■2017年8月20日 第5回 トロピカルフルーツ 〜 勉強品目「トロピカルフルーツ」について 東京青果(株) 果実第4事業部  森本隆史氏
  • パイナップルが日本に入ってきたのは1860年(明治7年)代、オランダの船に積んでいた苗が石垣島に漂着したのが始まりだといわれています。石垣島で栽培がスタートし、沖縄本島に伝わりました。酸性土質を好むため、本島では北部でしか栽培できません。

  • パイナップルは店頭では比較的安価ですが、じつは1個作るのに3年もかかります。また、1つの苗に1個しか実がなりません。

  • ハワイ種、ピーチパイン、スナックパインといった名前を聞いたことがあると思いますが、これらはパイナップルの品種名ではなく商品名です。品種名は、スナックパインは「ボゴール」、ピーチパインは「ソフトタッチ」、ハワイ種は「エヌ種」といいます。
東京青果(株) 果実第4事業部 森本隆史氏
  • 栽培の歴史が一番古いのはハワイ種で、もとは生食用ではなく、戦後すぐ本州向けの缶詰用に作ったものです。形が樽型で、缶に合いやすかったために栽培が拡大しました。1985年(昭和60年)頃、輸入物の入荷や缶詰価格の下落などにより生食用に栽培を切り替えました。ハワイ種は酸味が強く、生食には向かなかったので、産地は、生育時期を長くし、極力完熟させることにしました。販売時期は7〜8月がメインです。

  • ハワイ種を完熟栽培にしても消費者には酸味が受け入れられなかったので、ピーチパイン、スナックパインを導入しました。スナックパインは、1968年(昭和43年)、台湾から入ってきたものです。手でむけて食べやすく人気があったのですが、非常に作りづらいので、生産者としてはできるならやめたい、というのが本音だったと思います。それに変わるものがピーチパインで、1998年(平成10年)に沖縄県で育種された比較的新しい品種です。

  • 品種のリレーは、スナックパイン、ピーチパイン、ハワイ種の順です。7〜8月にハワイ種を完熟にして出しますが、その前にお客さまはスナックパイン、ピーチパインを食べているので、どうしても酸味が気になります。そこで近年育成されたのが、「サンドルチェ」、「ゴールドバレル」という品種です。どちらも徹底的に味にこだわり抜いたパインで、「ゴールドバレル」は3〜6月の前半の品種、「サンドルチェ」は3〜10月まであります。沖縄県は3〜10月まで、おいしいパインを生産拡大しようとしています。近い将来、市場や店頭で目にする機会が増えると思います。

  • 国産トロピカルフルーツのなかで一番扱う機会と量が多いのはマンゴーだと思います。沖縄県のマンゴーは推定約2000トン。野生のものは含みません。このうち約95%がアーウィン種、約5%がキーツで、その他細かい品種もあります。鹿児島県は600〜700トン、離島もあるので正確な数字は把握できておりません。宮崎県は100%栽培で約1000トン弱。マンゴーは施設で加温すればどこでも作れるので、今、北海道、静岡、愛知、千葉、和歌山など全国的に作られています。

  • 亜熱帯果樹であるマンゴーがなぜ日本で栽培可能なのでしょうか。マンゴーは花を咲かせて実をつけるためのスイッチをもっています。亜熱帯地域では雨季と乾季の境目がスイッチになりますが、日本には雨季と乾季はないので、宮崎県などでは、冬の低温をスイッチにしています。18℃以下の低温のあと、加温すると花を咲かせて実をつけます。母の日あたりに販売される宮崎のマンゴーは、12月に花を咲かせ、一番寒いときに温度を25℃まで上げて栽培するので、コストが高くなります。沖縄は比較的温かいので、冬でも18℃以下の低温にならないときがあります。そこで、水分をカットして強制的にストレスを与え、それをスイッチにする栽培方法がとられています。

  • 地球温暖化の影響で、今九州で作っている作物が、10〜20年後には作れなくなるかもしれません。暑すぎると生育が止まったり、木がバテたりします。実際、今年は暑すぎて、梨がなかなか出てきませんでした。こうした栽培環境の変化で、既存商品からトロピカルフルーツにシフトする傾向があります。宮崎、鹿児島などが生産拡大に力を入れていて、宮崎ではライチも栽培しています。

  • 宮崎のマンゴーは100%自然落下なので、市場に出ているものはすべて完熟の食べ頃で間違いありません。沖縄も自然落下したマンゴーを出荷したいのでしょうが、台風が多く、ちょうどマンゴーの最盛期に直撃することが多い。そのため沖縄のアーウィン種は、落ちる2日前に収穫します。東京まで船便で2日かかるので(航空便であれば1日)、販売する頃には完熟の食べ頃になっています。

  • キーツは酸味とコクがあっておいしいマンゴーですが、食べ頃の判断が難しい。JAおきなわのものは、収穫から8日後に食べ頃になるように徹底しています。まず収穫して生産者が4日保管します。その後選果場で2日、輸送に2日。東京に着いたときにほぼ食べ頃になるような出荷体制を整えています。

  • パイナップルは、マンゴーと違って、追熟しない果物です。追熟しているように感じられるのは、おいておくと水分含量が増えて、酸が薄まり、甘くなったように感じるだけで、糖度が上がるわけではありません。

  • パッションフルーツは、1950年(昭和25年)にハワイから沖縄に導入されました。ツルがどんどん伸びて切るのが大変で、実もたくさんなります。トロピカルフルーツの中では一番作業が面倒で、沖縄では女性がお小遣い稼ぎに栽培しているケースが多いようです。色は、紫、黄色、赤などがあり、世界的に主流なのは紫、黄色。その掛け合わせでいろいろなものがあります。ジュースなどの加工品も人気が出ています。
◇「トロピカルフルーツ」の写真
マンゴー・アーウィン種
(沖縄)
マンゴー・アーウィン種
(奄美大島)
マンゴー
(メキシコ)
マンゴー
(フィリピン)
マンゴー・キーツ種
(宮古島ユートピアファーム)
マンゴー・ティララ
(宮古島ユートピアファーム)
マンゴー・金蜜
(宮古島ユートピアファーム)
マンゴー・夏小紅
(宮古島ユートピアファーム)
ゴールデンパイン
(フィリピン)
ハワイ種
(沖縄)
ボゴール
(沖縄)
サンドルチェ
(沖縄)
ゴールドバレル
(宮古島)
ドラゴンフルーツ
(ベトナム)
ドラゴンフルーツ
(沖縄)
ドラゴンフルーツ
(宮古島)
イエロードラゴンフルーツ
パッションフルーツ
(伊豆大島)
パッションフルーツ
(福岡八女)
スターフルーツ・美ら星
(沖縄)
パパイア
(ハワイ)
パパイア・石垣サンゴ
(石垣島)
島バナナ
(沖縄)
琉球スイートバナナ
(沖縄)
アセロラ
(沖縄)
キワノ
グァバ
(沖縄)
シークワーサー
(沖縄)
ラズベリー
(アメリカ)
ブルーベリー
(アメリカ)
デーツ
(アメリカ)
デーツ
(チュニジア)
スイートリッチ
(長野)
     
■2017年8月20日 第5回 トロピカルフルーツ 〜 勉強品目「トロピカルフルーツ」の補足 (株)インターナショナルグリーンサービス 鈴木大樹氏
  • 大田市場で「IGS(インターナショナル グリーン サービス)」という八百屋をしています。青果棟で業務用としてホテルやレストランに野菜や果物をお届けし、関連棟で八百屋さんに向けたお店を開いています。

  • 私どもIGSは、沖縄の生産者さんとおつきあいさせてもらっていて、果物だけではなく、沖縄の伝統野菜28種も取り扱っています。大手の流通にはのらないようなものは、直接生産者さんから仕入れています。
(株)インターナショナルグリーンサービス
鈴木大樹氏
  • 業務用として、レストランのシェフやパティシエの方々に、いろいろな野菜や果物の魅力をお伝えしています。そのお店に食べに来られたり、買いに来られたりするお客さまに喜んでいただくには、国産でおいしくてめずらしいフルーツと野菜にしぼったほうが、シェフ、パティシエのみなさんも扱いやすいのではないか、と思っています。

  • 北海道から沖縄まで、生産者さんにいろいろなものを提供していただいたり、ときにはタネ屋さんといっしょになって、めずらしいものを作ってもらったりもしています。北海道の温泉地熱を利用したマンゴーも扱っていますが、まだとても高いですね。

  • 今年レストランさんに大人気だったトロピカルフルーツは、沖縄のパイナップル「ゴールドバレル」です。まさに黄金の樽という見た目で、沖縄産では比較的遅い7〜8月がメインです。5〜6月は西表で栽培される無農薬のピーチパインを扱っています。切ると白いホワイト種です。パイナップルだから黄色いと思ったら白い。これだけでも面白いと思います。また、芯までそのまま生で食べられます。レストランとしても使いやすい、楽しんでいただける食材ではないでしょうか。

  • 「ゴールドバレル」は非常においしいのですが、栽培がとてもむずかしいと産地の方に聞きました。ここにある「タダオゴールド」はネットでびっくりするほどの値段で売られていることもあります。

  • 私どものモットーは、「安心・安全」、「おいしい」、「楽しい」、「健康」の4つです。外食には、「楽しい」が特に必要なキーワードです。お皿にのった状態で、まず見て楽しむには、トロピカルフルーツはまさに最適な商品だと思います。

  • 完熟した生のアセロラは自分の重みでつぶれてしまうほどデリケートで、輸送がむずかしいのですが、ぜひ生で食べていただきたいと思って、私どもは冷凍を通年、フレッシュを半年間扱っています。

  • IGSでは、沖縄の産品を各種取り揃えていますが、小さな八百屋なので、扱える量は限られています。仕入れ窓口は担当しますので、同業の八百屋のみなさんにもぜひ扱っていただきたい、と思っています。沖縄に限らず、全国の魅力ある産品の生産が拡大することで農家さんの元気につながれば嬉しいです。本日はご参考までに沖縄の伝統野菜と熱帯果樹が一覧になった資料をお配りしますので、ご興味があればお声掛けください。
■2017年8月20日 第5回 トロピカルフルーツ 〜 勉強品目「トロピカルフルーツ」の補足 (株)果菜里屋 高橋芳江氏
  • 宮古島でマンゴーを研究している方に、「キーツ」、「ティララ」、「夏小紅」、「金蜜」というマンゴーを送ってもらいました。緑色の「キーツ」は未熟、完熟してくると黄色くなります。「ティララ」は今年初めて開発したもので、甘みがあり、ねっとりしているのが特徴です。「夏小紅」はとても甘く、クリーミーでなめらかな口あたり。市場にはほとんど出ていません。「金蜜」は糖度が高く、繊維質が多いマンゴーです。「アーウィン」のことは知っていても、たいてい沖縄マンゴーとか、宮崎マンゴーとか、そうした扱いをされている八百屋さんが多いと思うのですが、マンゴーにもこのようにいろいろな種類があることを知っておいてください。
(株)果菜里屋 高橋芳江氏
  • トロピカルフルーツではありませんが、「スイートリッチ」は、ワッサーとももの掛け合わせです。長野の果樹試験場の元場長さんで、勇退されたあとご自分でいろいろ作っている方がいて、たくさん採れたから、と送ってくださいました。

【八百屋塾2017 第5回】 挨拶講演「真夏の果実」勉強品目食べくらべ