■2018年8月5日 第5回 八百屋塾番外編 ねばねばを活用して夏バテ予防 八百屋の調理実習 〜 レクチャー「ねばねば野菜の栄養」について 管理栄養士 石井玲子氏
◇はじめに
  • 4月から八百屋塾の調理を担当しています。ふだんはホテルで管理栄養士として働いています。栄養士を目指していた頃から、栄養成分の数値よりは、おいしいと思って食べることがより栄養になるのではないか、という思いがあり、主にレストランなどで働いてきました。保育園にも勤務し、子どもの食の形成やアレルギーについて勉強してきました。

  • 今日は、「オクラ」、「モロヘイヤ」、「山芋」の3つのねばねば野菜の栄養についてお話します。

管理栄養士 石井玲子氏
  • 栄養について話す前に、東京大学大学院の佐々木敏教授の著書『栄養データこう読む!』をご紹介します。血液のコレステロールは卵のコレステロールとイコールなのか、オリーブオイルを使う地中海料理が身体にいいというのは日本人にもあてはまるのか、など、栄養データをどう読んだらいいか、が書かれています。年に一度の全国栄養士大会でも、私たち栄養士は、いろいろな栄養情報をフラットな立場で公正に判断する必要がある、という話が出ていて、こういう本がその参考になると思います。
◇オクラについて
  • オクラは英語で「OKRA」と書きます。諸説ありますが、語源はナイジェリア語で「ねばねばした植物」を意味する「OKURU」からきている、といわれます。女性の指のような形状から、英語で「レディースフィンガー」と呼ばれることもあります。

  • オクラは高温を好む植物で、25〜30℃でよく生育し、10℃以下では生育が止まります。

  • 日本には幕末の頃に伝わったようですが、一般家庭に広まったのは1970年頃、昭和40年代で、栄養価が見直されて食べられるようになった、といわれています。

  • オクラにはβ-カロテンが670マイクログラム含まれており、緑黄色野菜(600マイクログラム以上)です。オクラは、ねばねば成分のほかに、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維などを含みます。カリウムは上位30位以内に入るほど豊富です。マグネシウムは筋肉の収縮、神経の伝達、ホルモンの調節にかかわる重要な栄養素で、オクラのタネに多く含まれており、タネごと食べるオクラは、マグネシウムを摂取することができます。

  • オクラは、アスパラガス同様、塩を入れずに鮮やかにゆで上げられます。緑色はクロロフィルで、植物の中ではマグネシウムと結合しており、加熱するとこれが分かれてクロロフィルが別の物質に変わるため茶色くなると考えられています。塩を入れてゆでるとクロロフィルが安定するので緑色が保たれるという研究があります。クロロフィルは細胞の中に存在しており、加熱して細胞の空気が膨張し、外に出ていくと、残ったクロロフィルが強調されて出てきます。高い温度で5分、低い温度で10分、長い時間加熱すると茶色くなりがちですが、お湯がポコポコと沸くぐらいの鍋で1〜2分なら、塩を使わなくても鮮やかに緑色が残ります。

  • 赤いオクラの色素成分はアントシアニンです。分子が小さく加熱すると色が抜けるという特徴があるので、赤オクラは新鮮なうちに生で食べるのがいいと思います。ちなみに、さつまいもなどに含まれるアントシアニンはでんぷんと結合しているので加熱しても安定しやすい、といわれています。

  • 「オクラ水」は、今年の春、健康情報誌『爽快』が発表したデトックスウォーターです。オクラを水に浸けて水溶性の栄養素を出します。生のオクラ5〜6本に対して水100〜180ccを一晩漬けて、翌朝その水をコップ一杯くらい飲むと、お通じがよくなったり、血糖値の上昇を抑えたり、コレステロール値を下げるなどの効果があるとのことです。血糖値の急上昇を抑えるのは、オクラのねばねば成分が染み出した水を飲んで、空腹をある程度解消したあとにご飯を食べるので血糖値が緩やかに上昇する、という理論でした。実際に試してみると、多少オクラの青臭さがありましたが、それほど気にはなりませんでした。飲みにくければ少しめんつゆを足すか、レモンやはちみつを加えて甘いフレーバーにしてみるといいかもしれません。
◇モロヘイヤについて
  • モロヘイヤは5000年以上の歴史を持ち、「王様の野菜」と呼ばれています。

  • 中近東原産で、日本でも暑い時期が旬の野菜です。

  • 15cmほど伸びてきた枝葉を切り取るとすぐに脇芽が出てくるくらい生命力が強く、栄養もたっぷり含んでいます。

  • モロヘイヤにはβ-カロテンが1万マイクログラム含まれています。オクラが670マイクログラムですから、いかに多いかがわかると思います。

  • 「充実野菜」という野菜ジュースにモロヘイヤが使われています。

  • モロヘイヤはスープ、おひたしなどのほか、お菓子に練りこむこともあります。

  • モロヘイヤはねばねば成分のほか、鉄分、カルシウム、ビタミンC、ビタミンEなど。王様の難病を治したといわれるのも納得できる、栄養価の高い野菜です。

  • β-カロテンはビタミンCやビタミンEといっしょに摂ると抗酸化作用がアップします。モロヘイヤにはそれらがすべて含まれています。

  • β-カロテンはビタミンAの作用をもち、粘膜を保護します。特に、目の網膜、光を取り込むところに直接作用する栄養素です。

  • β-カロテンは油との相性がいい栄養素です。

  • カルシウムを吸収するにはビタミンDがいっしょにあるといいのですが、このあとの調理実習で、モロヘイヤと卵を炒めます。卵はビタミンDを豊富に含み、油も使いますから、栄養効果バッチリのレシピです。

  • モロヘイヤに含まれるシュウ酸はほうれん草の1/7量とされ、調理の際にゆでこぼす必要はありません。モロヘイヤを毎日生で1kg食べ続ければシュウ酸が身体に溜まるリスクがありますが、それほど食べませんから、気にする必要はありません。
◇山芋について
  • 「自然薯」は日本に自生していたもので、「長芋」、「大和芋」、「つくね芋」などは中国や東南アジアが原産で、奈良時代に遣唐使によって日本に入ったといわれています。

  • お好み焼き、じょうよまんじゅう、かるかんなどに使われるほか、粉末は製菓材料になります。

  • 青森のJAのレシピブックには、漬けもの、煮もの、焼きものなどさまざまな料理が載っており、万能に使えます。青森のりんごとコラボしたドリンクもあります。台湾では、長芋と牛乳でミルクセーキにして、フルーツやはちみつを加えたドリンクが流行っています。先日見たテレビ番組では、かき氷に山芋とはちみつやマンゴーのシロップをかけて食べていましたので、興味があれば試してみてください。

  • 山芋は貯蔵性がよく、新聞紙で包んで保存すれば2ヶ月くらいもちます。

  • 山芋のねばねば成分にはでんぷんを分解するジアスターゼ、アミラーゼなどの消化酵素が含まれます。牛タンと麦とろご飯は、麦のビタミンBやでんぷんなどを、山芋に含まれる栄養素が効率よく代謝してくれる、相性のいい組み合わせです。

  • 酵素は熱に弱いので、加熱は短時間で。すりおろすと細胞の中の酵素は外に出て消えてしまうので、食べる直前におろします。ジアスターゼ、アミラーゼは大根やかぶにも含まれており、すりおろしのドレッシングなどがおすすめです。

  • アレルギー物質27品目を国が定めていますが、山芋もそのひとつです。27品目は7品目と20品目に分かれており、山芋は20品目のひとつです。7品目に比べて20品目はアレルギーを起こす人数は多いのですが、頻度は少なく症状も重くはありません。

  • 山芋に含まれているアレルギー物質はアセチルコリンで、口の周りが赤くなったり腫れたりします。このような症状が出たときは、お医者さんで検査をおすすめします。

  • 山芋で起きる、口の中のかゆみ、イガイガ感、手のかゆみなどは、アレルギー反応ではなく仮性アレルゲンで、シュウ酸カルシウムの針のような結晶が皮膚や口の中の粘膜に刺さってかゆみが出ます。仮性アレルゲンは神経系に作用します。アレルギーの場合は血圧や意識が低下したり、命の危険にかかわる可能性がありますが、仮性アレルギーはかゆいだけで命の危険にはつながりません。酢水につけるなどの対処法が役に立ちます。

  • 最近は花粉症との関連もいわれており、山芋の場合はかばの木の花粉症の人がアレルギーを起こしやすい、とされています。
◇終わりに
  • ねばねば成分は水溶性の食物繊維で、オクラ、モロヘイヤ、山芋以外にも、ツルムラサキ、なめこ、れんこん、さといも、納豆、うなぎなどに含まれています。細胞の中でムコ多糖たんぱく質と糖たんぱく質がいっしょになって存在しています。「ムコ」とは、動物の粘液質という意味です。免疫力をアップし、水溶性食物繊維なので腸内のお掃除をしてくれます。ねばねばには保水性があり、細胞と細胞の間をつないでくれるので、粘膜の保護にも役立ちます。また、たんぱく質の消化を促進するので、疲れたときにねばねば野菜とたんぱく質を摂ると、夏バテ予防、疲労回復などに役に立ちます。

  • これまで「ムチン」といわれていた粘液質の糖たんぱく質以外にも同様のものがいくつか見つかり、それをあわせてムチンと呼んでいいのかどうか、議論されています。国が明確に定めているわけではないのですが、「粘性の糖たんぱく質」、「ムチン型糖たんぱく質」などと表現を変えている例もあります。
◇質疑応答より

    Q:われわれ八百屋は、「ムチンで免疫力アップ!」とうたって山芋などを販売してもいいのですか?
    A:野菜を販売するとき、「ムチン」という呼び方には議論があるので、「ねばねば成分」と言う方がよいでしょう。「山芋のねばねば成分にはこういうはたらきがある」という説明はOKです。

 

【八百屋塾2018 第5回】 挨拶レクチャー「ねばねば野菜の栄養」について産地紹介(青森の長芋)食べくらべ調理実習&もぐもぐタイム