■2024年1月21日 第10回 さつまいも・いちご 〜 農産物の「形」に関する売り手と買い手の意識差をどう埋めるか〜いちごの奇形果を事例として〜 慶応義塾大学 文学部4年 中島結里乃氏、経済学部3年 平田菜子氏
◇いちごに関する調査研究の発表
[慶応義塾大学 文学部4年 中島結里乃氏、経済学部3年 平田菜子氏より]
  • 農産物の「形」がどれくらい気にされるのか、いちごの奇形果を事例としてアンケート調査を行いました。八百屋塾のみなさまにもご協力いただいた方がいらっしゃるので、報告します。

  • 円錐形のいちごが正常果、2つ以上の果実がくっついたものを奇形果と定義しました。

  • 研究の背景は、味や品質には問題がないにもかかわらず、規格の「形」の基準を満たさないことで廃棄、あるいは低評価されることへの疑問を発端に、いちごの奇形果を事例として、売り手と買い手で意識に違いがあるという仮説のもと、両者に意識調査を行い、農産物の「形」への意識、規格のあり方を問い直すことを目的としています。
慶応義塾大学
文学部4年 中島結里乃氏(写真左)
経済学部3年 平田菜子氏(写真右)
  • 先行研究を整理したところ、いちごの不稔性とそれによって発生する奇形果に注目した研究はいくつかなされていましたが、本研究で注目しているタイプ、2つ以上の果実がくっついたような奇形の発現についての研究はなされていませんでした。

  • 売り手と買い手の意識に関する先行研究については、消費者(買い手)に対する意識調査はいくつかあり、それによると消費者はあまり見た目にはこだわらず、規格外も受け入れよう、という寛容さが見られました。一方、売り手側に対しての意識調査は乏しく、規格や農作物の「形」に関して、売り手と買い手の意識を対比させる研究はありませんでしたので、今回それを行おう、と考えました。

  • 生産者への聞き取り調査として、千葉、愛知の2軒のいちご生産者さんにお話を伺い、奇形果は栄養過多のときに発生しやすい傾向があることが明らかになりました。消費者にとって健康上の負の要素を持っているわけではないですし、正常果より大きくて甘い可能性もあります。こうした奇形果の発生理由、プレミアムを説明すれば、購入する人は増えるのではないか、と考えました。

  • 次に、より専門的な見地からのお話を、奈良県農業研究開発センターの方に伺いました。奇形果は栄養過多のときに生じやすいことに加え、花芽分化異常の可能性があることがわかりました。また、規格の定め方などについてもご説明いただき、売り手は味よりも形を価値基準の判断としている、売り手には規格に対するステレオタイプがあるのでは、ということに言及されました。そこで、売り手はどんなステレオタイプを持つのかに注目して、アンケート調査を行うことにしました。

  • 消費者に対するアンケート調査の目的は、どれくらいいちごの形状を重視しているのか、奇形果が持つプレミアムをどれくらい評価してくれるのか。学生と主婦層を中心に、通常のいちごと、奇形果のパックを提示し、購入意思や支払い意思額を質問しました。その結果、消費者はさほど形を重視していないという結論が出ました。奇形果にある程度のマイナスはありましたが、プレミアムの存在を提示すると補えるほどのものでした。よって、プレミアムの存在が認知されれば、価値を向上させることが可能ではないか、と考えられます。

  • 売り手に関しては、7件の小売り、流通業者さんにご回答いただきました。質問内容は、仕入れの際に重視するポイントとその理由、さらに、奇形果のパックの写真を提示し、購入するかどうかとその理由を質問しました。その結果は、価値観がばらばらでした。印象的だったのは、いちごはお菓子などに使われる飾りの要素も多く、見た目を消費者より重視するという感触は得られました。奇形果のパック販売方法は、正常果より値引きして販売という方が4件。同じ値段なら消費者は正常果を選ぶのではないか、スイーツに使われるから形のいいほうがいい、使いにくいのではないかなど、消費者をおもんばかるご意見がありました。同じ価格で販売するという方は、味重視だから、自分だったら買うから。販売しないという方は、クレームを避けるため、というのがその理由でした。結論としては、消費者と比較すると、圧倒的に形状を気にする(奇形果を低く評価する)傾向が見られました。

  • まとめると、いちごの形に関する売り手と買い手の意識には明確な差がありました。買い手の寛容な傾向に対し、売り手は形にこだわっていました。売り手の持つステレオタイプとして、売れるためには形がよくなければいけない、規格にそった農産物でなければいけない、という面が見られました。

  • 今後、こうしたステレオタイプの存在は改善されるべきではないでしょうか。買い手の寛容さを認識し、形、規格を再検討する必要があります。買い手も、形に関する価値観を内省すると同時に、今後の食と農のあり方について学ぶ必要がありますし、どちらか一方ではなく、両者ともに規格のあり方について考え、よりよいあり方に向けて進んでいけるように努力する必要がある、と思いました。
◇受講生からの意見や感想
  • よく調べられていると思いました。私は価格を変えて売ります。奇形果を安く販売するということではなく、形のいいものには価値をつけたいからです。目をつぶってものを食べてもおいしくないように、視覚から入る情報は大きいので、形も重要な要素です。こういう考え方の売り手も一定数いると思います。

  • 一消費者の目線でいうと、プレミアムがあるといわれても、デコボコしていたら買うのは迷うかもしれません。日本人特有なのか、たとえば、曲がりきゅうりも、味は変らないとどれだけいわれても現実には避けられ、多くの人はまっすぐできれいなきゅうりを手に取ります。それを覆すのはむずかしいでしょうね。

  • アンケートだけの寛容さと、実際に手に取るときの寛容さは、かなり違うのではないか、と思いました。購買行動を調べると、アンケートの結果とは乖離があるかもしれません。