■2015年11月8日 第8回 きのこ・みかん 〜 講演「きのこ」について 菌興椎茸協同組合 ヘルシー事業部 岸本隆吉氏
◇はじめに
  • 私どもは、鳥取でいろいろなきのこの品種開発をしています。鳥取県の面積は東京都とほぼ同じですが、人口は58万人。日本で一番人口の少ない県です。つい先日、ようやくスターバックスコーヒーとセブンイレブンの鳥取1号店がオープンしました。

  • 関東できのこというと信州をイメージされると思います。きのこの生産量は長野県が圧倒的に多いのですが、無胞子遺伝子を持つ品種を見つけ出す開発はしていません。私どもは、食用きのこの基礎研究をしています。
菌興椎茸協同組合 ヘルシー事業部
岸本隆吉氏
  • 私が子どもの頃は、八百屋さん、魚屋さんなどで、料理の仕方や食べ方などを教えてくれたものです。残念ながら、今、そういうところは鳥取にはなくなってしまいました。八百屋さんがきのこを販売する上で、お客さまにどう説明するのか、量販店との違いを出していくことが、ひとつのテーマではないかと思います。

  • 私は、おいしいものを追求したい、と考えています。 おいしいものを提供するためには、生産の理念を生産者に伝えることが大切です。これまで40年近く、木を切って、菌を植え、生産指導をして販売まで、全国のきのこ生産者の方と接してきましたが、みなさん理念を持ってやっていらっしゃいます。

  • 今日お配りした資料の中に「循環型農林業」と書きましたが、農家さんを育てることが循環を増やすことになります。つまり、販売することが循環につながる、ということです。

  • しいたけは、裏が赤くなると、見た目で捨てられてしまいます。赤くなるのはポリフェノールの一種で、赤ワインの成分と同じです。また、菌床しいたけはあまりにおいがしませんが、原木しいたけはクヌギやコナラの樹液を吸いながら成長するので発酵してしまい、かなりにおいが強くなります。ですから、昔はネットに入れて売られていました。私どもは、年に数回、不定期で「きのこ便り」を作成して、こうしたきのこの食べ方、見方などをPRしています。
◇杉を使用したきのこ栽培
  • 原木しいたけは、昭和20年代に、国策で広葉樹を切って、杉やヒノキを植えたのをきっかけに、栽培規模が拡大されてきました。今、杉は使われず放置されており、花粉症だけが広がってしまいました。

  • 人は酸素を吸って二酸化炭素を出して生きています。人が1年間に吸う酸素の量は、50年の杉16本が出すのと同じくらいだといわれています。山の木々は、二酸化炭素の缶詰だと思ってください。それを切って燃やすと、また二酸化炭素が出てしまいます。また、杉は、30年くらい経つと、酸素を出す量が減ります。そこで、日本の杉を何とか使おうと、鳥取県では循環型栽培を進めています。杉のおがくずを菌床の培地にしてきのこを作り、杉の成分を壊してから畑に入れ、白ネギ、らっきょう、にんじん、ブロッコリー、さといも、やつがしらなどの野菜を作っています。

  • 杉を2〜3年雨にさらして油分を揮発させ、おがくずにする方法は、広い面積が必要で経費もかかります。そこで、生材を使うことにしました。それに合う菌を開発して、今、やなぎ松茸、エリンギ、パールマッシュ、ヤマブシタケは、杉100%で作ることができます。100本の杉の中にヒノキが2本あると、きのこが生えません。ヒノキは葉を魚の下に敷いたりヒノキ風呂に使ったりすることでも知られている通り、抗菌材で、きのこにとっては困った存在なのです。でも、製材所の方が儲からないと循環型になりませんから、今、30%ヒノキを混ぜても作れる品種を開発しています。
◇菌床きのこの栽培方法
  • 菌床のきのこが、広葉樹のおがくず100%でできていると思われている方はいないと思います。数年前は回収された古紙がエノキの材料になりました。家を壊したあとの木材はシロアリ駆除がされているので使えません。

  • 培地には、栄養剤として、米糠、小麦ふすまが入っています。かつて、小麦ふすまは奈良県産がほとんどでしたが、外国産が多くなりました。糠も国産は高いので、以前はタイから輸入していました。輸入したスイートコーンの芯や葉を使っているところもあります。原料の90%は外国から来ている、といっていいかもしれません。残りの水と空気は日本のもの。こうしてコストを下げています。

  • 東日本大震災に伴う原発事故以降、広葉樹は切れなくなってしまいました。そこで、マイタケは、4〜5年経ってもうきのこが出なくなった原木しいたけのほだ木をおがくずにして、ふすまなどの栄養剤を入れて作っています。マイタケのあとは、ヤマブシタケ栽培に使えます。

  • 広葉樹を切るのは自然破壊だという意見もあります。でも、切ると、翌年の春に新芽が出ます。それをまた20年育てて切る。こうして20年ごとに若返りを図ると、酸素を出す量が多くなります。

  • 3年前から公共事業が減り、建築業界がきのこ栽培に参入するようになりました。おがくずを粉砕して自分で培地を作り、糠などの栄養剤を入れて、半年くらい掛けてきのこを採っている事業者もいますが、多くは中国で培地を作って輸入しています。最近、中国産の生しいたけを見かけなくなったと思いますが、消費者庁には「長いところルール」というのがあり、1日でも長く中国にあったら中国産、1ヶ月で輸入して日本に2ヶ月あれば日本産になります。中国では、培地に農産廃棄物を使っており、おがくずはまず入っていないと思います。
◇しいたけの見分け方
  • 中国産の菌床しいたけと日本産の原木しいたけがあったら、コップの水にそれぞれつけてみてください。原木しいたけは3日経っても水が透明のままです。菌床は、黒、赤、黄緑、黄色など、水の色が変わります。きのこはさまざまなものを吸い上げて成長するので、培地が何かによって色が変わるわけです。色が変わったからといって、そのきのこを食べても問題があるわけではありません。

  • 干ししいたけは、中国で作れば中国産、日本で作れば国産です。研究所で調べれば、99.9%産地がわかりますし、菌床か原木かもわかります。以前、国産として販売されていた干ししいたけが中国産だったことがわかり問題になったことがありますが、原料のしいたけが中国産でも、日本で生産されれば流通上は国産になります。コップに水を入れて、干ししいたけをつけておくと、国産は夏場だったら5日くらいでカビが生えます。中国産は1ヶ月経ってもカビは生えません。
◇しいたけの品種について
  • しいたけには、山での栽培、ハウスでの栽培と、いろいろな作り方があります。山で採ったものとハウスのきのこでは、だいぶ食感が違うと思います。

  • 日本には、原木しいたけだけでも50種類くらいの品種が流通しています。菌興椎茸の場合、しいたけの品種は100番台から700番台まで分かれています。厳寒期に出てくるのが100番台、晩秋から出てくるのが200番台、紅葉の頃が300番台の菌です。

  • 世界中の自然に発生したキノコを集め、たとえば真夏の35℃以上で栽培するキノコは、高温に耐える キノコを選んで掛け合わせ、15〜20年かけて品種を作りました。

  • 菌を植えてから約1年間待って、初めてきのこが原木から出てきます。山で採るものは、2年間待つ必要があります。

  • 12〜3月は、山から採ってきたきのこのほうが、味が凝縮されていておいしいと思います。
◇その他
  • ヤマブシタケは、昔から中国では滋養強壮作用があるといわれているきのこで、水につけると墨汁のように真っ黒になります。ヤマブシタケが大根の発芽を抑制する作用も確認されており、逆に、ヒラタケ、やなぎ松茸は発芽を促進します。きのこにはそれぞれいろいろな機能があり、野菜との相性も研究が進められているところです。まだこれからの分野ですが、非常に面白いと思います。

  • 国産の干ししいたけといえば大分県産というイメージがありますが、多くの方が私どもの菌を使っています。干ししいたけは、ひだがレモンのような色が一級品で、多くは乾燥機で乾かしています。そうすると、出汁をとっても、昆布や鰹に負けてしまう。鳥取では、雪の中での栽培を生かして、もっとおいしい出汁が取れる干ししいたけを作ろう、としています。今日は、天日干しを持って来ましたので、のちほどその出汁を試飲してください。干ししいたけは、冷蔵庫の中でゆっくりともどすのがベストな方法です。外気温が25℃以上になると、しいたけの中の酵素が活性化して苦くなります。今日は時間がなかったのでお湯を使い短時間でもどしました。これを明日の朝まで冷蔵庫におくと3倍くらい甘くなるはずです。水につけておく限度は5日くらいです。もどし汁を製氷機で氷にして保存すればいつでもお使いいただけます。
◇質疑応答より

    Q:培地によってきのこに違いが出るのですか?
    A:そうです。エノキダケにも菌は数千種類あるので、培地に合う中から、揃いがよくて色の白いもの、ということで品種を開発していきます。私どもは、しいたけ以外は杉と糠の培地で品種改良を進めております。原木生しいたけだけでも数万種類ある中で、日本で流通しているのは約50種類というわけです。

    Q:きのこにも品種があるとのことですが、一般の方にとっては、しいたけはしいたけ、という認識でしかないのでは?
    A:業務用の場合は、「240という品種をください」など、品種を指定して取り引きすることがあります。

    Q:原木栽培のしいたけはどういったところで違いが出てくるのでしょうか?
    A:気候によって違いが出ます。大分、石川の能登、鳥取、静岡では、全部味が違います。鳥取のしいたけは雪の中に閉ざされて、一気に大きくなるので、やわらかいのが特徴です。気温が高いと早く大きくなる。九州では、2週間くらいで成長します。早く成長するものは、ヒビが入りやすい。いわゆる、「どんこ」です。空気が乾燥していると、コリコリした食感のしいたけになります。大分のしいたけでも、50〜60年の杉の中のしいたけや、標高が高いところのものは鳥取に近い食感で、落葉樹のところのものはコリコリしていると思います。

    Q:きのこを冷凍すると味が変わる気がするのですが…?
    A:きのこを冷凍すると、縦と横の繊維が分解され、アミノ酸が出てくるので、おいしさが増します。気をつけなくてはいけないのは、できるだけ空気に触れないように(酵素を活性化させないため)、冷凍庫から出したらすぐ料理に使ってください。私どもは業務用に冷凍生しいたけも作っていますが、それは冷水の中で解凍してもらっています。

    Q:きのこの保存方法は?
    A:ピープラスという袋は、きのこの呼吸量を計算して作ってあります。きのこがゆっくりと呼吸でき、冬眠状態になるので、袋は捨てずに、きのこが余ったらこの袋に戻すと長持ちします。パックに入ってぴったりとラップをかけられたきのこは、呼吸できず酸欠状態ですから、出して野菜袋に入れたほうがいいでしょう。また、きのこはほぼすべて23〜25℃で作っています。何度も冷蔵庫から出し入れすると、ストレスを感じて傷んでしまいます。呼吸ができる状態で、できるだけ一定の温度で保管してください。

 

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