■2023年7月23日 第4回 とうもろこし・えだまめ 〜 講演「とうもろこしについて」 株式会社サカタのタネ 野菜統括部 鈴木栄一氏
◇「とうもろこし」とは
  • 学名は「Zea mayz L.」。通常、英語では「コーン」ですが、イギリスでは学名から「メイズ」と呼ばれます。

  • 米などと同じ1年草です。1株あたり、1〜2本(スイートコーンは1本)収穫でき、1本に約600粒入っています。

  • とうもろこし、小麦、米は、世界三大穀物。工業用製品など食用以外にも幅広く利用されており、人類にとって非常に重要な作物です。

  • 原産地は、メキシコから南アメリカ北部。6000〜7000年位前には作物として利用されていた記録があるようです。
株式会社サカタのタネ 野菜統括部
鈴木栄一氏
  • 現在のとうもろこしは、改良された作物です。アメリカ大陸の中央に分布する「テオシント」という雑草が直系の野生種とされます。手のひらに乗るほど小さいのですが、長い年月の間に変異して、今のような大きなとうもろこしになりました。

  • デント種は家畜の餌やコーンスターチの原料になります。フリント種は穀物で、粉にして食べます。ポップ種は加熱すると弾けるポップコーンです。スイート種はスイートコーンで、未成熟のものを食べる、という食べ方が特殊です。熟すとおいしくありません。スイート種以外は完熟したものを食べます。

  • スイートコーンは、比較的新しい作物です。植物は光合成で水と二酸化炭素から糖を作り、それをデンプンにして蓄積します。私たちは、その蓄積されたデンプンを利用するわけですが、スイートコーンは光合成で作った糖がデンプンになりません。糖が蓄積されるピークは、実がつき始めてから20日目ぐらい、甘さもピークになります。それを過ぎると糖が呼吸などに使われ、一部はデンプンになるので、甘味や食味が落ちていきます。スイートコーンは収穫適期から2日目ぐらいまでが食べごろです。食べる期間が非常に限られ、貯蔵性がないのが、スイートコーンの特徴です。

  • 数千年前、とうもろこしは干ばつに強く、短期間で収穫できる食物として、アメリカ大陸の中央から北と南に広がり、主要な穀物として定着していきました。15世紀の大航海時代、アメリカ大陸に到来したヨーロッパの人たちは、作物として非常に優秀なとうもろこし、フリント種を持ち帰りました。そしてとうもろこしは、ヨーロッパを基点に世界中に広がりました。

  • 日本には、1579年にポルトガルから九州に、フリント種が入ってきた記録があります。本能寺の変の2〜3年前です。痩せ地でもよく採れて、短期間で収穫できるので、山間部で徐々に定着しました。今も、とうもろこしを栽培して、軒下に吊り下げておき、冬に食べる地域があるようです。

  • スイートコーンが日本に入ってきたのは明治の初め。北海道で農地の開拓事業が盛んにおこなわれ、さまざまな作物が導入されました。北海道農事試験場は、当時アメリカで作られたスイートコーンを、新しい作物として日本に入れました。北海道の各地に徐々に広がりましたが、スイートコーンは日持ちしないので主要な作物にはなりませんでした。当時は収穫後1日で糖度が5〜6度ぐらい落ち、甘みが持たなかったため、ほとんどが地場消費でした。
◇スイートコーンの品種について
  • 今、日本に作られ、流通しているスイートコーンは、黄色、黄色と白のバイカラー、純白のホワイトの3種。他に、紫色や赤のスイートコーンなどがありますが、定着していません。

  • 今、日本では、8割が黄色。15〜16%がバイカラーで、ホワイトは数%程度です。

  • 明治時代のスイートコーンは、今に比べると甘みは劣っていたと思います。その後、アメリカを中心に、より甘く、より日持ちがする品種改良が進みました。第2次世界大戦当時、日本ではほとんど作られませんでしたが、戦後、アメリカから直接品種が入り始め、作付けが徐々に増えていきました。ただ、戦後の品種の日持ちはまだ不十分で、ほぼ地場消費でした。

  • 1960年代、アメリカで開発された「ゴールデンクロスバンタム」は、それまでに比べて圧倒的に日持ちする品種でした。収穫後に甘みが落ちにくいので、日本にも導入され、本格的に流通作物として定着しました。これが、日本のスイートコーンの歴史のスタートです。

  • その後登場した「ハニーバンタム」は、地方で収穫、都市部での流通が可能なまで日持ちが改良され、この品種を発表した頃から、面積が飛躍的に伸びました。

  • 弊社のスイートコーン品種は、「ハニーバンタム」、「ピーターコーン」、「ゴールドラッシュ」、「しあわせコーン」、「クリスピーホワイト」などがあります。

  • 1985年頃に弊社が発表した「ピーターコーン」は黄色と白のバイカラーで、それまでの黄色種に比べて、食味や日持ち、収量性などがさらに改良されました。見た目も華やかで、発表すると世の中は一気にバイカラーに切り替わり、しばらくバイカラーの時代が続きました。

  • 2000年頃、「味来」という黄色の品種が発表されました。皮が非常にやわらかく、果物のような香りで、特に甘みは圧倒的に強く、ピークで糖度20度ぐらい。1960〜70年代のものとは全く別の黄色のとうもろこしで、世の中が一気にまた黄色に戻りました。

  • スイートコーンは糖がデンプンにならないということは、人間が食べるには非常にいいのですが、植物にとっては迷惑な話で、植物はデンプンがないと発芽しません。高食味種には欠点が1つあり、種を播いても芽が出にくい。農業生産にとっては深刻な問題です。このあたりの栽培性を改良したのが、弊社の「ゴールドラッシュ」です。優れた食味はそのままに、より生産しやすくなりました。現在「ゴールドラッシュ」は、黄色のマーケットの7割ぐらい。作型や時期によって違いますが、5〜7月は、ほとんど「ゴールドラッシュ」ではないかと思います。

  • 現在、「ゴールドラッシュ」には5品種あります。「ゴールドラッシュ ネオ(82)」、「ゴールドラッシュ(83)」、「ゴールドラッシュ86」、「ゴールドラッシュ88」、「ゴールラッシュ90」。品種名の後ろの数字は、種を播いてから収穫するまでのおおよその日数です。作る時期によって、必要とされるタイプは違います。例えば、1〜3月に種を播く産地では、気温があまり高くないので、比較的短い期間で収穫できるタイプが選ばれます。暖かくなり、栽培日数が短くなると、木が十分できないうちに実がついてしまい、収量が上がりません。そこで、種を播いてから実がつくまでに時間がかかり、しっかりと株を作って、いいものを採るための品種が選ばれます。「ゴールドラッシュ」のラインナップは、栽培環境に適応できるように考えられているわけです。

  • 露地で作るとうもろこしは台風の時期とぶつかるので、過酷な環境な環境で栽培するため、異常気象に強い品種が求められています。

  • 「ゴールドラッシュ90」はシリーズで最も遅いタイプで、夏に作る品種で、台風シーズンとぶつかるため、根が非常に強いのが特徴です。強風でもなかなか倒れません。また、最近は、安定した栽培・収穫、日持ち性の良さなども品種改良の中に組み込まれ、改善されてきています。
◇スイートコーンの栽培について
  • 現在、とうもろこしの作付けは全国で21,500ha。日本の作物の中でトップ5に入ります。比較的、価格も安定しており、あまり手がかかりません。空いた畑で作られることも多く、作付けは増えていますが、ピーク時に比べると面積は減っています。

  • 沖縄でも作られていますが、大産地の南端は宮崎県です。収穫時期は4月の中下旬〜6月で、ここから北上していきます。6〜8月ぐらいは関東、秋にかけては北海道がメインの産地になります。

  • 現在、面積・収穫量とも北海道がダントツの1位で、2位が茨城県、3位千葉県、4位群馬県です。九州、関東、北海道の大産地で、年間リレーされる、ということになります。

  • 7月が最盛期、8〜9月は徐々に減っていき、9月ぐらいで勝負が終わる作物です。

  • とうもろこしの施設栽培は難しい。冬場にハウスで作るには、光線量も温度も足りません。自然の恵みが必要で、旬のみに流通する、非常に季節を感じる作物です。

  • とうもろこしの栽培ステージは、温度でほぼ決まります。種を播くときは、積算温度約150度。積算温度は1日の平均温度を足した数で、1日の平均気温が15度であれば10日で150度になります。1日の平均気温が15度ぐらいの春先に種を播くと、10日ぐらいで芽が出るということです。

  • 1つの穴に2〜3粒の種を播き、芽が出てある程度経ったら、育ちをよくするために、1本に間引きします。膝丈ぐらいまで育つと、穂ができ始めます。ここまでが体を作る時期(栄養生長期)で、それ以降は、収穫に向けて成育する生殖生長期になります。特に大事なのは、栄養生長期に肥料などを効かせて、しっかり作っておくこと。そうしないと、いいものが採れません。

  • しばらくすると、株の先端のほうに穂ができます。とうもろこしは、オスとメスが別の花です。てっぺんに出る髭のようなものが、オス穂。下のほうに出る髭がメス穂です。オス穂の後にメス穂が出て、花粉がつくと、種が入ります。髭は、絹糸と呼ばれます。絹糸が出始めてから積算温度約500度、1日の平均気温が25度とすると、20日ぐらいで収穫のタイミングになります。スイートコーンは甘みのピークが非常に限定的なので、積算温度を確認し、試し採りしてチェックし、収穫に入ります。

  • とうもろこしは温度に敏感です。気温13度以下では芽が出ません。15度で10日目にようやく芽を出す。さらに高い20〜25度では、積算温度150度になるまでの日数が短くなり、生育が早くなります。

  • 春先に種を播く場合、3〜4月は霜が降ることもあり、温度が不安定です。その中で最も気をつかうのは、いかに揃って芽を出させるか。芽がばらつくと収穫もばらついてしまいます。畑にマルチを敷いたり、トンネルをしたり、パイプハウスの中で作ったりして温度を確保し、発芽を揃えることが大切です。

  • 発芽に関するクレームの多くは、温度管理ができていないのが原因です。

  • とうもろこしは皮つきのまま売られるため、家に帰って皮を剥くと、先のほうに実が入っていない、穂の中にもう1本小さな穂が出ていた、一部が腐っていた、ということがときとして起きます。虫以外のトラブルは、ほとんどが栽培中の環境によるもので、一番影響するのは高温です。温度が高すぎると受粉能力が失われ、粒は入りません。とうもろこしの髭は、花粉がつくと伸びるのが止まりますが、花粉がつかなければ伸び続けて、粒は入りません。虫が入るのは、てっぺんにオス穂が出るタイミングが多く、ここは生産地でしっかりと対応されていると思います。

  • とうもろこし栽培で、今、最も深刻なのが、アライグマやハクビシン、地域によっては、クマ、サル、カラスなどによる獣害です。おいしいので、野生動物も大好きで、収穫時期になると畑に入ってきます。クマが入ったら畑は全滅。サルも群れで来て全部食べられてしまいます。山間地にある小規模の畑で、被害が大きいと聞いています。対策としては、微弱な電気が流れるワイヤーを畑の周りに張る電気柵がありますが、サルは飛び越えたり、クマは電気柵など無視して入ります。作るのをやめてしまう生産者さんも増え、深刻な問題になりつつあります。今後、なんとかしなければ、と考えています。
◇おわりに
  • とうもろこしの主成分はブドウ糖です。受粉後20日ぐらいでピークになり、20度ぐらいまで糖度が上がります。その他、ビタミンB、ビタミンCなどのビタミン類、リノール酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸は、抗酸化作用が期待され、アミノ酸、カリウム、食物繊維も多く含まれています。カロリーは比較的低くミネラル分は豊富なので、健康食品としても注目され、ダイエットにもすすめられています。

  • とうもろこしは加熱して食べるものです。「生で食べられる」と謳われることがありますが、スイートコーンにも多少デンプンが含まれており、消化しにくく、お腹を下す方もいるので、生食はおすすめしません。

  • 弊社では消費拡大のため、電子レンジでの加熱を推奨しています。後ほど、食べくらべでも、電子レンジ加熱のとうもろこしが出るとのことですので、味わってみてください。

  • 料理には缶詰など加工品を使うのが一般的だと思いますが、とうもろこしのかき揚げ、とうもろこしごはんなどを、旬のコーンで作ると圧倒的に味が違います。弊社ではさまざまなレシピを載せたパンフレットを作成しPRを進めています。ぜひ販売促進などにご活用いただき、料理にも使って旬のおいしさを味わっていただきたいです。
◇質疑応答より

    Q:とうもろこしの先端のほうに実がつかない原因は何ですか?
    A:花粉がつかなかったことが原因です。雌しべに花粉がついて中の実が黄色く太っていきます。髭は出る順番があって、最初は真ん中あたり、それから両端に向かっていくのですが、雄しべが早く出て髭ができる前に花粉がなくなってしまうと、1番上か下の実がつきづらくなる。何千本も作っていれば他の株の花粉がかかることもありますが、家庭菜園などでは実がつかないものが出ることがあります。

    Q:粒がきれいに揃っているとうもろこしと、ややガタガタのものは、品種による違いか、それとも生産技術の違いなのでしょうか?
    A:品種によるところが大きいと思います。粒の揃いや並び方は品種によって違います。できるだけ揃うようにしてはいますが、収量性の高さや食味のほうが優先されることもあります。

    Q:食味というのは、甘さの追求ということですか?
    A:はい、基本は糖です。食べた時に人間が口の中で最初に感じる成分は甘みだそうです。

    Q:「ゴールドラッシュ」だけでも5品種とのことでしたが、そうなると採種は大変ですね?
    A:とうもろこしの種は、ほとんどアメリカで採っています。交雑しやすく、例えば、ホワイトコーンに黄色がかかると優勢な黄色になりますし、デントコーンがかかると紫色の粒が入ります。採種地は遺伝子組み替えの因子が入らないように、500メートルから1キロぐらい離します。最近は温暖化の影響でアメリカでも採種が厳しくなり、戦争の影響による小麦不足で畑に代わるなど、苦労しています。

    Q:農薬の散布の頻度はどれくらいですか?
    A:規模によります。北海道のような大規模の畑では、機械を使用し、膝からやや上ぐらいの丈に育って、オス穂が出るタイミングの時に、必ず1回は殺虫剤をかけています。病害は比較的少なく、そもそも穀物に登録されている薬種類が少ないため、殺虫剤をメインに、大体1〜2回ではないでしょうか。

    Q:昔のとうもろこしに比べると、ずいぶん耐病性がついたということですか?
    A:品種改良が進み、病気に強いものができており、葉枯れなどは出にくくなっています。その意味でも、薬剤は減っていると思います。

    Q:皮を剥いたらしなびていた、というのは、外からは確認できないのでしょうか?
    A:剥かないとわかりません。原因はおそらく収穫遅れ。適期から2〜3日遅れるとしなびたり、暑い時期は流通の過程でもへこんだりします。適期より早めの収穫も推奨しています。夏場は暑さに強い品種を作りますが、皮がかたいことが多いです。

    Q:ヤングコーンの品種と栽培方法は従来のものと違うのですか?
    A:ヤングコーン用の品種は特になく、スイートコーンの若採りです。1本の木に2本ぐらいつきますが、収穫するのは1本で、間引きしたものがヤングコーンとして出ます。最近は、ヤングコーン専用に栽培している方もいます。スイートコーンのどの品種でも作れます。

    Q:輸入のヤングコーンは1年中見かけますが、いつでも採れるということですか?
    A:輸入はタイ産などが多く、温度があるので1年中収穫が可能だと思いますが、種類が違います。草勢が強く背丈が2〜3mになる品種で、そうでないと暑さに負けてしまいます。穂の数も多めです。ただ、日本では作れません。

    Q:とうもろこしを蒸かして売っています。日にちが経ってしなびたものでも茹でれば大丈夫でしょうか?
    A:収穫して1日で糖度は1〜2度落ちます。収穫後、お店に並ぶまでに2〜3日。とすると、販売するときの糖度は14〜15度。なので、入荷から2日間以内に使い切るか、速やかに加熱することをおすすめします。加熱すれば、糖度が落ちるのはいったん止まります。

    Q:皮を剥いても剥かなくても、糖度の落ちるスピードは同じですか?
    A:皮を剥くと呼吸が多くなるので、剥いたもののほうが早いと思います。

    Q:皮を剥いて袋詰めすれば大丈夫ですか?
    A:剥くと日持ちは落ちます。その日のうちとか、翌日までに加熱すれば問題ありませんが、2〜3日経つと品質は落ちます。剥くと見た目はいいかもしれませんが、時間との勝負です。

 

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