落ちています。

  • 青森県の作つけ面積、出荷量はほぼ横ばいです。その他の都道府県は作つけ面積、出荷量とも増加傾向で、新たな産地育成が進みつつあります。

  • 作物の特性上、迅速な増産が難しく、価格変動が激しい品目です。
◇主な品種と産地
  • 北日本で栽培されている品種は寒地系と呼ばれ、品種名は、「白玉王」、「福地ホワイト」系の在来系統などです。主な産地は、青森県のほか、北海道、秋田県、岩手県、福島県など。

  • 暖地系品種は、「上海早生」、「壱州早生」など。主な産地は、香川県、宮崎県、大分県、鹿児島県、熊本県など。
◇青森県内の主なにんにく産地
  • 有名産地は、田子町、七戸町・東北町、藤崎町。

  • 青森県南端の田子町では「たっこにんにく」を商標登録しています。

  • 七戸町・東北町あたりで採れる「マイルドにんにく」は、福地ホワイト系の品種で、特殊な処理を施してにおいをマイルドにしているそうです。具体的な処理方法は企業秘密とのことです。

  • 津軽地方の藤崎町は、「ときわにんにく」を商標登録しています。

  • 県南地域12市町村、十和田おいらせ農協、ゆうき青森農協、八戸農協、おいらせ農協で、県全体の8割を生産、出荷。青森県産にんにく、福地ホワイト、ホワイト6片などとして流通しています。
◇にんにくの植えつけから収穫まで(動画)
  • 防除のため消毒した種(片)を、パイプを使って10センチくらいの深さに植えつけ、土をかぶせます。

  • 収穫前に上の葉を切ります。この時に特有のにおいがあたりに充満し、「街中がにんにく臭で覆われる」と、テレビなどでいわれます。

  • 機械で掘り採り、コンテナに回収。機械で茎と根を切り揃え、乾燥させて調製作業を行います。

  • 9〜10月に植えつけ。11〜12月、雪が降る前に葉が3〜4枚くらい出ます。冬を越し、雪が溶けて、5〜6月には大きくなり、6〜7月に収穫します。

  • 6月16日、本日、出勤途中に見たところ、収穫している畑は1〜2つ。今週半ばくらいから収穫が始まり、次の週末には、家族総出で収穫作業を行っていると思います。

  • 収穫後3〜4週間ほど乾燥させ、皮と真ん中の芯(花茎)の水分を飛ばします。土のついた皮を剥き、花茎の長さを整え、根を削って、8月以降に乾いた状態のにんにくができあがります。
◇にんにくの出荷形態と貯蔵方法
  • 5月下旬〜7月に出荷される「生にんにく」は、東京では「新にんにく」の名前で流通しています。皮と花茎の水分が飛んでおらず、かびやすくて長期出荷はできませんが、フレッシュな味わいが楽しめます。時期限定、産地でしか食べられない「幻の味」的にテレビなとで取り上げられることがあります。

  • 8〜10月に流通するのは乾燥にんにく、常温貯蔵品です。皮や芯の水分が飛んでいるため、かびにくく、長期貯蔵、出荷が可能で、生にんにくと比較すると重厚な味わい、味が濃く感じられます。

  • 10月以降は、マイナス2度で貯蔵された冷蔵品。2月を過ぎるとCA貯蔵品になります。

  • 農協から、乾燥にんにくは2〜4月くらいまで、と聞きましたが、会場の展示を見ると6月でも出回っているようですね。

  • にんにくは年中出回りますが、旬を定義するとしたら、生にんにくが出回る今くらいから、乾燥品の常温貯蔵が出る8月くらいまで、と考えています。
◇青森県産にんにくの特徴
  • 青森県産にんにくの品種は、ほぼ「白玉王」と「福地ホワイト」です。「ホワイト6片」という名前で出回っているにんにくの品種名は「福地ホワイト」。「福地ホワイト」から育成されたのが「白玉王」です。6〜8片で大玉、薬味感はマイルドでほんのり甘いのが特徴です。「薬味感」というのはちょっと辛くて、鼻にツンと抜けるような感覚のことです。火を通すと甘みのある味わいになります。

  • 中国産のにんにくは、「上海早生」や「嘉定」。香川や九州あたりの品種は、中国と同じものが多いそうです。10〜12片、青森県産と比べるとりん片数が多く、1センチくらい小さい。薬味感が強く、辛くて鼻にツンとくる感覚が先行する味わいです。
◇青森県オリジナル品種「青森福雪」
  • 青森県では一昨年、新しい品種を育成し、「青森福雪」として品種登録を出願しました。

  • 青森県の近隣では、10年足らずのうちに84パーセントも作つけ面積を増やしている産地もあり、そこで作付されている品種は、「福地ホワイト」です。この状況に、青森県としては非常に危機感を抱いています。

  • 「福地ホワイト」は品種登録制度以前からある在来品種なので、権利の主張は不可能です。また、「福地ホワイト」の派生品種で青森県内のシェア80パーセントの「白玉王」は、民間会社の登録品種で、青森県内で独占を強要できるものではありません。

  • 青森県が日本一の座を守るために、「福地ホワイト」の特徴を残しつつ、より高品質で収量性も高く、県内でのみ栽培可能な、新品種の開発を進めました。

  • 野菜研究所では、生産現場に配布するウイルスフリー種苗、年間1万2000〜1万3000株を作っています。この中から大玉で形状良好な個体の選抜を繰り返し、形質を安定させました。

  • 2019年に特性調査・生産力検定等を行い、2021年に肥大性や形状等にすぐれ、品質のばらつきが少ない「青野にんにく1号」を選定、2022年7月、「青森福雪」として品種登録出願、10月17日に出願公表(第36372号)されました。

  • 重さは従来の「福地ホワイト」よりやや重く、「白玉王」と同等。球径は、「福地ホワイト」、「白玉王」と同等で、大玉という特徴がキープできました。

  • 形状はA品率は「福地ホワイト」よりも高く、「白玉王」と同等。A2L・ALの割合が「白玉王」並に高い。B品率は両品種とほぼ同等で、C品率は少ない。割れの発生率が「白玉王」並みに低い。

  • 総収量は「福地ホワイト」よりやや多く、「白玉王」と同等。A品収量は「福地ホワイト」より多く、「白玉王」よりやや少ない。B・C品収量は「福地ホワイト」より少なく、「白玉王」よりやや多い。シェア8割の民間品種とほぼ同等で、権利の主張ができる品種が作れました。

  • りん片数は「福地ホワイト」、「白玉王」より1〜2個程度少ない。今までの「福地ホワイト」は、「ホワイト6片」とも呼ばれますが、実際は6片より1〜2片多いです。「青森福雪」は5〜6片で、五角形に見えるものの出現率が多くなっています。

  • 1つのりん片の重さは「福地ホワイト」、「白玉王」より2〜5g程度重い。「青森福雪」のりん片は15g以上が多く、9g未満は他の品種に比べると少ないのが特徴です。

  • 現在、在来品種を作つけけしている農家さんが「青森福雪」に変えていくことで、青森県産にんにく全体の収量・品質が向上し、所得向上につながると考えています。

  • 販売面では、大玉で大粒という青森県産にんにくのセールスポイントをより強化し、海外産・他県産とのさらなる差別化を図るために、「青森福雪」の普及を進めているところです。

  • 2024年夏から種苗の供給を始める予定です。まずはJA全農あおもりに、そこから各農協に供給され、さらに各農協から農協に所属している農家の方々に種苗が渡るのが最も早いパターンで、2025年夏に開始予定、本格的な市場出荷はその2〜3年後から始まると見込まれます。

  • 現在のところ品種名を前面に出しての出荷、販売は行わず、既存の「福地ホワイト」、「白玉王」と合わせて「青森にんにく」として取り扱われる予定です。
◇質疑応答より

    Q:「青森福雪」は、せっかく作ったのですから差別化して売るべきだと思います。さまざまな事情があるとは思いますが、そうでないと、作った人が報われないのではないでしょうか。教えていただきたいのは、再生産価格です。キロいくら以上が目標ですか?
    A:差別化に関しては、私だけではどうにもならない話なので、ご意見を関係者に伝えたいと思います。再生産価格について、具体的な目標はなかなかむずかしく…。かつて青森県産の平均単価が1000円だった頃、最低価格で500円を切ったら赤字と聞いたことがあります。現在は、肥料、農薬、資材、ガソリンなど、生産コストがかなり上がっているので、平均1000円でも限界かな、と感じています。

    Q:にんにくは青森県産、その他国内産、中国産の大体3つに分けられと思いますが、あまりにも品質の差がありすぎて、青森のにんにくの素晴らしさは誰もが認めるところだと思います。王者としてがんばってください。われわれは野菜を勉強している上で品種をすごく重視しています。品種がその特徴を1番表すものだと思う。ですから、私も、一般に品種名を知らしめるべきだと思いますが、いかがでしょうか?
    A:ブランドの確立などを考えると、品種名を前面に出してもいいのかな、と個人的には思います。そういう強いご意見があったということは、関係者に伝えていきたいと思います。

    Q:りん片を大きくする理由、目標はなんですか。扱いやすさですか、味ですか?
    A:私たちは農家の方々を第1に考えており、収量と品質。いいものがたくさん穫れることを目指してやってきました。親品種の「福地ホワイト」を超え、8割のシェアを持っている民間の品種には、追いつくことはできました。さらに、りん片が少なくて大きいという特徴が見えてきたので、農家の方たちの収入を確保しつつ、他県産とは違う、青森らしいにんにくとしてアピールできる、と考えています。

    Q:市場で「福地ホワイト」を探したのですが、箱にはほとんど「青森にんにく」と書いてありました。品種を聞いたら、「大体は福地ホワイトだよ」といわれました。レアなにんにくもあるのに、全部ひとくくりで「青森にんにく」という認識になってしまうのは、惜しい気がするのですが…?
    A:そうですね。以前、別の方からも、「青森県産にんにくと青森にんにくは違うのか?」という質問をお受けしたことがあります。今のところ、青森県産にんにくは、ほとんどが「福地ホワイト」系、「白玉王」ですが、極端な話、法律上は、中国系のにんにくも青森県で作れば青森県産にんにくなんです。そういうことがないように、規定や決まり事を作ることも必要かもしれません。

    Q:にんにくは、りん片を植えれば、家庭でも育てられるのですか?
    A:はい、育ちます。ただ、たとえば、「福地ホワイト」が東京の気候に合うかどうかはわかりません。

 

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