■2016年1月17日 第10回 花菜 〜 講演「ブロッコリー・カリフラワー」について 農研機構 野菜茶業研究所 石田正彦氏
◇はじめに
  • 農研機構は農水省の研究機関です。農業や食品に関わる研究開発を行う法人で、本部は茨城県のつくばにあります。全国にもさまざまな研究機関があります。

  • 野菜茶業研究所は野菜とお茶に関する総合的な研究を行っており、三重県の津市に本所があります。
農研機構 野菜茶業研究所 石田正彦氏
◇ブロッコリー、カリフラワーの分類
  • ブロッコリー、カリフラワーとも、今がちょうど旬の野菜です。とはいえ、スーパーに行けば一年中販売されている重要な野菜のひとつです。

  • 和名は、ブロッコリーが「緑花椰菜(みどりはなやさい)」、「芽花椰菜(めはなやさい)」、カリフラワーが「花椰菜(はなやさい)」といいます。

  • 野菜は大きく分けて、野菜としての流通上の分類と植物としての分類の2つにわけることができます。ブロッコリーとカリフラワーは、野菜としては花菜類に分類されます。花菜類とは、花や蕾を食べる野菜で、ナバナ、キクの花、ミョウガなども含まれます。植物学的には、アブラナ科アブラナ属オレラセア種に分類され、染色体数は9本、一年生または二年生の植物です。
◇アブラナ科の野菜について
  • アブラナ科の野菜は、キャベツ類、アブラナ類、クロカラシという3つの大きなグループに分かれます。ブロッコリーとカリフラワーはキャベツやケールの仲間で、キャベツ類に分類されます。また、アブラナ類にはハクサイ、カブ、コマツナが含まれます。この3つのグループの内、2グループ間の交雑でできた3つの雑種が新たなグループを構成しており、西洋アブラナ、カラシナ・タカナ、アビシニアカラシはこれらのグループに含まれます。アブラナ属はこの6つのグループで構成されています。

  • キャベツとダイコンは見た目がまったく違いますが、キャベツ類の染色体数はダイコンと同じで、遺伝的に近縁です。このため、交配すればタネをとることができます。

  • アブラナ類、キャベツ類は野菜としては非常に重要であり、アブラナ類の野菜は主にアジアで、キャベツ類の野菜はヨーロッパで発達しました。

  • アブラナ属の野菜には形態がいろいろなタイプのものがあり、非結球性、結球性、子持ち性、茎の部分が太るタイプ、根が太るタイプなど、多彩です。

  • 面白いことに、アブラナの仲間、キャベツの仲間はアジアとヨーロッパでそれぞれ独立して同じような形態の野菜が作られました。非結球性のものでは、アブラナ類はツケナ、キャベツ類ではケール。結球するものは、アブラナ類はハクサイ、キャベツ類はキャベツ。軸の部分が太るのは、アブラナ類はカブ、キャベツ類はコールラビ。蕾または花になる部分を食べるのが、アブラナ類はナバナ、キャベツ類はブロッコリーとカリフラワーです。
◇ブロッコリーとカリフラワーの違い
  • 植物学的には、ブロッコリーとカリフラワーはアブラナ科アブラナ属オレラセア種に分類される花菜です。その下位で、ブロッコリーは「italica」、カリフラワーは「botrytis」に分類されます。

  • 両品目の形状の違いは一目瞭然で、花蕾の色、草姿、花芽の状態が異なります。花蕾部の色は、ブロッコリーは緑ですが、カリフラワーの色は、純白、クリーム色、黄色、オレンジ、紫など、さまざまです。

  • 家庭菜園で作ったことがある方はご存じだと思いますが、ブロッコリーとカリフラワーは、葉の形が違います。ブロッコリーは葉の縁がギザギザで、葉柄は長いです。カリフラワーはタンポポの葉のようにロゼット状に着生し、葉の縁のギザギザは見られません。

  • ブロッコリーは花茎を支える軸の部分がよく伸びるのに対し、カリフラワーはほとんど伸びません。このため、カリフラワーはブロッコリーよりも収穫しにくい傾向にあります。

  • ブロッコリーは脇芽が成長することがあり、それを側花蕾として収穫できますが、カリフラワーでは側花は出てきません。

  • いちばん大きな違いは、ブロッコリーは蕾を食べています。カリフラワーは原基と呼ばれる蕾になる前の未成熟な組織の集合体、「カード」を食べています。このため、当然、食感も違っています。
◇栽培の歴史と現状について
  • ブロッコリーの原産地は、地中海沿岸の東部周辺と考えられています。ケールタイプの結球しない野生キャベツが起源で、花茎や花蕾を利用していたものの中から分化し、ローマ時代に成立したと推定されています。最初から今の花蕾形状のものができたわけではなく、ナバナのようなタイプのものから改良されていきました。16世紀以降にイタリアで発達し、ヨーロッパ各地に伝わりました。19世紀以降にアメリカに導入され、第二次大戦後に本格的に普及し、品種改良が進みました。

  • カリフラワーの原産地も地中海沿岸であり、ブロッコリーの突然変異から成立したのではないか、といわれています。16〜17世紀にヨーロッパ中部・北部に伝わり、19世紀以降にアメリカ、東南アジアに導入されました。特に、東南アジアで土着し、野菜として利用されるようになりました。

  • 日本には明治時代初めに導入されましたが、ブロッコリーもカリフラワーも定着しませんでした。ブロッコリーは1960年代以降に栽培が一般化し、1980年代以降、食生活の洋風化や緑黄色野菜ブームにのって全国的に普及しました。その後、品種や作型の開発が進むとともに品質が大きく向上し、端境期も解消されつつあります。

  • カリフラワーは、導入された後にその一部が千葉県や静岡県、愛知県、九州地方に土着して在来種が成立し、細々と栽培されていました。その後、海外から新しい品種が導入され、食生活の洋風化とともに1965年くらいから全国に普及しました。70年代初めに最盛期を迎えましたが、その後はブロッコリーと生産量が逆転し、今日に至っています。

  • 農水省は、14品目の野菜を最重要である「指定野菜」、28品目をそれに次いで重要な「特定野菜」として、生産安定供給施策の対象としています。指定野菜は、ダイコン、キャベツ、ハクサイ、キュウリ、レタス、サトイモ、ニンジン、ナス、トマト、ピーマン、ネギ、タマネギ、ホウレンソウ、ジャガイモ。特定野菜28品目のうちの2つがブロッコリーとカリフラワーです。
◇作付面積と収穫量
  • 2014年の生産統計によると、国内では、ブロッコリーの作付面積14,100ヘクタール、収穫量14万5600トン。カリフラワーは、作付面積1,280ヘクタール、収穫量2万2300トンと、ブロッコリーの1/10くらいの作付面積となっています。

  • 1998年くらいから、ブロッコリーの作付面積と収穫量は右肩上がりで伸びていますが、カリフラワーは減少気味に推移しており、差は開く一方です。 ブロッコリーは緑黄色野菜として栄養価が高い、身体に良いと認識されていること、また、料理のレパートリーが広いことなどもあるのかもしれません。

  • ブロッコリーの主な産地は、北海道、埼玉、愛知、香川、長野県です。北海道では夏場に収穫期を迎えます。埼玉県では秋から春にかけて旬を迎え、冷涼な地域、福島、鳥取、長野県などでは、夏場から秋にかけて収穫されます。このように全国各地で栽培されており、1年を通じて安定的に供給されるようになっています。栽培する時期が違えば、当然、品種も違います。

  • カリフラワーの主な産地は、徳島、茨城、愛知、熊本、埼玉、長野の各県です。

  • 世界で最もカリフラワー・ブロッコリーが栽培されているのは中国、次いでインドで、この2ヶ国で全体の75%以上を占めています。後はスペイン、メキシコの順ですが、いずれも全体に占める割合は2%程度です。よくスーパーなどでアメリカ産のブロッコリーをみかけると思いますが、そのアメリカも7位で1.3%に過ぎません。日本は12位、0.7%です。
◇品種について
  • 2007年の資料なのでやや古いですが、主な野菜の品種数をみてみると、キャベツ561品種、ダイコン647、ハクサイ428なのに対して、カリフラワーが87品種、ブロッコリーが143品種となっています。ブロッコリーはここ5年ほどで育種が急激に進んでおり、品種数も増加していると思いますが、カリフラワーはあまり変化がないと思います。

  • 店先でよく見かける緑色で大きな花蕾ドームができるタイプのブロッコリーは、「グリーンスプラウティング」といいます。ほかに、紫色の「パープルスプラウティング」、アスパラガスのようなタイプ、ヨーロッパには淡い色のものもあります。
◇品種改良の目標
  • 品種改良の大きな目標としては、頂花蕾型でドームの形状や花蕾の締まりが良いこと、茎が太く見栄えが良いこと、草型の改良が挙げられます。最近のブロッコリーは茎が立派だと思いませんか。以前は今ほど茎は食べられていませんでした。それが、今ではむしろ茎の方が好きだという人もいるくらいです。それは、ここ10年くらいの間で茎を太くする品種改良が進んだ結果です。頂花蕾型というのは、脇から出る側花蕾を2番採り、3番採りできない品種、つまり、1回収穫したら終わりという品種です。生産者の方の利便性を考えると草型も重要で、ブロッコリーはカリフラワーに比べて葉が立つほうですが、それでも葉がかなり大きくなるため、株の間隔を広く開けないと植えられませんでした。最近の品種は葉が上を向いているので、以前よりも同じ面積により多く栽培できるようになりました。

  • 厳寒期には、ブロッコリーの花蕾の色がうっすらと紫になることがあります。寒さにあたると、植物が自分の身を守るために、アントシアニンという色素を蓄積するためです。しかし、流通上では見た目がよくないので、紫色がつかないアントシアンフリーというタイプの品種が育成されています。

  • 日本では、ブロッコリーは蕾ができるだけ小さく、かたく詰まっているもの、ドームに凹凸がなく、平滑に揃っているものが高く評価されるため、そのような品種改良も行われています。

  • 一般に花が咲く4〜5月は、きれいな形状のブロッコリーを出荷するのが難しかったのですが、その時期に収穫が可能な早生種や晩生種の開発が進んでいます。また、各地域で作りやすい品種の改良も進んでいます。

  • 数年前に、ドールはガンの予防に効果があるとされるスルフォラファンの基になるグルコシノレート成分量を向上させた機能性の高いブロッコリーを販売し、注目されました。
◇ブロッコリー、カリフラワーのニューフェイス
  • イタリアで成立した「ロマネスコ」は、ユニークな形が特徴で、植物学的にはカリフラワーに近いものです。

  • 「ブロッコフラワー」は、「カリブロ」とも呼ばれていますが、人工的にブロッコリーとカリフラワーを交配したもので、カリフラワーに近いと聞いています。

  • トキタ種苗の「カリフローレ」は、カリフラワーではありますが、従来のカリフラワーよりも花軸が長くて食味が良く、スティック状に収穫できるように改良されました。埼玉で産地化されています。

  • サカタのタネの「スティックセニョール」は、花蕾よりも花茎を食べる茎ブロッコリーです。カイランというキャベツの仲間の中国野菜とブロッコリーを交配してできたもので、夏場に安定して栽培できます。

  • 「はなっこりー」は見た目が茎ブロッコリーとよく似ていますが、山口県で開発された品種で、サイシンというハクサイの仲間とブロッコリーを交配して作られた種間雑種です。

  • サカタのタネの「オータムポエム」は、サイシンと同じくハクサイの仲間で中国野菜の紅菜苔を交配したもので、ナノハナ(花蕾タイプのナバナ)に類似しています。
◇栄養価と機能性
  • ブロッコリーには、特に、ビタミンC、カルシウムが多く含まれています。

  • 野菜茶業研究所の山下は、食品成分表にある野菜116品目の栄養価について、独自の加重で順位付けしました。 それによると、ブロッコリーは28位、カリフラワーは74位となっています。この中で、日頃ほとんど食べない山菜等の野菜を除くと、ブロッコリーは2位、カリフラワーは11位となり、栄養価が非常に高い野菜であるということがおわかりになると思います。

  • ブロッコリーの機能性成分としては、イソチオシアネートの一種スルフォラファンが有名です。イソチオシアネートは辛みに関与する成分で、アブラナ科植物に含まれるグルコシノレート成分から生成されます。アブラナ科の野菜には、色々な種類のグルコシノレートが含まれており、ダイコン、ワサビ、ブロッコリーなど、それぞれ固有のグルコシノレートが含まれています。細胞がダメージを受けると、ミロシナーゼという酵素によってグルコシノレートが分解され、イソチオシアネートが生成されます。ブロッコリーに含まれているグルコシノレートの一種、グルコラフォニンが分解されるとスルフォラファンが生じ、医学的研究により、スルフォラファンには癌の抑制、解毒酵素誘導、抗酸化、ピロリ菌除去などの作用があるといわれています。スルフォラファン自体が癌をやっつけるわけではなくて、発癌物質を無毒化するのに必要な酵素を活性化させる作用が高いといわれています。
◇今後の育種への期待
  • ブロッコリーは栄養価や機能性ももちろんですが、手軽に食べられる野菜として受け入れられていると思います。また、生産者にとってもキャベツやダイコンに比べて収穫が楽であり、高齢化が進む今後はますます栽培が増えるのではないか思われます。そのためには、より栽培しやすいものや、機能性に優れた付加価値の高いものを開発する必要があります。

  • カリフラワーは、形態、食感、味などを含め、新しいものが求められていると思います。
◇質疑応答より

    Q:茎の部分に穴があいていることがありますが、それはなぜですか?
    A:病気ではなく、生理障害です。ブロッコリーにとって一番生育に適した時期ではない時期に作ったりした場合、あるいは花蕾形成後の降雨後に気温が上昇して急激に花蕾が成長した場合など、何らかのストレスによって発生することがあります。種苗メーカーも発生しにくい品種を開発していますが、栽培時期、方法等によっては空洞が生じてしまうことがあります。見た目はあまりよくないですが、食べても何ら問題はありません。

    Q:秋口のブロッコリーで紫色の強いものを見かけることがあります。味に変化はないのでしょうか?
    A:冬場では寒さに暴露して良く発生しますが、高温期の場合では何らかのストレスが考えられます。食べてもまったく問題はありません。ちなみに、着色はアントシアニン系の色素によるもので、アントシアニン自体は機能性成分として知られています。

    Q:夏場は国産のブロッコリーが少なくなり、輸入物が増えますが、劣化せず、蕾が開くこともないのが反対に気になっています。国産とは品種が違うからだと聞いたことがありますが、そんなに長く持つ品種があるのでしょうか?
    A:蕾の状態のものを食べるので、呼吸量がとても多いのですが、流通段階でのポストハーベスト研究が進んでおり、呼吸を抑制した状態で輸入されています。そのような技術を利用して鮮度のよいものが安く入ってきています。
    (会場より):日本への輸出用にアメリカ等の海外で栽培されているブロッコリーは、それように品種改良された劣化しにくい品種が利用されています。

 

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