■2015年7月12日 第4回 なす・桃 〜 講演「新潟の在来なすあれこれ」 新潟市農業活性化研究センター 小田切文朗氏
◇なすの概要
  • なすの学名は、「Solanum melongena」。ナス科ナス属の植物です。

  • なすの起源は、インド原産説が有力です。それが東南アジア(ビルマ)を経由して、6世紀に中国に伝わり、日本には8世紀頃に入ってきたと考えられています。もうひとつのルートとして、古代ペルシャからアラビア地方、北アフリカを経由して、13世紀にヨーロッパに伝わったといわれています。
新潟市農業活性化研究センター
小田切文朗氏
  • 日本へは、中国、朝鮮半島、東南アジアの3ルートから渡来し、奈良時代には作られていたと考えられています。『造仏所作物帳』(734年)、『正倉院文書』(750年)に「なす」の記載があり、平安時代の『延喜式』(927年)には、なすの栽培や漬物加工の記載もあります。果菜類の中でも、なすは古い野菜だといえます。

  • 新潟県史には、1700年代中期に、「だいこん、かぶ、いも類の栽培、蒲原地方でさつまいもの栽培、長岡で早出しなす、かた瓜、中魚沼でねぎ」と記述されています。1877年(明治10年)には、なす、きゅうりの促成栽培が南蒲原郡川西村(現加茂市)で行われていました。また、個人の記録としては、味噌、酒、農業資材、苗などを販売していた長岡市中島の五代目土田重兵衛(真十郎)の売掛帳に、1922〜1926年(大正11〜15年)、大なす、中なす、小なす、味噌漬けなすといった種類別の記載があります。
◇新潟県でのなすの栽培について
  • 2012年(平成24年)のデータによると、新潟県は、なすの作付け面積は日本一ですが、収穫量は8位、販売量は18位です。自家消費が多いからだといわれますが、本当のところは、小さいサイズで収穫してしまうことが多い、雪のため栽培期間が短いなどの理由により、収量が上がらないためだと思われます。

  • 主な産地は、新潟市、長岡市、上越市、十日町市、燕市、糸魚川市で、収穫量は11,000トン(2012年)です。作型はハウス半促成、トンネル早熟、ハウス雨よけ、露地早熟の4パターンあります。

  • 栽培地は水田転換畑(壌土)、埴壌土が多く、連作できないので、畑を替えながら作っています。信濃川、阿賀野川河川敷、堤外地の畑(砂壌土)や、砂丘畑(砂土)でも栽培しています。地下水が豊富なので、乾燥に弱いなすには向いているのですが、風が強いのは苦手で、松林など風よけが必要です。豪雪地帯ですが、十日町などの中山間地(火山灰土)でもなすを作っています。

  • 新潟県には、国内の種苗会社が育成したF1品種がいろいろと導入されています。「千両2号」を中心とした中卵形〜中長形品種が多く、次いで、丸なす系が多くなっています。

  • 作型別の主要品種と適応地帯は、ハウス半促成が「早生大丸」、「梨なす」、「新潟黒十全」、「紫水」で、少雪地帯。トンネル早熟・ハウス雨よけが「千両2号」、「あのみのり」、「早生大丸」、「越の丸」、「梨なす」、「新潟黒十全」、「紫水」、「やきなす」で、こちらも少雪地帯。露地早熟が「千両2号」、「あのみのり」、「水なす」、「梨なす」、「越の丸」、「新潟黒十全」、「紫水」、「十全」、「鉛筆なす」、「やきなす」、「梵天丸」で、県内全域で作られています。

  • 新潟県には、地方品種、伝統品種のなすも数多く残っており、現在、14品種あるといわれています。県内各地でそれぞれに「豊かななすの食文化」が継承されています。露地栽培が中心で、主に6月中旬から10月まで出荷されます。自家採種だけでなく、町のタネ屋さんも保存に貢献しており、おいしい品種はしっかりと残しています。

  • 新潟県には、ふかしなす、神楽南蛮との揚げ浸し、雑炊、煮なす、しぎ焼きといったいろいろな食べ方があるので、それに適応した多様な品種が保持されてきました。煮食用、味噌漬けなどの加工用には球形の丸なす、浅漬け用には皮や肉がやわらかい品種、小さい品種など。肉質にもこだわりがあります。

  • 新潟市に伝わる伝統野菜のなすは、「十全」、「鉛筆なす」、「やきなす」、「越後白なす」、「一日市(ひといち)」など。「島見」、「笠巻」、「黒十全」は種子が保存されています。その他の地域では、「魚沼巾着」(南魚沼市、小千谷市)、「梨なす」(長岡市、三条市)、「中島巾着」(長岡市)、「久保」(新発田市)、「上越丸えんぴつ」(上越市)、「緑なす」(柏崎市)などがあります。

  • 新潟県の在来なすは、大きな産地はありませんが、それぞれが伝統野菜と位置づけ、多種類をうまく活用しています。たとえば、地産地消として利用促進、歴史や地域の文化と合わせた郷土料理のPR、素材の特性を生かした創作料理の開発などが進められています。また、各直売所でもいくつかの品種が販売されて、県民に親しまれており、未来につながるものと期待しています。

◇新潟県内の地方野菜(伝統野菜)のなす
  • 【十全】
    「白十全」、「本十全」とも呼ばれる。大阪の泉州水なすが1928年(昭和3年)に十全村(現五泉市)に導入されて、そこから白根市(現南区)臼井に入った。長めの巾着型、高温期には色が薄くなり、へた下が薄緑となる。皮・肉質がやわらかい。手でギュッと絞ると、水がしたたるほどみずみずしい。浅漬けに最適だが、味噌炒めなど、加熱調理してもおいしい。

  • 【梨なす】
    長岡に導入された十全が、やわらかく多汁でおいしいことから1940年(昭和15年)に「梨なす」と名づけられた。1944年(昭和19年)に果色が濃く、へた下も紫に着色するタイプ(大阪の絹なす)が普及。果形は長めの球形巾着で、皮、肉質がやわらかい(「十全」よりは若干かたい)。浅漬けに適する。加熱調理してもおいしい。長岡市、魚沼市、三条市で栽培されている。

  • 【黒十全】
    三条市の江原種苗店が「梨なす」を「黒十全」と称して下越地方などに普及させたもの。果形は長めの球から卵形の巾着。果皮の色が黒い。へた下も紫色に着色。皮・肉質がやわらかい。浅漬けに適する。加熱調理してもおいしい。現在は北越農事による交配種「新潟黒十全」が県内に普及。

  • 【島見】
    豊栄市島見(現北区)で栽培された。今は栽培されておらず、県や新潟市が保存。やや長めの丸なす。収量は多い。果皮色が濃い。へた下も紫に着色。果肉が緻密でかたい。煮崩れしにくいので加熱調理に向く(煮物、焼物、揚げ物)。

  • 【一日市】
    新潟市(現新潟市東区)一日市原産で、大形地区、阿賀野川河畔で栽培されていた丸なす品種。果皮は赤紫色で、黒紫の皮色品種に比べて色が薄く、煮物やすまし汁の汁を汚さないと喜ばれた。現在、少数の生産者により保存、栽培。へた下が淡緑色。果肉が緻密で硬い。煮崩れしにくいので加熱調理、加工用に向く。

  • 【笠巻】
    白根市笠巻(現南区)で栽培された丸なす。今は栽培がなく、新潟県や新潟市で保存。果皮色は赤紫で、着色不良のつやなし果になりやすい。へた下は淡緑。果肉がしまり、重い。煮崩れしにくいので加熱調理に向く。皮をむいて利用するとよい。

  • 【越の丸】
    地方品種ではないが、県園試(現園芸研究センター)が新津市(現秋葉区)時代に新潟県在来の巾着に福島県在来の「横田丸」を交配して育成した一代交配種の丸なす。夏でも光沢を保ち、京都の「賀茂なす」と匹敵するほど品質がよい。果肉がしまり、煮崩れしにくいので加熱利用に向く。味噌漬けにも最適。

  • 【鉛筆なす】
    果実の先端が鉛筆のようにとがっていることからこの名がついたとされ、戦前より栽培されていた。白根市(現新潟市南区)笠巻が元祖とされるが、当初、塩俵地区に導入されたので「塩俵なす」と呼ばれたとの言い伝えもある。ルーツは宮崎市の「佐土原なす」とされている。 夏場に果色が悪くなるのは「佐土原なす」と同様。小さいうちに収穫し、浅漬けにしたり、大きくして焼きなすに利用。炒め物、鉄板焼き、てんぷらなどにしても肉がとろけるようにやわらかく、おいしい。

  • 【やきなす】
    1961年(昭和36年)に豊栄市笹山(現新潟市北区)の農家川崎敏夫氏が白根市(現南区)の「鉛筆なす」を導入して栽培が始まったとされている。特性は「鉛筆なす」とよく似ている。平均300gと大型で収穫し、焼きなす専用種として利用されている。葉陰になったり、夏場になると果皮色が赤紫と着色が悪くなるが、味は落ちない。焼きなす以外に炒め物、鉄板焼き、てんぷらなど和洋中の料理に利用でき、肉がやわらかく、おいしい。

  • 【久保】
    豊浦町(現新発田市)久保で栽培されていた品種。「鉛筆なす」、「やきなす」と同様果実の先端が鉛筆のようにとがっている。果形はやや円筒形で、長なすに近い形をしているとされるが、新潟市農業活性化研究センターの栽培特性調査では、ほぼ同等で、「佐土原なす」系である。

  • 【越後白なす】
    巻町(現西蒲区)で戦前から栽培。2007年(平成19年)に一般公募してこの名前に決定。果皮が純白(アントシアニンがない)の長卵形。甘みがあり、加熱利用するとおいしく、油との相性がよい。日にちが経った果実は皮がかたい。収量が少なく、草勢が弱く、葉茎・へたにとげが多いなど欠点も多い。

  • 【魚沼巾着】
    1897年(明治30年)に六日町下原新田の栗田忠七氏が導入した和歌山の早生なすと在来の巾着なすの交雑・固定でできた。一時は日本の代表的な丸なす品種になったこともある。生食、加工兼用。

  • 【中島巾着】
    1907〜1912年(明治40〜45年)に小川文四郎氏が田上村保明新田からタネを譲り受け、長岡市中島地区で栽培。もとは「亀田巾着」とも。扁平の巾着形、晩生。果皮はかたい。果肉はよくしまり、果重が重い。煮なす、ふかしなすなどの加熱調理や味噌漬けに向く。

  • 【上越丸えんぴつ】
    果実は卵型からラクビーボール型で先端がやや尖る。へた下は着色しない。上越市で70〜80年前から作られていた品種で、新潟の「鉛筆なす」とは果形、葉型、花の色が異なっている。

  • 【緑なす】
    柏崎の伝統野菜。アントシアンの発生がないので、葉、茎、果実も緑色。来歴は不明だが、戦前より栽培されていたとされる長めの丸なす。皮がやわらかく、アクが少なくて甘みがあり、肉質がよい。生食用、加工にも向く。あまり出回ってはいない。
◇質疑応答より

    Q:連作障害の対策は何かされているのですか?
    A:県では耐病性の品種改良はしていません。接ぎ木で対応しています。

    Q:十日町から出ている「丸なす」はどの品種?
    A:「梵天丸」もしくは「黒十全」ではないでしょうか。

    Q:なすにできるかさぶたみたいなものは何ですか?
    A:花落ちといって、花がついていた部分です。

    Q:新潟のスーパーではどのようななすを扱っているのでしょうか?
    A:「千両なす」などの一般的ななすがメインですが、店によっては、地場野菜のコーナーを作って、伝統野菜のなすをおいたりしているところもあります。直売所のほうが面白いなすがあると思います。

 

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