Q:自転車、マラソンなど長時間のスポーツをしています。食事のタイミングについて知りたいのですが…。
A:目的によります。エネルギーを作るためであればデンプンが重要ですが、消化の面から考えると、胃に血液を集めることになります。運動している最中は、全身の細胞に血液を運びたい。おにぎりは消化に1時間くらいかかるので、食べるなら運動を始める1時間以上前にすること。30分前に食べるとまだ胃の中にたまっている状態です。長時間かかるスポーツで途中に食べたいなら、ゼリーのような、消化にエネルギーを使わないものが適しています。激しい運動をした直後は食事ができません。運動後のリカバリーが目的のときは果物を食べて、失ったエネルギーとビタミンやミネラルをまず補給し、そのあとに食事をする。運動前に果物でもいいのですが、エネルギーはおにぎりのほうが多いので、持久力を伸ばしたいのか、リカバリーしたいのか、目的を絞ることです。
Q:小6の男子の母です。夜の練習が多いのですが、私には仕事があり、連れていく時間までに食事の用意がむずかしいこともあります。身体を作るためにはどうすればいいでしょうか。また、おにぎりを用意するとしたらおすすめの具はありますか?
A:学校の部活のように夕方には終わって遅くても7〜8時に晩ご飯が食べられるのであれば、普通と変わらない食事でいいと思います。クラブチームのように家に帰ったら10時頃になるとしたら、晩ご飯を2回に分けて考えみてはどうでしょうか。夜遅くに食べて、食べものが大量に胃の中にたまったまま寝るのはよくありません。そこで、用意した食事を練習前と後の2回に分けてとれるようにします。身体を作らなければいけない時期です。2回に分けたほうがとりやすいし、量もとれると思います。学校の部活前なら、バナナやおにぎりがおすすめです。ゼリー飲料は栄養が摂りやすくても、風味だけですから、脳の刺激が起きにくい。どれだけ脳に刺激を与えられるかが、パフォーマンスの向上につながります。
おにぎりの具は、何でもいいと思います。以前、マリノスの栄養士と子供に栄養講習会を行ったとき、細かいことを言いすぎて「これはよくないって言われたから食べない」とか、「おにぎりの海苔は消化に悪いらしい」という子が現れたりしました。頭でっかちになると、「あれはダメ」「これもダメ」となって、食事のボリューム自体を減らしてしまうことになりかねません。
Q:私は帰りが遅く、たいてい夜中になります。小腹が減って寝られないこともあり、豆腐と納豆を食べたりしているのですが、それがいいのかどうか、また、何かいい食材があれば教えてください。
A:食品カテゴリーマップに当てはめると、豆腐と納豆は同じカテゴリーで、たんぱく質しか摂っていないことになります。朝と昼には何を食べたのか。3食の中でどれだけバランスが取れているかが重要です。糖質に関しては基本的に3食摂ることをすすめていますが、体重を気にしている選手の場合、1食はたんぱく質に置き換えてもいい、と指導しています。果物でもいいでしょう。寝ている間は食物繊維が腸ではたらいています。腸内環境の面からいえば、朝よりも夜にヨーグルトを食べるほうがいいかもしれません。目的次第で、どうしても食べたいものがあるなら寝る時間を遅らせる。早く寝たいけれど食べたいのであれば、消化にいいものにしたほうがいいでしょう。
Q:先生は呼吸についても研究されているとのことですが、緊張したときはどんな呼吸法がいいのか教えてください。
A:プロ野球の菊池雄星選手に、「勝てると感じるのはどんなとき?」と聞いたら、「自分を客観視できているとき」と答えてくれました。ピッチャーで、突然ストライクが入らなくなったら、完全に自分自身を見失って、客観視ができないでいる状態、ということです。交感神経と副交感神経がどちらも高いときは、客観視ができます。そのバランスが重要で、どう呼吸しているかでわかることがあります。呼吸は自律神経を整えるひとつのチャンネルだといわれており、1はいて、2吸うのが理想です。深呼吸は、はくほうからやるのがいい。はければ自然と吸いたくなります。
みなさんが無意識にやっている呼吸は、1分間に18回前後。10回以下と25回以上は病的な呼吸とされ、理想は15回ですが、練習しないとむずかしい。1分間に15回の呼吸では1日に21600回、18回だと25950回。1分間に3回の違いで、1日に4800回もの差が出ます。心臓の拍動に限界があるように、人間の寿命の中で呼吸回数にも制限があると考えたらどうでしょう。80歳が寿命だとして、1分間に15回と18回で考えると、18回の人は67歳で限界が来てしまいます。生命の維持に呼吸は必要ですが、身体の中を酸化させてがんなどにつながるのではないか、ともいわれています。
どう呼吸しているのかをみるためには、仰向けに寝て、おなかに手を当てて自分の呼吸を感じます。すると、手が両方ともいっしょに動く人や、交互に動く人、下ばかり動く人などさまざまです。下ばかり動くのは胸郭の拡張ができていない状態で、女性に多い。肩で呼吸しているわけですから、肩こりです。交互に動く人はストレスが多い。正しいのは両方いっしょに動くことです。
人間の身体は筒状ですから、呼吸してお腹だけでなく、横にも広がります。腰に手を当てて、後ろにも空気が入っているかどうか確認してください。5歳くらいまでの子供はできているのですが、だんだんできなくなる。意識して訓練すれば、横にも後ろにも動くはずです。
背中が張るのは交感神経が優位で、いつも緊張している、現代人に多いタイプです。背中を丸めて、おへそを見るようにゆっくりと呼吸する。後部を拡張して、背中にスペースを持つと、1回に吸える量が多くなります。浅い呼吸では、体内の二酸化炭素濃度が薄くならず、吸っても吸ってもまだ吸いたくなる。しっかりはいて、呼吸回数を減らすこと。不定愁訴はこうしたところから生まれているのではないか、という説もあります。
Q:トップアスリートになるための心構えは?
A:「客観視」が大きなテーマで、呼吸と食事が大きな影響を与えます。呼吸法や食事改善に取り組むか取り組まないかは、「覚悟」です。トップアスリートの選手は、人生を犠牲にしてでも努力を続けてきた、と言います。その努力は裏切らない、とも。それだけの覚悟ができているかどうかが重要です。身体を変えたい、強くなりたいなら、本当に覚悟ができているか、そのために何かを犠牲にできるか、問いかけてみてください。犠牲にすることをいとわない姿勢でなければ、トップには上がれません。選手たちは、苦労も含めて楽しんでいる部分がある。それが、一流になれるかなれないか、そのスポーツを続けていけるかいけないか、につながると思います。スポーツに限らず、体質を変えるために何かしたいと思ったら、覚悟をすれば勇気が湧いてきて、目標を達成できるはずです。
Q:先生が開発したジュースについて、もう少し詳しく教えてください。
A:無農薬野菜が注目されてきていますが、作るのは大変です。今、障がい者の方に無農薬野菜を作ってもらう「農福連携」が全国で始まっています。アスリートたちと何ができるかを考え、沖縄のサッカーチームがいっしょに農業をしたら、みなさんの表情がとてもよくなりました。自分たちが健常者に対して何かできる、ということが喜びになったわけです。どんどん作ってもらって、われわれがそれを消費すれば、ともに歩んでいけるのではないかと考え、その野菜を使ってジュースを作ることにしました。少しずつ広げていきたいと思っています。農薬を完全にゼロにするのはむずかしいので、できる範囲でやっています。野菜と果物が本来持っている味だけなので、ふだん添加物や甘味料になれている人は、飲みにくいと感じるかもしれません。緑色のジュースには、ケールが入っており、血中のインシュリンにはたらきかける、といわれています。苦くて生で食べるのは無理でも、ジュースにして、りんごを加えたりすると飲みやすくなります。複数の野菜と果物をミックスしたジュースは、飲んだときに何が入っているのか、どれがどの味かを確かめながら感じるのも、脳の刺激になります。
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