■2015年9月13日 第6回 アジアン野菜 〜 講演「アジアン野菜」について 「ふじえん菜実季」店主(元東京青果
八百屋塾担当) 東海林邦子氏 |
◇はじめに |
- 私は2007年(平成19年)まで東京青果に勤務し、2008年(平成20年)に大田区の下丸子で八百屋を始めました。
- 東京青果に入社したのは1983年(昭和58年)です。大田市場に移転する前の1988年(昭和63年)頃、会社の人から無料の招待旅行の権利を譲り受け、初めてタイに行きました。海外旅行すら初めてで、きらびやかなチェンマイのナイトマーケットにすっかり魅せられてしまいました。ただ、お金の感覚もまったくわからない状態で行ったので、不完全燃焼で終わってしまい、絶対また来よう、と決意して、その翌年からタイにはまりました。それから15年間ぐらいの間、年に1〜2回はタイに行っていました。
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「ふじえん菜実季」店主
(元東京青果 八百屋塾担当)
東海林邦子氏
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◇アジアン野菜普及の経緯 |
- 1980年(昭和55年)代、アジアン野菜は日本ではまだめずらしいものでした。当時、東南アジア系の外国人の方がたくさん日本に入ってきたので、どちらかというと、そういう方々向けのものでした。
- 1990年(平成2年)代になり、急速な円高で海外旅行をする人が増加。旅行形態もパッケージツアーからフリーなスタイルに変化しました。また、バブル崩壊で欧州ではなく東南アジア諸国が見直されるようになりました。当時のタイ航空のコマーシャルで、「タイは若いうちに行け」というキャッチコピーが出て、バックパッカーが行くようになったり、年配の方がリタイア後の人生を楽しむために行ったりと、いろいろなパターンで、タイを始め東南アジア各国を訪れる人が増えました。
- 2000年(平成12年)に、第一回タイフェスティバルが代々木公園で開かれました。私はその頃、タイ料理を習っていたのですが、料理教室の先生が出店するというので、代々木公園に行きました。当時は手作り感満載のこぢんまりとしたイベントで、来場者は2日間で3万人だったそうです。年々人気が出て、昨年は35万人もの来場者があった、と聞きました。タイ政府観光庁が主催していますが、東京でのイベントが人気のため、名古屋や大阪などでも同様のフェスティバルが開催されるようになり、裾野がさらに広がっているような気がします。
- 2010年(平成22年)頃から販売されているイナバのタイカレー缶詰をご存じでしょうか。コンビニで100円くらいとリーズナブルな価格ですが、イナバの工場がタイにあるという関係で、けっこう本格的な味のシリーズになっており、人気があります。また、最近は、お弁当屋さんやコンビニのお弁当に、鶏肉とバジルの炒め物をごはんにのせたタイ料理「ガパオ」があるのも見かけます。
- かつてはタイ料理教室も少なかったのが、今ではたくさんありますし、スーパーでキットで売っているものや、レトルトの商品も増えて、日本人でも手軽にタイ料理が作れるようになっています。
- 現在、年間130万人が日本からタイに行っているそうです。タイから日本へ来る人も65万人と増えていて、ますます交流が盛んになっています。こうした背景にともない、アジアン野菜が日本でも普及してきた、と考えられます。
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◇青パパイア |
- 青パパイアは、パパイアの未熟果です。完熟させればフルーツとして食べることもできますが、品種によっては、それほどおいしくないものもあります。
- 完熟パパイアのタネは黒いのですが、未熟なパパイアには白いタネが入っています。ときどき中が空洞のものもあります。パパイアには、雄、雌、両性の3つの株があり、園芸用の品種は両性で雌雄の花が咲くようになっているのですが、在来種は雄株と雌株が別で、両方ないと受粉しません。雌株だけの場合、中が空洞になります。味にそれほど変わりはありませんが、果肉が薄いようです。
- 青パパイアは、タイ、ベトナム、カンボジアなど、インドシナ半島のあたりでよく食べられています。料理法は、サラダや炒めものにするのが主流です。沖縄でも、炒めもののパパイアイリチー、スープ、漬物などに使われています。
- タイでは、鉢を使って、青パパイアのせん切りをたたきながら和えて「ソムタム」という料理にします。「ソムタム」は、「カオニャオ」(もち米)、「ガイヤーン」(鶏を焼いたもの)と並ぶ、タイ東北部、イサーンの伝統的な料理です。
- パパイアには、パパインという酵素が含まれており、健康食品としても注目されています。今後、健康野菜として、より一層注目されるようになるのではないでしょうか。
- パパイアは、害虫の問題があり、タイからは輸入できません。フィリピンからは輸入されています。国産のものも出回っています。
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◇空芯菜 |
- 空芯菜は、東南アジア一帯で広く食べられている青菜です。名前の通り、茎が空洞になっています。水の多いところで栽培されており、空洞なので水に浮かぶことができます。
- 「空芯菜」は登録商標らしく、日本では「エンサイ」、「アサガオナ」、「ヨウサイ」などの名前でも出回っています。フィリピンでは「カンクン」、タイでは「パックブン」と呼ばれています。
- 温度が高くても栽培できます。また、空芯菜を栽培することで水質が浄化するという話があり、千葉大が手賀沼で試験を行っています。
- カロテン、鉄分、カルシウムなどが豊富で、栄養価の高い野菜です。鉄分があるので、炒めてから時間をおくと色が変わってしまい、注意が必要です。
- タイ中部のピサヌロックという地域では、「空飛ぶ空芯菜」といって、野外で、炒めた空芯菜を投げてキャッチする、という有名なパフォーマンスをしているところがあります。
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◇カイラン |
- カイランはアブラナ科の中国野菜です。結球はせず、「チャイニーズブロッコリー」、「チャイニーズケール」などとも呼ばれています。茎の部分の味がいいので、よく炒め物で食べられています。タイでも中華系の店にはたいていあり、カリカリに揚げた豚肉といっしょに炒めたメニューが定番です。
- 日本では、2008年(平成20年)頃から急に入荷が増えているのですが、おそらく、武蔵野種苗が「たからみどり」という品種を出したことにより、茨城県で作付けが増えたためではないかと思われます。昔は高級な野菜でしたが、だんだん普通になってきました。
- 今日は、カイランのかわりに、サカタの「ハブリーナ」という野菜が並んでいます。カイランとブロッコリーに、カイランを掛けたもので、見た目はほぼカイランと同じです。ちなみに、サカタの「スティックセニョール」は、カイランとブロッコリーに、ブロッコリーを掛けたものです。取り扱い上、黄色くなってしまうのだけ気をつければ、日本人にもなじみやすい野菜で、エスニック料理ではなくても、ナバナの一種として、お浸しにしてもおいしく食べられます。
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◇シカクマメ |
- 「シカクマメ」は、ひだがあるため、別名「ウイングビーン」。沖縄では、「うりずん」と呼ばれています。よく見ると、いんげんやさやと同じように、両サイドに筋があります。
- 暑さに強く、クセがないので、日本人にも親しみやすいのではないでしょうか。タイでは生のまま、ナムプリックという辛いみそをつけて食べます。生だと日本人には抵抗があるかもしれませんが、ゆでれぱ、いんげんと同じようにして食べられます。スライスしたときの形が面白いので、それを生かした料理にしたり、1本丸ごと天ぷらにするとボリュームたっぷりになります。
- 私が会社に入った頃からある野菜なのですが、あまり普及していません。もう少し見直されてもいい野菜だと思います。
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◇ニガウリ |
- アジアでよく食べられている「ニガウリ」は、ライチがツル状になったようなものということで、別名「ツルレイシ」、沖縄では「ゴーヤー」と呼ばれています。
- 1990年(平成2年)に、沖縄本島がウリミバエの根絶を成し遂げました。当時、役員が、「根絶おめでとう」と、祝電を打っていたのを覚えています。1993年(平成5年)には八重山まで全部いなくなったということで、ゴーヤーが沖縄から本土に入ってくるようになりました。その後、2000年(平成12年)の沖縄サミット、2001年(平成13年)のテレビ番組「ちゅらさん」でゴーヤーマンが登場したことなどにより、ゴーヤーが足りないほどの人気になりました。1991〜92年(平成3〜4年)頃、産地の方がゴーヤーの宣伝にいらっしゃって、ゴーヤージュースを飲ませてもらったことがあり、当時は、「これを飲む人がいるのかな」と思いましたが、今や普通になりました。最近は各自治体が省エネ対策の一貫で、緑のカーテンとしてゴーヤーの栽培を奨励しているので、さらに身近になっているのではないでしょうか。
- 主な産地は、南の地域と、夏場の関東地方です。
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◇パクチー |
- エスニック料理になくてはならない野菜で、今、最も流行っているのが「パクチー」です。都内にはパクチー料理を売りものにした専門店がたくさんあり、一過性かと思いましたが、意外にブームが続いています。
- タイ語では、「パクチー」。「コリアンダー」、「香菜」、「シャンツァイ」も同じものです。かつては中国野菜として捉えられていたので、「香菜」、「シャンツァイ」と呼ばれていましたが、最近はタイ料理のほうがメジャーになってきて、「パクチー」と呼ばれることが多くなった気がします。「コリアンダー」は種子を指すことが多いようです。コリアンダーシードはスパイスとして、インドを始め、さまざまな国で使われています。
- 非常に歴史の古い野菜で、紀元前のエジプトでは、病気を防ぐと考えられていたようで、亡くなった方といっしょにコリアンダーを入れて葬った、という話もあります。
- 日本に入ってきたのは鎖国前で、当時はポルトガル語で「コエンドロ」という名前でした。また、そのにおいから「カメムシソウ」とも呼ばれていました。
- タイでは、パクチーの葉っぱも使いますが、一番重要なのは根っこです。にんにく、ブラックペッパーといっしょにパクチーの根っこをつぶしたものがスリースパイスペーストで、タイ料理の味つけのもとになります。これを肉にすりこんだり、他のペーストを作るときにも、これをベースに使います。日本では、根っこを切って売っていることが多いのが残念です。
- スープを作るとき、パクチーの茎を入れると、におい消しになります。
- 「パクチーファラン(西洋パクチー)」は、パクチーよりややかたく、さらに強烈な香りがします。日本名を「オオバコエンドロ」といい、セリ科ヒゴタイサイ属の植物です。パクチーはセリ科コエンドロ属なので、まったく別の植物ですが、香りが似ているので、どちらもパクチーの一種として扱われています。タイやベトナムで、よく使われています。
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◇その他のアジアン野菜や調味料 |
- 「バイ・ガパオ」、「バイ・ホーラパー」はどちらもバジル類です。ガパオはホーリーバジル、ややかためで、鶏肉と炒めるのが一般的です。ホーラパーはスイートバジル、比較的やわらかくて香りが強く、アサリと炒めたり、サラダに入れたり、カレーに浮かべたりもします。
- トムヤムクンに欠かせないのが「レモングラス」。レモンの香りがするハーブで、タイでは「タックライ」と呼ばれています。スープに入っているレモングラスは食べませんが、細かくすってペーストに使ったりもします。ベトナム料理では、細かく切って炒め物に入れて使います。
- こぶみかんの葉、「バイ・マックルー」も、トムヤムクンには欠かせないハーブのひとつです。果実は名前の通り、ボコボコした柑橘で、果皮はカレーのペーストに使います。タイのさつま揚げ、「トートマンプラー」や「トートマンクン」にも、バイ・マックルーを細かくしたものが入ります。蒸し物などにも使われます。
- タイで使われているしょうがには、「カー」「キン」「カチャイ」の3種類があります。日本でも使われているしょうがに近いのが「キン」。「カー」はさわやかな香りで、辛みがなく、トムヤムクンには欠かせません。「カチャイ」はごぼうのような香りがするしょうがで、魚とよく合います。そうめんのような麺を食べるときのタレにもよく使います。日本でカチャイが手に入らないとき、しょうが、みょうが、ごぼうを細かく刻んで使うと、似たような風味になります。
- 「プリック・キーヌー」、「プリック・チーファー」はタイの唐辛子です。プリック・キーヌーは激辛です。タイ語でプリックは唐辛子、キーヌーはネズミの糞という意味です。
- 「プリックタイ」はこしょうのこと。日本では「ゆずこしょう」のように、唐辛子のことをこしょうということがありますが、タイでは逆にこしょうのことをプリック(唐辛子)といいます。
- タイに行くと、ナスが薄めの紫、白、黄色ととてもカラフルで、日本のような濃い紫色のなすはあまりありません。「マクア・ポ」はアクがないので、生で食べられます。
- 「ホムデン」は、赤ワケギ。刻んで和え物に、つぶしてペーストに、揚げてスープやサラダのトッピングにと、何にでも使われます。
- 果物は、今日は、「ドラゴンフルーツ」と「スターフルーツ」が並んでいますが、タイでは、青いマンゴーも食べられています。砂糖と唐辛子を混ぜたものや、甘辛いタレをつけて食べるなど、日本人が見るとちょっとビックリするような食べ方もされています。タイのスーパーに行くと、ザボンの皮をむいて果肉だけパックになっていたり、タレや唐辛子がセットになって売られていたりと、サービス満点で、すぐに食べられるようになっています。
- 「タマリンド」という木の実は甘酸っぱい味で、調味料に使われます。これを使ったお菓子もたくさん売っています。
- 「福耳」は、サカタのタネから出ている、生食用のジャンボとうがらしで す。辛みをいかしてエスニックなサラダや薬味に使えますし、果肉が厚く、炒めものにしてもいいと思います。
- 日本に紹介されていないものもまだまだありますが、今日は、日本で手に入るようなアジアン野菜についてお話ししました。これから、温暖化といわれており、今までのものが栽培できなくなったら、こうした野菜を日本で栽培することも視野に入れたほうがいいかもしれません。
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