■2019年1月20日 第10回 冬の葉もの・いちご 〜 講演「小松菜・ほうれん草ほか冬の葉もの野菜」 雪印種苗(株) 営業本部 園芸微生物推進室 次長 桜田晃一氏、研究開発本部 園芸作物研究グループ 野菜研究チーム 小川拓也氏
◇はじめに
  • 雪印種苗(株)は北海道を基盤にしており、最も得意としている作物は「えだまめ」です。「えだまめ」は、かつては茶毛でしたが、当社が最初に白毛を出しました。

  • 今日は、私、桜田と、小川の2名で来ました。これから小川が、千葉研究農場で担当している「小松菜」と「寒じめほうれん草」の成り立ち、歴史、当社の品種などをご説明します。

雪印種苗(株)
営業本部 園芸微生物推進室 次長
 桜田晃一氏
◇小松菜の現状
  • 2009〜2016年までのデータによると、小松菜の作付面積は右肩上がりに増えています。主要産地は多いところから茨城県、埼玉県、群馬県、福岡県、東京都です。

  • 小松菜の作付面積は増え、ほうれん草は年々減っています。その理由は、小松菜のほうが作りやすいからでしょう。

  • 2016年、東京都中央卸売市場の月別入荷実績で多いのは茨城県、埼玉県、群馬県、東京都。以前は東京都や埼玉県が多かったのですが、近年は茨城県が増えています。茨城県はスイカやメロンの産地でしたが、だんだん作りづらくなり、そのハウスを利用する作物を探した結果、年に何作も採れる小松菜が増えました。
雪印種苗(株) 研究開発本部
 園芸作物研究グループ 野菜研究チーム
 小川拓也氏
  • 大阪中央卸売市場の月別入荷実績は福岡県が多いのですが、茨城県産も入っており、茨城県は影響力があることがわかります。
◇小松菜とは
  • 小松菜の学名は「Brassica rapa var. perviridis」。

  • 原産地は東京都江戸川区小松川周辺。そこで、「小松菜」と呼ばれるようになりました。

  • 別名「冬菜」、「鶯菜」で、冬場に出るものは「冬菜」、春播きは「鶯菜」。同じ品種でも播く時期が違うと形が違い、別の名前がついています。
◇明治時代の栽培
  • 昔の文献によると、小松菜は明治時代から栽培され、この頃から周年栽培されました。冬どりは9月下旬〜10月中旬に播種し、大きくして冬を越しました。小松菜は比較的寒さに強いのですが、1〜2月は霜よけのために竹竿でべたがけのようなものを使いました。7月など非常に暑い時期は小松菜の栽培には向かなかったようです。

  • 明治時代から、おいしさへのこだわりもあり、株間の調整が行われていました。タネを播くとき、株間を広くすると株が張って筋張るので、密植されていました。

  • 今の規格は25〜33センチ、明治時代の出荷サイズは37〜40センチです。

  • 生育が速く、短期間で伸びる品種で、栽培期間は今より少し短かったようです。
◇小松菜の歴史と成り立ち
  • 諸説ありますが、小松菜の原種は南ヨーロッパ地中海沿岸が発祥といわれます。

  • 奈良時代から平安時代に日本に渡り、鎌倉時代に東京都の江戸川に伝わりました。当時の名称は「茎立菜」。中国原産のカブで、葉は丸くなく、欠刻が入っていました。

  • 「大和本草」などによると、江戸時代中期には「葛西菜」と呼ばれています。1719年に8代将軍徳川吉宗が名付けたという説があり、鷹狩りの際に寄った神社が小松川周辺だったので「小松菜とするがよい」と言った、といいます。

  • 各地方に在来品種がありましたが、1977年に初めてF1品種ができました。
◇小松菜の在来品種
  • 在来品種で比較的有名なのは「ごせき晩生小松菜」。今の小松菜と違い、ハカマが目立ちます。秋口に播いて冬に収穫します。

  • 「新晩生小松菜」は、現在の品種と比べると茎が細いのが特徴です。

  • 在来品種の採種は、育てた小松菜からいいものを選んでタネを採る自家採種です。
◇F1品種の登場
  • 1977年、サカタのタネからF1品種「坂田交配みすぎ」が登場しました。当時、在来品種からF1に切り替わったことには、理由があります。在来品種は、同じ日に播いても、サイズの大小などバラツキが出やすいので何度も収穫しなければなりません。葉の色が淡い、夏場は作れないという問題もありました。

  • F1品種は遺伝的に固定されているので、均一なものができやすいのが特徴です。耐暑性や品質に優れる早生系を片親に、耐寒性と晩抽の黒葉系をもう片方の親にすると、どちらの特性も持ち合わせた品種ができ、夏も冬も作れるようになりました。

  • F1品種の登場時、均一性と周年性が求められていたので、耐寒性のある親と耐暑性のある親を使って両方の特性を持たせました。このころ作られたF1品種には、今も売られているものもあれば、もうない品種もあります。
◇小松菜品種の変遷
  • 「ごせき晩生」、「新晩生小松菜」のような在来品種の開発は、1972年まで。

  • F1品種には、「みすぎ」、「浜ちゃん」、「いなむら」などがあり、よく使われているのはサカタの「いなむら」。「浜ちゃん」は夏場に向くように開発した当社の品種で、一世を風靡しました。

  • 1988年から、片親に在来品種、もう片親に在来品種とターサイ、みこま菜、チンゲンサイなどとの交配種を使うようになりました。それまでは日本人×日本人だったのが、(お母さん)日本人×(お父さん)ハーフになり、血統の1/4にターサイが入ったということです。

  • 1998年以降は白さび病なども発生したので、耐病性の選抜を行って両親にしました。萎黄病の耐病性を持ち、周年栽培できる「浜美2号」を超える品種を目標に、在来とF1の分系を材料にしたりして、開発が行われました。

  • 2002年以降作型が分化して、時期によって違う品種を使うようになりました。背景には小松菜の生産量の増加があり、夏用、冬用の品種が登場しました。

  • 当初は在来品種と在来品種を掛けましたが、在来×(在来×F1)になり、現在は、(サイシン×チンゲンサイ)×在来、それにちぢみ菜×ターサイを掛ける、というように、たくさんの素材を掛け合わせます。在来品種が本来の姿だとすると、別の血統を入れるわけで、形も変わってきます。それは、品種改良による進歩と思っています。

  • まとめると、初めの在来品種から、在来品種をもとにしたF1へ、さらに在来品種にターサイ、チンゲンサイなどの血を入れ、現在は親にF1分系を利用し、複雑に血統を混ぜて、いろいろな付加価値をつけています。
◇アブラナ科の交雑関係と交配の目的
  • 小松菜と交配可能なのはカブ、白菜、ターサイ、山東菜。だいこん、キャベツなどは染色体の数が違い、組織培養などを行わないと交配はできません。

  • 交配の目的はいろいろあります。まず、食味の向上と外観の改良。食味では、やわらかくてクセが少ないチンゲンサイを掛けることで、独特の風味があった小松菜はあっさり味になりました。外観は、緑色の濃いターサイの血を入れて、小松菜の葉の色を濃く、夏場に作っても色が淡くならないようにしました。

  • 耐暑性、収量性の増加、作業性も挙げられます。小松菜を夏場に作ると細くなります。葉はまっすぐ立つほうが絡みが少なくて作業しやすいので、チンゲンサイの茎の太さと立性を入れました。さらに葉の枚数が多いほうが収量性がいいので、ターサイの葉数の多さを小松菜に入れた、というわけです。

  • 耐病性の付加も重要です。小松菜需要が高まって周年栽培が行われるようになり、連作障害による萎黄病、根こぶ病などへの耐病性が求められました。萎黄病は、耐病性遺伝子をターサイやみこま菜、チンゲンサイからのせました。根こぶ病は、飼料用のカブが持っている根こぶ病の抵抗性遺伝子を小松菜に付加しています。カビが原因の白さび病やべと病は、抵抗性の素材を使って改良しています。
◇小松菜の栄養価と機能性
  • 小松菜にはカルシウムが1株に牛乳1杯分くらい、ほうれん草の3〜5倍含まれるほか、カリウム、鉄、β-カロテン、ビタミンCも豊富です。

  • カリウムには、体内の水分調整、浸透圧調整を行うはたらきがあります。

  • カルシウムは、骨や歯を作り、丈夫にします。

  • 鉄は貧血の予防や、美肌効果も期待できるといわれています。

  • β-カロテンとビタミンCは抗酸化作用があり、活性酸素を消去するといわれています。

  • ビタミンCには鉄の吸収を促す作用もあります。
◇食味にすぐれる雪印種苗の品種
  • 当社の品種は、現在、「浜ちゃん」、「のりちゃん」、「あっちゃん」の3品種。「浜ちゃん」、「のりちゃん」は春夏、「あっちゃん」は冬場に作る小松菜です。

  • 耐暑性のある「浜ちゃん」は夏場に作りやすく、茎が細くなりにくいのが特徴です。歯切れがよく食味良好、繊維質が少ないので口に残りにくいとご好評いただいています。

  • 「のりちゃん」は新しい品種です。夏場、伸びやすくて生長が早い品種は収穫作業に追われますが、「のりちゃん」はじっくり生育するタイプで、大きな面積でも5日くらいに分けて収穫できるのがメリットです。クセがなく食味も良好です。

  • 「あっちゃん」は冬に作る品種で、低温でも伸びると好評です。小松菜本来の食味、野沢菜のような風味が感じられて、漬けものにすると特においしく食べられます。
◇寒じめほうれん草
  • 寒じめほうれん草は9月下旬〜10月上旬に播種し、収穫サイズまで生長させます。その後、平均気温を4℃以下に管理すると、糖度やビタミンなどが上昇します。これは、葉が凍結しないように糖の含量を高めるためです。

  • 寒じめほうれん草は冬場に作りますが、実は、低温で生育が止まる夏用の品種です。栄養価、糖度が高くなりやすいのですが、厳冬期には伸びが悪くなり収量を確保できません。そこで、播種期を調整するなど工夫しています。

  • 当社の「雪美菜02」は、耐寒性、耐病性にすぐれ、おいしいちぢみ系ほうれん草です。
◇ほうれん草の機能性成分
  • 野菜はストレスがあると過酸化物を蓄積します。過酸化物は細胞を攻撃するので、対抗するためにビタミンC、Eなどの抗酸化物質を作り、活性酸素を消去します。また、光合成を助けるカロテンも作り出します。これが、機能性成分が上昇するメカニズムです。

  • ビタミンEには、血行をよくして老化を予防する効果があるといわれています。

  • ほうれん草に多く含まれるシュウ酸を過剰に摂取すると、尿路結石を発症するリスクがあります。水溶性なので調理するときに水けを絞れば、3〜5割減少します。

  • 機能性成分の含量は部位で異なります。ビタミン類は葉で増加、糖類は茎と根で大きく増加します。硝酸、シュウ酸は葉で大きく低下します。

  • ほうれん草にはルテイン、トリプトファン、ルチンなどの機能性成分が含まれます。中でもルテインは、目の老化を防ぐ成分で、視力の低下を抑え、加齢黄斑変性を予防するといわれています。

  • 宮城県園芸総合研究所での試験で、「雪美菜02」は他品種に比べてルテインの含有量が多いこと、2年行われ、年次変動なく安定して高いことが示されました。「雪美菜02」は、当社の試験でも他品種に比べて高い傾向にあります。

  • ルテインを含んだ機能性表示食品として、宮崎県では冷凍ほうれん草、岩手県ではほうれん草の販売が始まっています。

  • 当社では食味や機能性にこだわって育種し、ほかと差別化した商品になっています。
◇質疑応答より

    Q:小松菜やほうれん草は周年出ていて、入荷を見ると4〜5月が多いようですが、本当においしい時期はいつですか?
    A:冬です。本来は冬の作物で、ハウスでは糖度はのりにくく、露地ものは糖度が蓄えられます。出荷量は、面積が限られるので、春より冬のほうが減るのでしょう。

    Q:今の小松菜はチンゲンサイなどが掛け合わされて特徴がなくなっている気がします。もっと野菜本来の持ち味をアピールしてほしいと思うのですが…。
    A:確かに小松菜の味はあっさり傾向ですが、当社の「あっちゃん」は従来の小松菜の味を持っています。他社の品種にもありますので。

    Q:おいしい小松菜の見分け方を教えてください。
    A:見た目だけではなかなかむずかしいと思います。小松菜は収穫時、外葉を捨てて調整しますが、株の根元に繊維質が出ているものは筋張っています。最近は全体的に折れにくい品種になっていますが、折れやすいもののほうが筋張らず、昔ながらの小松菜の味を楽しめます。当社の「浜ちゃん」はまさにそういう品種です。

    Q:自宅で葉ものを冷凍すると、栄養素は変化しますか?
    A:冷凍の仕方によります。瞬間冷凍できれば内容はあまり変わらないはずです。また、解凍は、水溶性の成分が多いので自然解凍のほうが抜けにくいといわれています。時間はかかりますが、いったん冷蔵庫に移し、調理をしたほうがいい、と思います。

    Q:小松菜は根がついているものとついていないものが売られていますが、その違いは?
    A:かつては、根をつけて束ねて出すのが小松菜だとされていました。常温では、根がついていたほうが日持ちします。ただ、包装資材が発達して、根切りをFGに入れて販売される小松菜が増えています。根つきもFG入りも、品種は同じです。

    Q:今後は野菜も機能性を重視して作る商品が増えるのでしょうか?
    A:青果は、作る時期や場所、気候によって機能性成分の含有量が変化するので、なかなかむずかしいと思います。冷凍ほうれん草など瞬間冷凍すればほぼ変わらないので、含有量を表示することはできるでしょう。当社は、北海道で冷凍エダマメをたくさん作っており、将来的に機能性をうたうことも可能かもしれません。

 

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