■2018年4月8日 第1回 開講式 〜 基調講演「トマト」 東京青果(株) 野菜第2事業部 副部長 グループマネージャー 長掛雄治氏
◇はじめに
  • 3〜4年前、八百屋塾で勉強品目の紹介を2年ほど担当していました。

  • 八百屋塾は今回で19期目、2018(平成30)年度のスタートということですが、秋葉原に市場があったのがちょうど30年前です。1989(平成元)年に神田市場から大田市場に移転しました。当時の写真を見ると、駅の反対側などで荷捌きをしていたことがわかります。最後のほうは手狭になって、いろいろなところに荷物を置いていました。年末のみかんなどを、新幹線開通前のトンネルの中や、神宮球場スタジアム脇の空き地に置かせてもらったりしました。
東京青果(株) 野菜第2事業部 副部長
グループマネージャー 長掛雄治氏
  • 私は1994(平成6)年入社なので神田では働いていませんが、子供の頃に秋葉原で目にしたことがあります。自分が市場で働くとは思っていませんでした。。

  • 入社したときはまだ市場の建物がありました。今も「蔬菜」と書いてあるガード下の柱やビル名、また5月の神田祭りに市場神輿を出すのも、市場があった頃の名残です。今の秋葉原はアニメの街として有名で、外国人観光客も大勢いらっしゃいますが、かつてのことを知っていただきたいと思います。

  • 大田市場は、羽田空港に近く、高速のインターがすぐそばで、渋滞はしますが車は便利です。何もない埋立地に作った市場ですが、今は手狭になりました。朝、野菜は6時50分から、果物は7時5分から競売をしています。

  • われわれは表に出る仕事ではなく、主役は生産者さんと八百屋さんのような販売される方々です。その間に立って、みなさまとも生産者さんともご相談しながら、ひとつの商品にしていく。それがわれわれの仕事の基本で、決して忘れてはいけないことだと思っています。

  • 会場に並んでいるトマトの中にはみなさまからのご意見をもとに生まれた商品もあります。たとえば、川副のトマト「グラン光樹」は、今ネットで日本一高いトマトだといわれているようですが、その産地は八百屋さんが育ててくれました。「ファースト」系の「サンロード」という品種で、おいしいのですが、特にこれから暑くなると日持ちしません。でも、「このトマトはおいしい」と買い支えた八百屋さんの声を、産地にフィードバックして、形になりました。
◇いろいろなトマト
  • 品種登録されているトマトは2000種類ぐらいですが、世界には約8000種類もあるといわれています。

  • トマトの原産地はアンデス高地の山奥で、マイクロトマトのようなものだったとされています。アンデスから世界各地に伝わり、日本に入ったのは江戸時代、1700年頃。「蕃茄(ばんか)」という名前で、食用ではなく観賞用として導入されました。トマトを食べるようになったのは明治時代からで、今のようにトマトをたくさん食べるようになったのは第二次世界大戦後です。長崎の産地でトマトの生産が始まったのは、佐世保の進駐軍にトマトとレタスを供給するためだ、と聞いたことがあります。

  • トマトには赤系、ピンク系の2種類があります。赤系はイタリアントマトなど、主に加熱調理で使われています。日本人が一般的に食べているのはピンク系です。戦後アメリカから伝わったポンテローザ種が今の日本のトマトの元祖とされ、品種改良されて、いろいろなトマトになりました。種類が多く分類するのはむずかしいのですが、「完熟系大玉」、「中玉トマト」、「ミニトマト」、「加工・調理用トマト」、「フルーツトマト」に分けています。

    【完熟系大玉】
     かつては「桃太郎系」、今は「完熟系大玉」と呼ばれています。一般的なトマトで、重さ100グラム以上、品種により100グラムないものもあります。

    【中玉トマト】
     大玉とミニの中間で30〜100グラム程度のもの。唐津の「フルティカ」などです。中玉でも最初は大きくなります。

    【ミニトマト】
     1個10〜25グラム程度から30グラムくらい。ミニトマト専用の品種があります。

    【加工・調理用トマト】
     加工用ではジュースに使ういろいろな品種があります。調理用は「イタリアントマト」など、生食はおすすめしませんが、加熱すると酸味が出て味わい深いトマトです。

    【フルーツトマト】
     フルーツトマトに特に定義はなく、小さくても大きくても糖度が高いものを指すので、「高糖度トマト」と呼ぶほうがいいと思います。今日は「グラン光樹」、「麗」、「NKKアグリドリーム」などです。
◇品種の例
 【大玉トマト】
  • 大玉トマトは、タキイ種苗の「桃太郎系」とサカタのタネの「王様系」が二大勢力です。ほかにも「ファースト」などさまざまな品種があります。

  • 35年ほど前に「桃太郎」が出て、赤くてかたくておいしいと、トマトに革命を起こし、小玉傾向で単価も上がりました。それを改良したのが「ハウス桃太郎」です。季節や病気への抵抗性などによって、今、「桃太郎」のシリーズは35種類くらいあります。

  • 「王様系」の中でよく知られているのは「麗容」です。果肉が桃太郎と比べるとかたいので、日持ちします。切ったときにゼリーが出にくいのも特徴で、納めや加工用に好評です。生産者の方々からは、「麗容」は非常に作りやすかった、と聞いています。

  • 「桃太郎系」か「王様系」か…。土壌、気象条件、目的など産地によってそれぞれですから、合うものを作ってください、とお願いしています。かたいものとか、特別おいしいものといったお客さまからのご要望もつなげます。おいしいものを保証するのはむずかしいですが、日々努力しています。
 【ミニトマト】
  • ミニトマトの代表品種は、タキイ種苗の「千果」や「ココ」です。「TY千果」「CFココ」のTYはトマト黄化葉巻病、CFは葉カビウイルスの略です。トマト黄化葉巻病は15〜16年前に発生したのですが、今も特効薬がありません。トマトの樹が成長せず途中で死んでしまう病気で、ほかの樹にもうつります。九州から福島あたりまで発生する可能性があり、深刻です。大玉トマトにもCFなどがついた品種があります。

  • サカタのタネの「アイコ」は、砲弾型です。今日お持ちしたのは和歌山の「アイコ」で、糖度を上げて作られた、きれいな形をしています。今、いろいろな産地があり、家庭菜園でも作りやすいのですが、水やりが多すぎると大暴れして、玉が細長くなります。

  • 「イエローミミ」はカネコ種苗の黄色いミニトマトです。

  • 「キャロル7」、「キャロル10」は、サカタの品種です。「キャロル7」は、タネが少なく、小玉傾向で割れやすいので産地が減少し、今作られているのは熊本の玉名や和歌山。夏は北海道仁木町で素晴らしいトマトが大規模に作られています。
 【中玉系】
  • 「フルティカ」はタキイ種苗。佐賀で作られています。

  • 「シンディスイート」はサカタのタネ。これからの時期だとJA山形からよく出てきます。愛知南の「南レッド」も品種は「シンディスイート」です。

  • 「フルティカ」と「シンディスイート」は小玉で、絞ると甲乙つけがたいおいしさです。

  • 房取りで最初に出てきたのが「カンパリ」。もとはオランダから輸入されました。房取りトマトは、上から下まで均等に赤くするのが大変で、2週間くらいかかり、その間に球が落ちてしまうこともあります。

  • 「ボンジョルノ」は調理用の品種。ほかには、「サンマルツァーノ系」などがあります。

  • カゴメのトマトは市場にはあまり出ませんが、生食用、ジュース用、調理用とバラエティ豊かで、日本で一番多く品種を持っています。市場に出る「凛々子」「ラウンド」などは、念入りに選抜されています。
◇トマトの産地と収穫量
  • 2015年(平成27年)のトマトの収穫量は、全体で年間644,500トンあります。

  • 熊本が17%。トマトとミニトマトで600ヘクタール以上。いぐさ、メロン、いちごなどからトマトに移っているので、かなりの大きさです。

  • 北海道は最近かなり出てきて、8%。平取などは1980年(昭和55年)代くらいから始めたのですが、いまや大規模な産地です。桃太郎系の品種がすべて揃っていて、カタログのようでした。来年純系桃太郎がなくなる、と聞いています。

  • 茨城は7%。最近は大玉が少なく、中玉、ミニトマトの生産量はピカイチです。

  • 千葉は6%。長生、銚子など、大玉で有名なところです。若手生産者に意欲があって、消費地にも近く、レベルの高いトマトを作っています。

  • 愛知6%。ひまわり、豊橋など、いいトマトを作る産地があります。

  • 栃木は5%です。

  • 北海道は別として、大部分がトマトを年間作れます。熊本は夏場は山のほうで作っています。

  • 東京青果への入荷量が一番多いのは5月です。熊本は4〜6月が多く、夏場は少ない。北海道は限られた時期だけの入荷になります。
◇トマトの作型
  • 大きくは、冬春、夏秋トマトに分けられます。春トマト、越冬を合わせて冬春トマトと呼んでいます。

  • 長期一作でやっているのが、熊本、愛知、栃木、千葉などです。

  • 愛知は、抑制と春トマトを分けて、12月で1回出荷を切り2月から出します。1本の樹で行くよりも収量が高くなります。

  • 冬春は九州など南のほうと関東。夏秋は東北や北海道という流れになっています。
◇トマトの栽培
  • 福岡でトマトのハウスに敷いてあるマルチは、太陽光線を反射してトマトを赤く色づけるためです。マルチにも白や黒など、さまざまな色があります。

  • トマトは、3段になると花が1つ咲きます。5〜6段目着花で1段目のトマトが出荷可能になります。今の季節は1つ花が咲いてから45〜50日くらいでトマトができ、暑くなると早くなります。トマトは積算温度がちょうど1000℃なので、平均気温をたどると何日ぐらいでトマトが出てくるかがわかります。

  • 「何段がとんだ」というのは、実がまったくつかない現象です。

  • 低い段は養分を早く吸収し、実がついている時間が長いのでトマトが大きくなります。このあと上に花が咲いても養分が届かずにやせたままで、小玉傾向になるので出荷が少なくなります。

  • 昔は8段で考えると1本の樹で1箱くらいでした。今は長段取りといって、半年〜9ケ月くらい作りっぱなしで回すので、何十メートルも、ハウスの端から端までトマトで埋め尽くされることがあります。

  • 夏場の出荷規格は、色がやや薄めです。各産地にコードがあり、出荷時の色が何番、市場についたときは何番。それがお店に並ぶときは何番で、赤過ぎるとすぐに売らなければいけませんからもう少し薄めに、などと産地とコミュニケーションをとり、八百屋さんに言われたこともフィードバックしています。

  • A品、B品、C品など細かい選別があります。裂果は、ひびが入っていたり、割れてしまったりしたもの。花の付き方で、チャック、窓あき…。虫が咬んだあとや通ったあとがあるものは出せません。

  • 弊社でのトマトの色回りの実験によると、冷蔵と常温で保存した場合、常温のほうが早く赤くなりました。産地からの入荷が冷蔵のものは冷蔵のまま、常温は常温で、ストレスをかけなければわりと持ちます。冷蔵のものは、店に来たときに水滴がついて、よくいわれる「汗をかいている」のでわかると思います。常温のものを冷蔵し、販売時にまた常温にすると早くやわらかくなるのでご注意ください。
◇おいしいトマトの見分け方
  • ヘタがみずみずしい緑色でピンとしているもの、色むらが少なくツヤとハリがあるもの、お尻(ヘタの反対側)に放射状の白い線があるもの、ヘタの周りに白い斑点が出ていないもの、全体的に重量感があるもののほうが果肉が詰まっていていいと思います。

  • トマトの顔をよく見て、トマトと会話すれば、おいしいトマトがわかってきます。
◇最近のトマト事情
  • 作りやすい、甘い、食べやすいと三拍子揃ったミニトマトの人気が上昇し、作付けもこの数年間で非常に増えています。生産者の高齢化もあり、大玉よりミニのほうが軽くて作りやすいわけです。実がつまっていて甘く、一口で食べられるので、今の食生活にマッチしています。

  • ミニトマトには高糖度系もカラフルもあり、トマトバイキングなどでバラエティを広げました。とはいえ、飲食店などは大玉主体ですし、私としても大玉はすたれてほしくないと思っているので、使い分けていただければありがたいです。

  • 中玉の「レッドオーレ」やフルーツトマトが出てきたのが20年くらい前です。大玉、ミニ、中玉と、細分化されているのが最近の特徴です。生産者サイドとしては、病気に強く、赤く、かたく、たくさん採れるもの。消費者ニーズに応えるためには、大きさ、味、色、糖度、名前などが重要だと考えています。

  • 重油代、段ボール、肥料、農薬、タネの値段など、生産コストの上昇が大きな課題です。特に冬場の重油代はどうしても必要で、200リットル缶が1晩でなくなることもあるそうです。1〜2月はトマトの値段が安く、生産者さんは非常に苦しいと思います。トマトの需要は、春から、気温の上昇とともに増え、出荷量も増えます。われわれはもちろんですが、八百屋のみなさんも、ぜひがんばって売ってください。

  • カゴメ以外にも、住宅メーカー、JR九州、東京メトロなど、さまざまな企業がトマト栽培に参入しています。植物工場で水耕の場合もあれば、圃場で作っているところもあります。ただ、トマトは作りづらく、リスクが高い作物なので、採算がとれるかどうかが問題です。
◇トマトの商品説明
  • 本日お持ちしたトマトの桃太郎系は、福岡八女の「桃太郎ホープ」という品種。ピンク系で、これからの気温の上昇を加味して若干薄めの色になっています。

  • サカタ系は、「りんか409」。熊本の郡築です。郡築は「桃太郎」もあります。

  • はがののトマト「麗容」は非常に赤く、ゼリー部分が少なくてきめ細かいのが特徴です。

  • 「ファースト」は「桃太郎」以前、昭和20年代に愛知をはじめ各県の主力品種でした。今日はあえてB品を。かなりとがっています。品種は「レディーファースト」で、これから気温が上がるとおいしくなります。出荷時期は愛知で12月〜6月。「ファースト」はこの時期しか出てこない、旬があるトマトのひとつです。

  • 長崎大雲仙のトマトは、生産者全員が特別栽培の認証をとっています。店持ちもよく、玉も絞れていて、味のいいトマトです。

  • 調理用トマト「ボンジョルノ」は、ヘタがとれやすい品種です。「アメーラルビンズ」など、生食用のトマトにもとれやすい品種があり、今はヘタなしも定着しています。

  • ミディトマト「フルティカ」は、佐賀産です。昔の「華クイン」も少しありますが、収量の関係で、今は「フルティカ」の代表的な産地になりました。味のいいトマトです。

  • カラフルミニトマトは、オレンジ、黄色、茶色、緑など。緑色のミニトマトは品種名も「みどりちゃん」といいます。赤いミニトマトは、「小鈴」です。

  • 和歌山「アイコ」は、高糖度系ミニトマトです。

  • 千葉、関根さんのトマトは、フルーツとレギュラーがあります。一般的な市場流通に合わせず、完熟で出すのがポリシーです。赤みが濃く、届いたらすぐ食べられます。

  • 川副「グラン光樹」は貴重です。高価なトマトですが、味は間違いないです。
◇質疑応答より

    Q:以前、「光樹」のジュースを飲んだことがあるのですが、今もありますか?
    A:まだあります。

    Q:ざらつきがあったり、白い点々があるトマトが出るのはどうしてですか?
    A:生育状況や気温の状態により、出荷し始めや冬期にあります。外が赤く中は赤くなっていないとか、水分過多、極端に寒いときなど。フルーツ系にはほとんどありません。

    Q:納めなので、トマトは値段の変動が激しくて困っています。だいたいの平均的な価格帯を教えていただけないでしょうか?
    A:値段は日々変わっており、平均の価格帯を出すのはむずかしいのですが、ある程度の量になれば、「これだけ使うから値段はこれくらいで」というご要望への対応は可能です。弊社の開発2部が業務納め専門なので、ご紹介します。

    Q:最近はフルーツトマトがいろいろ出ていますが、生産者が増えているのでしょうか?
    A:特に生産者が増えているわけではありません。フルーツトマトは収量が少なく、基本的にリスクが高い。長崎など、高糖度系にシフトしているケースは見られます。

    Q:長掛さんご自身の好みでいいので、おすすめのトマトはありますか?
    A:個人的には長崎、雲仙のトマトがおすすめです。生産者が全員特別栽培の資格を取っていて、「ソプラノ」など今あまり作っていない品種も作っています。高糖度系も、普通のトマトも味はいいと思います。この時期に食べてほしいのは「ファースト」、「光樹」のレギュラー。夏場は北海道仁木町のミニトマトをぜひ一度は食べてほしいです。生産者を見極めて取っていただければいいと思います。

    Q:農家さんが再生産できる価格というのはだいたいどれくらいですか?
    A:大玉でギリギリ冬場はキロ400円、夏場はキロ300円。夏場と秋の抑制は極端に価格が上がりますが、真夏は安い。トマトは35℃以上になると、花が咲いても実をつけない。そのために温度を下げる、コストがかかる。こうした事情もあります。

◇「トマト」の写真
桃太郎ホープ
(福岡・JAふくおか八女)
麗容
(栃木・JAはがの)
りんか
(熊本・JAやつしろ)
ファーストトマト
(茨城・JA竜ヶ崎)
サカタ系
(愛知・JA豊橋)
川副光樹トマト「伝」
(佐賀・JA佐賀)
大雲仙
(長崎・JA島原雲仙)
調理用トマト「ボンジョルノ」
(愛知・JA豊橋)
フルティカ
(佐賀・JA唐津)
高糖度トマト「麗」
(愛知・JA豊橋)
フルーツトマト
(茨城・NKKアグリ)
フルーツ系
(千葉・せきね農苑)
レギュラー
(千葉・せきね農苑)
リサ
(高知・おかざき農園)
カラフルミニトマト
(高知・おかざき農園)
小鈴
(愛知・JA豊橋)
イエローミミ
(愛知・JA豊橋)
みどりちゃん
(愛知・JA豊橋)
ブラッディタイガー
(愛知・JA豊橋)
オレンジスター
(愛知・JA豊橋)
アイコ
(和歌山・JAみなべ)
     
 

【八百屋塾2018 第1回】 挨拶スタッフ紹介講演「トマト」食べくらべ商品説明・生産者紹介