■2019年2月17日 第11回 春を感じる野菜・中晩柑 〜 講演「春を感じる野菜と薬膳」 薬膳アドバイザー・野菜ソムリエPro タナカトウコ氏
◇薬膳、漢方とは
  • 薬膳と聞くと、薬膳火鍋、薬膳カレーなど、スパイスや生薬が山のように入った料理をイメージされるかもしれませんが、漢方(中医学)の理論をベースに、体質、症状、体調、季節に合わせてつくるオーダーメイドの食事のことです。

  • 漢方は奈良時代に中国から日本に伝わりました。古代中国医学を基本に、日本人の体質や風土の影響を受けて独自に発展し、実践されてきた医学体系です。江戸時代までは医学といえば漢方でした。その後、オランダから伝わった西洋医学を「蘭方」と呼び、それまで長く行われてきた医学を「漢方」と呼ぶようになりました。明治時代、西洋化を進める新政府によって漢方はすたれていきましたが、戦前戦後に復興し、現代では医療保険が適用されるまでになりました。
薬膳アドバイザー・野菜ソムリエPro
タナカトウコ氏
  • 3000年以上前から培われてきた古代中国医学は、中国では「中医学」という名前に変わり、医師免許を持った人が治療にあたっています。

  • 韓国では、やはり中国から伝わったものが韓国人の体質や風土に合わせて発展したものが「東医学」、現在では「韓医学」と呼ばれています。
◇医食同源、薬食同源
  • 古代の中国では、食材も薬も「食べもの」で区別はなかったといわれています。

  • 今から3000年くらい前、生薬学の祖「神農」という伝説上の人物が、ありとあらゆる植物を口に入れて、効能や作用、毒の有無、おいしさなどを検証して書物にまとめた、とされています。その中で食材は上品、中品、下品の3つに仕分けされました。上品は、不老不死を目的として長く食べ続けられるもの。中品は、病気の治療に用いるもの。下品は、強い薬効があるが毒性もあるもので、現在の中国でもこの分け方をしています。

  • 周王朝時代(紀元前11〜8世紀)には4種類のお医者さんがおり、食医(食を研究する医者)は最高ランクでした。以来、長年の経験に基づいた分類がなされ、明の時代(16世紀)に、現在の食べものの多くが網羅された薬物書「本草綱目」が完成しました。

  • 薬膳は地域などによりさまざまな流派があり、少しずつ考え方が違います。
◇現代中国でよく用いられる生薬
  • はとむぎはヨクイニンという漢方生薬でもあり、肌の表面をきれいにする、できものを取るといわれ、ポリープができやすい人におすすめです。台湾のかき氷は、はとむぎを煮たものをかけて食べたりします。

  • 「大棗」は、なつめのことです。漢方薬としてよく使われます。

  • クコの実は、不老長寿、アンチエイジングにいいといわれています。

  • 「山薬」はやまいもを乾燥させたもの。主に、アンチエイジング系の漢方薬です。

  • 生姜は、生をスライスして乾燥させたものと、蒸してから乾燥させたものがあります。

  • 「葱白」は、長ねぎの白い部分です。

  • 「杏仁」はあんずのタネ。うるおい系の生薬に使い、乾燥が気になる人におすすめです。四川料理で辛いものを食べると汗をかいて体の中の水分が失われてしまうので、最後に杏仁豆腐を食べて水分を取り戻すという考え方が漢方にはあります。

  • 「烏梅」は、梅の加工品です。

  • 「附子」は、トリカブトのことです。毒も使いようで薬になるため、漢方薬の処方に使われることもあります。

  • 葛根湯は、葛根(くず)、大棗(なつめ)、桂皮(シナモン)、生姜、甘草(甘味料)、麻黄、芍薬など、食べものがベースです。風邪の薬ではなく、症状に対して処方するもので、風邪のひきはじめで、首の後ろがぞくぞくするときはいいのですが、熱が出てしまったら別の漢方薬のほうがいい。肩こりや関節が痛いときにも葛根湯はおすすめです。
◇薬膳を実践するには
  • 薬膳の基本的な考え方はシンプルで、健康とは「自然と調和している状態」です。季節のものを食べることで体が自然と調和できますから、旬のものを中心に食べれば健康を維持できる、という考え方があります。

  • 未病というのは、病気の一歩手前の状態です。頭痛がする、肩こりがする、衰えを感じるなど、100%健康だとはいえない未病の方は、旬のものに加えて不調の原因を取り除くものを食べます。たとえば、冷え性の方は温め食材を蒸したり煮たりして温かい状態で食べる。むくみには水の代謝をあげる食材がおすすめです。むくみやすい人は湿気に弱いタイプです。梅雨時期には、とうもろこしなど、湿気を取るはたらきの野菜が多い。乾燥させたとうもろこしのひげも漢方の生薬で、韓国にはひげ茶があります。
◇季節の邪気
  • 季節には邪気があり、体に悪影響を与えると考えられています。春は「風邪(ふうじゃ)」、夏は「熱邪」、梅雨は「湿邪」、秋は「燥邪」、冬は「寒邪」。夏は暑さによって、梅雨は湿気、秋は乾燥、冬は寒さによるダメージを受けるということです。

  • 邪気とその人のウィークポイントが合うと体調を崩しやすくなります。夏ばてしやすい人は熱邪に弱く、むくみやすい人や乗り物に酔う人は湿気に弱いタイプ。乾燥に弱い、アレルギーがある人は秋に体調を崩しやすく、冷え性、高齢の方は寒邪に弱くなります。

  • 春の「風邪(ふうじゃ)」は、「風当たりが強い」、圧が強い、圧迫されているというイメージです。春先は環境やステージが変わり、ストレスを感じやすい時期です。ウイルスやほこりなども風にのってきて、それでやられてしまう。ストレスを感じやすい人、メンタルが繊細な方や、完璧主義な方が春に不調を起こしやすい、といわれています。

  • 春は体の上部や皮膚のトラブル、たとえば、頭痛、めまい、鼻の不調、目の充血、口内炎、花粉症、じんましん、アレルギー性皮膚炎など、風邪(ふうじゃ)によって肝機能の解毒作用が落ちることからいろいろなトラブルが起こる、と考えられています。

  • 自律神経のバランスも崩れやすく、イライラ、情緒不安定、のぼせ、不眠、お腹が張る、胃がシクシク痛むなど、ストレス性の症状も起きやすいとされます。怒っている人を表現するのに、沸騰したやかんのような湯気が出ている漫画がありますが、下に行くはずの気が逆流して上に行き、悪いものが溜まってさまざまな症状が出る、ということです。
◇春の薬膳ポイント
  • 漢方では肝臓がメンタルをコントロールしていると考えられています。春は「平肝」。肝臓をケアし機能を正常化することでイライラを鎮める、ということです。

  • 次に「理気」。気は体の中を巡っており、イライラするとそれが滞ります。緊張して喉がつかえるのは、肝臓がやられて喉に気が溜まるからと考えられています。ストレスで滞った気の巡りを良くすることで、バリア機能が高まります。

  • 「解毒」は、冬の間に溜まった老廃物を排出、リセットし体の機能が整うことです。

  • 「健脾、補気」。脾は消化器系全般です。それを健康にして消化吸収力を高め、気力を養って体を健康に近づけていく、という考え方です。

  • 平肝には、クレソン、せり、セロリ、トマト。理気には、フェンネル、たまねぎ、柑橘類全般。香りのよいもの、辛みのあるもの。解毒は芽吹き野菜や苦みがあるもの。たけのこ、ふきのとう、ふき、たらのめ、菜の花、はっさくなど。健脾、補気には、キャベツ、にんじん、アスパラガス、グリンピース、そらまめなど。でんぷん質で淡い甘みがあるものがいいとされます。
◇テーマ野菜の薬膳的役割
  • 薬膳では味にもはたらきがあると考えられており、食材そのものを味と性質で分類しています。本日の八百屋塾のテーマ野菜について、薬膳的役割をご紹介します。

  • 【うど】
    食味は辛みと苦み。辛みには、気の巡りを良くする、体表を開き不要な物質を発散させるはたらき、苦みには、消炎、抗菌、解熱、解毒、気の高ぶりを沈静化するはたらきがあります。食性は微温性、少し温めるということ。足腰の冷え、冷えによる痛みを止めるはたらきがあり、風邪のひきはじめ、頭痛、鼻炎、湿疹にも。めまい、ふらつき、けいれん、ひきつり、手足の震えなど、春に起きやすい不調をケアしてくれます。

  • 【菜の花】
    食味は辛み。食性は温めるはたらき。解毒、炎症、おでき、吹き出物、産後の回復に。腫れ、むくみをとる、お血(おけつ)の解消。お血とは、血の巡りが悪く滞りやすい体質のことで、たとえば、目の下のクマ、肝斑、ぶつけた記憶のない青あざなど。

  • 【きんかん】
    他の柑橘とほぼ同様で、味は辛みと甘み。甘みは人体活動に不可欠な機能や栄養物質を取り込む、胃の活動を調節し、消化機能を穏やかにすすめるはたらきがある。食性は温性。咳、痰、吐き気、めまい、悪寒、食欲不振、口の渇き、胃もたれ、ストレス過多、鬱積した状態を解きほぐすはたらきがあるといわれています。

  • ゆずなどのやや酸味があるものは二日酔いにもいい。詳細は別添資料を参照。

  • はっさくの苦みはナリンギンという成分で、花粉症の抑制などに効果があるという研究データがあるそうです。気になる方は薄皮ごとむかずに食べるといいでしょう。