■2024年2月18日 第11回 ブロッコリー・柑橘類 〜 講演「ブロッコリーについて」 (株)サカタのタネ 野菜統括部 春日大樹氏
◇はじめに
  • (株)サカタのタネの野菜統括部でブロッコリーとカリフラワーを担当しています。

  • ブロッコリーは指定野菜になるということで、非常に注目されている野菜の1つだと思います。

  • 弊社としてもトップレベルの重要品目で、種苗メーカーという観点からお話しすることで、みなさまの青果販売に今までとちょっと違ったヒントをご提供できれば、と思っております。

(株)サカタのタネ 野菜統括部
春日大樹氏
  • ブロッコリーは地中海沿岸で生まれた野菜です。商業的な生産が本格化したのは、19世紀、アメリカでイタリア系移民の方が栽培したのが始まりといわれています。1970年代に定着し始め、1980年代に需要が急速に拡大、その後、全世界に広まりました。

  • ブロッコリーの難しさの1つは、収穫適期が短く、個体ごとに生育がバラついてしまうので、農家さんの収穫作業が大変なこと。もう1つは、収穫後の日持ちが悪いこと。大量生産、大量流通が難しく、当初は、カリフラワーなどに比べマイナーな野菜でした。現在でも、コールドチェーンが未発達な地域ではブロッコリーよりもカリフラワーが重要視されています。50年前のアメリカや日本でも同様だったと思います。

  • 弊社は、ブロッコリーをメジャーな野菜にしようと1960年頃から挑戦を始め、1969年にアメリカで発売された「グリーンデューク」という品種は、揃いがよく、品質もいいことから、アメリカ全土を席巻しました。同時に、アメリカにおける青果の流通面でも、コールドチェーンが発達し、家庭用冷蔵庫が普及したおかげで、ブロッコリーは取り扱いやすい野菜になっていきました。

  • 日本では、1980年代に「緑嶺」、「緑帝」を発売。ブロッコリー栽培に貢献しました。

  • 1990年代、輸入自由化が承認されて、外国から良質で安価な青果物が入るようになったことから、日本のブロッコリー生産の意欲が減退しました。そこで2002年に、輸入青果物の流通が多くなる高温期に日本で作りやすい品種「ピクセル」を発売しました。それがどこまで影響したかはわかりませんが、2006年ぐらいからブロッコリーの作付け面積が右肩上がりになりました。

  • ブロッコリーの消費拡大と弊社品種の歴史は連動しており、生産者、流通のみなさまとともに走ってきた、と感じています。
◇ブロッコリーについて
  • ブロッコリーは、ケールから派生した野菜です。ケールの芯(種を作り子孫を残す部分)を寒さから守るために結球するようになったのがキャベツ。茎が太くなったのがコールラビ。ブロッコリーとカリフラワーは、つぼみの部分が膨らんだもの。そのなかで白い花蕾のものを選抜したのがカリフラワーなので、ブロッコリーとは特に近い間柄です。

  • ブロッコリーは、和名も英名も「ブロッコリー」。「ブロッコ」は、イタリア語で、若芽や若木を意味します。

  • ケールから派生し、花芽を食べるのはブロッコリーとカリフラワー。葉ではなく花蕾を食用とすることが、ブロッコリーの栽培や流通を難しくしています。

  • ブロッコリーは緑色で、「スティックセニョール」のような茎ブロッコリーもあります。カリフラワーは白、紫、オレンジとさまざまな色があります。中国では、ちょっと緩んだカリフラワーのほうが主流のようです。
◇ブロッコリーとカリフラワーの違い
  • 花蕾を食べる点は共通です。しかし、花蕾を構成している粒が異なります。カリフラワーは花芽のもととなる原基のまま生育が止まり、それが集まったもの。ブロッコリーは芽が成長し、花が咲く寸前のつぼみが集まったものです。ブロッコリーは置いておくと黄色い花が見えますが、カリフラワーは見えません。

  • ブロッコリーは茎がグンと伸び、高いところに花蕾がつきますが、カリフラワーは、それほど茎が伸びないので、低いところに花蕾がつきます。

  • ブロッコリーは葉の節から脇芽が出てきます。家庭菜園でブロッコリーが人気なのは、収穫した後も側花蕾が採れるからです。カリフラワーは節が詰まっているので、脇芽は出てきません。
◇ブロッコリーとカリフラワーの関係
  • 1987年、青果市場でのブロッコリーとカリフラワーの流通量が逆転しました。

  • どちらも明治時代初期には日本に入っていましたが、一般的にはなりませんでした。先に広まったのはカリフラワーで、アスパラ、セロリとともに「西洋の3白」と呼ばれ、流通するようになりました。

  • 1970年代、緑黄色野菜が注目され、ファミリーレストランなども増えて、食生活が変わってきました。1980年に「食品成分表」に初めてブロッコリーが載りました。ブロッコリーとカリフラワーを比べると、ブロッコリーの栄養価が高く、一気にブロッコリーへ需要が移っていきましした。

  • ブロッコリーのβ-カロテンはキャベツの16倍、ビタミンCはトマトの8倍、レモンの2倍とされます。スプラウトで話題のスルフォラファンという成分も含まれていますし、また、近年では筋肉芸人や筋トレを熱心にする方々が、タンパク質を摂るという点でブロッコリーに注目しているというような話題を提供しています。

  • 栄養価が高い理由は、つぼみだからです。子孫を残すために、植物はあるタイミングから花芽に栄養素が増やします。ブロッコリーは、そういう大事なところを食べるので栄養価が高い、と考えられます。

  • ブロッコリーの栽培面積や消費量は右肩上がりです。弁当にも入れやすいですし、茹でるだけではなく、蒸す、焼くという調理ももちろんでき、それらの調理の方が食感が残りやすいように感じます。また、茎もおいしくいただけます。こうしたことも消費の拡大につながっていると思います。
◇ブロッコリーの栽培について
  • ブロッコリーの原産地は、地中海沿岸。気候は穏やかで、雨が少なく、過ごしやすい地域です。夏は乾燥して涼しく、冬は湿潤で、底冷えしません。

  • ブロッコリーの本来の生育は、夏頃に栽培が始まり、冬に花芽をつけ、春に花を咲かせて種を取ります。花芽が育つ冬期は、急激な温度の低下や環境の変化を嫌います。生育の適温は20度ぐらい。

  • 根も重要です。地中海沿岸地域の土壌は石灰質でアルカリ性。ふかふかして、通気性・排水性がよく、肥料や水を吸収しやすい。関東ローム層の土は比較的ふかふかですが、西日本の土は水田の裏作で重く締まっています。また、日本は、夏は高温多湿。冬は急激に温度が下がるところもあります。ブロッコリーにとって厳しい環境でいかに作れるような品種を開発するか。ここに、種苗会社の存在価値があると思います。

  • ブロッコリーは、緑植物春化型(グリーンプラントバーナリゼーション)の作物で、体が大きくなったら低温を感じ、一定期間、低温に当たると花芽がつく、という性質を持っています。

  • 早生、晩生の違いは、収穫までの日数の長さ。早生は、温度がそれほど低くなくても、低温と感じて早く花芽をつけようとするので収穫が早くなります。

  • 夏場のブロッコリーは基本的に早生品種を栽培することが多いですが、早生品種は20℃ぐらいで寒いと感じて花芽をつけます。逆に、寒さが続く時期は、寒さに反応するまで時間がかかる中生・晩生品種を使います。栽培地域とこうした花芽分化の条件が異なる品種を使い分け、1年中ブロッコリーが出回るようになっています。

  • まずは、種を播き、苗を作ります。それを畑に植えます。そして、外葉が発育して自分の体をつくる栄養生長をし、秋冬に温度が下がり、花芽分化を経て、花蕾を育てる生殖生長になり、ブロッコリーができます。

  • ドームの盛りが高く、締まった花蕾を作るには、花芽を付ける前の葉の枚数と、花蕾を構成する粒の数が多いことが重要です。花芽がつくと葉は分化しなくなるので、立派な花蕾を採るためには、花芽が分化する前に、葉の数をしっかりと確保し、茎が太く、がっちりとした体を作ることが大切です。

  • あくまでイメージとなりますが、播種して、90日後収穫の早生と、120日後収穫の中生を全く同じ条件で栽培した場合、育苗期と生殖生長期の日数は大体どの品種も同じですが、栄養生長期は、早生品種で30日、中生品種で60日と異なってきます。よって、この期間にいかに葉を多く作り、粒を細かくするために茎を太くて立派なその品種らしい体にするか、というところが農家さんの腕の見せどころです。

  • ブロッコリーには、ボトニングという生理障害があります。春のブロッコリーで多く見られる症状です。体が充実する前に寒さに当たり、早く花芽をつけてしまう。茎は細く、粒も細かくなりません。こういうトラブルが起きにくいような品種も開発され、1年中、国産のブロッコリーが出回るようになりました。

  • 夏場の生理障害、キャッツアイは粒の生育不揃いで、花芽分化時の低温の感応がずれ、そして高温の障害などを受けることで起こります。またリーフィーは、花芽分化後、通常は生殖成長になるのですが、肥料が急激に効いたり暑すぎると栄養生長に戻ってしまい、再び体を作ろうとします。食べても問題はありませんが、こうした症状を抑えることも課題です。

◇ブロッコリーの流通について
  • 栽培面積の増加が指定野菜になった理由の一つでしょう。2022年は1万7200ヘクタール作られており、10年前は1万3600ヘクタール。統計のある1989年と比べると、2022年までに9050ヘクタール増加しており、これほど増えている野菜はないと思います。

  • 消費が伸びて一般化し、安定した供給体制が備わったので、指定野菜になったのではないでしょうか。今後については、需要と供給を考えると2万ヘクタール以上にはなりにくいのではないか。冷凍ブロッコリーの国産志向がより高まると、作付面積が増える可能性はある、と考えています。

  • 2021年、国内全体のブロッコリー流通量は約24万トン。そのうちの約7割が国産で、輸入は約3割です。輸入品7万トンのうち、青果のまま流通しているのは5000トンぐらいで、ほとんどが冷凍用途といえます。

  • 輸入青果については、2012年から2021年を見ると生食用途は右肩下がり。冷凍用途は増加しています。

  • ブロッコリーは日本全国で作られており、2022年の面積は1万7200ヘクタール。北海道、香川、埼玉、長野、長崎、徳島、愛知、熊本、鳥取、群馬、福岡、福島の12県で約80パーセント。このうち、北海道、香川、埼玉、長野、長崎、徳島、愛知、熊本、鳥取の9県で約50パーセント。北海道、長野、長崎、熊本は、過去3年ずっと伸び続けています。

  • 大阪と東京の青果の入荷実績は、どちらも夏場は北海道、長野が中心。冬場は、関東、関西によって、香川、愛知、徳島が多いなど、変わります。

  • 課題は夏場の供給です。2023年6〜10月は、東京と大阪の市場ともに、対前年比でブロッコリーが不足しました。気候変動の影響か、夏場の供給基地である北海道や長野で栽培が苦戦しました。日本の気候はブロッコリーには非常に厳しいほうに向かっており、簡単な解決策はありませんが、品種開発や栽培技術の工夫など努力を続けています。
◇(株)サカタのタネのブロッコリー品種について
  • 2002年に出した「ピクセル」は、画期的な品種で、一時期、長野や北海道の高冷地の6〜8月収穫、一般地や暖地の春のブロッコリーや秋の1番早い作型はほとんどが「ピクセル」という時代がありました。早生で暑さに強く、非常に色が濃くて、品質がいい。春のブロッコリーの品質向上や栽培時期の拡大といった面で、国内の生産拡大に貢献したのではないかと思います。今はだいぶ作付けが減りましたが、北海道や長野の一部では今でも作付けは続いております。また、「ピクセルは茎まで柔らかくておいしい」といっていただけることもあります。

  • 現在の主力品種は、「おはよう」、「こんにちは」、「こんばんは」というシリーズです。ブロッコリーは、寒いと、自分の体を守るためにアントシアニンを出します。その紫色が流通からは嫌がられることが多いので、開発されたのがアントシアンの出ない品種です。2000年代、初期のアントシアンフリーといわれた品種は、寒くなると紫にはなりませんが、畑で寒さにずっと当たると花蕾の色が白けてしまい新鮮でないように見えました。しかし、「おはよう」、「こんにちは」、「こんばんは」は、濃い緑色であり、見た目が良い期間が長いのが特長です。「おはよう」はおそらく日本の品種の中で1番幅広い地域や時期で作られていると思います。

  • 「おはよう」、「こんにちは」、「こんばんは」は、早生、中生、晩生。「おはよう」の試験番号は「084」で、農家さんたちに「084=おはよう」と呼ばれていたのを、名前にしました。その後出た、中生、晩生の品種は、「こんにちは」、「こんばんは」になりました。

  • ブロッコリーは、鮮度が失われると黄色っぽくなりますが、弊社の品種の多くは変色が遅い。流通性は非常に重要なので、見た目にも鮮度が落ちないことも意識しています。

  • 「Myドームシリーズ」の4品種「サマードーム」、「グランドーム」、「ウィンタードーム」、「レイトドーム」は、根張りが強いブロッコリーです。寒くなるとアントシアンが出ますが、株が張って、もりもりのドームになります。根が強いので、水田の裏作地域などでよく作られています。

  • 「グランドーム」は、特に加工業務用向けとしても注目されています。花蕾を大きくしても非常に締まりがよく、フローレットと呼ばれる切り離した小房が多く採れます。

  • 去年発売した「アーリーキャノン」は、早生で、耐暑性が強く、暑い時期に問題になる根こぶ病に比較的強い品種です。北海道や長野の9月頃、そして、一般地や暖地の10月頃の早い時期のブロッコリーとして、みなさまに扱っていただく機会があるのではないかと思います。

  • 茎ブロッコリーの「スティックセニョール」は、茎を皮ごと食べられて、柔らかく、非常においしい。茎ブロッコリーの元祖ということで、現在もご愛顧いただいています。家庭菜園でも長い期間たくさん取れますので、家庭菜園におけるブロッコリーのナンバーワン人気品種として楽しんでいただいてます。
◇終わりに
  • ブロッコリーの花言葉は、「小さな幸せ」。今日の話で、ブロッコリーに愛着を持っていただいて、みなさまのご商売にブロッコリーがより大きな幸せをもたらすことができれば、私も幸せです。
◇質疑応答より

    Q:冷凍食品向けの品種の開発というのは行われていますか?
    A:冷凍は、業者さんや機械によって違うので、どこを目指していいのか、種苗メーカーとしては悩ましい。冷凍メーカーさんとの情報交換は行っています。

    Q:ブロッコリーは、単価が出るから農家さんも作っていると思う。大体の再生産価格を教えていただけますか? それが消費者に伝われば、国産を買っていただけると思うのですが。
    A:再生産のボーダーラインがわからないのですが、消費者は青果の値段が下がれば嬉しいし、国産野菜の需要拡大の可能性も広がるかもしれません。ただ、農家さんのことを考えると、鮮度を保つための設備投資も必要だし、新鮮で良質なブロッコリーがみなさまのお店に安定して届くためには、最低でも今の価格ラインでないと厳しいのではないかというのが印象です。

    Q:サカタのタネは、ブロッコリーでは全世界を制していますが、ほかに今、ブロッコリーに力を入れている国内の会社はあるでしょうか?
    A:トキタ種苗さん、野崎採種場さんなど、特徴的な品種を持っています。弊社のグループ会社ブロリードもあります。色々なメーカーと切磋琢磨しながらみなさまに貢献出来る品種の開発を行っています。

    Q:50〜60年八百屋をやってきて、ブロッコリーの旬は春と秋だと理解していましたが、冬場の品質のほうがよかったり、アメリカからの輸入品のほうが黄色くなりにくかったりするのは、どうしてですか?
    A:アメリカは流通が広まり、コールドチェーンも充実し、青果の扱いで、日本より先に行っていたと思います。また、輸入青果が多かった4〜6月頃は日本では作りにくいです。しかし、国産ブロッコリーの安定供給のために、新品種や産地の設備投資などの努力により環境を整えてきました。ブロッコリーは、消費者に届けるまでのところもポイントです。作物の特性上、花蕾を長期間緑のまま保つのは難しいのですが、輸入が多かった時代に比べると、産地の努力によって、国産のいい品物がお手元に届くようになっていると思います。

    Q:アントシアニンは、体にいいといわれる抗酸化物質ですね。見た目の問題で出なくした品種のシリーズが1番売れているそうですが、「アントシアニンは体にいい」とPRして売ったりはしないのですか?
    A:消費者に、そういった正しい情報を伝えていかなければ、とは思っています。ブロッコリーは他の野菜と比べてデリケートで、さまざまな症状が出てきます。紫色になるのは生理障害で、病気ではありませんし、植物を守るために栄養素を高めているので体にもいいかもしれないと、弊社のホームページなどでもご説明するページを作ったりといった啓蒙活動を行っています。また、あまりブロッコリーが広まっていない海外の地域でもブロッコリーの啓蒙活動を実施しています。消費者のみなさんに正しい情報を知っていただければ、農家さんもまた作りがいが出てくると思いますので、みなさんといっしょに、ブロッコリーの消費拡大をしていきたいと思っています。よろしくお願いします。

    Q:茎が太いブロッコリーは、納品で「茎はいらない」といわれると量が半分くらいになり、ゴミの量もものすごい。店でも「茎は切って」といわれることがあります。サカタさんは、茎を食用として推奨していますか?
    A:フードロスの問題もあり、茎もおいしく食べられることは啓蒙していかなければ、と思います。固い部分を除き、乱切りにして電子レンジでサッと加熱し、鶏がらスープの素で味をつければおつまみになりますし、天ぷらにすると食感がサクサクしておいしい。反面、茎が太いと農家さんの収穫などが大変なので、収穫作業性は良くしなくてはいけない。種苗メーカーとしては、茎が細くても立派な花蕾ができる品種を開発する必要がある、と思っています。

    Q:紫カリフラワーはどうして紫になるんでしょうか?
    A:品種改良をしていく中で、紫のものが出るとそれを選んで改良していきました。オレンジカリフラワーも、素質として色を持っています。

    Q:茎の空洞化についてはどうお考えになっていますか?
    A:スーパーなどからいわれるのは、アントシアニンの次に空洞化です。これも生理現象なので、腐っていなければ食べても問題ありません。ただ、なりにくい品種の開発とか、栽培上の注意点はわかっている部分もあるので農家さんにお伝えしています。

 

【八百屋塾2023 第11回】 挨拶講演「ブロッコリーについて」「柑橘類」について勉強品目「ブロッコリー」食べくらべ