■2017年11月12日 第8回 やっちゃば秋葉原 学べるマルシェ
 公開八百屋塾 第3部
 「ジュニア選手必聴!トップ選手のパフォーマンスを支える野菜と果物の力」
元横浜マリノストレーナー/パフォーマンスアドバイザー
 Athlete Lab代表・アスリートラボスポーツ整骨院 代表
 株式会社Frozen Capsule 代表
 栄養コンシェルジュ協会2ツ星

田中和寿氏
◇はじめに
  • 私は7歳で横浜マリノスのジュニアチームに入りました。高校時代に大きなケガをしてしまい、選手ではなく、コーチやトレーナーといった裏方に進もう、と思い、高校卒業と同時に、横浜マリノスのコーチとしてジュニアのカテゴリーを担当しました。

  • 少しでもケガをする選手を減らしたい、と思い、サッカーを教えながら、身体のケアも重視しました。鍼灸、カイロプラクターなどのライセンスを取り、次第にリハビリをメインにするトレーナーとしての仕事が多くなりました。
元横浜マリノストレーナー/パフォーマンスアドバイザー
Athlete Lab代表・アスリートラボスポーツ整骨院 代表
株式会社Frozen Capsule 代表
栄養コンシェルジュ協会2ツ星 田中和寿氏
  • 治療ではなく予防が必要で、機能的な身体を求めればケガが減るのではないか、と考え、アメリカでテニスの錦織選手が過ごした施設や、プロ野球選手が多く自主トレに行く施設などでトレーニングを学びました。ケガをする要因は、身体の使い方にあります。そこで積極的にトレーニングを取り入れ、パフォーマンスアドバイザーとして、フィットネス系でパフォーマンスを上げる取り組みを行いました。

  • マリノスで約20年間、37歳まで仕事をしました。次は、自律神経と腸内環境で注目されている順天堂大学の小林弘幸先生といっしょに研究を始めました。自律神経は選手のパフォーマンスに大きな影響を与えますし、健康を作る上でも非常に重要です。

  • 私は、スポーツをすると健康になる、とは考えていません。むしろ真逆で、運動をすれば身体は壊れます。その極端な例がトップアスリートです。身体のいい状態を維持するには、治療、トレーニングだけではなく、「食」も絡んできます。そこで、野菜と果物が持っている力とはどんなものなのかを調べました。ひとつひとつの野菜と果物に、効果効能があります。たとえば、疲労回復にいいとか、目にいいとか…。そうしたサプリメントもありますが、もともとは野菜と果物の栄養素を科学の力で錠剤にしているわけです。私はそうした栄養素をできるだけ多く摂取する機会を作りたいと思い、野菜と果物だけを絞ったジュースを開発し、工場を作りました。
◇食品カテゴリーマップ
食品カテゴリーマップ
  • 私は「栄養コンシェルジュ」として選手にアプローチするひとつの方法として、「食品カテゴリーマップ」という資料を使っています。それを選手に渡し、食品について考えてもらいます。食品を7つのカテゴリーに分け、食べたものがどこに当てはまるのかをみて、「カテゴリー1と5が多い」とか、バランスを見直す方法として使用しています。「これがいい」と聞いたものを食べるのではなく、「基本的な食事」というものを感じてほしい。バランスよく食べることから始めるのが重要だと思います。

  • 食品カテゴリーマップの「カテゴリー1」は、米や小麦などの穀類、さつまいも、じゃがいもなどのいも類、麺類、かぼちゃ、れんこん、大豆以外の豆類、栗など。つまりデンプン、糖質ですね。糖質は身体の中で処理できる量が決まっているので、摂りすぎも不足もいけません。グリンピースは、野菜ではなく豆類なのでカテゴリー1です。グリンピースご飯は、カテゴリー1が2倍、ということになります。デンプンは脳の栄養となるもので、非常に重要です。トップアスリートにとって、脳のはたらきは、パフォーマンス、痛みなどに大きく関与します。

  • 「カテゴリー2」は主菜で、A〜Eまで分類され、Eに近いほど加工度が高くなっていきます。体重をコントロールしたいなら、A・B・Cをとる。Eが一番太りやすい。AとEでバランスをとるとか、DとEはちょっとバランスが良くない、というようにアドバイスします。ただ、ジュニア選手に関しては、あまり太ることにこだわる必要はありません。カテゴリー2は積極的にとってほしいと思います。

  • 「カテゴリー3」は野菜。食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの微量栄養素を多く含み、そのひとつひとつに効果効能があります。野菜は色ごとにわけ、抗酸化作用を考えて、7つの色をまんべんなくとるといい、といわれています。カテゴリー3のカロリーは正確にはゼロではありませんが、スポーツ選手にとってはたいした数値ではありません。

  • 最終的な目標としては、ここから自分でカロリー計算をしてもらいます。ハンドブックで1ポーション80キロカロリーと設定してあり、単純に3ポーションだと240キロカロリー、と計算できます。ここに野菜のカロリーを含めますが、管理栄養士が行う計算と比較しても30〜50キロカロリーくらいしか変わりません。細かすぎるよりも、選手が自分でカロリー計算できることのほうが大きなメリットです。
    野菜に多く含まれる食物繊維は、便を作ること、脂肪を吸収する時間を変えてくれるのが大きな役割です。「ベジタブルファースト」というように、野菜から食べるといいといわれています。ビタミン、ミネラルは、代謝に深くかかわるので、とても重要な栄養素です。

  • 「カテゴリー4」は乳製品で、子供の身体を大きくしたい、体重を増やしたいのであれば、非常に大きな役割をもっています。間食にとれば皮下脂肪を蓄えることができます。乳糖不耐症であれば無理にとらなくてもいいと思いますが、そうでなければ、ジュニア選手は積極的にとるといいでしょう。

  • 「カテゴリー5」は、多脂肪性の食品。脂肪は身体に悪い、と思っている人が多いようですが、脂肪だけで太るわけではありません。アボカド、ナッツなども同じカテゴリーです。体重やコレステロール値の増加につながることはあるので、同じカテゴリーのものを多くとるのではなく、バランスをみて、まんべんなくとってください。

  • 「カテゴリー6」は、果物や清涼飲料水といった嗜好品です。果物も糖質ですが、カテゴリー1とは区別しています。

  • 今、果物は果糖の摂りすぎになって太る、などと敵視される傾向があるようですが、2600万年前、われわれの祖先である類人猿は、アフリカの熱帯気候の元で暮らし、主食は果物でした。1100万年前、寒冷化により海面が低下。アフリカ大陸がユーラシア大陸とつながり、類人猿がヨーロッパに移動しました。広葉樹林が豊富なので、このころは木の上で果物を食べていました。ところが、寒冷化がより進み、果物が不足し、地上に降りて、遠くまで食糧を探しに行かなくてはいけなくなった。これが二足歩行の始まりだといわれています。果物は栄養価が非常に高い。われわれの身体はよくできていて、飢餓状態になったときに使えるよう、それを脂肪として蓄えるという機能を持っていました。それが、「太る」といわれるゆえんです。
◇脳の栄養
  • 脳を活性化するには、五感を刺激することが重要です。脳が活性化しているとコンディショニングがいい。たとえば、1年前のケガをまだ痛いと感じているとしたら、脳が慢性的な痛みを誘発している可能性があります。首が痛むときに痛みの原因はそこにはない、ということもよくあります。あるのは違和感で、それを脳が痛いと認識しているわけです。そこで、慢性的な痛みを減らし、選手のコンディショニングをよくするためには、脳へのアプローチが必要となります。

  • 五感のなかで、味覚はコンディショニングとは関係ないだろう、と思われる方もいるでしょう。でも、味を感じると脳が何かを思い出すことがあります。たとえば、われわれが開発した柿のジュースをおじいちゃんに飲ませてあげた。すると、昔、庭にあった木から柿をもいだときの記憶がよみがえったりする。これが味覚を通して脳を刺激することの一例です。スポーツ選手にとっても、味覚は、多くのスイッチを入れるために非常に重要なものです。

  • 緊張は多くの負の連鎖を作ります。アスリートが緊張した状態で活動すると、動きが鈍くなり、パフォーマンスは低下します。交感神経は緊張、副交感神経はリラックスです。リラックスした状態で緊張感があるのは、交感神経と副交感神経が同時に優位にはたらいている状態。パフォーマンスを上げたいなら、両方が上がっている状態にしていく。また、交感神経と副交感神経は、バランスが悪いよりは、両方下がっているほうがまだいい、といわれています。農薬、化学物質、添加物なども身体の緊張を作る要因の一つとされ、身体にいいものを入れることにより、不必要な緊張感を取り除けるのではないか、と考えています。食べるものは脳に対する刺激として非常に重要です。
◇質疑応答より

    Q:自転車、マラソンなど長時間のスポーツをしています。食事のタイミングについて知りたいのですが…。
    A:目的によります。エネルギーを作るためであればデンプンが重要ですが、消化の面から考えると、胃に血液を集めることになります。運動している最中は、全身の細胞に血液を運びたい。おにぎりは消化に1時間くらいかかるので、食べるなら運動を始める1時間以上前にすること。30分前に食べるとまだ胃の中にたまっている状態です。長時間かかるスポーツで途中に食べたいなら、ゼリーのような、消化にエネルギーを使わないものが適しています。激しい運動をした直後は食事ができません。運動後のリカバリーが目的のときは果物を食べて、失ったエネルギーとビタミンやミネラルをまず補給し、そのあとに食事をする。運動前に果物でもいいのですが、エネルギーはおにぎりのほうが多いので、持久力を伸ばしたいのか、リカバリーしたいのか、目的を絞ることです。

    Q:小6の男子の母です。夜の練習が多いのですが、私には仕事があり、連れていく時間までに食事の用意がむずかしいこともあります。身体を作るためにはどうすればいいでしょうか。また、おにぎりを用意するとしたらおすすめの具はありますか?
    A:学校の部活のように夕方には終わって遅くても7〜8時に晩ご飯が食べられるのであれば、普通と変わらない食事でいいと思います。クラブチームのように家に帰ったら10時頃になるとしたら、晩ご飯を2回に分けて考えみてはどうでしょうか。夜遅くに食べて、食べものが大量に胃の中にたまったまま寝るのはよくありません。そこで、用意した食事を練習前と後の2回に分けてとれるようにします。身体を作らなければいけない時期です。2回に分けたほうがとりやすいし、量もとれると思います。学校の部活前なら、バナナやおにぎりがおすすめです。ゼリー飲料は栄養が摂りやすくても、風味だけですから、脳の刺激が起きにくい。どれだけ脳に刺激を与えられるかが、パフォーマンスの向上につながります。
    おにぎりの具は、何でもいいと思います。以前、マリノスの栄養士と子供に栄養講習会を行ったとき、細かいことを言いすぎて「これはよくないって言われたから食べない」とか、「おにぎりの海苔は消化に悪いらしい」という子が現れたりしました。頭でっかちになると、「あれはダメ」「これもダメ」となって、食事のボリューム自体を減らしてしまうことになりかねません。

    Q:私は帰りが遅く、たいてい夜中になります。小腹が減って寝られないこともあり、豆腐と納豆を食べたりしているのですが、それがいいのかどうか、また、何かいい食材があれば教えてください。
    A:食品カテゴリーマップに当てはめると、豆腐と納豆は同じカテゴリーで、たんぱく質しか摂っていないことになります。朝と昼には何を食べたのか。3食の中でどれだけバランスが取れているかが重要です。糖質に関しては基本的に3食摂ることをすすめていますが、体重を気にしている選手の場合、1食はたんぱく質に置き換えてもいい、と指導しています。果物でもいいでしょう。寝ている間は食物繊維が腸ではたらいています。腸内環境の面からいえば、朝よりも夜にヨーグルトを食べるほうがいいかもしれません。目的次第で、どうしても食べたいものがあるなら寝る時間を遅らせる。早く寝たいけれど食べたいのであれば、消化にいいものにしたほうがいいでしょう。

    Q:先生は呼吸についても研究されているとのことですが、緊張したときはどんな呼吸法がいいのか教えてください。
    A:プロ野球の菊池雄星選手に、「勝てると感じるのはどんなとき?」と聞いたら、「自分を客観視できているとき」と答えてくれました。ピッチャーで、突然ストライクが入らなくなったら、完全に自分自身を見失って、客観視ができないでいる状態、ということです。交感神経と副交感神経がどちらも高いときは、客観視ができます。そのバランスが重要で、どう呼吸しているかでわかることがあります。呼吸は自律神経を整えるひとつのチャンネルだといわれており、1はいて、2吸うのが理想です。深呼吸は、はくほうからやるのがいい。はければ自然と吸いたくなります。
    みなさんが無意識にやっている呼吸は、1分間に18回前後。10回以下と25回以上は病的な呼吸とされ、理想は15回ですが、練習しないとむずかしい。1分間に15回の呼吸では1日に21600回、18回だと25950回。1分間に3回の違いで、1日に4800回もの差が出ます。心臓の拍動に限界があるように、人間の寿命の中で呼吸回数にも制限があると考えたらどうでしょう。80歳が寿命だとして、1分間に15回と18回で考えると、18回の人は67歳で限界が来てしまいます。生命の維持に呼吸は必要ですが、身体の中を酸化させてがんなどにつながるのではないか、ともいわれています。
    どう呼吸しているのかをみるためには、仰向けに寝て、おなかに手を当てて自分の呼吸を感じます。すると、手が両方ともいっしょに動く人や、交互に動く人、下ばかり動く人などさまざまです。下ばかり動くのは胸郭の拡張ができていない状態で、女性に多い。肩で呼吸しているわけですから、肩こりです。交互に動く人はストレスが多い。正しいのは両方いっしょに動くことです。
    人間の身体は筒状ですから、呼吸してお腹だけでなく、横にも広がります。腰に手を当てて、後ろにも空気が入っているかどうか確認してください。5歳くらいまでの子供はできているのですが、だんだんできなくなる。意識して訓練すれば、横にも後ろにも動くはずです。
    背中が張るのは交感神経が優位で、いつも緊張している、現代人に多いタイプです。背中を丸めて、おへそを見るようにゆっくりと呼吸する。後部を拡張して、背中にスペースを持つと、1回に吸える量が多くなります。浅い呼吸では、体内の二酸化炭素濃度が薄くならず、吸っても吸ってもまだ吸いたくなる。しっかりはいて、呼吸回数を減らすこと。不定愁訴はこうしたところから生まれているのではないか、という説もあります。

    Q:トップアスリートになるための心構えは?
    A:「客観視」が大きなテーマで、呼吸と食事が大きな影響を与えます。呼吸法や食事改善に取り組むか取り組まないかは、「覚悟」です。トップアスリートの選手は、人生を犠牲にしてでも努力を続けてきた、と言います。その努力は裏切らない、とも。それだけの覚悟ができているかどうかが重要です。身体を変えたい、強くなりたいなら、本当に覚悟ができているか、そのために何かを犠牲にできるか、問いかけてみてください。犠牲にすることをいとわない姿勢でなければ、トップには上がれません。選手たちは、苦労も含めて楽しんでいる部分がある。それが、一流になれるかなれないか、そのスポーツを続けていけるかいけないか、につながると思います。スポーツに限らず、体質を変えるために何かしたいと思ったら、覚悟をすれば勇気が湧いてきて、目標を達成できるはずです。

    Q:先生が開発したジュースについて、もう少し詳しく教えてください。
    A:無農薬野菜が注目されてきていますが、作るのは大変です。今、障がい者の方に無農薬野菜を作ってもらう「農福連携」が全国で始まっています。アスリートたちと何ができるかを考え、沖縄のサッカーチームがいっしょに農業をしたら、みなさんの表情がとてもよくなりました。自分たちが健常者に対して何かできる、ということが喜びになったわけです。どんどん作ってもらって、われわれがそれを消費すれば、ともに歩んでいけるのではないかと考え、その野菜を使ってジュースを作ることにしました。少しずつ広げていきたいと思っています。農薬を完全にゼロにするのはむずかしいので、できる範囲でやっています。野菜と果物が本来持っている味だけなので、ふだん添加物や甘味料になれている人は、飲みにくいと感じるかもしれません。緑色のジュースには、ケールが入っており、血中のインシュリンにはたらきかける、といわれています。苦くて生で食べるのは無理でも、ジュースにして、りんごを加えたりすると飲みやすくなります。複数の野菜と果物をミックスしたジュースは、飲んだときに何が入っているのか、どれがどの味かを確かめながら感じるのも、脳の刺激になります。

 

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