■2010年2月21日 第11回 〜 講演「小松菜など“葉物”について」 杉本晃章氏
◇小松菜の名前の変遷
  • 「茎立菜」と書いて「くくたちな」。そのあと、「葛西菜」、「小松菜」。今の小松菜は、こういう経緯で名前が変わってきた。だいたい、今から400年ほど前のこと。

  • 5代綱吉とも8代吉宗ともいわれているが…。将軍が小松川方面へ行ったときに食べた菜っ葉がおいしかったので、小松菜と命名された、といわれている。
杉本晃章氏
  • 葛西菜という名前は、人気がなかった。その頃、いわゆる糞尿船を葛西船と呼んでいたため、イメージの悪い名前だった。それで、一気に小松菜という名前に変わった、という経過がある。

  • 今から約400年ぐらい前、江戸の昔から、小松菜は、東京の野菜、江戸の野菜として、みんなに親しまれてきた。
◇おいしい小松菜とは
  • ハウス栽培の小松菜は見た目がきれい。一方、露地ものはいかつい。一般消費者には、ハウスのほうが人気がある。冬場の寒い時期だと、ハウスの中でもかなり寒いので、糖度も上がっているとは思うが…。われわれのように、昔から八百屋をやっている人間は、やはり、露地の小松菜のほうがおいしいのではないかと思う。露地ものは、ちょっと、皮がはだける感じになる。寒さに当たって、糖分を出そうとするから。逆に、ハウスものは、そうならないので見た目がきれいになる。

  • 露地の小松菜は、葉っぱが厚い。露地と書いてあっても、葉がきれいで、完全露地ではないものもある。いくらか雨よけみたいなものがあって、葉先がやられないようになっている。

  • 消費者のみなさんは、どうしても、見た目がいいものを選びがち。栄養価は露地のほうが高いと思う。でも、今の世の中、おいしさと栄養価だけでは値段が決まらない、というのが現状。八百屋がしっかりとお客さんに説明していかないと、本当においしいものが、どんどん葬られていってしまう。

  • 在来種の小松菜は、横にひびが入るのが特徴。繊維が細いので、折れやすい。
◇大きすぎる束は消費者に受け入れられない
  • 小松菜の束は、普通、400g〜500gもある。多いものは600gぐらいあるものも。これでは、一般の消費者には、束が大きすぎる。2〜3人の家庭で消費しようと思ったら、2〜3回かかると聞いた。200gぐらいのサイズが、使い切りできて、一般受けがいい。

  • 今は、小松菜の食べ方も変わってきた。昔のように、ゆでてお浸しにして食べたり、味噌汁にバサッと入れたりしない。味噌汁には、青みとして入れるだけだから、小さな株が2つほどあれば間に合う、と。その程度の使われ方をしている。われわれ八百屋の感覚と、消費者のみなさんの感覚に、若干ズレが出てきている。

  • うちの店では、小松菜の大きな束もあって、理解してくれている人は買ってくれるが、「八百屋のでかい束、いいのは分かるけど、食べ切ったことないよ。いつも半分ダメになっちゃうよ」、という人もいる。

  • いい品物であれば、たとえば暮れに売ったとして、正月終わってももつ。ちゃんとビニール袋に入れて冷蔵庫で保存すれば、1週間〜10日はもつ。
◇中国野菜との交配種が増えている
  • 今はやりのちぢみ小松菜は、ほぼタアサイと同じ。いくらか茎が長いかな…、というぐらいの違いしかない。今、種苗の世界では、中国野菜との交配種が非常にはやっている。見た目をよくするために、中国種の種が小松菜に交配されている。

  • 今の小松菜を見ると、昔の小松菜とは全然違う。昔の小松菜は、今ほどスーッとして、太く、きれいではなかった。これだけ太くなって、伸びるのは、チンゲンサイが交配されているため。茎を見れば分かる。

  • チンゲンサイやタアサイが交配されている小松菜は、炒め物のほうが合っている。お雑煮に入れるとか、味噌汁、お浸しといった昔ながらの食べ方では、あまりおいしくなくなってしまった。食育教室でも、子どもたちに、茹でた小松菜ではなく、油揚げと炒めてしょうゆで味を付けたものを試食させている。茹でただけでは何の味もしないが、炒めると、色が鮮やかになって、シャキ感もすごくよくておいしい。これから、小松菜をお客さんにすすめるときは、「もし多かったり、残ったりしたら、炒めて食べてください」、というとよい。

  • 中国系の品種が交配されていると、非常に茎がきれいだが、チンゲンサイが淡泊なように、小松菜も淡泊な味になる。持ち味がない。ただ、逆にいえば、クセがない、ということ。そういう面では、今の消費者に受け入れられる味、ともいえる。
◇在来種の山形赤根ほうれん草
  • 山形の赤根ほうれん草は、いわゆる在来のほうれん草。在来種、固定種というように、全く交配がされていないもの。

  • 去年の八百屋塾で、食べくらべをしたときに、赤根ほうれん草の根っこをきんぴらにして食べた。そうしたら、ごぼうのきんぴらより甘くて、おいしかった。で、「根をもっと長く作ってくれ」、といったのだが、1株1株、掘るのがすごく大変らしい。だから、2cmで切ったものが出てくる。
◇栄養価のあるところが捨てられている
  • 食育教室でほうれん草の根のすぐ上の赤い部分を子どもたちに食べさせると、「甘い」という。で、たいがい、「初めて食べた」という。給食で、泥が入っていると問題になるから、その部分はバサッと全部切ってしまう、なんていうところもあるのだとか。

  • ブロッコリーも、2月のいちばんおいしい時期、茎が太いときに、「花蕾(からい)だけ持ってこい」、という人がいる。業者さんの中には、花蕾だけおさめている人もいるらしいが、非常にもったいない話。今のブロッコリーは、花蕾の部分だけだと、目方がすごく少ない。茎の部分が5割も6割もあるから、半分か、4割ぐらいになってしまう。値段も、もちろん、茎をとれば、ものすごく割高になる。

  • 栄養価のあるブロッコリーの茎を捨てているとか、ほうれん草の根っこを捨てているという方がたくさんいて、なかなか理解してもらえないが、八百屋のみなさんが、そういうことを伝えられるように、自分で実際に食べて、しっかり勉強して、教えてあげてほしい。
◇菜の花いろいろ
  • 菜の花は、関東では「ナバナ」だが、京都では「ハナナ」と呼ばれる。いわゆる、寒咲きのナバナ。
    ハナナは、昔はすごく高かった。非常にやわらかくて、おいしい。関東のものより、クセがない。

  • 関東の「ナバナ」は、昭和30年代の初めに、房州の花卉業者が、「東京の青果市場へ出してみよう」、といって出荷したのが始まり。当時、地元では食べられていた。今のような、見た目もよく、ゴミがあまり出ず、全部食べられるような形状にして出して、非常にメジャーになった。

  • 今年は菜の花がやや高い。2月末になると、おひなさま需要で、また上がる。必ず高くなる。それだけ、旬の食材という色合いが濃い野菜。

  • いい菜の花の見分け方だが、茎の太いものを選ぶとやわらかい。菜の花は、背が高くなると、茎が細くなり、筋っぽくなってしまう。花蕾も大きくなってくる。花蕾は品種によって、若干大きさが違うが…。3月中旬以降、花蕾が上がってくると、筋っぽくなると思ったほうがいい。ちょうど今頃が、菜の花も、ほかの葉物も、最も旬でおいしい時期。

  • いわゆる菜の花の東洋種(和種)が、ハナナやナバナ。西洋種は、栃木や群馬では「かき菜」。福岡では「おいしい菜」。さまざまな名前がある。

  • 4月に入り、新潟辺りの雪が消えかけてくる頃に出る「雪国とう菜」は、茎が太くて、寒い雪の中で育つから、非常においしい。見かけたら、ぜひ一度食べてみてほしい。時期が非常に短く、市場には10日ぐらいしか出回らない。

  • 「紅菜苔(コウサイタイ)」も菜の花の一種。戦前、昭和15年に日本に来たのだが、当時、日本人は、色の変わったものを嫌がった。だから、全然はやらなかったが、ここ10年ぐらい、また市場に出てきた。茹でると、グリーンに変わる。クセがなくて、甘みがあり、おいしい。うちの店ではよく売っている。
◇雪下にんじんについて
  • 葉物ではないが、雪下にんじんについて。もう秋田から出ている。なぜ“雪下”にんじんかというと、
    普通は11月に収穫するにんじんを、雪国の生産者さんがとり遅れて、雪の下に入ってしまった。それを、春になって、雪をかき分けてとり、食べてみたら、非常に甘い、熟したにんじんができた。

  • 雪下にんじんは、生育期間が非常に長いので、小さいものは少ない。小さくてもM。L、LLが多い。

  • にんじんは、雪下にしないで置いておくと、どんどん芯が大きくなっていく。ふつう、芯が大きくなると、半分に切ったとき、中のかたい部分ばかりが多くて、外皮のオレンジの部分が少なくなる。ところが、雪下で作ると、大きくなっても、中の黄色い部分まで、やわらかくて甘い。

  • 本来は、8月〜9月初旬に種をまいて、冬を越し、春3月に収穫する。今年の場合は、雪下にんじんを作っている地方が、非常に雪深くて、7〜8mある。なくても4〜5m。雪を移す作業が非常に大変で、まず、お彼岸あけには出ないだろう、といわれている。

  • 雪下にんじんは、農作業がしやすい、機械が入れやすい畑だけでしか、作ることができない。積もった雪をかき分けて掘るから、つらい作業。手袋をしてやっても、冷たくて大変。

  • 価格は普通のにんじんより多少高いが、今年は、雪下以外のにんじんも、値段が動いてきていて、来月に入ると、おそらく、あまり変わらないぐらいになるだろう。

  • 雪下にんじんは非常に糖度が高く、にんじんらしいにんじん。うちの店で、お客さんに雪下にんじんをすすめると、「あのにんじん、おいしかった!」、と必ずいってくれる。

  • 今は、子どもが、にんじん嫌い、ピーマン嫌いだというので、味が薄くなっている。向陽や黒田も、にんじんの匂いを薄くしてある。

  • 雪下にんじんは、同じ品種でも、作型によって、味が濃いおいしいにんじんができる、という例。品種だけでなく、作型によっても味が変わるということを、頭に入れておいてほしい。
■2010年2月21日 第11回
   〜 講演「サラダ小松菜について」 (株)ファーマーズマーケット 笠嶋香代氏
◇ファーマーズマーケットの設立
  • ファーマーズマーケットは、平成21年3月に設立された会社です。千葉県若葉区の下田に農場を作り、水耕栽培、ハウスでサラダ小松菜の栽培をしています。

  • 母体は、接骨院の経営及びリラクゼーション事業部、保険の請求代行を行っている会社です。

  • 障害者の雇用創出と遊休地の活用で、サラダ小松菜を作っていただいている。現在は、ジョブコーチやケアマネージャーがついて、毎日生産しています。
(株)ファーマーズマーケット 笠嶋香代氏
◇サラダ小松菜栽培のポイント
  • ハウスで水耕なのですが、ポイントのひとつは肥料です。化学肥料は一切使わず、植物性の13種類の酵素を、肥料として使っています。

  • 水耕で使っている水も、ただの水ではなく、いったん酸性とアルカリに分解します。農薬は、一切使っていません。じゃあ虫はどうするんだ?…という話になると思うのですが、それは、電気分解した水を酸性とアルカリに分け、その酸性水が殺菌消毒の役割をする。酸性の水を散布して、虫除けをしています。

  • 水耕の水は循環して、回っています。ナトリウム(塩分)を生成しない技術で作った電解水ですので、虫も発生せず、きれいな水が循環している。そこで、サラダ小松菜を育成しています。

  • なぜ露地栽培をしないのかというと、下田の農場にある弊社の畑は、もともと、千葉県の学校給食の残飯の廃棄場でした。その土地を再利用して、千葉県の農家のみなさん、それから当時の県知事と、一緒になってよくしていこう、という動きの中で、水耕栽培を行っていくことになりました。

  • 小松菜を包んでいるフィルムも特殊です。このまま冷蔵庫に入れていただいて、冬場は1週間、夏場は3日間もちます。

  • オーガテック肥料(酵素)を使っているので、ものすごく生命力が高い。健康な体作りを意識している方には、とてもいい商品だと思います。
◇メリットもあればデメリットも
  • サラダ小松菜は、約2〜3週間でできます。仕上げの時に酸性水を散布してあるので、そのまま召しあがっていただけます。安心・安全ですので、生の状態でおいしく食べられます。

  • 栄養価は、露地物には多少劣る部分があります。ただ、生で食べられるため、ビタミンCが熱で破壊されることがなく、そのまま摂取できます。

  • デメリットとしては、水耕ですから、味が薄め。メリットとしては、アクやえぐみがなく、シャキシャキ感が壊れない。

  • 発ガン性物質の亜硝酸根(あしょうさんこん)という成分が、通常の小松菜の1/10以下です。アレルギーをお持ちのアトピーの方や、皮膚が弱い方は、抗生物質を投与した動物、魚、野菜を食べるとアレルギーが出やすい体質に変わるので、そういった食を気にされている方々にとっては、このサラダ小松菜はすごくいい。
◇主に飲食店で使用されている
  • 現在、主に、食にこだわりをもつ飲食店で、使ってもらっている。

  • 先月、「食べる社会貢献推進委員会」が発足し、そのホームページに、サラダ小松菜を取り扱っていただいている飲食店、八百屋さんの情報を掲載しています。

  • 八百屋さんでは、まだ1店舗だけ。表参道にある八百屋さんで取り扱ってもらっている。発売から1週間は10パック以下しか売れなかったが、発売から3ヵ月目に入り、今は3倍に伸びていますし、リピート率が確実に高い商品になっています。手前味噌ですが、食を気にしている方々にとっては、食べやすいものなのでは、と思っています。

  • 飲食店では、シンプルにシャキシャキ感を楽しんでいただくために、オリーブオイルとブラックペッパー、岩塩でサラダ小松菜を和え、最後にパルミジャーノチーズをふりかけて出している。

  • 1袋、小売り(店頭価格)で298円。通常の野菜よりは高い。ただ、無農薬、オーガニックとうたっている小松菜よりは、1.5割ぐらい安い。障害者の方々の雇用の場を広めていく、という目的があるので、やや割高になっています。今後、もう少し流通が増えていけば、単価も下げていきたい。

  • 通年、同じ品種が、同じ金額で、同じ量、安定して生産できます。
 
 

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