■2009年12月20日 第9回 〜 講演「“サトイモ”について」
 千葉県農林総合研究センター 育種研究所 主席研究員 鈴木 健司氏
◇サトイモの原産地と日本への伝播
  • サトイモは、東インドからマレー半島、このあたりの熱帯アジアが原産地だといわれています。そのうちのひとつは、中国を経て、日本へ入ってきた。もうひとつ、「タロ」と呼ばれる大型のサトイモは、インドネシアなど、もっと南のほうに伝わり、いろいろな品種にわかれてから、また、各地に伝播していったと考えられています。

  • 日本への渡来は、米よりもっと古いといわれています。東南アジアに根菜文化というものがあったとされていますが、そうした文化の一部として、黒潮に乗って、日本にきたと考えられています。人の移住とともに、中国経由、台湾経由などで入ってきた。
千葉県農林総合研究センター 育種研究所
主席研究員 鈴木 健司氏
  • 子芋、孫芋を食べるタイプのサトイモというのは、温帯のほうで適応して、日本に入ってきた。「セレベス」などの「赤芽」、「筍芋(京芋)」などは、もっと南のほうからきたタイプだと考えられています。熱帯からきて、日本では、温帯の地域に適応して生育をしているわけです。
◇親芋・子芋・孫芋とは
  • サト“イモ”といいますが、私たちが食べている部分は、茎が膨らんだものです。ジャガイモも茎なので、ややサトイモに似ている。サツマイモは根っこです。

  • サトイモの種芋を畑に植えると、上に芽が出て、伸びていきます。その元に、小さな芋ができる。それが、どんどん大きくなって、親芋となります。その脇に小さな芽、いわゆるわき芽が出て、わき芽が育っていくと、その元に次の芋、一般に、子芋と称しているものができます。それが膨らんでくると、今度は、孫芋がつく…というようなかたちで成長します。

  • 子芋を食べるタイプのサトイモの場合、親芋は普通は食べません。お店に並んでいる芋の多くは、いわゆる孫芋だと思います。子芋も食べられますが、育っている時期が全然違うので、中の充実具合なども当然違います。一般的に、子芋より孫芋のほうが、やわらかくて、ねっとりしています。子芋は、中身にでんぷんが詰まっているので、ややかたいというか、ホクホクした感じになります。

◇“サトイモ”にもいろいろある

  • 一口に「サトイモ」といっても、結構、幅が広い。いろいろなタイプが「サトイモ」の中に含まれています。店では、千葉、埼玉、福井、愛媛…、各産地でたとえ品種が違っても、たいてい「サトイモ」として並んでいます。千葉では「ちば丸」、福井は「大野芋」、愛媛の女早生は「絹美人」などの名前でブランド化しようとしているのですが、まだほとんどの品種は、ただ「サイトモ」と表示されています。その他、早いものについては、「石川早生」とか「石川小芋」などの名前で売られています。「八つ頭」や、京都の「海老芋」、宮崎の「京芋」、千葉でも出している「セレベス」などは、商品名や品種名で売っている場合が多い。これらも、すべて、サトイモの仲間に入ります。いわゆる「サトイモ」として売られているのは、子芋、孫芋を食べるものが多いです。

  • 食べ方で分類する場合もあります。子芋、孫芋を食べるタイプは「子芋用品種」。宮崎の「筍芋」(商品名は「京芋」として売っているが、品種名は「筍芋」)などは、親芋だけを食べるタイプです。「八つ頭」、「セレベス」、「唐芋(とうのいも)」などは、親も子も食べる。あと、山形の「からとりいも」というのは、ずいきを干して食べる。そういったずいき用の品種もあります。

  • もともと、野性では、サトイモはランナー(細長い蔓のようなもの)なんです。それを栽培して、利用しやすいように、どんどん短くて丸いものにしている。海外では、ランナーを食べたり、花を食べたりするものもあるそうです。

  • サトイモの芽の色(頭の部分にある成長点の色)で、「白芽」、「赤芽」という分類をする場合もあります。

  • 生物学的には、染色体の数で分ける方法もあります。サトイモは、主に、3倍体です。バナナも3倍体。ヒトは2倍体で、お父さんとお母さんから半分ずつ…ということになるわけですが。サトイモについては、染色体のセットが3セットある。よって、種がうまくとれない。トマト、大根、にんじんなど、他の野菜に比べて、品種があまり育成されていないのは、種がとれないため、という事情もあります。

  • 「種がとれないのに、なぜこんなに種類があるの?」と聞かれることがあります。確かに、各県でいろいろな品種が栽培されています。千葉では「ちば丸」「善光寺」「大吉(セレベス)」、埼玉は「土垂」、新潟は「大和」、福井は「大野在来」、愛媛は「女早生」。それから、九州産の早生、南関東の「石川早生」など…。それは、昔、日本に中国などからサトイモが入ってきて、それを各地域で作っているうちに、その地域に適応して、いろいろな品種になっていった、ということ。もとは何種類もないようです。

  • 品種でグループ分けをすると、「土垂」、「蓮葉芋」など、15種類に分けられます。「土垂」の中には、「ちば丸」も「埼玉土垂」も新潟の「大和早生」も福井の「大野芋」も含まれます。「蓮葉芋」は、「女早生」のように、葉っぱが上を向いているタイプ。これらと、早生のタイプが、一般的に多い。その他に、親芋と子芋を食べる「八つ頭」や、親芋だけを食べる「筍芋」などのタイプがある。芋を食べないでずいきだけを食べる品種もありますが、植物学的には、全部同じ種になります。

◇「えぐ芋」

  • 市場でも、「えぐ芋」という名前ではなく、ただ、「サトイモ」として売られていると思うのですが、乾燥や寒さに強い、多収性の品種です。「関西土垂」、「紀州芋」、「花芋」とも呼ばれます。

  • 9月頃に、よく、「サトイモに花が咲いたのですが、めずらしいことでは?」と、問い合わせがくるのですが、この品種は、よく花が咲きます。暖かくて、ある程度株が大きくなれば、咲く。水芭蕉やカラーは同じサトイモ科ですから、似たような花。

  • 味としては、ややホクホクとした感じ。

◇「蓮葉芋」

  • 千葉には、「早生蓮葉」という品種があり、愛媛などには「女早生」があります。「蓮葉」という名前の由来は、葉っぱが、蓮のように上を向くことから。

  • 芋が大きめの品種。数は少ないのですが、芋が丸くて大きくなる。ただ、乾燥や高温に弱い。「芽なし芋」といって、頭のところに、本当は白い芽がなければいけないのですが、それがないという症状が出やすい。病気ではなく生理傷害で、石灰などが足りない場合に出ます。こういったものに弱い品種です。芽がないからといって、味が変わるわけではないのですが、市場出荷的には、規格落ちになってしまいます。

◇「石川早生」

  • 「石川早生」は、鹿児島、宮崎、熊本にもありますし、千葉県にもあります。早生栽培されており、非常に丸い品種。ちょっと芋が小さい。若いときに食べるとヌメヌメしますが、芋が充実してくると、ホクホクした味になります。

◇「黒軸」

  • 「黒軸」というのは、あまり、市場には出回っていないかもしれません。岩手県の「双子芋」、神奈川の「まるこ21」、過去に中国から導入された「烏はん(うーはん)」などがこのグループになります。

  • 葉っぱの軸の部分が、普通は緑なのですが、黒いために、「黒軸」と呼ばれます。この「黒軸」から「石川早生」ができたといわれているので、見た目が似ている。

  • 粉質で、ぬめりは少なめ。

◇「土垂」

  • 「サトイモ」として出荷されているのは、「土垂」がいちばん多い。名前の由来は、葉っぱが地面に向かって垂れ下がっていることからきています。

  • 福井の「大野芋」、「大野在来」、千葉の「ちば丸」、新潟の「大和早生」などが土垂系。これらは丸形。市場的には、できるだけ丸いほうが利用しやすいということで、各産地、丸形のものが選抜されています。ただ、「愛知早生」や、山形の「小姫」、宮城の「白石在来」、千葉の「善光寺」のように、えび形の長い品種もあります。

◇「唐芋(とうのいも)」

  • 「唐芋(とうのいも)」は、表面が縮れたような葉っぱが特徴。

  • 京料理によく使われる「海老芋」は、「唐芋」。栽培に手間をかけて、小芋が大きく海老のようになるように育てたものが「海老芋」になる。山形の「からとりいも」も同じグループになります。

◇「八つ頭」

  • 「八つ頭」というのは、名前の通り、頭(かしら)がたくさんあるように見えることから。これから、お正月にかけての商材です。本来は、親芋ひとつのものが、子芋が回りにくっついて、ひとつにかたまっている。孫芋は、普通のサトイモのように、その回りにつきます。千葉では、孫芋を、「八っ子(やつっこ)」として、市場出荷しています。

  • 「八つ頭」の葉は、「唐芋」に似た感じ。ただ、地上部が、「唐芋」はスッキリと1本なのに対し、「八つ頭」は何本も芽が出る。

  • 遺伝的には、「八つ頭」と「唐芋」は、非常に近い位置にあります。ですから、どちらも、普通のサトイモに比べると、ぬめりが少ない。どちらかというと、ホクホクとして、粉質で、きめ細かい感じの食味になります。

◇「赤芽」

  • 「赤芽」グループの代表的なものは、「セレベス」です。インドネシアのスラウェシ島からきたもので、「スラウェシ」が「セレベス」と読まれるようになった。実際は、「大吉」というのが品種名。これは、戦前、昭和になってから入ったもの。

  • もともと、日本には、いろいろな種類があった。ただ、あとから導入された「セレベス」が、芋が丸くておいしかったため、今では、ほとんど「セレベス」中心になっています。

  • 各地域に、昔からある在来の「赤芽」があるのですが、芋の形が長いとか…。ただ、在来にもいろいろなものがありますので、探せば、おいしいものがあるかもしれません。

  • 八丈島では、「赤芽」の品種を熱心に作っているようです。島の人に聞いたところでは、「赤芽が好きなので、全国各地からいろいろな赤芽を集めて、おいしいものを自分たちで選んだ」ということでした。

◇「筍芋」

  • 店には、「京芋」という名前で並んでいます。

  • 親芋が細長くなるタイプで、親芋だけが売られています。子芋や孫芋は、細長かったり小さかったりするので、食べられますが、市場性はありません。

◇「びんろうしん」

  • 日本ではあまり作られていませんが、「びんろうしん」という変わったタイプのサトイモもあります。「びんろうしん」というのは、「椰子」のこと。椰子に似ていることから、この名前があります。切ると、断面の繊維のところに色が着いているのが特徴です。普通は、切って赤いと傷んでいるというのが一般的なサトイモの判断基準なのですが…。「びんろうしん」は、赤い色が入っている種類。子芋や孫芋はあまり大きくならないので、親を中心に食べる種類です。台湾や中国、香港などでは、お菓子やおまんじゅうに練り込んで使っている、と聞いています。

◇「田芋」

  • ほかに、沖縄には、「田芋」という田んぼで作る種類があります。これは、今まで説明したものとはまた違うグループのサトイモです。

◇サトイモの消費動向

  • 国内のサトイモ生産を見てみると、60年頃には面積で30,000ha以上あったのが、今は14,000haと、非常に減ってきています。出荷量もかなり減ってきている。去年のデータはちょっと出荷量が上がっているのですが、面積は減っているので、天候とか、作柄とか、そうした影響ではないかと思います。面積的には、20年前の半分以下になってしまっている。

  • 主要産県としては、千葉県が全国1位です。ただし、面積は、10年前は3,000haあったのが、今は1,890ha。千葉に次いで多いのは、宮崎、鹿児島、埼玉。

  • 市場的には、東京の中央市場を見ると、19年までは千葉が1位だったのですが、現在は埼玉が1位。20年のデータを見ると、埼玉と千葉で65%を占めています。次いで、宮崎、栃木、鹿児島。

  • 中国からのサトイモの輸入は、平成20年が9%です。一時期は20%近くあったと思いますが、偽装問題や冷凍ギョーザ問題で輸入が減ってきています。青果物自体、平成の前半から15〜16年までは、年間30,000〜35,000tぐらい輸入されていたのですが、去年は5,000tでしたので、かなり減っています。

  • 輸入が減った分、国産品ががんばれる時期やタイミングだとは思うのですが、残念ながら、輸入品の量が減ったからといって、その分、需要が足りなくなっているという感じではない。国内が豊作になれば値段は下がってしまう。去年はちょっと値段がよかったのですが、今年は下がり気味。普段、生活している中で感じるのは、サトイモがなくても済むような部分があるのかなぁ…、ということ。もっと食べてもらえるような場面を作っていかないと…、と感じています。

  • サトイモは、生産量も減っていますが、消費量も結構減ってしまっています。20年ですと、1人当たりの消費量が800gちょっと。今は、もっと減ってしまっていると思います。このあたりを何とかしなければいけないな…、と思っているところです。

  • 年末の東京市場の月別出荷量を見てみると、埼玉中心で、あと、千葉県。年明けになると、どちらかというと、埼玉より千葉が多めに入ってきます。どちらにしても、10月頃から3〜4月までは、千葉・埼玉が中心です。

  • 早生ものは、鹿児島の島部、離島のほうでとれるものから始まります。鹿児島の「石川早生」が5〜6月、その後、宮崎の「石川早生」が7〜8月、千葉県の「石川早生」が8〜9月、というのが中心になります。千葉は、8〜9月、トンネル栽培とマルチ栽培で「石川早生」を作って出荷している。9〜10月は、千葉のものが非常に多い。

◇おいしいサトイモとは?

  • おいしいサトイモというのは、品種本来の形で、縞目がはっきりしていて、腐ったり、色が変わったりしていないもの。

  • 子芋が親芋のように非常に大きくなってしまっている場合があります。そうなると、下のほうは筋っぽくなってしまっているので、おいしくない。

  • 普通の芋の形ではなく、やや細長くて四角いロウソクタイプになってしまうことがあります。これは、作り方の問題。畑にちゃんと土がかかっていなくて、日光に当たってしまうと、ちょっと扁平な四角で、上のほうがくぼんだような形になってしまう。色が緑がかって、さわったときにやや軽い感じがするものは、充実していないので、味としてはあまりよくないです。

  • くびれがあったり、表面に傷があったりするのは、生育途中で何かトラブルがあった、ということ。乾燥してしまって、ある時期、育たなかった、とか…。そうなると、上と下で味が全く変わってしまいます。そのようなサトイモが出荷されることは、まずないとは思いますが…。

  • 生育的には、温度が高い方がいい。水と温度があれば育つ作物です。寒さには弱い。霜があると割れてしまう。貯蔵の最低温度は6度以上です。流通上は、あまり低温になってしまうと、傷むことがある。水けを好むとはいっても、かき傷がある商品なので、そこが腐ってしまってはいけない。できれば、あまり、濡れないで、適度な湿気があるぐらいのほうが、貯蔵性はいいと思います。

◇千葉県でのサトイモ栽培の概要

  • 千葉県では、北総台地と呼ばれる火山灰土の畑で、サトイモが作られています。品種的には、「土垂」、「石川早生」、「セレベス」、「八つ頭」。今は、「ちば丸」を増やしている、という状況です。

  • 千葉での栽培の様子をごく簡単にご紹介すると、露地の場合、畑に堆肥を入れて耕耘します。その後、機械で溝をきりまして、そこに、芋を1個1個植えていきます。生育を促進するために、マルチをする場合もあります。その場合、トラクターでマルチをはって…。穴は開いている場合と、後から開ける場合がありますが、その穴の部分に、サトイモの種芋を中に押し込んで、土をかける。植え付け本数としては、早生の多いもので4000株くらい。普通は、1500〜2000株くらい。

  • 生育していくと、芽が出て、葉っぱが展開してきます。大きくなると、マルチはとってしまいます。芋は、土のかかった暗いところでないと、肥大しません。また、土をかける量が少ないと変な形になるので、途中で、土をかける作業をします。そのときに、肥料もあわせてやります。管理機で土を飛ばし、山になるように株元に土をかけて、その中で芋を肥大させる、というような管理になります。

  • サトイモは水をすごくほしがる作物なので、かん水も大事。夏場は、畑地灌漑施設を使ってかん水しています。

  • 地上部は、9月上旬ぐらいに最大になります。人の頭が出るか出ないかぐらいの大きさになる。品種にもよりますが、秋になってくると、それがだんだん枯れてきます。芋が充実して、葉っぱの数が少なくなって、枯れてくる。霜が降りると、最後は完全に枯れます。この時期に出荷されているものについては、ほとんど、地上部がなくなった段階で、収穫をしています。残っている場合は、鎌で刈り取りますが、完全に枯れてしまえば、そういうことはしないで、掘り取りをします。

  • 掘り取りは、ポテトディガー(ジャガイモ掘り取り機)を使っています。ぐるぐる回る格子状のものがついていて、サトイモを掘り上げていくと、細かい砂は落ちるけれど、サトイモの株は上に残るわけです。これを掘り上げて、運んでいきます。

  • 運んだあと、今の時期のものは、すぐに、芋を1個ずつバラして出荷する。年明け、1月〜4月出荷のものについては、寒さに弱いので、貯蔵します。サトイモの場合は、まだ、地下貯蔵がほとんどです。畑に深さ50cm、幅60〜70cmぐらいの穴を掘って、この中に、サトイモを株ごと入れて、ワラなどで保温して、土をかける。出荷するときに、この穴を開けて、掘り出すわけです。

  • 収穫したものは、バラバラにして、等級を分けます。この後、泥を落とす機械にかけて、ブラシで回りのけばを取り、電気カミソリのような構造の刃で根っこを落とします。きれいになったものを、形状選別機にかけて、S、2L、3L…などに選別します。

  • サトイモは、比較的、病気や害虫は少ないほうです。ほかの野菜に比べると、ほとんど農薬は使わない。ただ、問題になるのは、葉っぱを食べる芋虫のたぐい。本当にひどく出てしまうと、地上部がなくなってしまうので、そういうときは、早めに防除しないといけない。また、コガネムシの幼虫のように、芋そのものを食害するものもいる。これについては、出荷品が傷ついてしまうので、防除をして、被害を受けないようにしなければいけない。

  • 出荷品の障害としては、「芽なし」というのがある。また、「石川早生」には、「水晶症」というのがあります。ヨウ素でんぷん反応をさせると、普通の芋、つまり、でんぷんのあるところは紫色に染まるのですが、でんぷんのないところは染まりません。「石川早生」の、特に子芋で、孫芋が肥大するときに、でんぷんが取られてしまうことがある。そうすると、でんぷんを取られた下のほうは、ガリガリした食感になり、品質が落ちます。千葉では、「石川早生」をたくさん出荷していますが、8月などの早い時期は、子芋が肥大した段階で、孫がつく前に売ってしまうんです。そうすれば、水晶芋はほとんどない。9月になると、今度は、孫が大きくなってきます。そのときは、孫だけを出荷するようにしています。この段階で子芋を出荷してしまうと、水晶症が多くなってしまう。本当にひどいものは、かき傷のところを見ると白く、透明な感じになっています。栽培環境的にも、出やすい条件と出にくい条件というのがあるのですが…。「石川早生」特有のこういう症状があるので、産地では、それが入らないように注意しています。

◇サトイモの育種

  • サトイモは種とりができないので、なかなか品種ができない。ただ、各地域に在来の品種がたくさんあります。ここ最近になって、いろいろな品種が出てきています。「ちば丸」を含めて、2007年に2品種登録されていますし、出願公表中で、もうじき登録されるような状況のものもあります。

  • 作り方としては、主に、突然変異です。変わり種を作って、その中からいいものを作る。交配ができるのであれば、たとえば、大きくなるものと、味のいいものを掛け合わせて、大きくて味のいいもの、というのが作れるのですが…。突然変異というのは、どういう株が出るか分からない。いいもの、悪いものがいろいろ出た中から、自分が求める、おいしいものとか、丸いものとか…、そういうものを探していく、という作業になります。

  • 愛媛で最近作られた「媛かぐや」は、種から作ったもの。たまたま、元になっているのが、2倍体同士。「筍芋(京芋)」と「唐芋(海老芋)」を掛け合わせてできたもの。うまく花を咲かせて、種を取って、できている。芋のかたちは「筍芋」のよう。ずいきは赤くて、食べられると聞いています。

  • 佐賀の「福頭」は、元は「八つ頭」。化学物質で変異させて、「唐芋」のように、真ん中の親芋だけ食べられるようにしたもの。

  • 「京都えびいも1号」は、従来のものよりもたくさんとれて、肥大がいい。畑の中で、いいものがあったので、それを選んでいった、というタイプです。

  • 「沖田香」は、沖縄の「田芋」です。芋の肥大がよくて、味もいい。

  • 突然変異にも、いろいろと方法があります。たとえば、組織培養。培養して小さなサトイモを作り、そこに、たとえば、放射線とか、化学物質とか、変わり種を作るようなものを当てます。何回も当てるのではなく、1回だけ。それを普通に畑で育てると、いろいろなものが出ます。その中から、いいものを作っていく。芋の場合、1回作ったら、それでできあがり、とはなりません。いいものができたとしても、それは、たまたま、作り方がよかったから…、というケースもある。また、芋そのものも、種ができないので、自分たちで変わろうとする特性がある。よって、何回か作って、安定させてやらないと、品種という形にはなりません。

  • サトイモに限らず、他の芋類もそうだと思うのですが、いいものがあっても、ただ作っていると、悪くなってしまう可能性があります。ですから、産地では、いいものがあったら、できるだけ、その品質を維持する、という努力をしています。

◇「ちば丸」の特徴

  • 「ちば丸」の形の特徴は、大きくて、丸いこと。他県のものにも非常に丸いものがあるので、「ちば丸」だけ特別に丸いというわけではないのですが、千葉の畑は肥沃なので、栄養生長が激しく、どうしても、芋が長くなりやすかった。だから、千葉としては、充分に丸い品種。

  • 「ちば丸」は、「土垂」に、レントゲンなどに使うエックス線を1回当てて、突然変異でできたもの。 芋は、普通、長くなることが多く、丸くなってくれるのは少ない。まれに丸くなってくれるものがあり、 その中から、いいものを選んでいった。

  • 今年、すでに、市場に出荷しています。約90ha栽培しており、1,000tぐらいの出荷見込み。時期としては、11月〜4月にかけて出荷する品種。来年には、倍以上の200haに増やしていきたい、と考えています。

  • 味としては、好みがいろいろあるとは思いますが、従来の「土垂」は、粘りが強くて味が濃く、肉質がしっかりしている。それに比べると、「ちば丸」は、なめらかで、粘りはちょっと落ちます。肉質はやわらかい。色も白い。「ちば丸」を食べて、「サトイモは、もっとしっかりした味じゃないと…」という方もいらっしゃいます。ただ、千葉で栄養について勉強している学生たちにアンケートをとったところ、8割ぐらいの生徒が「ちば丸のほうがいい」、と回答してくれました。若い人は、やわらかくてさっぱりしているほうが食べやすいのかな、という印象を受けています。

  • 「ちば丸」は、皮むきをしやすい、というのも特徴です。丸いからむきやすい、というのも当然あるのですが、ぬめりが少ない。「芋が滑ることがないので、むきやすい」と、主婦の方から感想をいただいています。

  • ぬめりが少ないから、というのもあって、吹きこぼれもしにくい。「土垂」と「ちば丸」を同じようにゆでてみると、「土垂」のほうは、「あっ、きた!」と思ったら、すぐにジャーッとこぼれてしまうのですが、「ちば丸」のほうは、泡が上がってきたと思っても、止まってくれます。鍋のフチでプツプツと泡が消えてくれる。吹きこぼれしにくいので、使いやすいのでは…、と思っています。といっても、火を強くしすぎたら当然吹きこぼれますし、たくさん入れすぎた場合も吹きこぼれます。ただ、従来のものよりは、吹きこぼれにくくなっています。

  • サトイモには、煮っころがし、煮物、きぬかつぎといった料理の仕方があると思うのですが…。なかなか消費が伸びない中で、「ちば丸」は、味がさっぱりしており、クセがないので、いろいろな料理に染まりやすい素材です。コロッケ、ガレット、カレーなどにも使えるのではないか。今、学校給食会で、ハンバーグにするといったようなことも考えています。レシピを作って、提案させていただいているところです。

  • 消費を伸ばすためには、ただ、形のいいものを作って…、というだけではダメだろう、と。できるだけ、レシピをつけたりして、いろいろな方に食べ方提案もしていかないといけないな、と思っています。

  • ある農協の方によると、今、サトイモを消費されている方は、50〜60代の女性中心だそうです。30代、40代は消費が少ない。実際、サトイモの皮をむいて料理をするなんて、なかなかしませんよね。そうなると、子どもたちもサトイモの味が分からないわけです。ですから、ターゲットとしては、たとえば、おばあちゃんにサトイモを料理してもらって、孫に食べてもらう…、というような戦略をたてたほうがいい、と言っている人もいました。小さな子にサトイモの味を覚えてもらって、消費を拡大していかないといけないのかな、と考えています。

 

【八百屋塾2009 第9回】 講演「サトイモ」|勉強品目「サトイモ」「レンコン」「みかん」|商品情報食べくらべ