■2019年2月17日 第11回 春を感じる野菜・中晩柑 〜 講演「身体がもつ機能を取り戻す野菜のチカラ」 デザイナーフーズ(株) 市野真理子氏
◇はじめに
  • 今日は山菜や柑橘類が体にとってどういいのか、春に食べる意味などをお話します。
◇春は苦いものを食べる
  • 昔から「春には苦いものを盛れ」といわれ、春は苦い食べものがすすめられました。

  • 夏が旬の野菜は、赤や黄色などカラフルで抗酸化力が高い特徴があります。紫外線などで活性酸素が発生しやすい季節なので、抗酸化力が高いものがいいわけです。秋が旬のきのこや白い野菜などは、免疫力を高める機能。山菜など春に旬を迎える野菜は、デトックス、つまり解毒作用があるといわれています。

  • 栄養に関する話は、体に取り入れるいい成分が中心で、出す(排出する)ことを忘れがちです。食品といっしょに入ってくる添加物や、呼吸などによって入ってくる有害物質など、不要なものを出すことも重要です。
デザイナーフーズ(株)
市野真理子氏
◇デトックスとは
  • デトックスとは、体の中の毒素を捕まえて外に排出することをいいます。元の意味はアルコールや麻薬などの中毒を治療することでした。ベトナム戦争のときにまいた枯れ葉剤は、ベトナムの人たちだけでなく毒物を扱ったアメリカ兵にも悪影響があり、その治療と救済の研究から出た言葉です。
◇体にたまる毒素
  • 体外毒素は外から体に入ってくるもの、体内毒素は食事や呼吸によってできるもので、乳酸のような疲労物質、尿、便など。どちらも体から出さなければいけません。

  • 有害物質は、たとえば、かつてほうれん草で騒がれたダイオキシン。ウクライナの大統領ユーシェンコ氏は、暗殺目的で少しずつ盛られて、顔が変形してしまいました。ダイオキシンが代謝を妨害し、皮膚が正しく再生できなくなったためです。

  • キンメダイやマグロなどの大きな魚は水銀を多く含んでおり、妊婦さんは、胎児の生育に影響が出るので食べる量を制限されています。

  • カドミウムはもともと土壌に含まれており、食品では特に白米や玄米に多い物質です。イタイイタイ病はカドミウムが原因でした。

  • 一時、アルミ製鍋や、学校給食のアルミ製食器はやめよう、といわれました。アルミニウムが微妙に溶けだしてきて、体によくない、といわれています。

  • ヒ素は、和歌山カレー事件、森永のヒ素ミルク事件などに使われた毒素です。ひじきに多く含まれますが、日本人は分解する酵素を持っているといわれ、ひじきをたくさん食べてもヒ素中毒にはなりません。ヨーロッパには基準があって輸出できません。

  • 古い水道管に使われている鉛が溶け出したり、放射性物質なども入ってきます。体に入った有害物質は、骨、脳、血液など、全身に溜まり、さまざまな症状として現れます。
◇体から排泄するルート
  • 排泄するルートで一番多いのは便で、75%。便秘の方は有害なものが出ていかない、ということです。次が尿で、水溶性のものが出ていきます。便と尿で約95%。残りは、汗、髪の毛、爪。髪の毛、爪も不要なものを出すルートです。麻薬患者は尿で反応しなくても、1ヶ月間くらいは髪の毛の根元でわかるといわれています。

  • 便・尿と違い、汗は季節による変動があります。夏は暑く、体を動かすと大量の汗をかきます。冬は比較的体を動かさず汗をかかないので、体の中に不純物が溜まります。ですから、春には苦いものを食べて、体からいらないものを出そうとするわけです。

  • 和食や洋食のシェフに聞くと、春は少し苦いものやえぐみのあるものを出してもクレームは来ないけれど、夏や秋にはとたんにクレームが来るそうです。つまり、人は春先にほんの少し苦いもの、えぐみのあるものを食べて、不要なものを体から排出したいという欲求が高まるということです。

  • クマは冬眠から覚めると最初にふきのとうなどの山菜を食べるといわれています。本能で、苦いもの、えぐみのあるものを食べて体から不要物を出す機能が備わっています。

  • 嘔吐や下痢もデトックスで、食中毒の症状は基本的にこの2つです。食べたものは腸で吸収されて全身に回りますから、全身に毒素が回らないように、嘔吐、下痢をする。つまり、体の防御反応です。下痢のときは、脱水症状にならないように水分をしっかり摂り、下痢を薬で止めないで出したほうがいいんです。

  • 発疹はそこから有害物質を外に出そうとする症状です。発熱は体温を上げて不要物を出したり、ウイルスを殺そうとするために起きます。女性の生理は、代謝しながら毎月余分なものを出しています。ガン患者さんの出血もいらないものを出そうとする症状です。また、生活習慣病も、体内の糖分が過剰な糖尿病や、脂がうまく外に出ない脂質異常症など、デトックスがうまくいっていないということになります。
◇体のどこでデトックス?
  • デトックスをしているのは肝臓です。肝臓はひとつしかなく、サイレント臓器ともいわれ、重症化しないと症状が出ないのですが、非常に大事なはたらきをしています。

  • エネルギーを作る、体を作る、モノを分解するという3つの代謝機能のうち、エネルギーを作るのは細胞、体を作る、モノを分解するのは肝臓です。薬も体にとって毒物なので肝機能が落ちます。できるだけ薬に頼らず、食べもので治すことが重要です。

  • まず、口から入れない・食べないこと。次に、腸で吸収させない・作らないこと。そして、肝臓で無毒化し、体外に排泄することです。

  • 不要物を腸で吸収させないために重要なのは、食物繊維。1日の摂取目標は、男性20グラム、女性18グラムですが、5グラムくらい足りないといわれています。

  • これからの日本の食で重要なキーワードは、糖質制限と「腸活」。糖質制限は糖質の摂り方を考えること、「腸活」は腸内環境を整えることです。腸内環境が整うと、免疫力が上がり、精神性の疾患も安定します。食物繊維や発酵食品が間違いなく重要になります。八百屋さんに関係するのは漬けものですね。浅漬けではなく、乳酸発酵した漬けもの。また、ふき、うどのような山菜は非常に繊維質が多く含まれています。
◇デトックスを助ける野菜
  • 有害物質は肝臓の酵素によって無毒化されます。グルタチオンを含むアブラナ科の野菜、硫黄化合物を含むネギ科の野菜などは、この酵素を助けるはたらきがあります。

  • わさび、クレソンなどは解毒力の高い野菜です。日本のハーブや山菜はデータがありませんが、香りの強いもの、苦みのあるものは、無毒化にすすめられています。

  • 疲れた時には、グルタチオン、硫黄化合物を含む野菜。代謝が気になる時には、ケルセチン、カリウムを含む野菜。カリウムは野菜全般に多く、山菜にも多く含まれています。便秘には、オリゴ糖、食物繊維を含む野菜。オリゴ糖はたまねぎにも含まれており、ヤーコンにはとても多く含まれています。肌荒れが気になる時には、ポリフェノール、ビタミンC、ビタミンE。紫外線は4月くらいから急に増えます。ビタミンCの多い柑橘はぜひ食べていただきたい果物です。

  • 野菜の「出す」チカラをいかすには、香りの強い野菜、色の濃い野菜をしっかり食べること。葉物、根菜など部位の異なるものを食べること。脂溶性成分が多い野菜は油といっしょに摂ること。山菜は天ぷらと相性がいいですし、ごま和えのごまには脂溶性成分が入っています。また、焼く、蒸すなどで、水溶性成分も逃さず食べるといいでしょう。春に限らず、通年お客さまにおすすめください。

  • 春に苦いものを食べるのはデトックスです。苦いもの、えぐみのあるものは大量には食べられませんが、抗酸化力も高く、少量でもしっかりと体にいい効果があります。
◇質疑応答より

    Q:横浜青果塾では3月3日に「セルフメディケーション」をテーマに市野さんに講演していただきます。「セルフメディケーション」とはどういうことですか?
    A:食べながらどうやって自分の体をケアしていくか、ということです。野菜に限らず、調理にも踏み込んでお話しする予定ですので、よろしければぜひ足をお運びください。

    Q:瀉血(しゃけつ)療法というのは、どういうものですか?
    A:アジアでは昔から行われている民間療法で、カッピングなどがその一種です。滞ってしまっているとき、少し傷をつけて真空状態にしていらないものを外に出す療法です。衛生的な問題もあり、一概にはいい、悪いはいえません。

    Q:野菜のほかにもデトックス効果のある食材はあるのでしょうか?
    A:雑穀、米です。日本人に食物繊維が不足している一番の原因はお米を食べなくなったことでしょう。ごはんは1日に1回とか、まったく食べないという方もいます。ごはん食は、繊維の多いいも類や根菜と相性がいいのですが、小麦粉がメインだと、油と相性のいい野菜や、レタス、きゅうり、トマトのようにそれほど繊維が豊富ではない野菜になります。先日聞いた話では、アメリカでは昔の食べものや食べ方に戻っているそうです。私は日本もそうなるのではないかと思っています。たとえば、豆。乾物なのでもどす手間があり、甘く煮た豆や五目豆のような料理のイメージが強いのですが、今はスーパーのサラダコーナーにボイルしただけの豆が並んでいます。今風にアレンジした食べ方は必要でしょうが、豆、山菜、海藻、乾物などが見直されて食卓に上がると思います。海藻、海苔も繊維が豊富な食材です。

 

【八百屋塾2018 第11回】 挨拶講演1「身体がもつ機能を取り戻す野菜のチカラ」講演2「春を感じる野菜と薬膳」
講演3「野菜と果物 栄養学観点から」勉強品目「春を感じる野菜」「中晩柑」食べくらべ