■2018年7月8日 第4回 とうもろこし・すもも 〜 講演「とうもろこし」について (株)サカタのタネ 野菜統括部 鈴木栄一氏
◇はじめに
  • サカタのタネは、野菜や花のタネを販売する会社です。ブロッコリーは世界の約7割、とうもろこしは国内の6〜7割のシェアを占めており、イエロー・コーンは、7〜8割が弊社の「ゴールドラッシュ」という品種です。
(株)サカタのタネ 野菜統括部 鈴木栄一氏
◇「とうもろこし」とは
  • とうもろこしの学名は「Zea mays」、イネ科の一年生植物です。

  • 米、小麦と並ぶ世界3大穀物のひとつで、年間7〜8億トンが生産されています。

  • 用途のほとんどは家畜飼料ですが、コーンスターチやバイオエタノールの原料にもなります。多く栽培されているのはフリント種(穀物)とデント種(コーンスターチ)の2種類です。私たちが食べているスイートコーンは未成熟の食用種で、全体の数パーセント。ほかにポップコーン用のポップ種などがあります。

  • とうもろこしは、雄花(雄穂)と雌花(雌穂)が別々につきます。樹のてっぺんに咲くのが雄穂で、ここから花粉が出ます。葉の付け根に雌花がつき、「ヒゲ」といわれるめしべに、上から花粉が降り落ちて来て受粉し、実がつきます。

  • 1つの樹に雌穂が2〜3本つきますが、通常は1本の樹から1つ収穫します。500グラム近い大きな実なので、1本育てるだけで樹はエネルギーを使い果たします。条件がいいと2本採れることもありますが、基本は1本です。

  • スイートコーンは、タネを採るために完熟させると、実はシワシワになり、食べても甘くありません。
◇とうもろこしの歴史
  • とうもろこしの起源は6000〜7000年前、原産地はメキシコから南アメリカ北部とされています。

  • 最近まで野生種がわからなかったのですが、DNA分析などで、牧草にされる「テオシント」ではないかと考えられています。食べてもおいしくありませんし、見た目もまったく違いますが、皮があることや、めしべがヒゲのように出ているところに面影があります。

  • 中米で栽培が始まり、品種改良されていきました。アメリカ大陸に広がり、ヨーロッパへ伝わったのは15世紀末、コロンブスの大航海時代。栽培期間が短く、干ばつに強いこと、貯蔵性が高いことなど、食料として優秀だったとうもろこしは、あっという間に世界に広がりました。

  • 日本に初めて入ったのは1579年(天正7年)、豊臣秀吉の時代にポルトガル人が九州に持ってきたという記録があります。おそらくフリント種で、やせ地が多い日本の山間部の作物として広がり、「南蛮きび」などと呼ばれて、細々と作られました。

  • スイートコーンが日本に入ってきたのは19世紀、明治の初めです。北海道開拓が始まり、アメリカから北海道農事試験場に持ち込まれて、作りやすかったことから北海道内に広がっていきました。当時のスイートコーンは今ほど甘くありませんし、収穫後1〜2日で甘みが落ちるので、自家消費レベルだったと思われます。

  • 日本で本格的にスイートコーンの栽培が始まったのは戦後です。アメリカで品種改良が進み、甘みが強く落ちにくい品種が日本に入り、北海道から本州へと、徐々に作付けが増えていきました。

  • 1960年(昭和35年)代に、F1で、より栽培しやすい品種が開発されました。「ゴールデンクロスバンタム」は商業的な生産を可能にした品種です。家庭菜園などでも人気があり、つい最近まで販売していました。最近のものと違い、もちもち感があって、焼きとうもろこしに向いています。

  • 1971年(昭和46年)、「ハニーバンタム」が出ました。今の品種に近く、収穫してから数日間糖度が保たれます。以降、一気に栽培面積が増えました。

  • 1985年(昭和60年)、「ピーターコーン」を発表。白と黄色のバイカラーで、今までより格段に甘く、収穫後の甘みの落ち方も少ない画期的な商品でした。それまでは黄色のコーンが中心だったので、見た目も違うバイカラーは差別化が図れて、作付けが一気に増えました。

  • 2000年(平成12年)頃になると、「味来」などさらに甘い品種群が登場します。バイカラーは流通性をよくするために粒がややかたかったのですが、「味来」はやわらかさや風味が今までとは段違いでした。弊社も黄色の高食味品種「ゴールドラッシュ」を発表しました。

  • 「味来」と「ゴールドラッシュ」の違いは農家さんの作りやすさです。主要産地は3月、九州では真冬にタネを播きます。温度が低い時期は芽が出にくいのですが、「ゴールドラッシュ」は、安定して芽が出るような育種をしました。現在日本で作られているイエローの品種の7〜8割は「ゴールドラッシュ」です。シリーズで5種類あり、低温で作りやすいもの、暑い時期に作りやすいものなど使い分けをしています。

  • 「ハニーバンタム」まではずっと黄色いとうもろこしで、「ピーターコーン」はバイカラー、今はまた黄色です。一時期、黄色、白、紫という3色の「ウッディコーン」を販売したことがあります。もちもち感があり、焼きとうもろこしにするとおいしい品種で、一部の方に人気がありました。
◇交雑しやすい作物
  • 日本のスイートコーンは、黄色かバイカラーか白がほとんどです。

  • バイカラーは黄色と白を掛け合わせたF1品種です。F1は、両親のいいところを最大限出すように育種をします。子どもは優秀なのですが、孫の代になると親の持っていた隠れた特性が出て来て、バラバラになります。色を例にとると、黄色が優性なので、黄色×白の1代目・F1は全部黄色になります。播くタネはF1、実は孫ですから、タネは黄色、実は優性と劣性が3対1で出てバイカラーになる、というわけです。
  • 白いとうもろこしの中に1粒黄色が混ざっているのは、交雑です。白の近くで黄色を作っていて、黄色の花粉がついたということです。ですから、ハウスの中で作るか、黄色とは数百メートル離して作ります。バイカラーも同様です。

  • とうもろこしは「風媒花」で、花粉が風で飛ばされて交雑します。非常に遠くまで飛ぶので、弊社でも、採種の際は十分注意しています。

  • アメリカ産のデントコーンはほとんどが遺伝子組み換えです。とうもろこしは交雑しやすいので、花粉が付かないようにする必要があります。弊社では遺伝子組み換え作物は取り扱いませんので、採れたタネは検査して、問題ないと確認されたもののみ販売しています。
◇作付面積の推移と月別入荷実績
  • 1973年(昭和48年)〜2012年(平成24年)のとうもろこしの作付面積の変化をみると、「ピーターコーン」が出た後に急に伸びました。ピークは昭和の終わり頃の約4万ヘクタール。今、トマトの作付面積が1万3000ヘクタールくらいなので、その約3倍です。バブル崩壊による不況の影響、核家族化、食の多様化などによって徐々に減少しましたが、現在は2万4000ヘクタールほどで安定しています。ちょうど安定し始めた頃に出たのが、「味来」や「ゴールドラッシュ」です。減少傾向が多い農作物のなかでは、とうもろこしは優秀なほうではないでしょうか。

  • 2015年(平成27年)のスイートコーンの月別入荷実績によると、5〜9月に多く出回っています。4月は沖縄、宮崎など限られた地域のものが出ますが、本格的には5月から。6月になると関東の露地ものが出て来ます。6〜7月に最盛期を迎え、8月からは北のほうや高冷地のもの。とうもろこしは夏の風物詩、季節商品です。

  • 8〜9月はお祭りも多く、需要があります。ただ、台風シーズンなので作れないという農家さんが多い。そこで、「ゴールドラッシュ90」という強風でも倒れない品種を開発しました。収量性は高くないのですが、安心して作れるので人気があります。
◇とうもろこしは鮮度が命
  • 最近のとうもろこしは、一番甘みが強いときに収穫すると糖度が20度くらいあります。ぶどうと同じくらいで、メロンは15度、すいかは12〜13度です。朝、畑で採れたてのとうもろこしをかじって、その甘さに驚いた方もいるでしょう。

  • とうもろこしは、収穫後は甘みがどんどん落ちていきます。一番甘いときに収穫し、いかに甘いうちに届けられるかが大切です。弊社が最近発表したバイカラーの「しあわせコーン」は、収穫してから3〜4日、高糖度が保たれます。品種改良だけでなく、流通も大事で、生産者も流通業者もコールドチェーンに非常に神経を使っています。八百屋のみなさんが店頭で販売されるときは、糖度が14〜15度あれば甘さは十分です。

  • 収穫に一番いい時間帯は夜中といわれ、深夜2時に収穫する農家さんもいます。昼間に光合成をし、葉で糖分が作られて、夜、果実に入るので、遅い時間のほうが果実に蓄積されており、日の出前になると糖が消費されるため糖度が落ちていくといわれています。

  • 店頭での消費宣伝に立つと、若い人があまり手を出してくれません。理由は、大きな鍋で茹でるのが面倒、皮や芯が多くほとんどがゴミになる、歯に詰まるのが苦手など。ふだんほとんど食べない、という人も多いのですが、試食すると「こんなに甘いの!」と驚かれます。食べればおいしいので、いかに食べてもらうかが課題のひとつです。

  • とうもろこしは、皮をむいて冷蔵庫に入れても、4〜5日経つと甘みは大きく落ちます。これを知らない方も多いので、買ったらすみやかにラップに包んで電子レンジで加熱し、それから冷蔵庫に入れれば甘みは落ちないということをPRしています。できるだけ手軽に調理できるのもポイントのひとつです。今の品種は粒の皮が薄いので、1本あたり3〜4分のレンジ加熱で十分ですし、うまみ、香りが抜けにくいのもレンジ加熱のメリットです。とうもろこしの香りが好きな方は、薄皮を残したまま加熱するといいでしょう。対面販売の八百屋さんには、「買ったらすぐに加熱すると甘みが落ちない」と伝えていただきたいです。

  • 料理にも使ってもらうためにレシピなども紹介しています。旬のコーンは缶詰とは全然味が違います。缶詰のコーンは、粒がかためで甘みもそれほど強くない種類です。
◇終わりに
  • 私どもはこれからも、よりおいしいとうもろこしの品種改良と、栽培指導に努めてまいります。とうもろこしの品種は、20年に1回くらいのサイクルで大きな変化が起きています。黄色からバイカラーになり、「ゴールドラッシュ」などが出て、もうすぐ20年です。そろそろまた何かに切り替わるかもしれません。みなさまも「こんな品種があったら面白いのでは」など、ご意見、アイデアがあったらぜひお聞かせください。
◇質疑応答より

    Q:石山さんが清瀬の朝もぎとうもろこしを持ってきてくださったのですが、品種は「ゴールドラッシュ90」だそうです。普通の「ゴールドラッシュ」との違いはどこですか?
    A:「ゴールドラッシュ90」は暑い時期にも作りやすいように、粒がややかたくなっています。暑い時期は、実がやわらかいとしなびやすくなってしまいます。通常、「ゴールドラッシュ90」はここまでボリュームが出ないので、この生産者さんはすごいと思います。

    Q:頭の部分に実がついていないとうもろこしを見ることがありますが、原因は何ですか?
    A:雄と雌の花が咲く時期がずれると、「先端不稔」といって上のほうに実がつかないことがあります。雄のほうが先に咲くことが多く、遅い春とか温度がない早い時期に特に起きやすくなります。

    Q:とうもろこしは大きいほうがいいのですか?
    A:大きさより採るタイミングが重要です。とうもろこしは1日収穫が遅れるだけでグンと大きくなります。甘みのピークは1〜2日しかないので、採り遅れて大きくなったものの味は落ちています。「ゴールドラッシュ」は少し早めに採ったほうが甘みが強い、など品種によっても違うので、収穫熟度表というチャートを用意し、「この品種はこの色のときに採ってください」と提案しています。

    Q:採り遅れたものと、うまく育てて大きくしたものは、見分けがつきますか?
    A:採り遅れたものは、一部がしなびてくるので、へこんだりしていると思います。

    Q:置き過ぎて古くなった時もしなびてきますが、何か対処法はありますか?
    A:スイートコーンは置いておくとしなびるものと思ってください。買ったらすぐに食べるのがベストです。

    Q:樹に3本なっても1本しか収穫しないのですか?
    A:基本的には1本です。よほど条件がいいと2本採れたりもしますが、1本目ほどおいしくはできないので、1本採りしかおすすめしていません。

 

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