■2024年10月20日 第7回 じゃがいも 〜 講演「じゃがいも」について 一般財団法人いも類振興会 理事長 矢野哲男氏
◇はじめに
  • 一般財団法人いも類振興会では、さつまいもとじゃがいもなどの「おいもについて」消費者等に広く知っていただくため、年に4回、『いも類振興情報』を出版しています。インターネット上にも公開しており、誰でも見ることができます。

  • また、さつまいもの研究機関から新品種が登録された後に速やかに普及するように、公表前、系統の段階で大手のメーカーなどに使っていただいて評価する、といった仕事もしています。

一般財団法人いも類振興会
理事長 矢野哲男氏

  • 私とじゃがいもの関わりは、30年ほど前、農林水産省の畑作振興課で、いも類班の班長を3年半ほど担当した時からです。実家は愛媛の農家で、小さい頃から農作業を手伝っていましたので、いものことは知っているつもりでしたが、本当のところは何もわかっていませんでした。たとえば、いもを作るときの「畝(うね)」は、じゃがいもが太るためのベッドを作る大切な技術ですが、その意味も知りませんでした。班長になってしばらくたった頃、大手の企業さんから「レストランで出しているじゃがいもに黒変が多いのはなぜなのか」という相談がありました。また、別の方からは、「オランダでおいしいじゃがいもを食べたが、日本には、あんなじゃがいもがない。どこで食べられるのか」と聞かれました。そのようなことから知識を増やす必要性を感じてじゃがいもの勉強を始め、日本いも類研究会を立ち上げました。ホームページには、じゃがいもとさつまいもに関することであれば、大概の情報は揃っています。「じゃがいも博物館」、「じゃがいも品種詳説」、「じゃがいもミニ白書」などのコーナーがあり、「じゃがいも博物館」の館長は、浅間和夫さんという北海道在住のじゃがいもの育種家OBです。ありとあらゆる情報を網羅しており、じゃがいものことなら、50音順で調べれば大概のものが出てきます。「じゃがいも品種詳説」は、研究者が研究のために作ったデータベースで、ほとんどの品種について来歴、特性など、非常に細かなデータが網羅されています。「じゃがいもミニ白書」は私が30年前に書いたもので、内容的には古いものもありますが、30分ぐらいで読め、じゃがいものことはひと通りわかります。

  • いも類振興会からは、『じゃがいも事典』を出しています。5000円ほどのものですが、じゃがいものことはたいていのことが網羅されており、今日の話も、この本がベースになっています。お持ちでない方は、ぜひお買い求めください。このほか、「おいもの教材」は、小学生が対象で、じゃがいもやさつまいもの作り方を解説しています。学校の先生方が教材として使えるような内容もオープンにしていますので、フルに使っていただければ嬉しく思います。また、じゃがいもレシピも公開しています。
◇じゃがいもの来歴と特性
  • じゃがいもは、南米アンデス山脈からメキシコまでの、非常に高いところで生まれました。私は、天国に1番近い作物、と言っています。

  • 現地には非常に多くの野生種があります。1万年ぐらい前に栽培化され、16世紀頃に征服したスペイン人がヨーロッパに持ち帰りましたが、食用になったのは200〜300年位後です。

  • 日本にはインドネシアのジャカルタから入ってきたので、「じゃがたらいも」と呼ばれ、それが「じゃがいも」になったというのが定説です。

  • さつまいもは甘くておいしいので、日本人が好んで探し求めたのに対して、じゃがいもは、船乗りが積み込んだ食料がたまたま日本に持ち込まれ、北へ少しずつ広がっていったというのが実態でしょう。

  • じゃがいもはトマトと同じ、ナス科の植物。トマトとじゃがいもは兄弟のようなもので、種はそっくりです。

  • じゃがいもは冷涼な気候に適し、栽培が簡単で、3か月くらいで採れます。西南暖地では年に2回、春と秋に採れ、北海道は年1作。太陽エネルギーの固定率が非常に高い作物です。

  • フランス語では「大地のリンゴ」と呼ばれます。ビタミンやミネラルが多く、調理方法も多様で、いも類の中で1番何にでも使えるのではないかと思います。

  • 資料に、じゃがいもの伝播ルートを地図で示しました。16世紀に海を渡ってヨーロッパに伝わり、北のルートで日本に来る一方で、アメリカにも渡りました。

  • インカ時代の記録に、すきのようなものを使ってじゃがいもを栽培する景色が残されています。

  • 日本には、まず長崎に入り、飢饉の時に岐阜や山梨で救荒作物として導入されました。

  • 明治時代に北海道開拓が始まり、「男爵」などが入ってきて大々的に栽培され、全国に広がっていきました。

  • 『じゃがいも事典』の中から、日本国内でのじゃがいもの伝播を時系列的に並べてみました。船乗りの食材としてジャカルタから入ってきたのは、1600年代の半ばではないかと思われます。

  • 幸田善太夫は飛騨の代官で、1745年頃、長野からじゃがいもを導入したようです。そこで、飛騨では、「善太夫いも」、「ぜんだいも」などと呼ばれるようになりました。

  • 1780年頃、甲府代官の中井清太夫が、幕府の許可を得て長崎からじゃがいもを導入し、九一色郷で栽培させて成功した、といわれています。この頃、天明の大飢饉、浅間山の大噴火などが起き、非常に大変な時代でした。地元では清太夫のいもに感謝し、現在も「せいだいも」と呼ばれています。山梨の上野原には「いも大明神」が祀られ、6月に収穫祭が開かれます。品種はいろいろあり、今日展示されている「せいだいも」はおそらく「キタアカリ」でしょう。「せいだのたまじ」は、「せいだいも」の小いもを味噌とからめた料理で、地域の伝統食です。「特選やまなしの食」に選定され、地元では「たまじまる」というキャラクターも作るなど、さまざまな取り組みがなされています。

  • その後、群馬、新潟、あるいは四国、和歌山、兵庫、岡山などに広がっていきました。

  • 江戸末期には、小規模ですが、北海道まで広がりました。明治維新で、北海道開拓使や札幌農学校が設置され、海外品種の導入や試験栽培、配布が本格的に始まりました。

  • 呼び名は、伝来元の名前で呼ばれることが多く、長野、新潟、福島では「甲州いも」、岐阜や大分では「信州いも」。群馬から伝わった新潟の一部では「上州いも」。三重、兵庫、徳島では「江州(ごうしゅう)いも」、滋賀から来たいものことを、このように呼んでいます。

  • 在来品種は、皮が黄色い「ふじのねがた」、赤色の「金時薯」、紫色の「根室紫」、と大きく3系統にグルーピングできます。
◇じゃがいもの起源と分化
  • 「ゲノム」は、生物の遺伝子のセットのことです。じゃがいもは最初2倍体だったようです。ちなみに人間も2倍体です。それが4倍体になり、現在のじゃがいもにいたっています。

  • この過程でさまざまな変遷があり、今でも2倍体の品種があります。私が日本で1番おいしいと思う「インカのめざめ」は2倍体です。「インカのめざめ」をベースに、4倍体にしたのが「ながさき黄金」。どちらも濃いオレンジ色で、ナッツフレーバーといわれる、独特の香りがあります。

  • 「インカのめざめ」は、0〜2℃ぐらいの温度で貯蔵すると糖分(ショ糖)蓄積する特異な品種で、1〜2年冷蔵するとメロン並みに甘くなります。
◇世界のいも類
  • 「いも」といえば、日本人だと、じゃがいもとさつまいもの2つを挙げると思います。その他、古いいもである里芋や山芋もありますよね。

  • 世界的には、じゃがいも、さつまいも、タピオカの原料であるキャッサバ、ヤムイモ、タロイモがメジャーです。ヤムイモは日本では山芋、タロイモは里芋に相当します。これが世界の5大いもですが、分布図を見ると、じゃがいもが世界中に最も広がっており、各地で使われていることがわかります。

  • 生産量は、じゃがいもは緩やかに増加していますが、キャッサバの勢いが非常によく、じゃがいもの背中まで来ています。さつまいもはやや減って、ヤムイモ、タロイモは伸びています。

  • キャッサバはもともとはアフリカ周辺で栽培されていましたが、最近は東南アジアで急増しています。

  • じゃがいもの単位面積あたり収量は、ヨーロッパ、アメリカをはじめとした先進国での技術改良・革新や品種改良・開発により、どんどん伸びています。
◇需要と供給
  • 日本でのじゃがいもの年間消費量は320〜340万トン。青果用2割、加工食品用5割、デンプン用2割。5割を占める加工食品が増え、青果用は少し減ってきています。

  • 加工食品の中でもポテトチップス用の需要が増えて国内では足りず、一部、一定の条件のもとで、アメリカから輸入しています 。

  • 国内生産量は約230万トンで、北海道が8割を占め、都府県では、鹿児島、長崎、千葉、茨城が主産地です。

  • 北海道は4割ぐらいがデンプン原料で、3割が加工食品用、青果用は1割強。その他の各県別の生産の内訳は、長崎はほとんどが青果用、鹿児島は少し加工食品用、茨城はと加工食品用がかなり多い。チップス用でしょう。千葉県は青果用が多く、加工食品用は1/4ぐらいです。国全体としての生産量は減っており、その割合は北海道より都府県の方が大きくなっています。

  • 反収は、北海道が非常に高く、都府県の倍ぐらいですが、海外には、北海道より高い国もあります。

  • 近年は地球温暖化の影響で、安定生産されるべきじゃがいもにも年によってブレがあります。

  • 2023年産は、非常に雨が少なく、量的には採れましたが、品質面でかなり問題がありました。今後は、異常気象にも対応できる品種が必要で、作り方も工夫していかなければなりません。

  • わが国で反収が伸びたのは、種いもの更新率の向上による効果が大きいです。ウイルスに汚染されていない健全な種いもを供給する国のシステムがあり、つくばに本部がある種苗管理センターで原原種を増やしています。種いもの親が原種、さらにその親が原原種です。

  • 作付け面積の減少から、生産量もやや減ってきていますが、最近はなんとか持ちこたえている状況です。
◇品種の動向
  • 青果用の主要品種は、「男爵薯」、「メークイン」。長崎、鹿児島は「ニシユタカ」。加工食品用ではポテトチップス向けの「トヨシロ」。問題は、これらの品種が全てジャガイモシストセンチュウに抵抗性がないことです。

  • デンプン原料用では、「コナフブキ」から抵抗性のある「コナヒメ」等への転換が進んでいます。

  • ジャガイモシストセンチュウにはGr、Gpの2種類があり、対応品種の開発に、農研機構、都道府県、民間の研究機関が総力を挙げて取り組んでいます。しかし、交配から品種登録、普及までには膨大な作業と10年以上の時間がかかります。

  • ジャガイモシストセンチュウ(Gr)には単一の抵抗性遺伝子(H1)で対応できるのですが、Gpはそうではないので、対応が厄介です。ただ、今のところGpは網走市の一部でしか発生しておらず、懸命に封じ込めを行った結果、目処がついてきています。

  • 問題は、その畑で減収などの被害が起きるだけでなく、種いもの生産ができなくなること。現在、種いもの9割以上を北海道で作っていますが、種いも農家の数はどんどん減っています。ジャガイモシストセンチュウが発生している地域では種いもは作れません。種いもを作るのは手間がかかる上に、こうしたリスクまであり、作る方は減る一方です。

  • このようなわけで、「男爵薯」は素晴らしいじゃがいもですが、抵抗性がないので作り続けるのは難しくなっています。

  • 農水省は抵抗性品種の普及対策として、抵抗性品種の作付け目標を作っています。北海道では、現在、半分ぐらいまで抵抗性品種の作付けが進んでいます。ところが、都府県では15.3パーセント。デンプン原料は直ちに、加工食品用は2028年までに8割ぐらいにする、としていますが、青果用はできるだけ抵抗性品種に変えるということで、補助事業なども行いながら取り組んでいます。

  • 「男爵薯」、「トヨシロ」、「メークイン」、「ニシユタカ」など、現在メインの品種にシスト抵抗性はありません。抵抗性のある品種で、1番知名度があるのは「キタアカリ」ですが、作付けは4パーセントほど。「とうや」が2.9%なので、「キタアカリ」と「とうや」を足しても1割までいかないことになります。

  • 青果用でシスト抵抗性があるのは、「はるか」、「きたかむい」など。「さんじゅう丸」は長崎、西南暖地向け。「ながさき黄金」は濃いオレンジ色の品種です。「ニシユタカ」に替わるものとして期待されるのが「アイマサリ」。「ゆめいころ」は、ぜひ「男爵薯」から替わってほしいと思っていますが、まだ一般には出回っていません。デンプン原料用では、すでにさまざまな抵抗性品種が出ています。

  • シスト抵抗性品種の場合、シストセンチュウ(Gr)が根に寄生しても、栄養が取れず成虫になれません。抵抗性品種を増やすことは防御ではなく攻撃である、ということをご理解いただきたいと思います。
◇新品種の特徴
  • 「はるか」は多収で、芽の周りが赤いところは、「キタアカリ」とそっくりです。肉は白で、食味が良く、サラダやコロッケの加工適性があります。ただ、「男爵薯」のようないもくささはありません。

  • 「きたかむい」も、驚くほどよく採れます。「男爵薯」に似て白肉です。早生で、2割多収。中心空洞はほとんど発生せず、貯蔵性も優れています。ただ、きちんと貯蔵し、熟成させないと「きたかむい」の真価は出ない、と思います。十分に貯蔵せずに出荷すると、味が薄いという評価を受けるかもしれません。2年前、この八百屋塾で、「きたかむい」は味がない、といわれましたが、そういう事情があるようです。

  • 「さんじゅう丸」は、そうか病とGrの複合抵抗性を持つ品種です。そうか病にかかると資料で示した写真のように 「ニシユタカ」はあばたが出ますが、「さんじゅう丸」にはあまり出ていません。

  • 「ながさき黄金」は、「インカのめざめ」の4倍体バージョンです。

  • 「アイマサリ」は、「ニシユタカ」に並ぶ収量性があり、特に秋作では「ニシユタカ」より多収になります。「ニシユタカ」は非常に多収で、作りやすいので、これに替わる品種の開発が難しかったのですが、 「アイマサリ」は互角に勝負ができる品種ではないか、と思っています。

  • 「ゆめいころ」は、「男爵薯」に替わる品種としてたいへん期待しています。いま普及に向け尽力しており、来年度の春作から広く供給されるのではないでしょうか。

  • 「メークイン」に替わるものとしては、「ピルカ」。つるっと、皮が剥きやすい品種です。

  • カラフルポテトシリーズは、この会場にも並んでいますね。「ノーブルシャドー」は、第4世代となり、ますます紫色が濃くなりました。「シャイニールビー」もかなり赤くなっており、チップスにすると非常にきれいです。
◇流通と価格
  • 青果用は大半が市場流通で、八百屋さんのお世話になり、家庭用として消費されます。購入価格は、流通コストがかかるため、生産者価格に比較して高くなります。

  • 以前は4〜5月が価格のピークで、北海道産が出回る今頃に落ちてくるパターンでした。最近は異常気象の影響もあり、年によって変化が大きくなっています。

  • ここ何年間かの価格の月別推移を見ると、異常気象によって作柄に影響が出て、特定の月の価格が異様に高くなる年が頻発するようになっているのが気になります。
◇栽培技術
  • 今日は栽培技術の説明は省きますが、これだけ気候が変わってくると、栽培方法も変わらざるを得ません。例えば、じゃがいもを作るときには、芽が出たら土寄せをし、太い芽を残す、と学校で教わりますし、私どももそういうマニュアルを書いてきました。けれども、これまでも西南暖地では、種いもを深く植え、上にマルチをしてそのままでした。東京の小平で2年ほど試しましたが、高いうねを立てて深さ20〜25センチぐらいのところに種いもを埋め、あとは何にもせずに問題なく採れます。昔は寒かったので、低温で芽が出なくなることを心配しましたが、北海道でもそういう作り方になっているぐらい、気候の影響で変わりつつあります。

  • 八百屋さんが最も多く直面するのは、生理障害に対するクレームではないかと思います。中心空洞、中が茶色い、黒い塊があったなど、さまざまな現象が出ます。

  • 中心空洞の原因は、肥料過多、収穫時期の遅れなどの可能性が考えられます。

  • 褐色芯腐れは、圃場が乾きすぎると起きます。呼吸できずに窒息死しているようなものです。

  • 乾燥後に雨が降ると、急にいもが太って二次成長し、ボコボコとした形になってしまうことがあります。

  • 貯蔵の途中で異常に低い温度にさらすと、凍害が起こります。

  • 年によっては、こうした生理障害が偏って起こることもあります。
◇種いもの増殖
  • 「植物防疫法」で指定されている病気があり、検査を合格しなければ種いもは供給できません。種いもを作るところが減っており、シストセンチュウ抵抗性のない品種は作りにくくなってきています。

  • 新品種は、生長点培養、器内増殖をして、ミニチューバーから原原種、原種、種いもと、順番に増やしていきます。これに5年ぐらいかかります。品種改良に15年、苗を提供するのに5年ほどかかるわけです。

  • お米などの穀物は1粒の種が1000倍に増えますが、種ばれいしょは10倍と効率が悪いのです。このため、 全国的にさまざまな組織が協力して種いもを作り、一般生産者の方に配っています。
◇じゃがいもの食文化
  • 欧米の消費量は、1人あたり年間約100キロで、たくさん食べています。

  • 原産地のアンデスには何千種類もの品種があるそうです。ヨーロッパに持ち帰った品種は、大きいけれどあまりおいしくない、というタイプでした。現地には、ハレの日にしか食べない特殊なじゃがいもがあり、「インカのめざめ」はそのような系統の血を引く品種です。梅村さんという研究者が品種改良し、大きくしたのですが、現地の方には「こんなに大きくしてどうするんだ?」と笑われたそうです。われわれが見ると驚くほど小さないもを、現地ではスープにして食べるそうです。

  • ヨーロッパではビタミンCの供給源として普及しました。航海に出てビタミンCが不足し、壊血病で命を落とすこともありました。その切り札としてじゃがいもが使われたわけです。

  • 欧米では、用途別に品種や産地が分かれており、比重、サイズなどでも区分し、かなり合理的に利用され、調理して食べられているようです。

  • おいしく食べるには、料理にあった品種、品種に適した調理が重要です。以前、「キタアカリ」を知人に渡して、「溶けやすいからカレーや煮ものにはしないで」と伝えたのに、「カレーに入れたら、いもがなくなった」と言われてしまいました。そのじゃがいもに向いた料理を作ることが大切です。

  • 栄養分は皮の近くに多いので、ベイクトポテトなど皮ごと食べる方法も広めたいのですが、これはリスクと表裏一体で、じゃがいもは光に当たるとグリコアルカイドという有毒物質が生じます。それによる食中毒のニュースが5月頃に出ることがあります。皮まで食べるには、光を当てないことです。

  • 代表的なじゃがいも料理を、「蒸す」、「煮る」、「焼く」、「揚げる」で分けました。「蒸す」は、こふきいも、コロッケ、ポテトサラダなど。品種は、「男爵薯」、「はるか」、「ピルカ」。「煮る」は、肉じゃが、カレー、スープなど。品種は「メークイン」、「ニシユタカ」、シスト抵抗性のある品種では、「ピルカ」、「さんじゅう丸」。「焼く」は、ベイクドポテト、グラタン、ジャーマンポテトなど。品種は「ワセシロ」、「キタアカリ」、「メークイン」。油加工適性は、「男爵薯」は全く向かず、「ホッカイコガネ」、「トヨシロ」、「十勝こがね」がおすすめです。
◇保存について
  • 長く保存するために1番大事なのは、光を当てないことです。ほんの少しの蛍光灯の光にも反応してグリコアルカロイドが出来てしまいます。新聞紙に包みダンボールに入れても、取っ手の穴から漏れるレベルの光で反応しますから、ガムテープで塞ぐ、これは、意外なポイントだと思います。

  • 常温(7〜15℃)で休眠状態になり、3か月ぐらいは芽が出ません。ただし休眠が短い品種もあり、「インカのめざめ」は、畑で掘ったらもう芽が出ている、というぐらい短い品種です。

  • 貯蔵の適温は3〜4℃。低温貯蔵によって糖化され甘くなります。ただ、糖分が増えるとチップスにすると茶色くなるので、チップスメーカーは比較的高い温度で貯蔵しています。

  • 冷蔵庫内では、新聞紙で包み、湿度を保つようにすると長く保存できます。

  • 冷凍するときは生ではなく、必ず調理してから冷凍保存してください。

  • じゃがいもをリンゴといっしょに貯蔵すると長く保存できる、といわれます。工業的な大量保存にエチレンガス貯蔵が行われますし、間違いではありません。ただ、エチレンガスには、芽を出なくする効果と出やすくする効果の両面があり、扱い方が難しいので、一般にはやらないほうがいいと思います。
◇終わりに
  • 農水省のGI(地理的表示制)に認定されているのは、「三島馬鈴薯」と「今金男爵」の2つ。「三島馬鈴薯」は「メークイン」です。

  • じゃがいもの皮の色は、品種特有であると同時に土によって変わります。たとえば、北海道、特に十勝のいもは、黒土なので黒っぽく見えます。洗えばきれいになります。

  • 「三島馬鈴薯」はものすごく丁寧に扱っているので、きれいで品質がいい。

  • 「今金男爵」は有名ですね。ただ、日本全体としては、「男爵薯」は抵抗性品種に置き換わってほしいと思っていますが、道半ばです。

  • 八百屋さんには、品種特性などご理解いただきながら、消費者の方々に、じゃがいもの魅力を伝えていただきたいと思います。
◇質疑応答より

    Q:カラフルポテトの色が濃くなっているというお話がありましたが、特別な栽培方法なのですか?
    A:品種改良の結果であって、栽培方法が変わったわけではありません。ただ、色素を含む品種は寒冷地で育てると色が濃くなるので、北海道は適地です。

    Q:赤はさつまいもの紅いもと同じ色素ですか?
    A:アントシアン色素ですが、紅いもとは多分違うタイプだと思います。

    Q:海外で収量がものすごく多いのは、スプリンクラーとかそういう施設によるのでしょうか?
    A:いわゆるアイダホポテトの品種は「ラセットバーバンク」です。砂漠ような土地の広大な畑で水をやりながら作っているそうです。不思議なことに、その品種を日本で作っても、現地ほど大きくなりません。品種ごとに地域適応性があり、特性を発揮できないのではないでしょうか。「ラセットバーバンク」は大きすぎて、最初はアメリカでも持て余していたようですが、ベイクトポテトにしたらとてもおいしかったので急に人気が出て、今はメジャーな品種になっています。

    Q:今後、「男爵薯」はなくなってしまうのですか?
    A:理想的には、「男爵薯」と全く同じで、シスト抵抗性のある品種ができればいいのですが、4倍体のじゃがいもは育種が難しいのです。ニーズがある限り、「男爵薯」の原原種も提供しますから、すぐになくなることはありません。ただ、抵抗性のない品種を作り続けるのは難しいことをご理解いただきたいと思います。種苗管理センターも、抵抗性のない品種の生産、配布は前年を上回らない、という方針です。種いもを作る方が減っているという現状を考えると、「男爵薯」を作るのは厳しくなる可能性が高いと思います。

    Q:八百屋は店頭に野菜を並べるので、どうしても光に当たってしまうのですが…。
    A:真っ暗な状態で管理するのが無理なことはわかります。「目のところは除いて使ってください」と伝えるのが無難だと思います。ゲノム編集で毒ができにくい品種の研究もされています。品種による違いも大きく、例えば、「さやか」はグリコアルカロイドができにくい品種です。なお、「メークイン」はとてもグリコアルカロイドができやすい品種なので、ご注意ください。

    Q:皮の近くに栄養があるということは、中心に行くに従って栄養価が少しずつ減るということでしょうか?
    A:中に栄養がないわけではありませんが、ビタミンやミネラルは間違いなく外側に多いです。包丁で皮を厚く剥くと、1番栄養分があっておいしいところを取ってしまっているということになります。

    Q:皮の色が変わりやすい「男爵薯」と、そうでないものの違いは?
    A:推測ですが、もともとの土の色が明るく、あまり土の粒子がついていないとすると、光に反応しやすい。逆に、たとえば、北海道のじゃがいもは、黒土で泥を塗ったような状態です。結果として、光を吸収しにくい状態になっているのではないかと思います。

    Q:シストセンチュウ抵抗性品種は粘質のものが多い印象を受けました。粉っぽい品種はありますか?
    A:「男爵薯」に似ているのは、「ゆめいころ」と「きたかむい」です。最も期待されるのは「ゆめいころ」で、「男爵薯」に近い感じがします。ただ、「男爵薯」のようないもくささはありません。「きたかむい」は、味はおとなしいかもしれませんが、熟成させるとおいしくなります。

    Q:2年前の八百屋塾でも「ピルカ」をご紹介いただいて、個人的には味も悪くないと思ったのですが、生産は増えていないようですよね?
    A:その通りです。私も、農水省で担当した際に3年半、抵抗性品種への切り替えを懸命に推奨しましたが、あまり成果が出ませんでした。ただ、その後、抵抗性品種が着実に伸びているのは確かです。デンプン原料用は切り替わりました。ポテトチップス用も市場シェア9割を占める大手メーカーの社長さんが音頭を取って、抵抗性がない「トヨシロ」からの切り替えに取り組んでいます。なかなか変わらないのが青果用です。「ゆめいころ」、「きたかむい」にがんばってほしいと思っています。

 

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