■2011年3月13日 第12回 修了式 〜 講演「野菜・果物の機能性」 女子栄養大学 教授 五明紀春氏
◇食物の「機能性」とは
  • 「機能性」という言葉は何を指しているのか。「機能=働き」で、食べ物の場合には、3つあります。

  • 1つめは、生命を維持する働き。これが、「栄養的機能」です。

  • 2つめは、おいしいなとか、食べてよかったなとか、私たちの感覚を充足させる働き。これは、食べ物の重要な働きです。あまりのめり込みすぎると、医者に行く羽目になったりしますが、これを、「嗜好機能」といいます。
女子栄養大学 教授 五明紀春氏
  • 3つめは、「生理機能」。これが今日の本題で、身体の調子をよくする働き。ひいては、病気を予防する、あるいは、病気の予防につながる働き。さらには、健康を増進する働き。生命を維持することにおいては、不可欠とはいえないけれど、人生を充実して健康的に送っていくためには、非常に重要な働きです。野菜や果物には、そういう働きを持つ、いわば、薬的な成分がいろいろと含まれています。
◇日本の野菜・果物の消費量は減少傾向にある
  • 日本国民の、野菜・果物を食べる量は年々減っています。

  • 今から15〜16年前、それまで日本人に比べて野菜を食べる量が少なかったアメリカに、1人当たりの食べる量で逆転されてしまいました。これは大変だと、野菜、果物をもっと食べよう、というキャンペーンが、10数年にわたり、繰り広げられてきたわけです。 アメリカ人がなぜそんなに野菜を食べるようになったのかというと、1977年に、マクガバン・レポートという報告書が出ました。アメリカ人の食事がでたらめだったので、上院でいろいろな目標を定めた。その中に、野菜や魚をもっと食べよう、というのがありました。アメリカは、約30年にわたって、野菜をたくさん食べよう、というキャンペーンをして、15年ほど前に日本を追い抜いた、ということです。

  • 日本人の野菜の消費量が減った理由のひとつは、生で野菜を食べるのが普通になり、煮て食べなくなってしまった。生だと、一見、野菜をたくさん食べたように思うのですが、たいして食べていない。煮野菜をもっと食べるようにするにはどうしたらいいか。私ども女子栄養大学では、卒業生が、お惣菜産業に対して、煮野菜を中心としたレシピを開発して提供するなど、さまざまな取り組みを行っています。これが大きな流れになってきており、今後、野菜をたくさん食べるようになるといい、と思っています。
◇日本食品成分表に掲載されている野菜について
  • 「日本食品成分表」には、日本人が普段平均的に食べている、2000近い食べ物の成分が掲載されています。政府の責任で、5〜6年に1度ずつ改訂、発表されています。この中に掲載されている野菜類は155種ですが、同じ大根でも、切り干しやたくわんなど、いろいろあるので、野菜関連品目となると、326品目になります。

  • 野菜は、色の濃い緑黄色野菜と、あまり色が濃くない淡黄色野菜に分けられます。非常に大事な分け方で、ベータカロテンあるいはカロテンを基準にしたビタミンの含量で区別しており、できれば、緑黄色野菜をたくさん食べよう、ということです。

  • 155種の野菜はみんな同じなのでしょうか。葉や根という違いもありますが、もっと大きな違いは、氏素性が違う野菜、ということです。例えれば、猫と犬ぐらい、生物としては縁の遠い存在が、「野菜」で十把一絡げになっている。これが、みなさんの扱っている商品です。

  • 日本人は、アブラナ科の野菜を、世界でも最も多種類食べている国民だといわれています。成分表に載っている野菜のうち、アブラナ科は38種類あり、全体(155種)の約1/4くらいになります。ですから、みなさんの扱っている野菜のうち、かなりの量はアブラナ科だということになります。次に多いのがネギ科(旧ユリ科)の野菜で、19種、全体の1割くらいです。その他、いろいろな科の野菜があり、その順位は時代とともに変わっていきます。科が違えば、当然、それらの野菜に含まれる薬的な働きをする成分も、大きく違います。
◇「科」と「属」について
  • 成分表に載っている野菜の科は、全部で27科にわたっています。アブラナ科の中に、アブラナ属、ダイコン属というように、「科」の中に、「属」があります。

  • 地球上で今までに見出されたアブラナ科植物は非常に多く、全部で380属あります。そして、各属に種(しゅ)があり、約3200種類。ところが、成分表に載っているアブラナ科の属は、6属です。そして、日本人が普段食べている種(しゅ)は、たった38種類。つまり、380属の中から6属、3200種類の中から38種類しか食べていません。ほかのものは、野草として、物学者の目にはとまっていても、われわれの目にはとまっていない。そのような、名もなきアブラナ科の植物が非常にたくさんあるわけです。

  • 380属、3200種もあるアブラナ科の植物をどうして全部食べないのかというと、われわれの祖先は、気が遠くなるほどの長い時間をかけて、タネをまいては育て、まいては育て…と、選抜し、最も優良かつおいしい品種、われわれ人間が好む品種に育ててきました。非常に厳しい高い倍率を乗り越えて、選りすぐられたものがみなさんのお店に並んでいるということを、深く認識していただくことが非常に大事だと思います。

  • 概して、野生の野菜というものは、渋くて、苦くて、筋っぽく、食べにくいものです。見た目もよくありません。江戸時代の飢饉のとき、道ばたで行き倒れる人がたくさんいた、という記録が数多く残っています。お腹が減っているのに、どうして道を歩いていて倒れたのか、というと、道ばたで雑草を食べたせいと考えられます。雑草にはカリウムが多く含まれています。カリウムはえぐみ成分のひとつで、とりすぎると、心臓がショックを起こしてしまいます。よって、空腹で倒れたのではなく、カリウム過剰摂取で倒れた、というのが、現在の栄養学者たちの推測です。

  • ネギ科(旧ユリ科)は約500属、3000種。その中で、19種が成分表に載っています。19種のうち、18種をネギ属が占めています。アスパラガスだけは別の科です。

  • 科、属、種というのは、植物分類学的な野菜の見方です。果物も同様の見方ができます。
◇野菜と果物の違い
  • 野菜と果物はどこが違うか。スイカ、メロン、イチゴは、出荷統計では果物ではなく野菜になっています。それは、木になるか、草になるかの違いです。

  • 野菜は全部、草です。木になるような野菜はありません。スイカ、メロンはウリ科の野菜です。

  • イチゴは、リンゴ、モモ、ナシと同じように、バラ科なのですが、バラ科の植物には、木になったものと、草のままで地面を這うものに分かれており、イチゴは草なので野菜です。植物の分類学も一筋縄ではいかないところがありますが、出荷統計では明確な区別をしています。

  • 果物を食べるとビタミンCがとれる、とよくいわれます。しかし、現実に、日本人がビタミンCを一番とっているのは、野菜からです。

  • 野菜と果物を栄養学的に比べると、果物は糖分があるので、エネルギーになります。野菜のビタミン、ミネラルといった重要な微量栄養素に関しては、野菜を薄めたものが果物。ドライフルーツにすると、含量が野菜に近くなります。
◇「健康日本21」について
  • 「健康日本21」は、2000年に始まった10年がかりの国家プロジェクトです。野菜を1日350g、緑黄色野菜を120gと摂取目標を定めました。しかし、10年経ってどうなったかというと、スタート時点よりも、ほとんどの項目について、数値が悪化しています。2005年時点のものが2007年に中間報告として発表されて、このとき既に、あらゆる項目が悪化していました。そこで、食育基本法や栄養教諭の導入等が声高に叫ばれ、離乳から始まって、保育、幼稚園、小学校、中学校…、という行動習慣の形成期の子どもたちに対して、きちんとした食べ方を教えていこう、ということになりました。

  • 食育は、地域の八百屋さんなどにお願いして、学校で行います。八百屋塾を修了された方には、地域の食育活動に積極的にご参加いただいている方もいらっしゃるのではないでしょうか。非常に意義のあることだと思います。

  • この赤字財政の中で莫大な費用を使って、全く反対の結果をもたらすようなプロジェクトを10年展開したという、厳粛な事実をわれわれは噛みしめる必要があると思います。「野菜をもっと食べなさい」と、口で言うのはやさしいですが、そう簡単にはいかない、ということです。
◇野菜の抗酸化作用
  • 野菜は、葉、根、実と、食べる部位によってずいぶん性格が違いますが、葉野菜を例に挙げてお話します。葉野菜は、日光を浴びて育ちます。紫外線をたくさん浴びますから、人間なら、日焼けして真っ黒になります。人間は葉と違い、防御機構が不完全なので、紫外線の多い日光を毎日浴びていると、皮膚ガンになります。植物は、葉が紫外線を浴びることによって、組織の中に活性酸素がたくさんできます。これをそのままにしておくと、組織が壊れ、葉がやられてしまいます。いわば、組織のガンのようなものです。これを防ぐために、活性酸素を消去するシステムが備わっています。それが、野菜の葉に共通的に見られる抗酸化成分で、抗酸化というのは、活性酸素による酸化作用に抵抗するということです。すべての野菜、特に、葉に濃厚に含まれています。

  • 葉野菜をたくさん食べるということは、抗酸化物質をたくさん食べる、ということを意味します。では、人間にはどういうメリットがあるのか。抗酸化物質は、病気を予防する上で非常に大事なものだということが、ここ10数年の間に、解明されてきました。葉野菜には、酸化に抵抗し、活性酸素の害を抑える成分が含まれている、ということをしっかり覚えておいてください。

  • 呼吸で入ってきた酸素のうちの1〜2%が人間の身体の中で活性酸素に変わります。呼吸代謝という目的のために、少し元気のいい酸素をわざわざ作り出す。それを、活性酸素と呼んでいます。普通の酸素も、紫外線が当たると、活性酸素に変わります。これが、植物の組織、あるいは、人間の身体を傷めるおそれがあるわけです。

  • 活性酸素が作られると、それが細胞を傷めて、あるものはガン細胞になり、あるものは機能に障害を起こします。細胞の老化を早めたり、糖尿病などのさまざまな生活習慣に関わる病気の引き金を引く。つまり、活性酸素は寿命を縮めるわけです。その寿命を縮めるものと、われわれは身体の中で共存している。そこで、活性酸素の働きをほどほどに抑えるために、われわれは、食生活の上での工夫が必要になってくるのです。

  • 「活性酸素」と聞くと、元気のいいよい酸素のように思えますが…。活性酸素は、いわば、暴走族。取り締まるパトロールが必要です。人間の身体の中で、そのパトロール役をするものが、食べ物から供給される抗酸化成分です。抗酸化成分の1つは、ビタミン類。中でも、抗酸化ビタミンといわれるのは、ビタミンCとE。これが重要です。ビタミンCは野菜にたくさん含まれています。ビタミンEも、一部の野菜に含まれていますが、木の実、あまり精製していない穀類、豆類などに多く含まれます。ビタミンCとEがパトロール役で、もっと詳しくいうと、ビタミンCは体液に溶けて働いており、ビタミンEは細胞の膜の組織の中に組み込まれて存在し、活性酸素による害を抑えています。

  • 抗酸化成分には、ビタミン類以外のものもたくさんあります。野菜の中に数多くの成分がみつかっており、その中の代表選手が、ポリフェノール類です。どんな野菜も、生で食べると、若干の渋みや苦みがあります。原生種の名残をとどめているわけです。これがポリフェノール類で、たくさんの種類があります。だいたいが水溶性です。カロテノイドは油に溶ける抗酸化成分です。その一部がベータカロテンで、ニンジンやカボチャなどの黄色い色の主体になっているものです。ベータカロテンは、身体の中で一部がビタミンAにかわります。ベータカロテン、あるいは、カロテノイドそのものが身体の中に入ると、油に溶ける抗酸化成分として、ビタミンEに相当する働きをします。ポリフェノール類は、ビタミンCに相当する働きです。野菜類には、ポリフェノール類とカロテノイド類の両者が含まれ、この協調の中で、活性酸素の暴走を食い止める、ということです。われわれは健康を保つために、身体の外から、食べ物の成分として、絶えず、抗酸化成分を含むものを供給する必要があります。よって、野菜の機能として、抗酸化作用は非常に重要だということです。
◇アブラナ科の野菜について
  • アブラナ科アブラナ属には、カブ、キャベツ、小松菜、野沢菜、白菜など、われわれが葉野菜としてイメージするものの多くがアブラナ属です。これらは、生で噛むと、ピリッと辛みを感じます。これがおいしさの元でもあるのですが、生のものを壊すことによって、その辛み成分ができてきます。

  • よく、血液をサラサラにする、という言い方をしますか、アブラナ属の辛み成分には、身体の中の血のかたまりやすいものをかたまりにくくする、という働きがあります。

  • 生のものを噛むと、組織の中の酵素が働いて辛み成分ができますが、丸ごと煮ると、辛み成分はできてきません。酵素が失活してしまうので、辛み成分を作り出すことができない。ただし、辛み成分の元になるものはそのまま保たれ、身体の中に入って、発ガン物質の解毒をするということも、研究の結果、わかってきています。

  • アブラナ科ダイコン属には、いろいろなダイコンがありますが、これも辛い。アブラナ属と共通の特性を持っています。

  • 究極のアブラナ科は、ワサビ属です。すべてのアブラナ科野菜が持っている特徴を濃縮すると、ワサビのように辛くて辛くてたまらなくなる。その程度を適当に調節したものが、アブラナ属であり、ダイコン属になっている、と理解してください。

◇ネギ科(旧ユリ科)の野菜について
  • ネギ科(旧ユリ科)ネギ属は、ネギ、ニンニク、タマネギなど。これらは、生のものを切り刻むと、ツーンとくる辛み物質を作り出します。血液をサラサラにする、動脈硬化を抑えるといったことが知られてきました。また、殺菌力もあります。よく、生タマネギを刻んだものを、生の肉や魚に添えたりします。ワサビなどのアブラナ科も、物質の種類が違うのですが、殺菌力があります。寿司のワサビは、食中毒を起こしやすそうな生ものにワサビを握りこんで、殺菌ガスをごはんの間に行き渡らせて腐敗を抑える。昔からの知恵ですね。江戸時代の人たちがそういうことを知っていたかどうかわかりませんが、現代の科学で証明されています。

  • ロシアの民間伝承に、風邪をひきそうになったら、タマネギをみじん切りにして、その上に顔を伏せて、深呼吸する、という方法があります。催涙ガスが出て、鼻水や涙がダラダラ流れるはずですが、殺菌ガスでもある。それによって、風邪を予防します。
◇キク科の野菜について
  • キク科の野菜は、世界に900属、2万種類。植物種のうちで、おそらく、最も種類が多いのはキク科の植物でしょう。日本では70属、350種以上が知られています。成分表では9属、17種を掲載しています。

  • 代表的なキク科野菜は、アキノノゲシ属のレタス、キク属の春菊。ゴボウもキク科ゴボウ属の野菜です。ただし、食べるところは根。戦中、日本軍の捕虜になったイギリス軍兵士が、根(ゴボウ)を食べさせられ虐待された、と記録に残っているといいますね。日本人にとってはたいへん馴染みのある、おいしい野菜として、食べられてきたものです。ゴボウにはモッコラクトンという名前の成分が含まれており、ガンを抑制する働きが期待できそうだ、と注目されています。

  • レタスの香り成分であるラクッコピコリンは、テルペン類の一種で、自律神経のバランスを整えるといわれています。柑橘などにも多い芳香成分です。レタスは生で食べるのが好まれますが、あのちょっとした香りに、そういう働きがある、ということです。ポリフェノールも含まれています。

  • 春菊にも芳香があります。春菊を生で食べることはあまりありませんが、春菊の香りというのは煮ても失われません。抗菌・殺菌作用のあるペリルアルデヒドが含まれています。春菊には、ほかにもいろいろと興味ある成分が含まれています。
◇セリ科の野菜について
  • セリ科の野菜は、今までに、世界で300属、3000種類ほどが知られています。成分表では6属、12種類のセリ科野菜を掲載しています。

  • セリ科野菜のトップは、なんといってもニンジンです。セリ科野菜の中のセリ科野菜。セロリ、ミツバ、パセリもセリ科です。やや子どもに嫌われそうなクセのある香りを持っています。

  • ニンジンの黄色い色素は、ベータカロテンで、カロテノイド色素。代表的な抗酸化成分です。たくさん食べると、ガンを抑える働きが期待できるということで、世界中でさまざまな疫学調査等が行われ、調査結果もそのことを示しています。

  • セロリ独特の香りは、テルペン類です。レタスのテルペンとはちょっと違うのですが、セロリの香りにも自律神経を調節する作用があるといわれています。テルペン類という香り成分は、だいたいの野菜に共通します。においの強いもの、ツーンとくるものとは違い、植物の葉っぱのにおい、組織のにおいなんです。森林浴という言葉がありますが、杉や松、檜の森の中に入って、深呼吸をしながら半日も歩くと、気分の不調は改善されます。これは、自律神経失調症改善の治療法のひとつです。テルペン類の吸入によって、身体の中の神経伝達系のホルモンが変わるといわれています。アロマテラピー、というのもテルペン類の作用を使ったものです。セロリは、生のもののにおいを嗅ぐことによって、生理的な機能が期待できます。ミツバやパセリも同様です。たくさん食べるものではありませんが、それらの香りにさまざまな働きがあります。
◇ナス科の野菜について
  • ナス科の野菜は、世界で90属、2000種分布しているそうです。日本には10数種が自生しています。成分表では3属、10種類が掲載されています。

  • ナス科には、トウガラシ属、トマト属、ナス属があり、ジャガイモはトマト属です。ジャガイモとトマトは、非常に近縁です。ジャガイモとトマトの細胞をビーカーの中に入れ、適当な条件で一緒にすると、融合します。ポテトとトマトで、「ポマト」といわれるものです。ただし、これは、残念ながら、地上がジャガイモで、地下がトマトなので、全然役に立ちません。しかし、植物学的に、非常に近縁な関係であることを示しているわけです。

  • 野菜の品種として、世界中で一番多いのがトマト。注目すべきは、赤い色素のリコピンで、カロテノイドに属するものです。リコピンは真っ赤な色で、最も強力な抗酸化成分、といわれています。活性酸素の悪さに起因する動脈硬化やガン、糖尿病等のさまざまな生活習慣病に対して、リコピンは極めて有効な成分だといわれています。従って、今、トマトの品種改良は、世界中で、どこまで真っ赤でリコピン含量の多いものにするか。また、どこまで真っ赤なトマトを原料に使って、ケチャップを作るか。これが、商品価値の狙いになっています。しかし、色の淡いピンク系のトマトもあって、それは好みですから、お好きなほうを食べてください。機能性でいうと、赤いトマトには、そういうメリットがあり、非常に注目されている、ということです。

  • ナスは、表面の色と、特有の苦みを除いては、栄養学的にあまりみるところがない、といわれます。表面の色は、ナスニンと呼ばれるアントシアン色素で、水溶性ですが、他のものとくっついているので、洗っても溶け出しはしません。ナスニンは、皮膚ガンを抑制する物質としての研究が進んでおり、実際にそれが応用されています。ナスの苦みはアルカロイド物質で、免疫機能を増強する研究がされています。生のナスを切ると色が黒くなるのは、クロロゲン酸が含まれているためです。クロロゲン酸は、空気に触れて、黒い色に変わります。クロロゲン酸も、強い抗酸化作用を持っています。

  • ピーマンは、ナス科トウガラシ属です。普通、ピーマンは辛くありません。同じくトウガラシ属に属するトウガラシは辛い。ピーマンもトウガラシも、緑、黄色、赤…と色が変わりますが、トウガラシの真っ赤な色素は「カプサンチン」で、辛み成分は「カプサイシン」。カプサンチンは赤いだけで、辛くありません。しかし、抗酸化作用が強い。カプサイシンという辛み物質は、脂肪代謝を促進します。つまり、皮下脂肪を効率よく燃やすわけです。これは、ホルモン系に関係があり、食べると血流がよくなります。ですから、エスニック料理は基本的にダイエット仕様といってもいいでしょう。辛いものを食べている国の人たちには肥満が少ない、ということもよくいわれますが、韓国の留学生に聞いたところ、最近はそうでもない、といっていました。昔は、痩せた人が多かったかもしれないが、最近は食事がアメリカ風になってきて、伝統的な韓国料理とは違うようです。また、トウガラシは、昔、日本人が戦国時代に韓半島に持ち込んだといわれていますから、料理文化としては新しいものです。
◇ウリ科の野菜について
  • ウリ科の代表的なものは、キュウリ、カボチャです。

  • キュウリは、栄養学的にも生理機能の面でも、ほとんどみるべきものはありません。ただ、さっぱりしている、歯触りを楽しむ、といういいところがあります。 キュウリには、シトリン類のイソクエルシトリンという利尿作用を持つ成分が含まれています。

  • カボチャはでんぷんを含むエネルギー食品です。基幹食料として、イモやごはんのかわりになります。穀類であり、野菜でもある。両方を兼ねているという部分は、イモとよく似ていますが、カボチャのほうが野菜的です。そういう意味では非常に便利な食べ物で、ある程度の保存も効きますから、大切にしたい野菜です。日本カボチャ(東洋カボチャ)と西洋カボチャがありますが、最近はほとんどがホクホクとした西洋カボチャです。カボチャには、ポリフェノール、つまり、抗酸化成分があり、ベータカロテンというカロテノイドもあります。その他、ビタミン、ミネラルを含んでいるのですが、特に、セレンというミネラルを多く含みます。セレンは、ビタミンEと協力して、強い抗酸化性を発揮します。カボチャの生理機能としては、このセレンというミネラルが非常に注目されています。
◇アカザ科の野菜について
  • アカザ科に属する野菜のひとつが、ホウレンソウです。一口に「緑黄色野菜」といっても、ニンジンとホウレンソウでは氏素性が全く違います。ニンジンはセリ科で、ホウレンソウはアカザ科。中身の薬的な成分もまったく違います。

  • アカザ科は、成分表では4属、5種を掲載しています。ひとつはホウレンソウ属。ビート、サトウダイコンは、フダンソウ属です。秋田名産のとんぶりは、ホウキギ属。オカヒジキはオカヒジキ属です。

  • ホウレンソウは、ベータカロテン、ポリフェノールを含む野菜の優等生です。ただ、優等生にもちょっとクセがあるように、シュウ酸が多い。最近でこそサラダ用のホウレンソウが出てきましたが、これは、品種改良されたものです。ホウレンソウにはシュウ酸が多いため、昔からゆでこぼして食べます。近頃はシュウ酸含量が少ないものが増えてきたので、ゆでこぼさずに、蒸しただけで食べることもあります。シュウ酸は、身体の中に入ると結晶になり、例えば、尿路結石を作るなどの心配があります。そこで、シュウ酸を減らすような調理法が指導されます。
◇アオイ科の野菜について
  • オクラは、アオイ科フヨウ属の野菜です。

  • 「オクラ」は、日本語ではありません。アフリカ・ガーナのトゥイ族という部族の言葉。アフリカの野菜です。

  • オクラのネバネバした成分をムチンといいます。胃壁の粘膜を保護する働きや、免疫能力を強化する働きがあり、非常に注目されています。オクラのネバネバにごはんを絡めて食べることは、いろいろな意味でメリットがあるようです。
◇シソ科の野菜について
  • 今、われわれが普通に食べているシソは、シソ科シソ属に属します。食べる量は限られていますが、特徴的な機能成分をたくさん持っています。特に、オレアノール酸というガンを抑える成分はシソにしかない成分です。シソからとれるシソ油には、αーリノレン酸がたくさん含まれています。αーリノレン酸は魚の脂、いわゆるEPAやDHAの元になるもので、αーリノレン酸を食べるというのは、身体の中でEPA、DHAを作り出す元をとる、ということになります。EPAには血液が固まるのを抑える働き、DHAには脳の機能を維持・強化する働きがあります。また、芳香成分はテルペン類です。
◇シナノキ科の野菜について
  • シナノキ科という名前を聞いたことはあるでしょうか? 野菜の王様ともいわれるモロヘイヤがシナノキ科です。野菜はだいたいビタミンやミネラルを持っていますが、あらゆるビタミン、ミネラルについて、モロヘイヤは最も含量が高い。私は以前、入学試験のように、各ビタミン、ミネラルを入試科目とみなして、野菜を偏差値で表したことがあります。総合点を出したところ、モロヘイヤがダントツで一番でした。モロヘイヤは、エジプトの王様の野菜、という呼び方もされます。

  • モロヘイヤの中の特徴的な成分としては、ガンとの関係では、イソクロロゲン酸という強い抗酸化作用を持ったものが知られています。柑橘などにも含まれるケルセチンも非常に多い。これも、ガンを抑えるといわれています。そして、オクラにも含まれているムチン。免疫機能を強化することが知られています。コレステロールを下げるとされるニコチアナミンは、モロヘイヤ特有のものです。

  • モロヘイヤの上手な調理法や、日本人の食文化の中にうまく取り入れていくようなレシピ開発が待たれています。料理が専門の方には、もっとそういう研究をしてもらうといいのではないでしょうか。
◇ショウガ科の野菜について
  • ショウガはショウガ科の野菜で、古くから、漢方、生薬で重宝されてきました。

  • ショウガの中に含まれるショウガオールやジンゲロンは、いずれも、辛みや香りに関係しており、どちらも、ガンの予防が期待されます。

  • ショウガには、殺菌作用があります。寿司屋さんでガリを食べるのは、理にかなっているということです。
◇まとめ
  • 果物も含めて、特に野菜には、あまり一般には知られていないが、既にわかっているいろいろな事実があります。八百屋塾のみなさんが、そうしたことを今後もいろいろと勉強し、野菜を見る目をさらに深くしていただきたい、と期待しています。

  • 果物の話は、時間の関係で省略しますので、別途配布した資料をご参照ください。
 

【八百屋塾2010 第12回(修了式)】 実行委員長挨拶理事長挨拶講演「野菜・果物の機能性」感想などスタッフよりベジタブル・パーティー