■2017年10月15日 第7回 きのこ 〜 講演「きのこ」について ファーム700農園主 岩瀬登志男氏
◇はじめに
  • 埼玉県ときがわ町で「ファーム700」という農園を経営しています。標高700メートルのところにあるので、この名前にしました。

  • 以前は35年間、園芸関係の仕事に携わっていて、大田市場に花の仕入れに行っておりました。その頃から山で暮らしたい、という夢があり、11年前にときがわ町に移り住みました。山できのこや山菜、クリスマスローズの栽培などをして楽しんでいます。

  • 圃場は100アールあります。ときがわ町は自然豊かで、イノシシやシカがたくさんいるので、高さ2メートル、長さ1000メートルの柵で、圃場をぐるりと囲んでいます。小動物も来るので、どう対策をすればいいか悩んでいます。
ファーム700農園主 岩瀬登志男氏
◇「ファーム700」での暮らし
  • 家は古い民家を全部一人で改築しました。山の気温は今8℃くらいで、薪ストーブで火を焚いています。薪ストーブがあるところは、押し入れでした。取り壊してレンガを積んで作りました。畳1枚分くらいある大きないろりも手作りです。ここで、イノシシ、シカを焼いて食べたりしています。

  • 圃場には「ぽろたん」という栗を100本、「蜂屋柿」という渋柿を50本くらい植えていますが、夜になるとハクビシンやアライグマが来てすべて食べられてしまいます。柿は10年作って、一度も収穫したことがありません。

  • 杉林があり、そこでマイタケ、クリタケ、ヒラタケ、シイタケといったきのこの原木栽培をしています。
薪ストーブ
栗と柿の木
杉林
  • 山の傾斜面には石垣を作り、3000株くらいのクリスマスローズを植えて毎年楽しんでいます。上のほうに見えるのは、春の最初に咲く花「ロウバイ」です。

  • 4〜5年前から県に頼まれて「のらぼう菜」のタネ採りをしています。「のらぼう菜」はすぐに交雑するので他の菜花はいっさい植えず、純粋な系統を保っています。比企郡のさいたま中央農協の管轄下はすべてうちのタネで作っています。写真の奥、テニスコートのように見えるところではわらびを作っています。面積は4反、1200坪あります。
クリスマスローズとロウバイ
のらぼう菜のタネ採り
  • 家の真ん前には山桜があり、満開になるとひとりでニコニコしています。クリスマスローズ、ヒカゲツツジ、ミツバツツジなども作り、庭を楽しんでいます。近所には家もなく、一人で好きにやれます。もとは牧場だったそうで、全体は6000坪くらいあります。草が繁って1年中足を踏み入れないところもたくさんありますが、見える範囲はできるだけきれいにしています。

  • 東京から来たみなさんに、ワラビ摘みをしてもらっている写真です。このときは10人くらいいらっしゃいましたが、あっという間に1袋ずつ収穫できました。私の山ではワラビは4月初めから6月中旬くらいまで収穫でき、生活の糧にもなっています。コゴミはワラビよりかなり早く終わってしまいます。

  • ワラビを灰であく抜きしているところです。ワラビは直売所に出していて、ピークには1日100袋にもなります。1000袋を目安にしていて、あとはみなさんに採っていただいています。
山桜
ワラビ摘み
ワラビのあく抜き
◇きのこ栽培について
  • 以前は花屋でしたので、きのこ栽培は素人でした。専門の知識はありませんが、この10年一生懸命やって、だれにも負けないようなマイタケを作ることができました。

  • すべて原木栽培です。まず山に行き、コナラの木を集めてきます。太さ18センチのものを長さ15センチに切り、マイタケの原木にします。夏に植菌し、2ヶ月育苗します。真っ暗な部屋で育苗するので、そのときは純白です。2ヶ月後に明るいところに出すと茶褐色になります。中に赤玉土を入れて空気が通るようにすると、3ヶ月くらいで発生します。

  • スチームボイラーがあって400個の原木を一気にスチームできます。それを200個ずつ、70センチ×8メートルの区画に埋めます。1区画で、40キロくらいのマイタケが採れます。一度埋めると5〜6年は収穫でき、中には4.5キロもある大きなものもできます。
岩瀬さんが育てた原木マイタケ
マイタケの原木
こんなに大きく育つマイタケも
  • マイタケが発生する気温は普通のきのこより5℃くらい高いので、私のところでは9月のお彼岸頃に発生し、10月初めに収穫は終わりです。きのこ鍋をしたい、という時期にはなくなってしまいます。もう少し長く収穫するには菌床栽培に頼るほかないかもしれません。

  • 原木栽培のマイタケは非常に香りと食感がいいので、今日みなさんに食べていただきたかったのですが、残念ながらシーズンが終わってしまいました。天ぷらもいいですが、私はいろりの上で炭で焼いて塩だけで食べます。本当のマイタケの香りが楽しめる食べ方だと思います。
  • マイタケのほか、周囲でクリタケ、ヒラタケ、シイタケもいっしょに栽培しています。シイタケも原木です。寒暖差が激しいので大きくて肉厚のシイタケになります。

  • マイタケにはほとんど影響はありませんが、シイタケ、ヒラタケはリスが食べます。全部は食べませんが、一番いいところを食べられてしまいます。これからは、きのこもトンネル栽培などで、小動物から守らないといけないのかな、と思っています。

  • ときがわ町には自生しているきのこもたくさんありますが、きのこには放射能が付着しやすいので、県から自生しているきのこの販売は自粛するように、と言われています。
原木シイタケ
◇質疑応答より

    Q:きのこの保存の仕方を教えてください。
    A:自然のきのこは、半日くらい天日で干して乾燥させます。水分を抜いて冷蔵庫に入れると、10日くらいは食べられます。しっかりしたきのこは2週間以上もちます。

    Q:乾燥させたあとの予冷は何℃くらいがいいのでしょうか?
    A:4℃くらいがいいと思います。湿度がないほうがいいので、保存袋に入れて予冷してください。長く持たせたいならしっかり乾燥させて、食べるときに水でもどして使うといいでしょう。

    Q:原木シイタケは、自然栽培ですか?
    A:はい、自然栽培で、春と秋に採れます。マイタケの原木を作るにあたり、細いのや太いのが出るので、それをシイタケの栽培に利用しています。

    Q:私もきのこを作っているのですが、原木シイタケが出ません。考えられる原因はありますか?
    A:原木の乾燥が不十分で、こまをうつときに雑菌が入ったのかもしれません。ちゃんと乾燥した原木を使えばシイタケは発生します。ただ、きのこの種類によって、乾いた原木を使うものもあれば生乾きのものを使うこともあります。

    Q:うちにある原木シイタケは、去年はたくさん採れたのですが、今年はどうすればまた出てきますか?
    A:水槽を用意して、中にシイタケの原木をつけます。3〜4日すると芽が出てくるので、取り出して、温度管理をすれば通年発生します。管理をしなければ春と秋だけ出てきます。マイタケも施設を作って温度管理をすれば通年採れるようになります。

    Q:菌こまというのはどこかから買うのですか?
    A:群馬や東北の会社から購入します。シイタケは穴をあけてこまうちし、原木の中から菌を発生させます。マイタケは外に菌を置いて、中にしみこませていきます。原木を餌にして育つので、5年ほど経つと発生が終わります。

    Q:マイタケの大きさを狙って作ることはできないのでしょうか?
    A:植えたらあとはマイタケの菌まかせなのでむずかしいです。菌が集まれば大きくなるし、小さいものしかできないこともあります。

    Q:マイタケは木から生える、という理解でよいのでしょうか?
    A:そうです。もとは原木から出てきます。ただ、空気の流れがないと菌が動いていかないとか、いろいろな条件があります。教科書がなく、経験が頼りなので、日々勉強しながら栽培しています。

    Q:写真にあった緑のシートがかかっているところは雨が当たらないようになっているのですか?
    A:緑のシートをかけてあるのは去年埋めたマイタケです。山には杉の木があって葉がたくさん落ちます。それを防ぐためで、水は普通に入ります。あと、ミミズなどが発生するとイノシシが来て全部ほじくり返されてしまうので、それをネットで防ぐ目的もあります。

    Q:事前に送ってくださったマイタケが食べられなくなってしまった原因は何ですか?
    A:先月末、採れたてのマイタケを宅配便で送りました。まだ水分がたくさんあった状態で、新聞紙を何回もまめに取り換えてもらえばよかったのですが、湿度でやられてしまったのだと思います。

 

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