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■2010年9月12日 第6回 〜 講演「中国野菜」について JA遠州中央 園芸指導課 大石衛氏
◇JA遠州中央について
遠州中央農協は、静岡県浜松市の東側、磐田市が中心。南は太平洋側から、北は長野県、西は愛知県に接しており、東西20km、南北80kmの広さがあります。農協としては、それほど大きくありません。2/3が山林で、あとの1/3が農業の盛んなところです。
交通アクセスは東名高速道路、JRの新幹線が通っており、物流面でもとても便利なところにあるといえます。
JA遠州中央 園芸指導課 大石衛氏
遠州中央農協は、平成4年の10月に合併しました。主な農産物は、お茶、お米(静岡コシヒカリ)、「クラウンメロン」などの温室メロン、12月が最盛期のいちご「紅ほっぺ」など。
野菜で最も取り扱い量が多いのは、「磐田白ねぎ」です。年間約3,000トン作っていますが、すべて名古屋、大阪へ売っています。何十年か前には東京にもきていましたが、東京の人と大阪の人では、好む白ねぎが違います。関東は白い部分が長いほうがよくて、名古屋、大阪はある程度青い部分をつけたほうがいい。白ねぎの産地は、関東、青森、北海道、新潟とありますが、西のほうにはあまりありません。強いてあげれば、鳥取、大分…。で、静岡は、どうしても西寄りになるわけです。
「えびいも」も有名で、全国の8割以上は遠州中央農協のものです。年間650トン産出していますが、すべて厳しい検査を通っています。収穫できる状態になった圃場から、1株ずつとってきてもらって農協で蒸かし、中が成熟しているかどうか、検査します。合格しないと出荷できません。えびいもは高級食材ですから、お客さんにはベストの状態で届けなければなりません。そこで、1圃場1圃場すべて検査をします。1人の生産者が3つ畑を持っていたら、畑ごとに3回食味検査をして出荷しています。9月の末にいちばん早いものが出て、ピークは12月。昔は大阪が8割、東京が2割でしたが、今は5対5の割合で出荷しています。
遠州中央農協では、中国野菜を「ときめき野菜」と命名しています。中国野菜というと、どうしても中国から来た野菜、というイメージを持たれてしまう。そこで、農協のキャッチコピーに「ときめきネットワーク」という言葉を使っていることと、新しい野菜でみなさんにときめいてもらいたい、ということから、「ときめき野菜」と呼んでいます。
◇「ときめき野菜」の歴史
昭和49年、当農協の指導員が視察のため東京へ行ったときに、築地市場で青梗菜を見た。その当時はまだ「青梗菜」ではなく、「青軸パクチョイ」と呼ばれていたそうですが…。軸が厚くてしっかりしており、青い葉っぱがついていて、「これは面白い、ほかにはない野菜だ」、と。そこで、農協に持ち帰り、試験的に作ってみよう、ということになりました。
米農家さん、畑のある農家さんなどは、すでに作っているものがいろいろありますから、なかなか新しい作物まで手がまわらない。そこで考えたのが、主婦なんです。昭和54年、女性ばかり17人を集め、青梗菜の試験栽培を始めました。
青梗菜が売れてくると、女性の方1人では手に負えなくなってくる。そこで、サラリーマンの奥さんが、家事の合間にパートで手伝ってくれるようになり、さらに大きくなっていきました。
そのうち、本当によく売れるようになり、年収がお父さんの半分から2/3ぐらいまでになりました。そうなると、お父さんも、会社で頭を下げているよりは、こういう農業がこれから発展していくのであれば、自分も入ってみようじゃないか、と。普通とは逆で、女性が始めたのが少しずつ大きくなり、旦那さんが手伝うようになった。もちろん全ての農家さんではありませんが、そのようにして、ご夫婦でやるようになった方もいらっしゃいます。これが今の遠州中央の青梗菜の発端です。
青梗菜を売り込むまでには、かなりの労力を使いました。まだ青梗菜が世の中に知られていませんでしたから、当時の農協の職員が鍋とガスコンロを持って、ほとんど全国、主な都市の市場やスーパーマーケット、百貨店を回りました。消費宣伝をして実際に食べてもらって、ここまで来た。
西のほうのある市場に青梗菜を持っていったとき、「こんな味も何もない野菜、売れないよ」と言われたことがあるそうです。でも逆に、青梗菜は味が薄いので、和洋中、漬物でも何にでも使えます。軸の食感もいいし、料理がしやすい。それが、小さなお子さんがいるぐらいの30代の奥様方にうけてブームになった。いろいろな味つけの料理で、子どもに野菜を食べさせることができる。そして、どんどん売れるようになっていった、と聞いています。
青梗菜のブームに続き、ほかの中国野菜も作ろうじゃないか、ということになり、タアサイを入れましたが、「使いにくい、料理しにくい」と敬遠され、売れませんでした。2年目は、1年目が売れなかったため、量が半分以下になりました。それでも売っていれば、ほしいというお客さんがいるんです。それが3月頃のことで、3月になるとタアサイは花芽が出てきて使えない、といわれていた。でも、どうしてもほしいというので送ったところ、キロ3,000円という予想外の高値がつきました。それが、青梗菜を持っていったときに「こんなのはダメだ」と言った市場だったので、分からないものです。こうしたことから、いろいろな品目の栽培が始まったわけです。
中国野菜にさまざまな品目があることは知っていました。中国料理がブームになってきた時代でもあり、青梗菜、タアサイ、シャンツァイ、エンサイ…といろいろな品目を市場から求めらたとき、すべてうちの産地1つで対応できるようにしました。それまでは、少しずつバラバラに、それぞれの産地から集めなければいけなかった。そこで、いろいろなものを作ることにしたんです。今、遠州中央で中国野菜の品目を多数持っている、というのはそうした経過があったからです。
◇「ときめき野菜」各品種の説明
最もポピュラーなのは、「青梗菜」。春と秋が最も成育がよく、いちばん多くとれます。8〜9月、暑い時期はとれません。特に、今年のような猛暑では、なかなか難しい。今の時期に出ているのは、長野県産など涼しいところのものが多いと思います。
「タアサイ」は、冬場がおいしい野菜です。寒さに当たると甘くなるので、12月下旬〜1月、2月あたりが旬です。今の時期は筋っぽい。中国料理のほかに、お雑煮に入れるのがおすすめです。濃い緑色が鮮明に出て映えるのと、甘いのでおいしくいただけます。
香菜と書いて、「シャンツァイ」。コリアンダー、パクチーとも呼ばれます。遠州中央のシャンツァイは、葉っぱが小さいのが特徴です。シャンツァイには、葉っぱの大きいものもあるのですが、当農協では、あえて小葉を選んで作っています。なぜなら、シャンツァイは料理の主役ではなく、香りや色を楽しむ脇役ですから、小さな葉で、なおかつ香りが強いものでなければ商品になりません。大きな葉は、香りが薄いものが多い。東南アジアでは、炒め物やスープなどに、シャンツァイは欠かせない食材です。初めは強烈な香りに「なんだこれ?」と思うのですが、慣れると、「またこのスープが飲みたいな」とクセになる味です。
「エンサイ」の別名は「空芯菜」。軸の切り口を見ると、穴が空いています。芯が空洞になっているので、「空芯菜」と呼ばれています。夏野菜で、乾燥は嫌うのですが、暑さにはめっぽう強い。そのかわり、冬には弱く寒いと枯れてしまうのですが、遠州中央では、メロンの温室を使って冬場も栽培しており、周年供給できます。
「菜心(サイシン)」は、「油菜心(ユサイシン)」とも呼ばれ、大変おいしい野菜です。
「豆苗(トウミョウ)」は豆の若芽です。畑にタネを植えて、新しい芽が出てきたのを摘む。当農協はお茶の産地でもあるので、葉っぱを2枚おいて、その下を摘むという形を取っています。若くないとかたくて口の中に残りますので、いちばん若い芽をとっています。
「磐生福立菜(バンセイフクタチナ)」は、おそらく、当農協以外にはないと思います。タネはあるのでしょうが、作れない。うちでは、育苗にLED(発光ダイオード)を使って、1年中、いつでも出荷ができる体制にしています。光なので、害は全くありません。
「磐生白菜(バンセイパクチョイ」は、冬場、生で食べられます。軸がとても甘い。1年中はできません。
「磐生青菜(バンセイチンサイ)」は青梗菜の小さいものですが、ミニ青梗菜とは違います。短脚で寸胴、つまり、短くてちょっと小太りです。今、スーパーなどで売られている普通の青梗菜は、緑が薄い。磐生青菜はそれよりも緑が濃いのが特徴です。軸の下から3〜4cmぐらいのところをまっすぐに横に切って、切り口を見ると、緑のバラのように見えます。そのままゆでて皿にのせたり、何かの料理に使えるのではないか…、と提案しているところです。ちなみに、名前についている「磐生」というのは、「磐田生まれ」ということです。
「スミレ菜」は、別名を「水前寺菜」といい、葉っぱの表が緑で、裏は紫色をしています。刻むとぬめりが出てくるのも特徴です。これを使ってご飯を炊くと、きれいなピンク色のご飯になるので、婚礼用などにお使いいただいています。
「ミニ大根」と「紅白大根」は同じようなものですが、紅白大根のほうは上下が赤と白なので、婚礼用やお祝い事に使っていただいています。たくさんは作っていないので、少ない時期には高くなってしまいます。で、少し増やしていこうと考えています。
「紅心大根」は、冬場、10月ぐらいから1〜2月あたりまでが旬です。紅色がいちばん濃い品種を作っています。タネ屋さんに専用で作ってもらっているので、他の紅心大根では、この色は出ないはずです。 一般消費者が料理に使うのは難しいかもしれませんが、料理屋さんや加工屋さんが大根サラダの彩りに使っています。紅心大根の紅色はにじまないので、彩りに使える。そういった業者さんが増えていますので、当農協としても今年7町歩を計画、生産を多くしています。
「花ニラ」は、ニラのトウです。選び方は、切り口に穴が空いていないもの、しっかりとふさがっているもの。穴が空いていると、筋っぽくなっています。当農協では、花ニラ専用種を使っており、やや長めで太めです。これからの時期が旬です。
中国野菜ではありませんが、「アイスプラント」も作っています。当農協では、「潮菜(シオーナ)」という名前を付け、商標登録もしています。茨城県では「プッチーナ」、佐賀県が「バラフ」、大分県が「雫菜(しずくな)」、愛知県が「ソルティーナ」と、各産地にいろいろな名前があります。食感がよく、少し塩味がする野菜ですが、塩味がなかなか出てこないこともあり、当農協では、海洋深層水を少し薄めてかけるといった工夫をしながら、今、商品化へ向けて努力をしているところです。
いろいろな品目を作っている中で、今、力を入れているのは、「油菜心」「花ニラ」「カイラン」など、「トウ」を食べる野菜です。葉っぱではなく、そこから出てきた花芽。植物は、子孫を残すために、花を咲かせてタネをならせます。そのとき、トウの部分に栄養を集めるので、甘くておいしくなる。うまく収穫できれば最もおいしいところです。ほかにも、商品化できるかどうかは分かりませんが、いろいろなところから情報を得て、新しい野菜の研究、開発をしていきたいと考えています。
遠州中央の「ときめき野菜」は、ほとんどがパイプハウスの中で、生産者の方が苦労しながら作っています。今年は猛暑でしたから、ハウスの中は、日中温度が45℃前後にもなります。そんな中で、生産者も野菜たちも一生懸命がんばっています。
◇厳しい検査体制
どの野菜にも、「安心・安全」が求められています。当農協では、生産者がどの農薬を使ったかという生産履歴を出荷前にチェックするのですが、それと同時に、独自に残留農薬検査をしています。その検査に合格しないと、出荷はできません。
これまで、生産者が使ってはいけない農薬を使った、という例はありません。いちばん怖いのは、例えば、隣の田んぼで使った農薬が舞ってきてハウスに入ってしまったという「飛散」です。生産者本人は使っていないにもかかわらず、残留農薬検査で出てしまう。われわれは、基準値以内でもチェックして、なぜそうなったのかということまで調べています。
◇「ときめき野菜」のPR
「ときめき野菜」の消費宣伝のため、昨年は東京の貿易センタービルに2回、大阪マイドームへ1回、名古屋の国際会議場へも1回行きました。野菜を並べてアピールをする。あるいは試食をしてもらう。そういったことにより、「ときめき野菜」を全国に発信しています。
「ときめき野菜」の品目の中には、みなさんも知らなかった野菜があると思いますが、われわれにとっては、新しい野菜ではない。いったい、どこで止まってしまうのかというと、市場までは行くのですが、そこから先に行かない。これにはさまざまな事情があり、市場が悪いわけではないのですが…。農協や産地としては、なんとか、いろいろな野菜を知ってもらいたい。貿易センタービルなどで消費宣伝をすると、「国産でこんな野菜があるの? 輸入しかないと思ってた」という声をよく聞きますので、いろいろな手段を使って、アピールをしていきたいと考えています。
去年、東京のホテルオークラで開催された全国中華料理協会の総会でも、「ときめき野菜」の宣伝をさせてもらいました。そこでも、「国産のものがあるんだ」と、好評でした。遠州中央農協では、単独で、こうしたさまざまなPRをしています。
今後、まだまだ新野菜の開発をしていくつもりです。ただ、それをどう料理に使うのか、研究をしていかないと売り込めません。「この野菜、どうやって食べるの?」というのは、われわれだけでなく、この八百屋塾に参加しているみなさんのような方々にも研究をしていただきたい。こちらから情報は出しますので、みなさんからも情報をお寄せください。
今年のような猛暑の中でも、夏場、いろいろな野菜が作れるようになってきています。東南アジア系の変わった野菜が有望ではないかとも感じていますが、日本には冬もあるので、何でもいいんです。野菜の名前ではなくても、例えば、「色が紫の何か」とか、「こういう野菜はないの?」と言っていただければ、当農協としても研究をしていきたい、と考えています。
JA遠州中央は、静岡県の中でも、本当に小さな農協です。必死になって、できるだけ消費者のみなさまのご要望に応えられるような研究をしていくつもりなので、頭の片隅に、JA遠州中央の「ときめき野菜」をインプットしておいていただければ幸いです。
【八百屋塾2010 第6回】
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