■2023年5月21日 第2回 とうがらし 〜 講演「知って、食べて、世界のとうがらし」 合同会社十色(といろ) 代表 サカール祥子氏
◇はじめに
  • 合同会社十色は、2021年3月、コロナ禍の中、私サカールと釘宮、松葉の女性3人でさいたま市に設立した農業法人です。サカールは、ハンガリー人の夫の名前です。釘宮と松葉は、ネパールやタンザニアでのボランティアや、フランスでのワーキングホリデーなど、世界を旅することが好きなメンバーです。とうがらしは、なんとなく、いつもそこにあった、というのが3人の共通項です。

  • 主に私と釘宮の2人で農作業をしています。みなさんにいつも驚かれるのですが、女2人でトラクターを運転したり、20キロのたい肥の袋を持ったりして、どんどん鍛えられている毎日です。
合同会社十色 代表 サカール祥子氏
  • 埼玉にある見沼田んぼは、さいたま市から川口市にかけて広がる、1260ヘクタール東京ドーム240個分の農地です。全国的に見ると大きくありませんが、首都圏でこれほどまとまった農地は珍しく、実際に見ると広大さがわかります。昔から、農地保全の市民活動が盛んで、農家と市民がいっしょに守ってきた場所だといえます。ただ、全国の例に漏れず、遊休農地が増えており、活用したい、残していきたい、という思いで、本格的に農業をやろうと決めました。

  • 2020年に決意し、すぐに農地を借りて、私が就農して3人で会社を立ち上げました。私たちは農福連携を進めているNPOで出会い、見沼田んぼを守っていきたい、という思いから始まったので、「つなぐこと」、人と人をつなぐ、自然と人をつなぐ、食べる人へ安心をつなぐ、農地を後世につなぐ、ということを大事にしています。

  • 事業は2つあります。今日お話しする「十色とうがらしファーム」と、「畑はエンターテイメント!」と題する農業体験の事業です。最初、新規就農で農地を借りるのが大変だったので、いろいろな人に農地の場所を知ってもらおうと農業体験の事業を始めました。たくさん土地を借りられるようになって、歴史を調べていく中で、見沼田んぼでは江戸時代にはとうがらしが作られ、江戸まで用水路を使って送っていたことを知り、今風のやり方で復活させてみようと思い、とうがらしの栽培を始めました。
◇世界のとうがらし
  • とうがらしを使った料理がある国には、メキシコ、ペルー、ブラジル、スペイン、イタリア、インド、タイ、韓国、中国、日本など。これほどたくさんの国名が出てくる野菜はあるでしょうか。私たちがとうがらしの生産を始めてまずびっくりしたことは、いろいろな人が、いろいろなとうがらしと多種多様な料理のイメージを持っていて、世界中の人ととうがらしを共通項にして話ができたことです。

  • ハンガリー人は、辛さのないとうがらし、パプリカを発見し、品種にして食べ始めました。ロシアやウクライナ、ニュージーランドもとうがらしを生産し、輸出国でもあります。

  • とうがらしを作り始めてから、私たちのファームにはいろいろな国の人が訪ねてきます。あまり聞いたことがないような国、たとえばバヌアツという南の島の方は、日本では辛いとうがらしが手に入らないと言って、テレビを見て車で訪ねてきてくれました。モーリシャスやクルド、中国の人たちもとうがらしがほしいといって来てくれます。それぐらい、とうがらしは世界中で食べられています。
◇とうがらしの起源
  • とうがらしは南米が起源です。メキシコのテワカン遺跡で、6000年前にとうがらしが食されていた痕跡が見つかっています。

  • コロンブスがヨーロッパへ運び、世界に広がっていきました。このあたりの話は、のちほど、伝統野菜コーナーで聞けると思うので、省略します。

  • 日本にとうがらしが来たのは安土桃山時代から江戸初期にかけて、といいます。いくつかの説のなかで、韓国から逆輸入されたという説が主流になっているようです。

  • 江戸時代に日本で栽培されていたとうがらしは約80種類。明治時代初期に伊藤圭介が書いた『番椒図説』に載っているとうがらしの絵は52種類。江戸の方が多様なとうがらしがあったことになります。どこまで全国的に広がっていたかは不明ですが、いろいろなとうがらしが流通していたようです。
◇とうがらしの品種
  • とうがらしは世界で3000品種ぐらいあるといわれています。

  • 激辛料理を食べるテレビ番組もあり、世界のとうがらしが、一般の方にも認知されるようになりました。よく知られているハラペーニョのほか、ジョロキア、キャロライナリーパー、ハバネロなど。キャロライナリーパーはギネスで世界一辛い、人間の食べものではないような辛さですが、好きな方もいるようです。

  • 日本の品種は、長野のボタンコショウ、栃木三鷹、京都の万願寺など。とうがらしは、品種の名前が知られている野菜だと思います。
◇とうがらしの辛さあれこれ
  • とうがらしの辛さの正体はカプサイシン。体を温める効果があるとか、発汗作用がある成分として有名です。カプサイシンを作れる植物はとうがらしだけです。

  • とうがらしの辛さはどこにあるか。胎座や種の部分が辛いと思われがちですが、実は、隔壁。ただ、胎座と隔壁の境目が曖昧なものが多く、食べていてどこが辛いのかがわかりにくい。種もくっついていて、辛さが移っていることがあります。ハバネロなどは、身の方にも少し辛さが出ます。激辛品種などは、果皮と隔壁との境目が曖昧で、中には果皮の方まで辛いものもあります。

  • 同じ品種であれば、赤と緑では、赤くなる直前の緑が1番辛いです。シーズン中に何回か収穫しますが、収穫時期によっても辛さが違ってきます。

  • 埼玉の場合、2月末に種をまいて、ハウスの中で育苗し、4月末から5月の頭にかけて畑に植えます。私たちは露地栽培です。緑で採るハラペーニョやインドのとうがらしは、6月末に収穫を始めます。その後、7月の半ばぐらいには緑のものが出揃って、8月に入ると赤みのあるものが出てきます。徐々に色づいていくのですが、ハバネロなど色つきで出す南米のとうがらしが最も遅く、同じ時期に植えても、8月のお盆明けぐらいになります。

  • 同じ緑のとうがらしでも、採れ始めの6月頃はあまり辛くなく、7〜8月のものの方が辛いです。暑さや肥料の具合、株が疲れてくるなど、いろいろな環境要因で辛さが増します。環境負荷というか、いじめられるとより辛くなります。

  • ししとうは、ときどきすごく辛いものがありますよね。原因はよくわかっていないようですが、ししとうには辛くなる遺伝子が残っているといわれています。ピーマンは機能しない遺伝子に変わっているのですが、ししとうはまだそれが機能しているので、ときどき発動してしまうそうです。

  • とうがらしの辛さは、スコヴィル値という単位で表されます。昔、スコヴィルさんという人が、辛さを測るのに、辛さを感じなくなるまで砂糖水で希釈し、その砂糖水の量で測りました。これでは主観的なので、現在は測定機で測ったカプサイシン濃度を、スコヴィル値に変換して表記されます。

  • キャロライナリーパーは156万スコヴィル。ハバネロで30万スコヴィルですから、想像を絶する辛さということです。内藤とうがらし(八房)は3万スコヴィルぐらい、ピーマンはゼロです。
◇とうがらしの機能
  • とうがらしは体を温めるか、冷やすか。実は、どちらも正解です。辛いとうがらしを食べると、まず体が温かくなり、汗が出ます。汗は体を冷やす上に、辛いので水を飲みますから、さらに冷えるわけです。

  • カプサイシンは、脂肪や糖を燃焼する機能が実証され、体を温める成分とされます。ただ、とうがらし好きが全員痩せているわけではない。食欲増進効果もあり、上手に使ってもらいたいと思います。

  • ダイエット効果があるとされるのは、とうがらしソースやとうがらしを食べると、DIT(食事誘発性体熱産生)が活性化するためで、代謝が上がることは実証されています。また、アドレナリン濃度の上昇も実証されており、「これから何かやるぞ!」というときには、よさそうです。韓国の70代以上の人に聞いた話ですが、細長くて辛い青とうがらしの味噌漬けを、朝、ご飯といっしょに食べてから仕事に行くのが習慣だったそうです。仕事に行く前に体にカツを入れる、ということかもしれません。

  • 塩味の少ない料理にとうがらしを足すと、薄味でも満足度がアップしますから、減塩効果があるといえます。私たちが出しているとうがらし調味料も、塩分少なめで作っています。

  • とうがらしにはレモンより多いビタミンCが含まれます。トマピーという、ハンガリーの辛くないとうがらしがダントツで、次いで赤とうがらし、黄ピーマン、赤ピーマン、青ピーマン。色があるものほどビタミンCが多く、青いものでも、トマト、キュウリ、ナスよりビタミンCが多い。ハラペーニョのサルサとか、野菜として生で食べるとうがらしは、ビタミンC効果が望めると思います。
◇十色とうがらしファームで生産しているとうがらし
  • 十色とうがらしファームでは、4,000uの畑で約50品種のとうがらしを生産しています。今シーズンは約3トン収穫予定で、全部売り切りたい。去年は作りすぎて加工品を開発したり、青果として出すハラペーニョなどは畑のこやしになってしまいました。せっかく育てたのに、やはり悲しいです。

  • 私たちは、農薬と化学肥料不使用で栽培しています。見沼田んぼという土地柄もあり、生態系を守る農業をしていきたいと思っています。

  • お配りした資料「フレッシュとうがらしリスト辛さ順」に今シーズン育てているとうがらしが載っています。

  • おすすめは、まずハラペーニョ。去年はスーパーでも扱っていただきましたし、野菜の宅配便でも毎週コンスタントに出ましたので、一般の認知が広がっていると思います。お問い合わせも多く、探されている野菜という感じがありますので、八百屋さんもよかったらぜひ販売してみてください。

  • プサジュエラはインドのとうがらしです。15センチぐらいの細長いタイプで、緑でも赤くても食べられます。インドではカレーに入れるほか、箸休め的にボリボリ食べられています。よほど辛いのが苦手でなければ大丈夫です。インド系の料理だけでなく、味噌漬けとか、刻んでとうがらし醤油にしてもいい。お刺身を食べるときとか、肉に味を付けて焼くような使い方もできて、汎用性が高いとうがらしです。

  • レモンドロップはペルーのとうがらし。ペルー語ではアヒリモ、アヒがとうがらし、リモがレモンの意味です。レモンのような爽やかな香りがします。白身魚のセビーチェ(ペルー料理の魚のマリネ)に使うと、香りも辛さも加わっておいしい。青森のアメリカ軍基地近くのスーパーに卸すと、南米系のとうがらしを探している人がいて、レモンドロップ、コッチボネット、ハバネロなどがよく売れます。

  • プリッキーヌはタイの小さなとうがらしです。輸入品の冷凍プリッキーヌの方が安いのでタイ料理屋さんにはあまり売れませんが、タイ料理を本格的に味わいたい一般の人や、カルディなどで買ったグリーンカレーの素に少し足して、よりフレッシュなタイの味を楽しみたい人に、使われています。

  • タバスコはメキシコのとうがらしです。これも、アメリカ軍基地の近くではよく出ます。沖縄の島とうがらしとそっくりで、畑で隣に植わっているとわからないぐらい。違いは、タバスコは軸から実が落ちやすいことです。島とうがらしは泡盛などのあてとしてそのままボリボリかじる方がいますが、タバスコも現地ではそういう食べ方をします。ただ、かなり辛い。自家製のタバスコソースを作るのもおすすめです。

  • プリッキーヌやタバスコのような小さなとうがらしは、収穫にものすごく手間がかかります。

  • 激辛とうがらしのうち、ジョロキアは、赤、黄色、チョコレート色の3色作っています。トリニダードスコーピオンも何種類か。キャロライナリーパー、ナーガモリッチ、ドラゴンズブレスなど。このドラゴンズブレスは240万スコヴィルで、ギネスで一番辛いキャロライナリーパーよりも辛い。私はこれをちょっと舐めただけでも痛かったので、味はわかりません。

  • ヨーロッパのとうがらしで今回入手できたのは、イタリアンカイエンとラウンドオブハンガリーです。

  • 私たちの加工品は、1つを除きシェフの方などに協力していただきました。最初は自分たちで試してみたのですが、おいしいものができなかったので、プロにお願いしました。加工品をフーデックスに出したときに果菜里屋さんをご紹介いただき、今回ここでお話をするご縁になりました。

  • のちほどハラペーニョを使って作るサルサをご紹介します。生のプリッキーヌから手作りするグリーンカレーの素もすごくおいしいので、みなさんもどうぞ刺激的なとうがらしの世界を楽しんでください。
◇質疑応答より

    Q:生の状態で販売する緑色のとうがらしは、おいておくと赤っぽくなったり、へなへなになるものがあります。新しいうちに使ってもらった方がいいのか、赤くなってからでも大丈夫なのでしょうか?
    A:緑の状態で食べた方がおいしいもの、赤くなってからも食べられるもの、これは種類によります。農家では、品種によっては、緑から赤になりかけの状態で少し置いて、追熟させて出す場合もあります。夏場の作物なので常温で2週間ぐらいはもちますが、いったん冷蔵庫に入れると腐りやすくなります。収穫後に農家で冷蔵保管して出したものは、お店で常温におくとくさりやすいので注意が必要です。

    Q:調理の仕方によって辛さのレベルは変わりますか?
    A:カプサイシンは油溶性ですから、料理に油を多く使うと辛さが油に移り、とうがらしそのものの辛さはやや減る感じでしょう。でも、料理全体としての辛さは変わりません。油気のないものを煮ると、とうがらし自体の辛さはそれほど変わらず、カレーのように油を使う料理では全体に辛さが移り、とうがらし自体の辛さは少し減るかもしれません。

    Q:とうがらしの栽培をどういう風に研究されたのか、また、どんなご苦労があるのか教えてください。
    A:日本で一般的に作られているとうがらしについては農家さんに教わりました。全然違うとうがらしを作りたいと思って、トキタ種苗さんから種苗を入手し、詳しく教えていただきました。後は独学半分と、とうがらしを研究している信州大学の先生のお話を聞きに行ったり、ベトナムに研修に行って栽培方法を見学したり…。メキシコ系の農業関連の人にも栽培方法を教わっています。品種や国によって全然違います。年中作るところ、ワンシーズンしか作らないところ。畑をかん水しているところ、自然の雨だけのところ…。私たちは基本的にオーガニックですが、慣行農法も知るために、両方の勉強をしています。

    Q:病害虫の発生はありますか?
    A:ウイルス病は多少あります。カメムシ、タバコガ、コオロギなどの虫によく食べられます。オーガニックだからではなく、農薬を使っていても出るそうです。虫が食べた穴に別の虫が入り込んだりすることもあるので、検品のときは気をつけて見ます。虫に限らず、傷があると腐りやすくなるので注意しています。

    Q:世界のとうがらしの種の入手先はどこですか? とうがらしの販売ルートについても教えてください。
    A:大手の種屋さんがいろいろな品種を持っているので、なくされないようにせっせと買っています。輸入専門の種屋さんに「今年、これ入れてみたけど、どう?」って言われたら、買います。知り合いから分けてもらうこともありますが、基本は種屋さんから入手しています。流通に関しては、さいたまヨーロッパ野菜研究会に所属しているので、そこから仲卸さん経由で購入していただいています。宅配便で直送するのはコストが高くなります。物流は農業全体で考えなければならない課題だと思っています。

◇サルサソースの実演
[合同会社十色 代表 サカール祥子氏より]
  • サルサソースのレシピは資料をお配りしてあります。

  • 作りやすい分量でお示ししました。トマトは大1個、たまねぎが1/2個。今回、結構大きめのたまねぎだったので1/2個にしましたが、トマトと同量か、やや少ないぐらい。お好みで調節してください。

  • ニンニク1片(好みによって減らしても)、パクチーはお好みで。私はパクチーは茎も全部使います。

  • ハラペーニョは、1.5個分。好みによって追加してもけっこうです。メキシコの人は追いハラペーニョというのか、切ったハラペーニョとか、丸のままが横に置いてあったりするそうです。

  • ハラペーニョの隔壁を取るか取らないかで、辛さを調節できます。辛いのが苦手なら、隔壁を取ると食べやすくなります。辛いものが好きならしっかり残す。私は種が多少入っても、気にせず刻みます。

  • 調味料は、オリーブオイル大さじ3、レモン果汁が1/2〜1個分、塩小さじ1です。
サルサソース

タコス
  • 材料はすべて5〜6ミリの粗みじんに切り、全部入れて混ぜるだけです。パクチーは最後に入れます。

  • 紫たまねぎを使ってもいい感じに仕上がります。

  • 食べ方は、焼いたお肉やお魚にかけて食べるのが一番ラク。夏の野菜がいろいろ入っているので彩りがきれいで、同時にビタミンも摂れます。

  • 凝りたい方はトルティーヤやタコシェル、メキシコ風のシーズニングを使って。挽き肉をシーズニングで炒めて、サルサをトルティーヤで包んだり、タコシェルに入れて食べると本格的な海外の味が楽しめます。

  • サルサは作ってすぐだとフレッシュな味が楽しめますし、翌日には水気が出てきて全体がまとまり、よりソース感のある感じになって、これもおいしいです。
◇加工品の紹介など
[合同会社十色 代表 サカール祥子氏より]
  • インド原産のプサジュエラというとうがらしを刻んでヤンニョムソースとあえた商品をお持ちしました。

  • 緑の状態のプサジュエラが全体の55パーセント入っています。

  • ご飯のおともにはもちろん、油と相性がいいので、レバーと一緒に食べるのが私の一番のおすすめです。ねっとりした脂気の多いものととうがらしは本当によく合います。
見沼ヤンニョム
  • 口の中の辛さを消すために水を飲む方が多いと思いますが、実は、水よりも、カントリーマアムというクッキーがおすすめ。ちょうどよく辛さを絡め取ってくれます。
 

【八百屋塾2023 第2回】 挨拶講演「知って、食べて、世界のとうがらし」勉強品目「とうがらし」食べくらべ