■2019年3月10日 第12回 修了式 〜 講演「野菜がつくる豊かで明るい未来」 WaRa倶楽無 船越康弘氏
◇はじめに
  • 私は岡山で「百姓屋敷わら」を経営しています。玄米菜食の料理を出す宿です。

  • 私たちの体は食べものでできています。今、あの食べものがいいとか、このサプリメントがいい、という情報が溢れていますが、それで健康になったか、幸せか…。野菜以上に人間にパワーを与えてくれるものはありません。私たちの体で、食べものでできていない部分は一か所もない。そこが大事です。食べものの質で人生は変わります。
WaRa倶楽無 船越康弘氏
◇マクロバイオティックとは
  • 私は今62歳です。18歳のとき、乳飲み子が3人いた姉が重度の乳腺炎になり、切除しなければ命がないと言われましたが、旦那さんがちょっと変わっていて、「マクロバイオティック」、日本の伝統食をベースにした玄米菜食にしたら、3週間で治りました。

  • 私は18歳までは虚弱で運動ができなかったのですが、病気が治った姉を見て、自分もお米、味噌、野菜だけの生活を1週間続けてみたところ、ひどかった蓄膿症も治りました。そこで、人の体は食べものでできており、何を食べればいいのかという設計図を持っていることに気づいたんです。

  • パンダは笹を食べています。笹に含まれているのは、葉緑素、繊維、水で、たんぱく質も炭水化物も脂肪もありません。でも、パンダは痩せていませんし、人がパンダと戦ったら絶対に勝てません。生理学でいわれる力の源を食べていないのに、なぜなのか。パンダは長い間、笹しかないところで生きてきたから、笹だけで体を作り、健康を維持する設計図を持っている、ということです。

  • マクロバイオティックとは、人類が進化の過程で獲得した食性で、地球という環境で何を食べてきたか、がベースです。日本の伝統食の基本は、食事全体の半分以上はごはん、次に野菜、海藻。日本食が一番というのは、いま、世界の常識です。

  • マクロバイオティックについて、ニューヨークでは2人に1人は知っています。ブロードウェイのミュージカルスターで玄米を食べたことのない人はいません。彼らは体力が必要で、オーラが絶えてはトップスターの座を維持できない。肉では続かないことがわかっています。ハリウッドでは、ロケに出るケータリングの中にマクロバイオティックがなければ一流のアクターは集まりません。私の先輩がやっているワシントンのマクロバイオティック・レストランには、歴代大統領がすべて来ているそうです。

  • ミス・ユニバースの食事指導で知られるエリカ・アンギャルさんは、糖質制限では上位入賞はできない、と言っています。ミス・ユニバースは親善大使として世界中を回って自分の生きる姿勢を示す役割があり、糖質制限すると一時的には痩せますが、オーラやエネルギーがなくなってしまいます。

  • マクロバイオティックについて、発信元であるはずの日本が一番知らないという状況です。来年のオリンピックはチャンスですから、八百屋塾に参加している方々は、もっとマクロバイオティックについて勉強してください。
◇玄米菜食の宿「百姓屋敷わら」
  • 玄米菜食の宿「百姓屋敷わら」を始めたのは、今から35年前。岡山市内から2時間以上かかり、観光地もないし、バスもJRも国道もなく、店舗前通過人数は月に1人。タヌキやイノシシは通ります。隣町にはコンビニが2軒ありますが、うちの町にはありません。店舗前通過車台数が規定に満たなかったのです。料理の世界の先輩方からは、絶対に無理だ、と言われました 。

  • 肉、卵、牛乳は一切出さず、野菜中心。今のようにインターネットもなく、宣伝方法はまったくありません。1年間無収入、半年間お客さまゼロでした。でも、私の命を何のために使うのか、これから先の世の中がどうなるのかに対して、絶対の確信と軸がありました。日本の時代が来る、一番大切なのは自然に感謝すること、自然が作ってくれた農作物に感謝すること。それが命の基本で、地位やお金ではない、と思っていました。

  • 私たちが生きているのは、陰陽五行の「五行」のエネルギーがあるからです。太陽、空気、水、土、土の中の微生物、この5つの無償のエネルギーが根本で、これらがなければ生きていけません。この五行のエネルギーが120日間存在することで、にんじんという作物ができます。にんじんの栄養素とか、人間にとって損か得かで判断するのではなく、陰陽五行の5つの無償のエネルギー、「木火土金水」が凝縮してにんじんという作物があり、それを体に入れることにより、われわれは生きることを自然界から許可されているのです。ですから、にんじんさんありがとう、雨さん風さんありがとう、作ってくれたお百姓さんありがとう、というのが一番で、そういう生き方をすれば、必ずお天道さまが味方でいてくれます。私は長年海外にいましたが、お天道さまが見ている、という感性を持っているのは日本人だけです。

  • 「百姓屋敷わら」に最初に来てくれたお客さまは料理人でした。コース仕立てで12品、全部野菜の料理を食べて、野菜が主役になるのか、と目からうろこだったようです。その方がまた料理人を呼んでくれました。泊まった人は、朝、お通じがよくなっていたり、理屈ではなくて、体で感じるんですね 。

  • それから「百姓屋敷わら」にはアトピーの子が来るようになりました。除去食ではなく、その子の根本的な生命力を上げるような食事を出して、心も大事ですから、早寝早起きとか、子供の前で夫婦ケンカをしないとか、そういうことも指導して、治った子がたくさんいます。アトピーの会の会報に載り、「アトピーの宿」として有名になりました。その後、更年期障害、がん、糖尿病などに悩む人たちが毎日大型バスで来て、一番多いときで、月に900人のお客さま。寝る間もないほど忙しく、家族いっしょに過ごす時間もなくなりました。私は日本の伝統食のよさ、野菜はおいしいということを伝えたいのに、お金になってもこれは違う、と感じて、宿をやめてニュージーランドに行きました。

  • 英語は話せませんでしたが、マクロバイオティックの料理ができることは、海外では宝物です。日本の繊細な野菜料理を作ったら「ミラクル!」と喜ばれ、家族の時間を増やすために移住したのにマクロバイオティックのレストランが大成功してしまいました。

  • ニュージーランドは移民の国で、ホームパーティーではブラジル料理あり、ドイツ料理あり…。でも、日本人のホームパーティーでは和食が出ないので、日本人は家では西洋料理、外で和食を食べる、と思われていたくらいです。外国人が一番喜ぶ和食は、和えもの。和ビーガンの有名シェフ、本堂さんの料理も和えものが多いですね。

  • ヨーロッパでは、どんな小さな町の食堂でも、ベジタリアンと言えばビーガン料理が出てきますが、14年ほど前に日本に戻ってきたとき、「ビーガン料理をお願い」と言ったら、「ビーガンって何ですか」と聞かれて驚きました。世界中で日本だけだと思います。

  • 「百姓屋敷わら」には世界中からお客さまが来てくれます。日本の伝統食を世界が求めています。でも、日本でごちそうといえば、まだ、肉、魚なんですね。オリンピックで、菜食の人が大勢日本に来るはずですが、東京で提供できるところがありません。世界に比べ、50年は遅れています。ただ、内閣府では2年前からビーガン料理を出すようになりました。それが地方自治体にも広がっていくことを期待しています。

  • ニュージーランドの永住権を取るのは無理だろうと言われたのですが、日本の伝統食が作れる人間は引っ張りだこで、永住権を持つことができました。それは、35年間陰徳を積んできたから、自分にできることをやってきたからだと思っています。
◇八百屋さんに伝えたいこと
  • 私たちの身体は100%食べものでできています。食べものにどう対峙するか。食材は金もうけの道具ではありません。自然と人間の「つなぎ」としての野菜。これを伝えるのが八百屋さんの役割です。野菜の歴史、作り手のこと、その向こうにある「木火土金水」。お客さまも野菜の効果効能ではなく、そういうことを聞きたいはずです。

  • 「グローバルギャップ」はオリンピック提供食材の基本的な基準です。ヨーロッパの八百屋さんの組合が作ったものが全世界に広がりました。200以上の厳しい基準があり、これをクリアしなければオリンピックの食材としては使えません。日本食は最高ということが世界の常識になっている今、東京オリンピックはチャンスのはずですが、先進国の中でグローバルギャップ認証を取っているのが一番少ないのが日本です。COP21で、2050年には人間が住めなくなる、というデータが出ています。それに対して何ができるか。安定した豊かな地球を子供たちに残すにはどうすればいいか。それがグローバルギャップのスタートです。

  • 体は食べものでできていることを最も感じているのは、世界のトップアスリートたちです。オリンピックのときに、自分のパフォーマンスをピークにしたい。そこで、前回のリオデジャネイロオリンピックでは、卵は全部放し飼いのものが供給されました。卵のレベルは、放し飼い、平飼い、ゲージ飼いの順。日本には、ヨーロッパでは法律違反のゲージ飼いの卵しかほとんどありません。

  • 離乳食として与えたほうれん草が原因で起きた死亡事故、「ブルーベビー症候群」が海外で問題になりました。この原因は硝酸態窒素で、日本以外のすべての先進国に基準がありますが、日本にはありません。

  • ネオニコチノイドは、ミツバチの帰巣本能が失われるといわれる農薬で、ヨーロッパでは禁止されていますが、日本では使えます。

  • 日本には、残念な世界一がいっぱいあります。単位平方メートルあたりの農薬の使用量、フードマイレージ、食物の廃棄量。世界の72億人のうち36億人が1日1食という飢えた状態ですが、日本では1日に4000万人分の食事が捨てられています。これをアフリカに回せば、飢えがなくなります。日本の豊かな土壌に化学肥料をたくさん使い、十分な食料があるのにフードマイレージをかけて世界中から食べものを集め、自給率4割なのに食べきれないほどごちそうを作って廃棄している。お天道さまが見ていたら、この先われわれを健康に幸せにしようと思うでしょうか。

  • ポール・マッカートニーは世界ツアーを続けながら、「週に1回、肉、卵、牛乳を食べない日にしよう」という「ベジタブル・マンデー」を広めています。人が1日に必要とするエネルギーは約2000キロカロリー。ステーキ1ポンド分ですが、そのために牛が食べる穀物は22000キロカロリー、11倍です。私が肉を食べなければ、36億の飢えた人たちにその分が自動的に回ります。週に1回、世界中がベジタブル・マンデーにすれば、世界から飢えはなくなります。私が存在することで、世界貢献ができる。未来の役に立っている。お天道さまはそれを見ています。

  • 私は、自分の命を養ってくれる食べものに、食べるたびに感謝します。収穫した野菜や買ってきた小麦は、すぐに冷蔵庫やパントリーにはしまわずに、テーブルに並べて、「ありがとう」と声を掛けます。「百姓屋敷わら」だけでなく、料理教室でも、料理指導しているクリニックでも、必ず「天地のおめぐみと、これを作られた方のご愛念を感謝して料理させていただきます。この食べものが私たちの体に入って自他ともにお役に立ちますように。ありがとうございます」と野菜に声を掛けます。野菜に「ありがとう」と言わないとおいしい料理はできないよ、と言うと、感動して泣き出す人もいます。

  • 私の「重ね煮」という料理方法を、東京でもたくさんの人がやってくれています。知的障害者の施設や幼稚園では、自分が食べるごはんに愛が込められていることがわかるので、絶対残しません。残さい率ゼロどころか、競争して食べます。

  • 私が師匠に言われたことを3つご紹介します。人間に人情があるように、にんじんには「にんじん情」がある。地球上に存在するすべての生命体は種の保存のために生きており、食の基本は弱肉強食です。私が畑でにんじんを収穫すると、にんじんは花を咲かせてタネをつけたかったのに、それができなかった、と泣きます。にんじんの最終目標は種の保存で、八百屋さんに並ぶことではありません。でも、弱いために志半ばで私に抜かれ、にんじんは非業の死を遂げる…。自然界の命はいさぎよいので、こうなったら船越さんに食べてもらって血となり肉となれと、命を差し出してくれます。にんじんのβ-カロテンについてあれこれ言う前に、無償の愛でささげられた命に対して「ありがとう」以外ないと思いませんか。そういう気持ちでにんじんに対峙して料理すれば、にんじんも、それなら食べられて健康にしてやろう、幸せにしてやろう、と思うじゃないですか。35年間、私はそれを続けてきました。その集積が今の私の体です。

  • 私は、野菜や米は基本的に無農薬、無肥料で、自分で作っています。米は最初の5年は全然できませんでした。その後、収量は通常栽培の6割くらいですが、おいしい米なので高い価格で売れます。当初、近所の農家さんに、無肥料なんてありえない、夜中にこっそりやっているんじゃないか、と言われたこともあります。自分の考えが根底から崩れるから、知識外のことは認められない。でも結局、「自分も同じやり方をしたら、一緒に売ってくれるか」と言うようになりました。大切なのは実績です。保守的だった人も変わり、話を聞いてくれる。お天道さまに恥じない生き方をすることが、私たちの幸せや収入、すべてにつながる、ということを理解してくれるようになります。

  • 長年、お天道さまに正直に生きてきた私には、根拠のある自信があります。大切なのは、知識、地位、名誉、家柄などではありません。講演や料理教室に呼ばれるのは、圧倒的に東京の人からの依頼が多いのですが、みんな根拠のない不安があって、お金も家もあるのに、このままでいいのだろうか、と思っている。私は不安を自信に変える方法論をお伝えしています。食べものの質や、向かい方を変えれば安心できるようになります。

  • マザー・テレサは「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。習慣に気をつけなさい、それはいつか運命になるから」と言っています。最初は「思考」、その思考を作るのは食べものです。食べものが血液や脳細胞を作る。肉体をどんな材料で作るか。そのとき、材料に対してどんな思いを持つのか。心の底から感謝して料理を作り、食べる。それで根拠のある自信が持てます。

  • 私は「わら塾」で、1人1人の夢をかなえる、というワークをしています。自分の夢を7つ書いてもらうと、全員が5つ目くらいからワールドワイドな夢になります。自分の欲望が全部満たされたら、人は世の中の役に立ちたいんです。自分のためだけの夢は、まぁいいか、と途中で折れることもありますが、そこに公が足され、志になると、折れることはありません。

  • ハリウッド映画を作った経験のある人が、1年かけて、私と「百姓屋敷わら」を映像にしてくれました。17時間の大作で、これを見てもらえれば、私の料理の作り方や考え方がすべてわかります。本もあって、読めば「重ね煮」の基本はわかります。

  • 海外で知りたいと言われるのは、味噌汁の作り方ではなく、味噌そのものの作り方だということを覚えておいてください。

  • らっきょう酢に漬けるらっきょう漬けはピクルスです。3%の塩だけで漬けて、3年おくと発酵して自ら乳酸菌や糖分を出すので甘酸っぱくてとてもおいしくなります。

  • みなさんが、マグロの刺身3切れを食べたとします。そのマグロが存在するために食べたイワシは1000匹です。イワシが存在するために食べたアミエビは5億、アミエビが食べた動物性プランクトンは50兆、動物性プランクトンが食べた植物性プランクトンは何千億兆。その先に、太陽、水がある。小さな命が大きな命のために命を投げ出しています。人間は食物連鎖の頂点です。マグロ3切れを食べて、生命体として存在できる時間はたった20分。その20分のために、これだけの命を投げ出してくれる存在がいる。あなたは生きているだけで百点満点、この世界に必要な存在ですよ、と教えてくれています。地位、名誉、学歴、財産などは一切関係ありません。食べものを通して、自然界が、神が、宇宙が、あなたたちは大切なかけがえのない命であることを教えてくれる。それが食べるということ、食べものを扱うということです。

  • みなさんが八百屋として生きる最後の着地点はどこなのかを考えてください。グローバルギャップを作った人たちの着地点は、サステイナビリティです。このままでは永続可能な世界にはならないと感じて、自分たちは農家と直接取り引きして、その農家が適正な農業ができるよう応援をしよう、ということになり、それが世界基準になりました。目指すのは永続可能な社会、緑豊かな地球。それが責任です。最初は小さな夢や目先の利益でもいいですから、自分の職業を通してそれを行うんだという、はるかに遠いけれど、地球と未来に貢献するという大志を持ってください。

  • 八百屋さんには、ぜひ、1つでも2つでもいいからビーガンメニューを勉強してほしい。自分の職業を通して未来に貢献できる、そういう素地をみなさんは持っているわけですから、ぜひやってみてください。本気で勉強したいという方は、遠いですが岡山に来てください。

  • 対面商売である八百屋さんは、さまざまな情報を知って、きちんと伝えて提供することができる。それがスーパーとの一番大きな違いだと思います。あの八百屋さんが売っている野菜、豆腐は黙っていても安心だ。なぜなら、母親が子供に食べさせたいと思うのと同じ愛情を持って、誰がどうやって作っているかまで全部知って売っているから、と思われるようになってください。「もの言わぬものにもの言わすものづくり」、これこそが食品を扱う者として一番大事なことです。そこに愛と誠意と祈りと感謝をつけたとき、野菜や豆腐がものを言わずとも、必ずお客さまに通じます。
 

【八百屋塾2018 第12回】 挨拶修了式講演「野菜がつくる豊かで明るい未来」茶話会