■2023年5月21日 第2回 とうがらし 〜 勉強品目「とうがらし」 伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏、東京青果(株) 安藤克行氏
◇伝統野菜の「とうがらし」について
[伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏より]
  • とうがらしの原産地は南米です。

  • コロンブスによってスペインに伝えられ、ヨーロッパに広まっていきましたが、当初はとうがらしもジャガイモなどと同じように毒があるのではないかと警戒されたり、どちらかというと園芸的な扱いを受けていて、普通の人たちが食べるものとして広まるのにはかなり時間がかかったようです。

  • コショウもとうがらしも熱帯のものですが、とうがらしは温帯の地域でも比較的育てやすかったこと、コショウより安価で辛さへの欲求が十分満たされるので、一般に好まれるようになりました。
伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏
  • その後、ポルトガル人によって、インド、東南アジア、日本へ伝わりました。日本に伝わった経緯には2つの説があり、ポルトガル人が長崎から伝えたという説と、秀吉が朝鮮戦争に出兵したときに朝鮮から持ち帰ったという説があります。

  • 韓国には、とうがらしは日本から伝わったという資料も残っているそうで、このあたりは謎です。韓国は肉食の伝統があるので、とうがらしが受け入れやすかったと考えられています。

  • 日本では、江戸時代には盛んに栽培されていましたが、園芸種や薬用で、その後、「七味唐辛子」のように香辛料として使われました。青果用が広がったのは、明治にピーマン類が入ってからです。とうがらしには辛いものだけではなく、甘味のあるものもあり、伝わり方も違ったと考えられます。

  • 一般的には「とうがらし」と呼ばれますが、南の方から入ってきた経緯があるため「南蛮」と呼ばれたり、コショウの代わりになるので「〇〇コショウ」と呼ばれたりもしています。

  • 江戸東京の有名な伝統野菜のとうがらしといえば、「内藤とうがらし」です。

  • 「神楽南蛮」は新潟県、「ひしの南蛮」、「ぼたんこしょう」は長野県のもの。

  • 北海道には「札幌大長なんばん」、青森には「清水森なんば」と呼ばれるものがあります。北の方の呼び方が「南蛮」、南の方は「コショウ」が多く、名前からも野菜が伝わってきた経緯が想像できます。

  • のちほど、岩手の「南蛮」を使った、「しそ巻き南蛮」をご試食いただきます。

  • 京都には、辛いものから甘いものまで、さまざまなとうがらし類が残っています。「伏見」は、辛いものは「伏見とうがらし」、甘いものは「伏見甘長とうがらし」と、「甘長」を入れます。

  • 「田中とうがらし」はもともと京都左京区の田中という地域で栽培されていた、小さめで辛くない、門外不出の作物でした。その種が和歌山県、高知県に持ち込まれ、しとうの大産地になりました。

  • ししとうにはカプサイシンの遺伝子が残っていて、天候不順で育ちが悪い場合などに激辛になります。

  • とうがらしの辛み成分はカプサイシン、山椒は山椒オールです。辛さが違い、山椒はしびれる感じがします。山椒は葉っぱも実も生で食べられます。乾燥させた粉末はウナギの蒲焼きにかけたりします。

  • とうがらしは、世界一の生産量があるスパイス。南米から世界中に伝わり、各国が自国を原産地というほど根づいています。また、とうがらしはインゲン豆とともに、世界最古の栽培作物といわれます。
 
◇「とうがらし」について
[東京青果(株)  安藤克行氏より]
  • とうがらしの来歴は講師の先生と領家さんからお話がありましたが、南米原産のものがコロンブスの大航海時代にヨーロッパに伝わり、その後100年かからずに日本に来たことを知ると、当時の世界の大興奮ぶりがわかるのではないかと思います。

  • 日本では江戸時代に作っていたのは辛いとうがらしで、甘いものが入ってきたのは明治です。あの刺激は人類が求めるものだった反面、日本人はそこまで求めなかったものなのかな、と感じています。
東京青果(株)  安藤克行氏
  • ものすごく辛いとうがらし料理を食べる最近のテレビ番組など、激辛ブームはたびたびあるようです。外国の方が日本にはないフレッシュなとうがらしを求めていることは、当社にも伝わっています。

  • 10数年前、篠ファームさん、現在の「京都ハバネロの里」でのとうがらし栽培を、テレビ番組で知りました。中山間地域で人が出ていってしまい、これといった農作物もなかったので、変わったもので名物を作りたいと、ハバネロやハラペーニョ、ブートジョロキア、キャロライナリーパーなどのマニアックなとうがらしを作り、弊社が販売させていただいた。今も、とうがらし詰め合わせセットのような形で、委託されています。ご興味のある八百屋さんにはぜひ、販売していただきたいと思います。

  • 7〜8月に辛いものは緑しかない。真っ赤なブートジョロキアなどは、秋口くらいから出てきます。

  • 本日のサンプルはほぼ甘いもの。赤、黄色、オレンジなど各色ありますが、約9割は輸入です。

  • パレルモは静岡産。カクテルペッパーは、茨城の神栖でアグリニューウィンドさんが作っています。ピーマンではアピール力に欠けるので、この名前で販売しています。パレルモとカクテルペッパーは、弊社では発注制ですので、詳しくはお問い合わせください。

  • 赤ピーマンの産地は、千葉県と高知県。青とうがらしは千葉県産です。

  • ししとうは高知県産、今だと愛知県産もあります。ししとうはこれからどんどん出てきます。

  • 8年ぐらい前、辛さがないハラペーニョを選抜した「こどもピーマン」が出て、非常に流行ったのですが、定着しませんでした。当時、3、4年連続で子どもの嫌いな野菜がピーマンだったので、苦みのないものが開発されたのですが、クセがないと物足りないのかもしれません。苦くないピーマン、辛くないとうがらし、アクのないナス…。抜けばいいというものではない、えぐみや苦みも大切にしなければならない味の1つなんだと実感しました。

  • 京都の「万願寺とうがらし」は長年販売しています。「万願寺あまとう」との違いをよく聞かれるのですが、「万願寺あまとう」はJA京都にのくにが登録を取っています。農協が種採りをしていて、門外不出です。ほかとは違う食感や甘みがあるので、選ぶ際には参考にしてください。

  • 京都の「伏見甘長とうがらし」は、京都のとうがらし農家ならだいたい作っているメジャーな品です。伏見には辛いものもありますが、ほぼ甘長で出してきます。注文も「伏見」といわず「甘長」でくるので、混乱することはあります。

  • 木の芽は埼玉産。弊社ではこれを毎日競売しています。

  • 実山椒は熊本です。これから最盛期に入るので、静岡、大分、埼玉、和歌山と、いろいろなところから出てきます。
◇質疑応答より

    Q:埼玉のときがわで、山椒の花が高値で売られていると聞きました。市場ではどうなのでしょうか?
    A:(東京青果 安藤さん)市場では扱っていないです。
    A:(大石さん)山椒にはオスメスがあり、メスには実がなり、オスは花だけ。山椒の苗を買うとき、園芸屋さんに「花ですか、実ですか?」と聞いても、成長しなければわからない、といわれます。花山椒は、和食屋さんの椀盛りの吸い口に使われます。ちなみに、山椒やとうがらしは冷凍して少量ずつ使えば無駄がありません。

    Q:ししとうって、並べる必要ありますか? それがなければ、手間も減って、少し安くなったりすると思うのですが…。
    A:理由は定かではありませんが、日本人の几帳面さかもしれません。同じ重さでも容積は減ると思うので、いっぱい詰めようとした結果かもしれません。省力化は産地でも課題の1つになっています。

◇「とうがらし」の写真
スイートペッパー「パレルモ」
(静岡)
ミニパプリカ
(茨城)
赤ピーマン
(千葉)
ししとう
(愛知)
ししとう
(高知)
ししとう
(千葉)
青とうがらし
(千葉)
鷹の爪
(熊本)
ハラペーニョ
(沖縄)
万願寺とうがらし
(京都)
赤万願寺とうがらし
(京都)
伏見とうがらし
(京都)
甘長ししとう
(高知)
土佐甘とう
(高知)
よさこいとうがらし
(高知)
チリホール
バーズアイ
(ウガンダ)
ピキヘーン
(タイ)
韓国青唐辛子
木の芽
(浦和)
実山椒
(熊本)
実山椒
(奈良)
   
◇「さくらんぼ」の写真
アメリカンチェリー
紅さとう(山形美人)
(山形)
紅さやか
(山形)
紅てまり
(山形)
紅秀峰
(山形)
紅秀峰
(山梨)
香夏錦
(山形)
佐藤錦
(山形)
 
 

【八百屋塾2023 第2回】 挨拶講演「知って、食べて、世界のとうがらし」勉強品目「とうがらし」食べくらべ