■2010年6月20日 第3回 〜 講演「アスパラガス」について (株)サカタのタネ 石井康晴氏 |
◇アスパラガスの来歴 |
- 学名は、「アスパラガス・オフィシナリス」。アスパラガスというのが、そのまま学名になっています。
- 原産地は、南ヨーロッパから西アジアにかけて。南ヨーロッパというのは、地中海沿岸の地域です。そこから、大陸のほうに入ったあたりが西アジア。
- 野菜としての歴史は非常に古く、古代ギリシャ・ローマ時代には既に栽培されていた、という説があります。
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- 日本への導入は、江戸時代。観賞用として栽培が始まっています。野菜としては、大正時代に栽培が広がりました。
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◇アスパラガスの特性 |
- イチョウやブルーベリーもそうですが、アスパラガスは「雌雄異株(シユウイカブ)」といって、雄と雌が全く別の株です。雄と雌が一緒にいないと実ができない。
- 1年で枯れて終わり…というのではなく、根っこがそのまま生き残り、何年も何年も成長する、というタイプの植物。これを、「永年作物」といいます。
- 発芽適温は、25〜30度。というと完全に真夏の温度ですが、そういう時期に発芽させても、生育期間が短く栄養貯蔵が不十分になってしまうので、実際は、春先に温度をかけて発芽させ、育苗する、という形をとっています。
- 「萌芽」といって、アスパラガスが実際にニョキニョキと出てくる時期の温度管理の目標は、最高で35度。通常は28度ぐらいです。低温には意外に強く、3度ぐらいまでは平気。
- アスパラガスは、品質としては、先端部分がきっちりとしまっているのがいいといわれています。温度が高いと、ここが開いてしまう。形も悪くなるし、ポロポロと上の部分がとれてきてしまって品質が悪くなるので、実際の収穫適温は、萌芽の適温より低く設定しています。
- 土壌の適応性は、意外に広い。耕土が深く、肥沃な土壌が適しています。アスパラガスは、上に出てからがんばるのではなく、土の中で結構がんばっていて、ニョキニョキと出てきたものを収穫して、それが野菜として出回るわけです。土の中の条件をよくしてやることで、野菜としてのアスパラガスの成果につながってくる、ということになります。
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病気に関しては、葉枯病、斑点病、紋羽病、菌核病。害虫では、ヨトウムシ、アザミウマ、コナジラミ。こういったものを防除しながら、生産します。
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◇植物体としてのアスパラガス |
- アスパラは、植物体としては、どういったものなのか。みなさんが一般にイメージする根っこの部分は、「地下茎」といいます。そこから茎が伸び、葉っぱが出ている。
- アスパラには、「栄養貯蔵」という特徴があります。一般的に、根っこには、栄養分や水分を吸収する働きと、植物体を維持するという役目があります。アスパラには、それ以外に、「貯蔵根」といわれる太い根がいくつも出て、そこに翌年のための栄養分をため込みます。太いものが貯蔵根、細いものは栄養分や水分を吸ったりする役目の根っこです。
- 根っこのところに「鱗芽(リンガ)」があり、そこから茎が伸びてきます。収穫するのは若い茎で、「若茎(ジャクケイ)」と呼びます。これが、みなさんが販売したり食したりする部分。要は、茎が出てきて、その若いものをとっている、ということです。
- 一般的に、葉っぱだと思われている部分は、実は、茎。「擬葉(ギヨウ)」といいますが、分類としては、茎になります。では、「葉っぱは?」というと、植物学上は、茎にたくさんくっついている三角形のものが葉っぱです。あまり、葉っぱとしての役目はなしていません。学術的には、「鱗片葉(リンペンヨウ)」といいます。
- アスパラの花は、チューリップのような感じ。非常にかわいらしい小さな花がいくつも咲きます。雄と雌で別の株なので、雄の花から花粉がいって、雌の花に実がつく。実は全体にバラバラとついている感じです。
- タネは、完熟すると、真っ黒になります。大きさは、ゴマより大きい。
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◇作型と品種の現状 |
- 一般的に、北海道等の寒冷地では夏秋で栽培。春になるとどんどん伸びてくるので、それを収穫し、その後、葉っぱが茂り、最後には枯れていく。日本より寒いオランダで育種された、「ガインリム」という品種が広く使われています。暖かい地域ではあまり使われず、北海道や、標高の高いところで使われています。
- 「ふせこみ栽培」は、東北等で行われている栽培方法です。これは、春にタネを蒔いて、夏に養分を貯蔵させます。秋に全部掘り返して、根っこをハウスに入れ、温度をかけて、冬の間にどんどん芽を出させる。こうすると、永年作物のアスパラといえども消耗するので、1年で終わりです。
- アスパラは、もともと、夏場の生育が終わると休眠します。そのときに、ある程度の時間低温にあたらないと、翌年の若茎が動き出さない。「ふせこみ栽培」の場合、休眠時間をあまり要求しない品種がいいので、「ウェルカム」という品種が広く使われています。
- 露地栽培は、ごく一般的な作型。春にタネを蒔き、普通に1年間育てて、枯れてしまったらそれを刈り取って、翌春から普通にとっていく。虫や病気の出やすい季節に栽培するので、そこだけが要注意です。
- 西南暖地等では、ハウスで秋遅くまでとれる、という形をとっています。野菜は通常、春に蒔いて夏から秋にとっていくのが一般的。暖かいところでは、それを前進化させて収穫する。これを、「促成栽培」といいます。逆に、最盛期を後ろにずらす方法を、「抑制栽培」といいます。ハウスでのアスパラ栽培は、抑制のようなイメージになります。通常は春にだけとるものを、秋にもう1回とる、ということです。
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◇栽培品種の特性 |
- アスパラの育種の中心は、アメリカの北のほう(緯度の高いところ)、アメリカの暖地(カリフォルニア)等があります。それから、「ガインリム」という品種は、オランダで育成されたもの。日本国内でも、広島等、県の試験場が育種に携わっています。国内育成の品種はいわゆる「組織培養」で作られたもので、普段作っている品種の中に、たとえば「たまたま病気にならなかった」とかいう株があると、それを培養して増やしていく。それが、他のものと明らかに違うと認められれば、品種として認定されるわけです。国内では、4つか5つ、そういう品種があると思います。
- アスパラガスに求められている特性は、収量性、若茎の濃淡(色の濃い薄い)、太さ(太い細い)、穂じまり(先端の部分が開いてしまうのか、閉じているのか)。そのあたりが非常に重要な評価の基準になるので、育種や品種改良では意識しなければならない事柄です。
- アスパラは太ければいいのか?というと、意外にそうでもないのです。産地の出荷規格や、出荷している市場の都合等により、適度なサイズのものが多くとれたほうがいい、というケースもあります。
- 耐病性も重要。病気が出ないというのは、栽培する上で、大きな利点です。
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◇全雄系(ゼンユウケイ)のアスパラ |
- アスパラは、雌雄別の植物ですが、雄株のほうがいい若茎が数多くとれる、というデータがあります。ですから、栽培上は、雄ばかり作ったほうがいい。
- 雌のデメリットは、若茎の質がよくないことに加えて、タネをつける。枯れた茎を刈り取るのですが、そのときタネがバラバラと落ちて、翌年の春になると、そのタネから発芽する。雑草と一緒ですから、栽培管理上、極めてやっかいなんです。
- 今、特殊なやり方で、全部が雄という、「全雄系(ゼンユウケイ)」品種の育種が盛んになってきています。詳しい説明はやめておきますが、こういうものの育種が進んでいる、ということだけ、覚えておいてください。
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◇栽培方法 |
- 生産現場でのタネ蒔きは、「プラグトレイ」に土を込めて、そこにタネを落としていきます。1本1本出てきたものを抜いて、ポットで育苗する。ある程度の大きさになったら、圃場に植えます。
- タネ蒔きから2年目に、アスパラがニョキニョキ出てくる。それを収穫しながら何本か残し、下のほうをきれいにしてあげる。そうすると、夏場も根元から出るものがまだとれる。収量としては、当然、春よりずっと少ない。ただ、地下の栄養分を貯蔵させながら、少しでもとれるというメリットがあります。これを、「立茎(リッケイ)栽培」と呼び、今、いろんなところで行なわれている代表的な栽培のひとつではないかと思います。
- 若茎が出てきたら、まずは、ひたすら収穫します。ある程度収穫したら、何本か残します。最初は、1株あたり5〜6本。その後は、どの株から出ているのか分からなくなるので、平米あたり何本…と、かたまらないように残していきます。
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◇アスパラの種類 |
- ホワイトアスパラとグリーンアスパラの違いは、普通に光が入っているとグリーン、光をシャットアウトすると白になります。品種は全く同じ。同じ品種を使って、緑で出しているところもあれば、遮光してホワイトで出しているところもあります。
- 紫のアスパラも最近よく目にすると思います。ミニアスパラも出てきています。
- ホワイトは、完全に光を当てないで栽培しています。昔は、土をかぶせて、光を当てないようにしていましたが、最近では遮光をして栽培するやり方がほとんどです。
- ミニアスパラ用の品種はありません。均一な太さのものが出るように品種改良されているわけですが、条件によっては細いものも出ます。特に、粗放な栽培をしている場合、細いアスパラが出ることがある。ミニは、それを集めたもの。ただ、ミニが出やすいという品種はあると思います。
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◇「アスパラ菜」や「アスパラソバージュ」って? |
- 「アスパラ菜」という名前の野菜があります。アスパラ菜は、アスパラガスではありません。菜の花の仲間です。
- 「アスパラソバージュ」も、アスパラガスとは全く違うものです。ヨーロッパでよく使われており、「ワイルドアスパラ」と呼ばれることもあるようです。形はアスパラガスに似ていますが、アスパラガスではありませんので、別のものと考えてください。
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◇産地動向 |
- 国内の作付面積は、2003年に6,380ヘクタールだったのが、5年後の2008年には6,540ヘクタールに増産されています。出荷量も当然増えています。
- 農林水産省のデータです。2003年は、統計上、数字に上がるレベルでアスパラを作っている都道府県は、8都道府県だけ。それが、2008年には14都道府県に増えています。
- 2003年の1番目は北海道、2番目は長野でしたが、2008年は、どちらも減っている。従来中心になっていた産地がやや面積を減らして、新規の産地が増えてきたといえます。
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1990年代は、稲からの転作があり、どこも、「何を作ったらいいんだろう?」と、非常に悩んでいました。そのときに、アスパラガスが注目されました。なぜかというと、植えっぱなしでいい。また、収穫物が軽い。競争相手が少なかった、という点もあると思います。
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世界のアスパラの生産量を見ると、圧倒的に多いのが中国。2位とひとけた違います。国内需要もあるでしょうが、加工品の輸出が多いのではないかと思います。2位は、ペルー。調べてみたところ、アメリカに対する輸出が非常に盛んで、作付、生産が多い。アメリカも上位に入っています。それから、原産地である地中海沿岸、スペイン、イタリア、ギリシャ、フランス等。また、ドイツも入っています。日本の北海道と同じイメージです。もともとは暖かいところが原産の野菜ですが、オランダ等での品種改良が進み、寒いところでも作れるものが出てきたといえます。
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◇栄養成分と機能性 |
- アスパラの栄養成分をキャベツ、小松菜、玉ねぎ、一本ねぎ、ブロッコリー、ほうれん草、レタスと比較すると、アスパラには、たんぱく質が多い。いわゆる、アミノ酸です。よく栄養剤等に使われている「アスパラギン酸」は、アミノ酸の一種で、アスパラガスから初めてみつかったものです。その他、亜鉛、銅が非常に多く、ビタミンB群も豊富です。
- 最近、野菜全般的に、「機能性」が注目されています。アスパラガスに関しては、「ルチン」。フラボノイドの一種で、血管系の強化や、ガン細胞の増殖抑制などの効果があるという報告が出ているそうです。ただ、どれぐらい摂ったらどうなのか…というのは、まだこれからの話で、今後の研究成果を待たなければなりません。ちなみに、ルチンは、蕎麦に多く含まれている成分。アスパラガス100グラムを食べると、蕎麦100グラムと同じぐらいのルチンの量が摂れるそうです。今後、蕎麦の機能性とリンクして、イマジネーションを膨らませていただくというのも面白いのではないかと思います。
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