■2023年7月23日 第4回 とうもろこし・えだまめ 〜 勉強品目「とうもろこし」「えだまめ」 伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏、東京青果(株)
小尾洋平氏 |
◇伝統野菜の「えだまめ」について |
[伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏より] |
- 今日の八百屋塾のテーマは、とうもろこしとえだまめです。スイートコーンもえだまめも、未成熟の実を食べ、野菜として扱われるところが共通していて面白いと思いました。
- えだまめというか大豆の来歴ですが、原産地は特定されていません。中国の雲南省やアッサム地域が合理的ではないか、といわれています。
- 大豆の原種はつるまめではないかといわれており、その野生種が栽培化されたのは中国のようですが、4000〜5000年前とに古いことなので確実なことはいわれていません。
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- 日本には、中国から朝鮮半島を経て入ったと考えられています。日本では、豆は昔から利用されていましたが、栽培化された豆が利用され始めたのは縄文後期か弥生時代とされています。『日本書記』、『古事記』に記録が残っており、その頃には栽培化されていたのではないかと捉えられています。
- 大豆やとうもろこしの未成熟の若ざやを採って、茹でて食べていたのは、平安時代頃ではないかと考えられています。決め手はないようですが、『延喜式』にえだまめのことが書かれており、鎌倉時代の貢納物の中にもえだまめの記録が残っています。
- 日本では、未熟果を茹でて食べる習慣が盛んだったようですが、中国や韓国には受け入れられず、完熟した豆にいろいろな加工をして食べられていました。今では、若ざやを食べるとおいしい、ということが定着して、中国でも韓国でも食べられています。
- 伝統のえだまめは、東北に多く、関東にも少しあり、関西にはほとんどありません。東北、北陸には、地方品種がたくさん生まれています。えだまめは、お湯を沸かしておき、収穫したらすぐ茹でろというぐらい鮮度が落ちやすく、全国流通しなかったので地方品種が定着した、と考えられます。
- 地方品種の名前はさまざまです。地名が多いですが、そうではないものもあります。
- 新潟県と山形県にはとても多くの地方品種があります。たとえば、長岡市の「肴豆」。なぜこの名前が付いたのか…。ビールのつまみにすると本当においしい、というところから長岡市が命名しました。
- 「くろさき茶豆」は地名。新潟市の黒崎地区で作られ、農林水産省のGI食品を取得しています。
- 新潟では「1人娘」も有名です。以前は、あまりにもおいしいから人には「言うなよ」という名前でした。その後、株が大きく、1本ずつ仕立てないといけないから、「1人娘」という名前になったそうです。
- 山形県といえば、「だだちゃ豆」です。この名前が付く在来種は、調べてみたら7種類も出てきました。中でも「白山だだちゃ」は、この系統の中で1番おいしいといわれ、記念碑まで建てられています。
- 「いたや毛豆」は、青森の地名と豆の特徴から名前が付けられました。茶色くて、毛がいっぱい生えてるえだまめです。
- 最近注目されているのは、千葉県の「小糸在来枝豆」。幻の在来種といわれ、市場には出回りませんでしたが、2004年に地域の活性化事業で小糸在来愛好クラブができ、盛んに作られています。
- 「丹波黒大豆」は、えだまめとは付いていないのですが、1988年の「食と緑の博覧会」でえだまめとして食べてみたらすごくおいしかった、と。また、漫画『美味しんぼ』でもおいしいえだまめとして紹介され、脚光を浴びました。今では、黒豆だけではなく、えだまめとしても、盛んに食べられるようになりました。
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◇伝統野菜の「とうもろこし」について |
[伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏より] |
- スイートコーンはアメリカから入ってきて以来、F1種になっているので、伝統種が残っておらず、調べた結果、わかったのは2種類です。
- 山梨県の「甲州もろこし」は、荒地でも山間部でも育ちます。江戸時代から山梨県の山間部で栽培されているフリントコーンの種類で、いまも栽培されています。
- 北海道の「八列とうもろこし」は、明治から昭和にかけて北海道で最も多く栽培されたフリントコーン種。札幌の大通り公園で焼きとうもろこしを売り出し、評判になりました。収穫後の劣化が早く、流通には向かないため、現在は直売用にのみ細々と作られており、日本スローフード協会の「味の箱船」にも認定されました。
- 現在はスイートコーン全盛で、フリントコーン種を食べる機会がなくなってしまったようです
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◇「えだまめ」について |
[東京青果(株)
小尾洋平氏より] |
- 大田市場で群馬県産の天狗のえだまめを販売しています。
- えだまめは中国が原産の野菜で、大豆を未成熟の時に収穫したものです。
- 「えだまめ」という名前は、庭先や道で栽培され、枝付きで扱われたことに由来します。
- 大豆は豆類で、えだまめは野菜類に分類されます。成熟していないため、大豆に比べてタンパク質や食物繊維は少ないのですが、野菜類の中ではタンパク質を多く含んでいます。
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- えだまめは、大豆にはないビタミンAやビタミンCを含んでいます。ピタミンCは熱に弱いのですが、えだまめのさやが流出を防いでくれます。さやは食べられませんが、役に立っているわけです。
- 天然健康成分のイソフラボン、レシチン、 サボニン、ギャバなど、各種ミネラルも含んでおり、豆と野菜の両方の栄養を摂取できる、優秀な食べ物です。
- 食べ始めた時期は定かではありませんが、奈良時代か平安時代には食べられていたとされます。
- 江戸時代中期の文献には、大豆をさやのやわらかいうちに食べたとか、夏にえだまめ売りの姿が街で見られたなどの記述が残されています。現在と違い、枝についたまま茹でたものが売られ、その状態で歩きながら食べており、ファストフードのような存在だったと考えられています。旧暦の9月13日を豆名月と呼んで、えだまめを供える習慣も、この頃から広がったとされます。
- えだまめを食べる食文化は、アジア諸国独自のようです。1991年出版の書籍に、アジア特有の新作物として紹介されています。近年の健康志向ブームや冷凍技術の普及によって、2000年頃には北米やヨーロッパなど、海外でもえだまめが食べられるようになったといわれます。
- えだまめは青豆、茶豆、黒豆の3種類に分けられます。
- 青豆は、種子の状態で大豆色か薄い緑色のもので、癖がなく、万人受けする一般的なえだまめです。さやの毛が白いので白毛豆とも呼びます。全国的に栽培されていますが、主産地は関東です。
- 茶豆は、成熟した種子が茶色い大豆のえだまめで、独特の香りと甘みがあります。実が2粒が主体です。香りに好き嫌いはありますが、慣れると癖になるおいしさです。主産地は東北地方です。
- 黒豆は、成熟すると種子が黒くなる大豆のえだまめです。食味は他に比べ劣るという方もいますが、アントシアニンを多く含み、健康志向の強い方に人気です。食べごたえのある品種で、関西地方で多く栽培されています。
- えだまめは、北海道から沖縄まで全国で栽培されています。収穫量が多いのは、千葉県、北海道、埼玉県、山形県、新潟県、群馬県、秋田県などです。
- えだまめは、世界で認知されてきましたが、食べる習慣は広がっていません。国内産が出回る前の3〜5月は、主に台湾から生鮮のえだまめが輸入されます。冷凍加工は、収穫されたその日のうちに行われ、日本に輸入されます。主な輸入相手国は、台湾、中国、タイ、インドネシアなどです。
- 日本に400種類以上あるえだまめの中の、ブランド豆をご紹介します。まず、「味緑(みりょく)」。群馬県北部の沼田、利根地方は、他産地との標高差が250〜700mあり、6月上旬〜10月中旬まで、長期出荷が可能です。寒暖差で甘みが増すので、えだまめ栽培には適地です。「味緑」は、青豆と茶豆のいいとこ取りをした品種といわれます。「天狗のえだまめ」は、天狗で有名な沼田市内の「迦葉山
弥勒寺(かしょうざん みろくじ)」にあやかって命名されました。天狗のえだまめの生産者は約100人、その中で特に優秀な6名の方が作るものは、「味匠」で出てきます。流通量は普通の「味緑」の1/10以下で、大田市場の東京青果でも、週に2回、30ケースしか入荷しません。
- だだちゃ豆は、山形県の庄内地方、鶴岡市周辺の地域で守り続けられた在来種です。「だだちゃ」とは、庄内地方の方言で、「お父さん」を意味します。名前の由来の一つは、殿様説。えだまめをお殿様に献上したところ、そのおいしさに感動し、「この枝豆は、どこのだだちゃが作った豆だ?」と。そこから、だだちゃ豆になったという説。他に、福島県の伊達地方から鶴岡に茶豆を持ち帰ったところ、あまりにもおいしいことから、「伊達の茶豆」がだだちゃ豆になったという説もあります。だだちゃ豆は、栽培する土地が合わないと風味が落ちるので、生産地が限られるといわれます。収穫期が短く、保存も困難なため、長らく幻の豆とされてきましたが、近年、輸送手段の向上等により、全国的に知られるようになりました。さやの毛が茶色でくびれが深く、見た目は必ずしもよくないのですが、独特の甘さと濃厚な風味があります。2つさやが出る割合が多いのも特徴です。
- 「はねっ娘」は神奈川県三浦半島の生産者5戸が集まった「はねっ娘会」が作るえだまめのブランドです。地元の言葉で、風で飛ばされた泥のことで、食べて元気になってほしいという願いを込めて名付けられました。収穫は6月上旬から8月下旬まで。主な品種は「早乙女」、「湯上り娘」、「札幌緑」など。海から強風が吹き抜けるので、虫や病気が少なく、農薬を抑えた栽培が可能だそうです。
- えだまめは価格がしっかりしていることもあり、近年、生産者が増えています。温暖化の中で、いろいろとむずかしい面もありますが、ぜひ市場でのお買い上げをお願いします。
- 昔ながらの枝付きは、切ったものより、店持ちがいいと思います。ただ、ゴミが増えるのと、普通のFGに比べ可食部が少ないため、流通量は減っており、束からFGに移行する流れはあります。
- えだまめの茹で方について。1袋250gで、水1リットルで塩は40g。4%の塩分が目安です。下準備として、流水で洗い、両端をはさみで切り落とします。塩味を豆に染み込ませる効果があります。塩15g程度を両手でもみます。緑色が鮮やかになり、味も馴染みます。塩もみの後は洗い流さず、そのまま鍋に入れます。塩25gを加えて沸騰させたところに、えだまめを入れます。水に対して、塩4%の割合で茹でると、えだまめが甘く、ふっくらやわらかで、プリプリの状態に仕上がります。昨日、実際に私もやってみて、本当にそうでしたので、ぜひ試してみてください。茹で時間は中火で約3〜5分、少しかたいかな、というぐらいがおすすめです。茹ですぎると食感が損なわれます。
- えだまめは生のままの保存はおすすめしません。生で短期保存する場合は、冷蔵庫の野菜室がいいでしょう。長期保存する場合は、かために茹でて、水気をよく切り、保存用袋などに入れて、冷凍してください。冷凍は約1ヶ月保存が可能です。
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◇「とうもろこし」について |
[株式会社サカタのタネ 野菜統括部
鈴木栄一氏より] |
- 「ゴールドラッシュ」はサカタのタネが育成したとうもろこしで、イエローでは7割ぐらいのシェアを占めています。発芽が揃うのと、収量が安定しているのが特徴です。薄皮がやわらかくて食味がいいぶん、暑い時期はしみが早い。ゴールドラッシュの86や88はしみには強いのですが、食感は少しかためです。5〜6月の出荷はほとんどが「ゴールドラッシュ」になります。
- 「恵味スター」は清水種苗さんが販売している品種で、収量性が安定しています。
- 黄色い品種のマーケットを作ったのが、「味来」というパイオニアさんの品種です。甘みが強く、やわらかいのが特徴です。食味は優れているのですが、発芽があまりよくないことと、穂が小さくて収益が上がりにくいことなどから、別の品種に切り替わっていったという経緯があります。
- 北海道でよく作られているホワイトコーンが「ピュアホワイト」。非常に甘みが強いです。純白でとてもきれいですが、白は劣勢なので、色のついたコーンの花粉がつくと、粒は黄色くなります。なので、ホワイトコーンを作るには、周りに他の色のコーンがない場所を選ばないと商品としては成り立ちません。北海道のように広いところだと独立した畑を用意できますが、関東で作る場合はハウスで作られることが多い。作るのに非常に気を遣います。
- バイカラーの「ドルチェドリーム」はパイオニアさんの品種です。黄色と白の粒の数が3対1、中学の頃に習ったメンデルの遺伝の法則通りです。
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◇「とうもろこし」「えだまめ」の写真 |
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