Q:F1は雄性不稔の性質を利用しているということでしょうか? 無精子症とか言われていて、ちょっと心配なのですが…。
A:雄性不稔というのは花粉ができなくなる性質で、自然のはまだいこんにも普通に混ざっています。雄性不稔は、ほかの花粉をもらうために、植物が残している性質です。自家不和合性と同じで、野生に存在するものを利用しているわけです。無精子症という言葉が独り歩きしていることや、タネを自家採種してもF2にしかならないので、問題とされているのだと思います。
Q:種子法が廃止されて、遺伝子組み換えのタネが入ってくるのではないかといわれていますが、今後はどうなるのでしょうか? また、雄性不稔のF1ではないタネは一般にも買えるのでしょうか?
A:種子法の廃止は、今まで国や県の試験場がやってきたイネ、ムギ、大豆などのタネの増殖を民間にもやらせるのがメインの目的です。野菜はすでに民間が育種を行っていますので、変わることはなく、問題はないと思います。遺伝子組み換えのタネには特許料が発生します。今、野菜の市場規模はさほど大きくないので、弊社を含め国内メーカーは、海外の会社から遺伝子組み換えの特許料を払ってまで育種することはしておらず、どこのタネも遺伝子組み換えではありません。今後、扱うところが出てきても、オープンにしなければなりませんから、「買わない」という選択はできます。
Q:どこも採種の90%以上が海外と聞くと心配になるのですが、どういうところに委託されているのでしょうか?
A:ヨーロッパ、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、東南アジアなど。各地の採種会社と契約して採種しています。国内ではノウハウのある篤農家の方が少なくなりました。
Q:伝統野菜のF1化について、少し詳しく教えていただけますか?
A:伝統野菜を復活させたり、ずっと作り続けている農家さん、たとえば「桜島だいこん」の場合、タネを30粒くらい播いて徐々に間引いていき、収穫物を得ていましたが、それでも空洞症になったり割れたりして歩留まりが悪かったようです。そこで、空洞にならないものを選び出すのですが、近交弱勢が出て太らなかったりします。そこで、F1の雑種強勢現象を利用して、揃いがよく太くなって空洞にならない組み合わせを見つけるわけです。在来種の中から強いものを選んで親に仕立てれば、出荷できる歩留まりが高まり、農家さんが助かる、ということです。多様性を残すのは、別の作業として、県の試験場などがやっています。
Q:「桜島だいこん」だったら、「桜島だいこん」同士をかけるのですか?
A:そうです。その中でF1を作るので、秋田のいぶりがっこのだいこんも守口も同じです。
Q:「大蔵だいこん」の生産者の方は、在来種とF1を作っているそうです。お客さまに説明するときにF1だとマイナスイメージになってしまうのですが…。
A:F1は悪い、自家採種のほうががいいはずだと思っていませんか? たとえば普通の豆や苗は自家採種もできますが、なぜやらないかというと、きちんと発芽するようなタネを獲るのがむずかしいからです。F1だから味が悪いとかかたいということはありません。かつて白菜を根こぶ病に強くするために、かぶの遺伝子を入れたらかぶ臭いといわれましたが、育種が進んでいなかっただけで、今はまったくそんなことはありません。最初のイメージが悪かった。もしF1の「大蔵だいこん」がおいしくないなら、それに使ったタネがよくなかった可能性が高いと思います。
Q:F1も自家採種もいいものを選抜しているのに、違いが出るのはなぜでしょうか?
A:「大蔵だいこん」でいえば、世田谷で選抜していましたよね。F1の場合、たとえば宇都宮で選抜したら、その場が影響しますので、何かしらの違いは出るかもしれません。
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