■2011年2月20日 第11回 〜 講演「カブ」について みかど協和(株) マーケティング本部 椿克裕氏 |
◇みかど協和(株)について |
- みかど協和(株)は、(株)みかど育種農場と協和種苗(株)が4年前に合併してできた会社です。
- マーケティング部の仕事は、市場関係や営業のバックアップをしたり、農家の方を対象に講習会や試作をして、当社の品種を市場やさまざまな流通にのせていく、ということなどをしています。
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◇「はくれいカブ」について |
- 当社の品種に「はくれいカブ」というものがあります。千葉の柏や東庄、埼玉、青森など、カブの大産地にはあまり入っていないので、なかなか通常の流通にはのりませんが、オイシックスさんが「ピーチカブ」という名前で販売しています。この名前は、オイシックスさんが、「桃のように甘い」ということから命名してくれました。
- 「はくれいカブ」は、元祖サラダカブとして、20〜30年に発売した品種です。生で食べても、口の中でとろけるような感じで非常においしい。そこで、サラダカブと命名して発売しました。
- 「はくれいカブ」の種子は、新潟県で売れています。新潟県では、現在でも、曜日を決めて、いわゆる露天商売が行われています。タネだけでなく、いろいろなものを売っているのですが…。そこで、「はくれいカブ」は、歯の弱いお年寄りでも食べやすく、非常においしいということで、発売から30年近く経っても、人気があります。どちらかというと、直売や家庭菜園、自分のところで食べるために作っている人が多く、流通にはあまり出てきません。
- 今回、八百屋塾にお持ちしたのは「はくれいカブ」ですが、もうひとつ、「夏はくれい」というカブがあります。カブは、秋に作ったものが一番おいしくて、春もある時期まではいいのですが、暑くなってくると、変型してきます。耐暑性がないので、形が悪くなったり、割れたりしてきます。「夏はくれい」は暑さに強いカブなので、5月以降のタネまきの時期は、「夏はくれい」を使っていただき、「はくれいカブ」、「夏はくれい」の2品種を年間を通して作っていただいています。
- 「はくれいカブ」も「夏はくれい」も小カブですが、ス入りがしにくいのが特徴です。小カブは、大きくなってくると、どうしてもスが入ってくるのですが、中カブからやや大きめのカブになっても、スが入らず、おいしいができます。
- カブはいろいろな産地で作られていますが、流通しているカブの大半は、「はくれいカブ」や「夏はくれい」ではなく、軸が強いとか、耐病性があるとか、農家の方が作りやすいとか…。おいしさよりも、扱いやすいカブでないと、なかなか産地に入らないというのが現状です。そうした中で、カブの栄養価やおいしさを全面に出して販売していただき、もっとカブを食べていただきたい、と思っています。
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◇カブの来歴など |
- カブは、最も古い重量野菜のひとつで、アフガニスタンや南ヨーロッパで広がりました。ヨーロッパでは紀元前から栽培され、今では世界中さまざまなところで栽培されています。ヨーロッパでは、人間が食べるというよりは家畜の飼料として、カブが作られています。現在でも、カブは、重要な家畜の飼料野菜です。
- 日本には弥生時代に入ってきました。かなり、歴史のある野菜です。
- 関ヶ原のあたりに「カブライン」というのがあり、ちょうど、そのラインを境に、左に日本型カブ、右に西洋型カブというように分かれています。
- 一般的に食べられているのは、小カブです。中でも、金町発祥の「金町カブ」が有名で、小カブの大半が、「金町カブ」から品種改良して作られたものです。千葉県と埼玉県で非常に多く栽培されています。
- カブは春の七草のひとつです。セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロという七草のうち、「スズナ」がカブのことです。
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◇カブの旬はいつ? |
- カブの旬は秋。9〜10月にまいたカブが一番おいしい。
- 春先の早い時期、1〜3月もおいしいカブができるのですが、生産者がトウ立ちを嫌ってあまり作らなくなってしまいました。厳寒期の12〜1月は、晩中生の品種は別として、トウが立ってしまうので、春カブといっても、やや遅い、夏に近いまき方になっていると思います。
- カブは5月くらいを境に変型してきます。和ゴマのように三角になって、場合によっては、お尻や肩から割れてきたりするので、この時期は耐暑性の品種を作ってください、とお願いしています。
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◇カブの白い部分は根っこ? |
- カブの白い部分は、「胚軸」といいます。ひげ根が強く出ている品種は分かりやすいのですが、ひげ根のある下の部分が根っこで、それより上の可食部分は胚軸です。カブが畑に植わっているところを想像していただいて、土の上に出ている部分が胚軸で、土に入っている部分が根、と判断すればわかりやすいかもしれません。
- 大根もそうですが、カブは、ひげ根が非常に強い品種と強くない品種があります。栽培条件によっても違いがあり、例えば、土壌条件が極端に乾燥している場合は、ひげ根が強く出ます。逆に、水浸しで、酸素欠乏になった状態でも、酸素を求めてひげ根が出ます。品種の差に加え、極端な乾燥、極端な加湿によって、ひげ根が強く出てくることがあります。
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◇大根とカブの見分け方は? |
- 大根もカブもアブラナ科ですが、属が違います。見た目では、葉の形が違っていて、カブは板葉といって、ヘラやしゃもじのような形。大根は複相葉といって、ギザギザの葉っぱです。ただ、大根の中にも板葉のもの、カブに近い葉っぱの形をした品種もあります。
- カブは白い部分より、葉っぱのほうが栄養価が高いので、ぜひ、葉っぱもうまく利用していただいて、八百屋さんは、こういう食べ方をしたらおいしいですよ、とレシピなども紹介していただけると、カブがもうちょっと世に出て行けるのではないか、と思っています。
- カブの葉っぱは、すぐ黄色くなってしまうので、流通の段階でとってしまう場合もありますが…。葉っぱがついていたら、油炒めにしたり、浅漬けにしたりして、ぜひ食べてください。
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◇品種名の「YR」「CR」って何? |
- カブや大根は、イオウ病やネコブ病にかかりやすい野菜です。タネの袋などを見ると「YR〜」、「CR〜」という品種名になっているものがありますが、YR
はイオウ病抵抗性、CRはネコブ病抵抗性の品種です。
- カブの産地は千葉と埼玉が大半で、特に、千葉の柏と、東庄町が2大産地ですが、柏のあたりは特にこうした病気が出やすく、YR品種、CR品種でなければ作れません。内陸の高地と、海に近い高地とでは、内陸部のほうがイオウ病やネコブ病が出やすいようです。おそらく、海のミネラルが影響しているのではないでしょうか。
- ネコブ病やイオウ病は、特に暑い時期に多く、土壌改良材や抵抗性品種を使用しないと作れません。ただ、すべてではありませんが、野菜は一般的に、耐病性をつけると、味が落ちるといわれます。ブリーダーと呼ばれる人たちが、一生懸命、抵抗性をつけても味が落ちない品種を開発しています。
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◇そもそも「小カブ」って? |
- 一般に出回っているものの大半は小カブです。ただ、小カブでも、多少大きくなってもスが入らないものは、中カブくらいのサイズになっても売れる、ということです。
- 当社の「はくれいカブ」も小カブですが、中カブ〜大カブにしてもス入りしにくく、きめの細かい品種です。大根でもカブでも、ス入りの現象というのは、栽培の生育ステージの中の後半の肥料切れ、老化現象によって起こります。早生の品種など早く生育する品種は、収穫に近くなったときに肥料がないと、自分の体から栄養分を吸ってしまうので、穴が空いてしまいます。だから、きめの細かい品種、ゆっくり育つ品種は、概して、ス入りになりにくいわけです。
- よく、ス入りと空洞症という病気が混同されてしまうのですが、空洞症というのは、栽培初期のストレスや、特に、夏の高温乾燥のストレスによって引き起こされる症状です。窒素、肥料が多いと、空洞症になりやすい。ス入りは、生育の後半に起きる老化現象、と覚えてください。
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