■2017年7月9日 第4回 有機農業の産地視察 in 埼玉 〜 風の丘ファーム
 まずは、小川町にある「風の丘ファーム」へ。田下隆一さんと奥様のお話をうかがい、自家製麦茶の試飲や、じゃがいもの試食をさせていただいた後、圃場を見学しました。

【風の丘ファーム 田下隆一さんのお話】

風の丘ファームの田下隆一さん
田下さんのお話を聞く塾生たち
  • 風の丘ファームでは、年間100品目ほどの野菜を、すべて無農薬、無化学肥料で栽培しています。私はもともと東京の出身で、親が食堂をしていました。35年前、霜里農場の金子美登さんのところにお世話になり、その後、農業を始めました。金子さんは無農薬、無化学肥料で栽培していますので、うちも当初からすべてのものを無農薬で栽培しています。

  • 出荷は市場ではなく、レストランが多く、一般家庭にも、直接お届けするという形で出しています。

  • 畑は6.5ヘクタールあります。野菜が年間100品目、ほかに、大豆、小麦、大麦も作っています。ちょうど昨日、大豆のタネを蒔いたところです。小麦は麺にしたり、大麦は2〜3週間前に刈りとったものを麦茶にしました。赤と黄色のにんじんをジュースにして販売したりもしています。

  • ここからビニールハウスが5棟見えますが、手前3棟は苗を作るビニールハウスです。1月頃から山に入り、落ち葉を集めてきて、米ぬか、鶏糞などと混ぜて発酵させ、その発酵熱を利用して、育苗しています。手間はかかりますが、その堆肥が3年経つと苗の土になります。こうしてしっかりとした苗作りをすることで、虫や病気を出しにくくしています。

  • 害虫対策のひとつとして、10月頃、ビニールハウスの中に「バンカープランツ」として大麦を蒔きます。これは「天敵を育てる銀行」という意味で、この大麦にアブラムシがつきます。野菜の苗にアブラムシが出てくるのは2〜3月頃ですが、大麦にはその前からアブラムシがいて、それを食べに天敵の寄生蜂やテントウムシなどが来ます。天敵が早くから増えてくれるので、野菜につくアブラムシを防ぐことができるわけです。麦につくアブラムシは嗜好性が強く、稲、麦やトウモロコシなどにしかつきません。ですから、そのアブラムシが増えても野菜にはうつらず、天敵だけが共有できます。

  • 通常、畑の通路にあたる部分には草が一本も生えていないところが多いと思います。うちでは、通路にも麦を蒔き、雑草を抑制しています。草で覆われているので、クモのような捕食性の昆虫やカエルなど、さまざまな生き物が住んでおり、生物が多様化し、ひとつのものだけが増える、ということが少なくなります。こうして、できるだけ害虫を減らしています。

  • 農業はなかなかお金にならないこともあって、小川町でも農家の後継者がほとんどおらず、耕作放棄地が増えています。このあたりでも回りから、「ぜひうちの土地で作ってくれ」と言われます。やれそうなところだけお借りして、今、6.5ヘクタールの畑を10人のスタッフで管理しています。都会からの研修生も4人。ここで勉強して、いずれは独立しよう、と考えている人たちです。私が金子さんのところを出てから34年経ちますが、毎年、研修に来る人たちがいます。小川町の農業生産グループは、最初は十数名だったのですが、今では70世帯のメンバーが移り住んで、有機農業をしています。平均年齢は30〜40代、新しい人たちがどんどん入って来ているので、役場にも以前はマイナーな農業として扱われていたのが、現在では、かなり力を入れていただいています。

  • 2020年、東京でオリンピックがあります。オリンピックでは、オーガニックのものを使うことが推奨されていて、需要は増えているようです。世界的に見ると日本はかなり遅れていて、栽培面積や需要は、韓国や中国のほうが多い状況になっています。

  • うちでは、旬のものしか栽培していません。旬のものを食べることが、カラダにも環境にも一番いい、と思っています。じゃがいもは今が旬で、ちょうど掘り取りが始まったところです。めずらしいものだけですが、蒸かしたじゃがいもをご用意しましたので、ご試食ください。

  • 埼玉の伝統野菜、「青なす」は、うちで種採りをして栽培しています。焼きなすにすると、とてもおいしいなすです。「サラダなす」という、生で食べられる水なすも栽培しています。ピーマン類は、普通のものに加え、黒、ピンク色などさまざま。ししとう類では、「万願寺」、「紫とうがらし」という奈良の在来種、「バナナピーマン」なども採れています。防虫ネットを利用して、葉ものも収穫しています。今は、カラシナ、ルッコラ、小松菜などが採れています。

【田下夫人のお話】

  • 八百屋さんやスーパーに直接卸すことも始めています。共同出荷しているYスーパーのばあい、今採れているものをパッキングして出すので、スタートしたての新規就農者でも手軽に出荷できて、ありがたいと思っています。問題は、たとえば夏場、きゅうりばかり採れるときは棚にきゅうりがたくさん並ぶし、ブロッコリーがたくさん採れるときはブロッコリー祭りになってしまいます。また、2日置くというルールで、それが過ぎると返品になります。まだまだ食べられるのですが、結局はゴミにするしかなくて、パッキングしたものをビニール袋から出して捨てることになります。その段階で引き受けてくれるところがあればいいのですが、ブロッコリーだけ1ケースもらっても困る、というのもわかりますし、そのあたりが難しい、と感じています。
田下さんの奥様
  • このあたりの仲間はビニールハウスなどをあまり使わないので、1〜3月は品薄で、棚が空いてしまいます。スーパーさんは別のところから仕入れたり、うちのような生産物があるところが品物を入れて棚を埋めるようにしていますが、有機栽培の場合、こうした点が課題だと思います。

  • レストランには、今採れたもので注文票を出します。多くのお店では足りないものは別の農家から仕入れるという形でひとつのメニューを作っていますが、うちの野菜だけを使い、「風の丘ファームのサラダ」としてやってくれているところもあります。味がいいのでお客さまが喜んでくださる、と言われるのが、作っている側としても嬉しいし、一番励みになっています。

【じゃがいもの試食など】

田下さんお手製の麦茶
じゃがいも各種の試食-1
じゃがいも各種の試食-2
じゃがいも各種の試食-3
じゃがいも各種の試食-4
じゃがいも各種の試食-5

【質疑応答】

田下さんに質問
風の丘ファームの野菜と加工品

    Q:有機栽培の場合、個々で仕入れると輸送コストがかかり高くなったりしませんか?
    A:それはあります。私たちがクール宅急便で送ると1000円かかります。今、農協さんがだいぶこちらを向いてくれるようになり、流通コストをおさえる動きが少しずつ始まろうとしているところです。深谷に全農のセンターがあり、毎日、昼頃に築地への便が出ています。それを利用して、この冬から生活クラブ生協ににんじんを出そう、という話があり、1箱200円でやってくれるかもしれません。小川町には若い農家がどんどん入ってきて、がんばってはいるのですが、なかなか出荷がうまくいかない、というケースもあるので、もっとそういうことができればありがたいです。

    Q:「青なす」は採種をなさっているそうですが、その他の野菜も自家採種ですか?
    A:私は、おいしいものを届けたい、という思いがあるので、おいしいもののタネは採りますし、F1でもおいしいものは積極的に使います。ルッコラは簡単にタネ採りができるのですべて自家採種です。風の丘ファームは、固定種の割合は少ないほうではないでしょうか。小川町のほかの農家で、固定種にこだわっているところもあります。

    Q:畑を有機農法に切り替えるとき、うまく行くようになるまで、どれくらいの期間がかかるのですか?
    A:畑を新しく借りるとなると、耕作しなくなって数年が経ち、雑草だらけになっているところが多く、雑草のタネがたくさん落ちているのが問題です。年に数回だけトラクターをかけていた、という畑では、機械が入らない下の土がかたくなっています。土が痩せているので、土作りもして、自分が思ったようなものができてくるのは3〜4年後でしょうか。

    Q:どのようなくくりで有機農家をやっていらっしゃるのですか?
    A:すべて無農薬、無化学肥料ですが、有機JASは取っていません。東京から近いので、来てくださったお客さまに畑を見てもらったり、じかに説明することができるからです。有機JASを取るにはお金もかかるし、品目数が多いと、書類を出すのが大変です。何か問題があったときのために、作業日報や、どういう肥料を使っているかなどはすべて記録し、栽培管理カードなどの提出ができるように対処はしています。隣町に食品残渣を使った堆肥工場があるので、その堆肥と、国産大豆のおからと籾殻で作るぼかしをメインの肥料として、栽培しています。日本の有機農家にとっては、有機JASがあるからといって、より売れるようになるわけではない、と思っています。

    Q:有機JASを取っていないということは、われわれは店舗で有機野菜として販売はできない、ということになります。お客さまに無農薬野菜としておすすめするときに、農薬などを使っていない、という作業工程表のようなものは出していただけるのでしょうか?
    A:はい。八百屋さんが口頭で説明する分には大丈夫なのですが、有機、オーガニックという表示はできません。「栽培期間中、農薬、化学肥料は不使用」というようなまどろっこしい表示になってしまいます。

    Q:無農薬といっても、隣の畑の農薬が飛んで来ているかもしれないし、なかなか自信を持って言えないのですが…?
    A:日本は狭いので、隣との関係は確かに難しい問題です。畑であれば少し距離を離すこともできますが、田んぼはすぐ隣に別の人の田んぼがあったりします。農薬を使う方も、飛散しないように気をつけているとは思いますが、回りとの関係で、まったくゼロと断言するのはむずかしいと思います。

    Q:同じタネで有機と慣行栽培をした場合、違いはあるのでしょうか?
    A:あります。私のところは堆肥、ぼかしを使い、化学肥料は使用していません。慣行とは窒素の濃度がかなり違います。窒素と糖は反比例することがわかっており、窒素濃度を上げると、その分野菜の糖は下がります。窒素は野菜の体を大きくするので、収穫量は上がりますが、甘みやコクのあるおいしい野菜はできません。窒素が多いと虫の被害が増えることもわかっています。有機質肥料でじっくり育てると、土の中にあるものをゆっくり拾い上げてくるのでうまみが出ます。私たちは、土の中に住むいろいろな微生物や生き物が食べられるような有機質を提供し、その生き物が増え、アミノ酸、ビタミンなどを作り、野菜がそれらをゆっくり吸い上げるのでおいしくなるのです。化学肥料にはいくつかのものしか入っていません。有機質肥料を使うと豊かな土になる、と言われるのですが、畑の土を見ただけではなかなかわかりませんよね。でも田んぼに水を入れると、一週間で水のなかは生きものだらけなります。慣行栽培の田ではおたまじゃくしがいるくらいです。田んぼに水を入れて一週間で土作りのすごさがわかります。

【圃場の見学】

オクラの圃場-1
オクラの圃場-2
オクラの圃場-3
とうがらしの圃場-1
とうがらしの圃場-2
とうがらしの圃場-3
とうがらしの圃場-4
とうがらしの圃場-5
とうがらしの圃場-6
とうがらしの圃場-7
とうがらしの圃場-8
とうがらしの圃場-9