■2025年1月19日 第10回 小松菜 〜 講演「小松菜」について 八百屋塾実行委員長 柴田健太郎
◇はじめに
  • 世帯人数が減ってきている昨今、束より袋入れの小松菜の取り扱いが、特に量販店では多く見られます。今回はFG商品の小松菜を扱う茨城県のピュアグリーンアグリ協同組合(PGA.B)代表理事、木村貴浩さんにご講演いただく予定でしたが、ご都合が悪くなってしまい、以下、柴田健太郎による取材の記録です。

  • スタッフの吉野元による、昨年の小松菜取材は、八百屋塾ホームページでご覧いただけます。
八百屋塾実行委員長 柴田健太郎
◇会社の成り立ち
  • PGA.Bは、袋入り小松菜を出荷している会社で、茨城県鉾田市にあります。

  • 鉾田市は東京から車で約1時間半。いたるところにハウスがあります。

  • 多くの外国人労働者を雇用し、専用の寮には福利厚生のカラオケ設備もあります。

  • 代表理事の木村さんは、従業員や地域の方々から親しまれており、中学生とも挨拶を交わす気さくな人柄です。

  • 株式会社にして25期目。木村さんご自身の農家としての経歴は30年ぐらいです。

  • 会社発足当時、小松菜は根付きの束が主流でしたが、茨城県の野菜は袋詰め出荷が多く、小松菜も袋に入れて出荷していました。東京からの依頼にこたえて、一時は根付きの束を出荷しましたが、束にするのが大変でした。他の産地からは「袋詰めは大変」と言われつつ、「小松菜もそのうちFG対応が求められる」という卸売会社や仲卸の声を後押しに、袋入りを続けてきました。

  • 現在は小松菜のほか、ほうれん草、水菜、春菊などの集荷と出荷を行っています。いちごは「やよいひめ」。出荷は主に関東向けで、北海道や大阪に行くこともあります。
◇生産から出荷まで
  • 品種は、申し合わせて数種類に絞っていますが、基本的には農家の方にお任せ。現時点では、ほとんどがサカタ種苗のもの。春作、夏作と作型に合わせて変えています。

  • ハウス栽培では抽苔はほとんどありません。例外は、大きく育ち正品にならないもの、冬場、保温対策や日当たりが悪く生育期間が90〜110日くらいに伸びた時、先に花が出ることがあります。

  • 夏は30日、冬は55〜58日ぐらいで収穫します。

  • 今の時期、50日収穫ではやや細めで7〜8株、60日では4〜5株、入れる数が変わります。

  • 年に5〜7回収穫。5回の場合は夏場に2回畑を休ませます。収穫後、肥料を撒いてマルチを敷き3週間以上おいて、熱で殺菌、殺虫します。7回の場合は、畑を分けながら土壌殺菌を行います。熱処理ができていると、除草剤を撒かなくても雑草が生えにくい圃場になります。

  • PGA.Bの野菜はすべてハウスで加温栽培しています。暖房は石油ではなく地下水利用。ハウスは2重で、間に地下水を散水するノズルが引いてあり、夜間に地下水を撒きます。地下水は15℃前後で、外気がマイナス5℃でもハウス内は4℃以下にはならないので、凍りません。天気さえ良ければ、予定通りに出荷できます。

  • ハウスを開けた瞬間に小松菜独特の香りを感じます。このにおいについて、袋入れは「カビ臭い」というクレームが入ることがあり、「雨で土が湿り香りが出た」と返答しています。小売業の方がお客さまから聞かれたら、「小松菜本来の香り」と伝えていただけるとありがたいです。

  • 播種は直まき。間引きはしません。機械作業はタネまきのみで、その他は収穫まで手作業です。1軒だいたい20人、多いところは50人以上の体制です。

  • タネまきの機械は2種類あり、ひとつは「ベルトコンベア式」。小松菜のタネをベルトの穴に1粒ずつ入れ、このベルトをタイヤにつけて、転がして撒きます。もうひとつは「真空播種機」。バッテリー動力でポンプを動かしてノズルの先にタネを吸いつかせ、1粒ずつ撒きます。

  • 農薬は、今の時期、ゼロの農家と、1度だけ予防のために撒く方がいます。

  • 肥料は有機質主体の設計です。それぞれのつきあいや、圃場との相性があり、指定していません。
    虫には苦労しています。夏場は、虫を見つけた後では農薬を何回散布しても虫が残るので、いないうちに予防的に散布します。人間のワクチンのようなもので、結果的に農薬の使用回数を減らすことができます。

  • PGA.Bの小松菜は洗浄していません。根付きは洗いますが、根切りは洗わないほうが日持ちします。洗わないので、泥がつかないように気をつけます。泥が跳ねる時は、タオルで拭きながら収穫します。

  • 収穫は、根元から切り落とすか、引き抜いて根をハサミで切り落とすかですが、抜いた時に葉が折れてしまうことがあるので、刈り取ることが多い。

  • 畑に残った根は枯れて土になるので、特に気にする必要はなく、次回、播種する前に土を耕します。次の種を播くのは、収穫後1週間以内です。

  • 夏は消毒のためにマルチを敷きます。日差しの強い時は、ハウスに遮光ネットをかけて収穫します。

  • 収穫後、各農家で予冷、選別、袋詰めを行い、冷蔵庫で保管。出荷組合に集めて出荷します。

  • PGA.Bの予冷庫は非常に大きく、収穫時に使うオレンジ色のコンテナのまま冷やせます。夏場は袋詰めの前によく冷やすことが大切で、日持ちも変わります。袋詰め後ではなかなか冷えません。

  • 収穫後の予冷から梱包後の予冷まで、予冷庫がいくつも繋がっており、1万ケース入ります。

  • 冷蔵庫は2℃に設定、凍る1歩手前の細胞が動かない温度にしています。約20年前は12〜15℃が適温、暖かいところで育つので冷やす必要はない、とされていました。現在は、2〜4℃が多い。市場では、「PGA.Bの品物はよく冷えている」といわれます。農家さんも近くの方が多いので、運んでいる間にそう温まりませんし、すぐに出荷用の冷蔵庫に入れます。

  • 集荷の翌日袋詰めして出荷、さらにその翌日に市場で販売されます。自社の出荷用トラックも2台保有しています。

  • 袋詰めは、200グラム入と100グラム入の規格で行なっています。はかりで量を測ってレーンに乗せ、袋詰めし、箱に詰めます。

  • 規格は、1袋200グラム入り、1ケース25袋入り、サイズはS、M、Lです。袋ぴったりの長さがMサイズ、それより短いとSサイズ、長くて葉先を折るのはLサイズ。以前の規格は1袋250グラムでしたが、200グラムでも、売価がほとんど変わらないので、200グラムで出荷しています。

  • 1袋200グラム・箱5キロのはずですが、箱7キロ近くになることがあります。生育不良のときは1株が小さく210グラムぐらいですが、日照条件が良いとよく育ちます。大株は微調整するよりもどんと入れてしまったほうが効率がいいので、量が多くなります。

  • 小松菜は、温度よりも太陽光の影響が強く、ある程度冷えていても、天気が良く日に当たれば、よく生育します。生育不良につながるのは曇天。地温も上がらず、根の活動が落ちます。

  • 包装は、以前は手詰めで上が開いていましたが、現在は自動化してしっかり閉じています。当初、上も閉じると野菜が蒸れて鮮度が落ちる、という声がありましたが、鮮度保持袋の改良もあり、現在では、上までしっかり閉じていたほうが良いという意見が多くなっています。生育がいい時は採算性もあるので、袋に入る範囲内の大株で出荷しています。

  • 伸びすぎた規格外品は「ジャンボ小松菜」として別売りしています。100パーセントハウス栽培なので、大きくても固くなりません。PGA.Bでは、ジャンボ以外の規格外品はほとんどなく、採算が合わない規格外品は処分してしまうこともあります。
◇安全、安心な品質保持の取り組み
  • PGA.Bでは、「ほこまるGAP」、高品質・安定供給、情報発信に取り組んでいます。

  • 「ほこまるGAP」とは、鉾田市独自の農業生産工程管理(GAP)で、J GAPより簡易で、取り組みやすい安全規格です。組合員宅での監査・指導のほか、年に1回以上の残留農薬検査と土壌検査、また、農薬講習会で農薬による事故防止・適正使用などの指導を受けています。

  • PGA.Bが保有する農場は50haを超え、供給量にも自信があります。また、目揃え会を行い、各農家が品物を持ち寄り、出荷組合の規格S M Lを確認し情報交換を行っています。これは品質の維持、統一だけでなく、良好な人間関係づくりにもなっています。

  • ウェブサイトに、栽培管理表を月に1度公表しています。播種から出荷まで、栽培ハウス番号、使用農薬、肥料の名称や量など。情報を開示し、安全、安心な野菜作りを心がけています。
◇食味について
  • ハウス栽培の根切り小松菜と、根付きや露地栽培の小松菜では、食味の違いはあると思います。ただ、品種による違いも大きく、筋の少ないもの、パリッとしたもの、やわらかくて甘いものなど、タアサイ系、青梗菜系、どちらに近いかによっても変わります。たとえば、タアサイのように緑が濃い品種は甘みが強く出る、茹でると色が濃いなどの特徴が出てきます。また、同じ人が同じ品種を作っても、畑によって味が変わることもあります。
◇お客さまの要望と対応
  • かつて250グラムだったものが200グラムになったように、社会情勢に合わせて量を変えていきます。

  • 100グラム入れの要請もあり、一部、この規格での出荷を行っています。

  • 100グラム入れは大株なら2本ですが、見栄えのために3本は入れてほしいといわれます。小株で入れるか、3本150グラム入れるか。150グラムになると、採算が合いません。

  • 小松菜本来の香りをカビや農薬に間違えられたり、虫食い穴やアブラムシにクレームがきたりします。防除の農薬を一番使いたくないのは農家です。農薬を近距離で散布しますし、手間もお金もかかります。農家は農薬使用の安全基準を厳守していることを、ご理解いただきたいと思います。

  • 2週間前に出荷したほうれん草がクレームで戻ってきたことがあります。見た目はいいのですが、食べると味がない。野菜は生鮮食品なので、5日から1週間以内に食べていただきたい。きゅうりなども品種改良や術により、新鮮に見えるものが売られていますが、日にちが経てばおいしくなくなります。
◇需要・生産量について
  • 20年ほど前は袋入れ250グラムの小松菜が15円、10円、5円という値段が年に何回も出て、採算が合わず、多くの農家がやめました。「やめるのはもったいない」と言っても、どうしようもありません。お客さんの作り続けてほしいという声にこたえて、私は続けました。その後は値段が安定し、小松菜を作る人も戻ってきました。

  • 茨城は以前メロンの一大産地でしたが、人手不足や高齢化で重いメロンを作る人が減りました。そのハウスを使って、葉物(小松菜、ほうれん草、水菜)やトマトの生産が増えています。

  • 昨夏の猛暑による、キャベツ、白菜など野菜全体が高値です。それにつられて小松菜の相場も上がっており、生産者が増える追い風になっています。

  • ほうれん草は全国的に猛暑などの影響で正品率が低く、値段が上がり、代替品として小松菜が求められています。安定性から、小松菜のほうが作りやすいと感じます。

  • PGA.Bでは大型化が進んで1軒あたりの収量が増えており、農家数は増えていませんが小松菜の生産量が増えています。

  • 労働力はほとんどが外国人実習生です。

  • PGA.Bでは生産者数が減ることはないと思っています。
◇物価高の影響と価格について
  • 資材、人件費などあがっていますが、小松菜の生産量は安定しており、値段もしっかりついています。現在の状態で推移すれば、小松菜農家の未来は明るいと思います。

  • 小松菜を作るうえで採算の合う金額は生産者によって全然違います。今年は物価高の影響がどの程度あるか、いくらで合うのかはまだわかりません。去年をベースに考えると、資材や労働力などもろもろ合わせて70円から80円くらいだと明るいだろうと思います。
◇鮮度保持袋について
  • 大半のビニール袋はOPP防曇(ボードン)袋と呼ばれ、東洋紡績のブランド「F&G」の知名度が高く、FG袋と呼ばれます。FGとは、「フレッシュ&グリーン」の略称です。

  • OPP(延伸ポリプロピレン)は包装フイルムに曇りがなく、透明度抜群で食品を鮮やかに見せてくれます。空気を遮断して乾燥を防ぎ、防曇加工によって中の水分が水滴にならず、薄い水膜になるので、内容物を腐敗から守り、鮮度保持性が高くなります。
◇パッケージデザイン
  • 袋には、茨城県をアピールしたいという気持ちから、鹿島神宮、茨城空港、大洗海水浴場、霞ヶ浦、霞ヶ浦総合公園など、茨城県の名所がプリントされています。

  • まず、お客さんの目を惹きつけ、手に取ってもらって、新鮮だな、きれいだなと思ってもらいたい。そこで、ちょっと目立つ、可愛いデザインにしています。

  • 消費者のみなさんに、「ピュアグリーンアグリ」の野菜は安心・安全に購入できる、いいブランドだ、と思ってもらえるように、組合員たちとともに日々がんばっています。
◇商品ラインナップ
  • 小松菜、ほうれん草、水菜、春菊を生産・出荷しています。

  • ほうれん草は、出荷量が減少傾向にあります。かつては1位でしたが、水菜が1位になった頃から落ちていきました。小松菜は3番目でしたが、上がっています。

  • ほうれん草は小松菜の相場が出ない時ぐらいしか出してこなくなっているのでは。

  • ほうれん草は、需要があり、キロ単価も小松菜より高いのですが、収量が悪く、栽培が難しい。夏は暑くて作れない。春や秋はべと病が出る。ハウスの温度・湿度の条件が揃うと、べと病が出た翌日にはハウス全体に広がってしまいます。ダニによる被害もあります。抵抗性品種も出ていますが…。栽培が難しいので生産量が減っています。そのうち幻の野菜になるかもしれません。

  • 10年ほど前は水菜を作る人も多かったのですが、単価が出なくなり、減少傾向です。一度栽培を止めると、機械等のセッティングが違いますから、なかなか戻ることができません。水菜は、下の白い部分が寒さで凍ってしまうと中がスカスカになって食感が損なわれ、日持ちもしなくなります。そこで、PGA.Bでは小松菜同様、加温栽培を行っています。

  • 春菊を作っている農家は1軒あるかないかで、夏場に300〜400円しても合いません。

  • 空芯菜は、以前、作っていましたが、1回(3年間)作ると土が荒れるので、ハウスを移動する必要がありました。労働力とのバランスもあり、空心菜の生産は行っていません。

  • 近年力を入れているのは、いちご「やよいひめ」の栽培。糖度は14度前後です。収益性があり、販路を拡大していきたいと考えています。

  • コンテナが返ってこないところ用に送るいちご専用の平箱とか、糖度測定光センサー。集荷用の冷蔵車もありました。

  • いちごも2重のハウスで加温栽培しています。夏場の収穫は圃場から冷やして鮮度保持に努めているほか、トラブルの際のリスクヘッジとして作業場直結の冷蔵庫に一気に温度を下げられる冷却機を2基、収穫したいちごの劣化を抑えるエチレン除去装置を設置するなど、よりよい状態でお客さまのもとに届けられるよう鮮度保持に努めています。
◇終わりに
  • 社名の「PGA」は「ピュア・グリーン・アグリ」の頭文字で、好きな「ピュア」という言葉と緑の「アグリカルチャー」を合わせたものです。商標登録の申請時は有名なプロゴルフ協会PGAのことを知らなかったので、最後に「.B」をつけることにしました。
◇質疑応答 ※八百屋塾生と取材した柴田との質疑応答です

    Q:横浜でも小松菜は露地栽培されており、連作です。連作による不都合はあるのでしょうか?
    A:小松菜は連作しても障害が出ない。夏場、地面の殺菌、消毒を行っている、とのことです。

    Q:小松菜でもここまで暑いとどうなんだろう。夏の栽培は、どのようにされているのでしょうか?
    A:夏は、品種が違います。ハウスを遮光して温度をコントロールし、商品が傷まないように夜明け過ぎぐらいから収穫をはじめるなどの対応をしていると思います。(東京青果 鈴木さん)

    Q:以前、木村さんが、「FGの1キロ袋をやってもいいかな」といっていたのですが?
    A:現時点ではやっておらず、予定もない、とのことです。

 

【八百屋塾2024 第10回】 挨拶講演「小松菜」について勉強品目「小松菜」食べくらべ