■2009年5月17日 第2回 〜 講演「きゅうり栽培の変遷と今後の方向」 稲山光男氏
◇きゅうりの原産地はインド、ヒマラヤ山麓
  • きゅうりは、原産地がインドのヒマラヤ山麓のあたりで、標高1300〜1700メートルのところだといわれています。山間(やまあい)で生まれ育った。「三つ子の魂百まで」ということわざがある通り、生まれ育ったところのものはなかなか抜けません。環境で変化はしますが、根本的には抜けない。よって、きゅうりは、山間で霧が舞うような場所では非常に育ちやすく、また、そういうところで育ったものがおいしいといえると思う。

  • そこから中国に伝わり、もうひとつ別のルートでヨーロッパに伝わった。日本の場合は、中国を経て入ってきた。
日本農園芸資材研究会 稲山光男氏
  • 漢字では、一般的には「胡瓜」と書くが、中国では「黄瓜」と書く。胡瓜でも伝わるのですが、「胡」というのは中国の西方を指す。中国では4000年の歴史の中で、紛争が絶えなかったわけです。定かではないですが、西の方の国に負けたという歴史があるらしい。だから、「胡瓜」を嫌って、「黄色い瓜」、という説があります。また、熟してくると黄色くなるから、という説もあるようです。

  • 原産地からヨーロッパに伝わったきゅうりには、いぼの小さいツルツルしたものがあり、中国には「四葉(スーヨー)」といういぼいぼのきゅうりがある。

  • 「白いぼきゅうり」というのは、シルクロードを経て、中国の東北地方(かつての満州)の方から、日本に入ってきた。中国の北の方のルートです。一方、「黒いぼきゅうり」は、中国の南、東南アジアから南側を通って、九州に入ってきた。こういったことを覚える必要は特にありませんが、八百屋さんというのは対面販売ですから、話題が多い方がいい。嘘を言ってはいけませんが、話題が多いというのはいいことだと思います。
◇江戸時代には見向きもされなかったきゅうり
  • 今、きゅうりは年間55万トンくらい流通していると思うが、昔のきゅうりは、非常に苦かったので、江戸時代には見向きもされなかった。メロンも今は甘いが、昔は猛烈に苦いものだった。

  • 歴史的に見ると、マクワウリ、シロウリのほうが、きゅうりよりも先に中国から日本に入っており、熟ウリとして発達した。だから、ウリといえば、マクワウリをさしていた時代があった。

  • きゅうりは苦いから、「あんなもの食べられない」といわれていたが、マクワウリよりきゅうりのほうが低温に強い。早出しをするなら、きゅうりの方が作りやすい。マクワウリよりも早くできる点が評価された。

  • 江戸時代、マクワウリの方が先行していたわけだが、きゅうりは早くからとれるということで奨励され、栽培されるようになって、今、市場流通の中で、ここまでの地位を築き上げるようになった。もちろん、品種も改良されて苦みのあるきゅうりではなくなった。
◇「ごはんに漬物」という日本の食文化にマッチ
  • 日本の食文化の基本は、「ごはん」です。それで、「漬物」が発達した。冬は、大根、白菜。夏は、きゅうり、ナスが基本。きゅうりは栄養がないなどといわれながらも、これだけ需要があるのは、長い歴史の中で、それが食文化に合ったからだと思う。ごはんにきゅうりの漬物、これが非常に合う。きゅうりは漬物の素材として非常に重要、というのがあるんだろうと思います。
◇きゅうりの消費量
  • 1960年(昭和35年)から2008年(平成20年)までの「果菜類の年間購入量」をみると、きゅうりの年間購入量がいちばん多いのは、1975年(昭和50年)。一人当たり、年間5.4kg食べています。これを100として比較すると、今は半分くらいの消費量になってしまっている。

  • 今、何かともてはやされているトマトは、ほぼ横ばいですが、少しは減っている。いろいろ言われているほど増えてはいないと思います。

  • たとえば、タマネギ、レタス、ブロッコリー、アスパラなどの年間購入量をみると、栄養価や機能性で今話題にされているようなものは、いくぶん増えている。昔からある大根などは非常に根強くて、減ってはいるのですが、それでも結構な量が消費されている。いかに現代人が、周囲の話題性に振り回されて動くかがよく分かる。今、旬の野菜というので、テレビか何かでらっきょうの話が出ると、わーっと飛びついて、次の日にスーパーに行っても、売り場はカラになっている。そんな現象が多すぎる。ちょっと話がそれましたが、消費量から見ると、機能性だとか栄養価だとか、話題性のある野菜の減り方が少ない、といえる。

  • きゅうりは、1975年(昭和50年)に比べると、半分くらいの消費量。漬物を漬けなくなった、などの理由もあるのでしょうが……。たまたま、今日、浅草の三社祭りの日ですが、ああいうところで、きゅうりの浅漬けを割り箸に刺したやつを100円くらいで売っているんですよ。それを、けっこう子どもがかじっている。私ではさまにならないでしょうが、夏に、若い女性がきゅうりの浅漬けを食べながら歩くとかね。銀座でアイスクリームを食べながら歩いている人もいるわけですから。そういうことができないかとひそかに思っている。あれば意外と食べるのではないかと思う。でも、なかなか、そういった仕掛けがなされていない。

  • きゅうりの消費量が減っているといわれていますが、2008年(平成20年)の購入量をトマトと比較すると、トマトは3.7kg、きゅうりは2.7kgです。目方ではトマトのほうが多いですが、トマトを1個200gだとすると、18個ぐらい。きゅうりは100gですから、27本食べているわけです。八百屋さんでも、目方ではなく個数売りですよね。日本の販売形態の最も違うところは、トマト2個パックいくら、きゅうり3本いくら……というように、個数売りだということです。そういうことからいくと、きゅうりは、減った減ったといわれながらも、年間でいえば、27本食べられている。それに対して、トマトはたかだか20個。こういうこともいえるわけです。
◇きゅうりの作型
  • きゅうりの作型は、「促成栽培(T)」、「促成栽培(U)」、「半促成栽培(加温)」、「半促成栽培(無加温)」、「早熟トンネル栽培」、「抑制栽培」、「抑制栽培(加温)」、「越冬栽培」、これだけあるんです。施設栽培の作型で、これは関東編。関東だけのものです。さらに、露地野菜がある。この8作型と、露地の2作型で、計10作型。これで周年生産ができる、ということになる。

  • いわゆるビニールハウスなどで施設栽培している作型を分類すると、「早熟トンネル栽培」までが、春の作型。「抑制」、「越冬」というのが秋の作型。「越冬栽培」というのは、関東独特のもの。これは、九州の方に行くと、「促成」になる。9〜10月に播くのは、向こうでは、「促成栽培」という。作型呼称というのは、地域によって若干異なる。

  • その昔、私が最初に「白いぼきゅうり」を手掛けたころは、「促成栽培」は12月にまいて、正月三が日が終わって定植するのがいちばん早かった。それより早くはまけなかった。ですが、今は、どんどん早くなって……。さらに、1週間ずれるとか、ちょっと早いとか、遅いとかが出てくるんです。ですから、資料の分類も、おおざっぱなくくりで、このごろは、頻繁に変わっている。

  • このように作型がいろいろあるので、みなさんの手もとには、一年中どこからかきゅうりが入ってくる。昔は、冬の間は、高知や宮崎から東京市場へ入ってきて、次が近在もの……と移り変わったものですが。今はどこでも、一年中作っている。

  • かつて、高知では1200haぐらいの面積できゅうりを栽培していましたが、今は見る影もないくらい小さくなってしまった。宮崎あたりもだいぶ減っている。これからの時期は福島ですが、福島も、やはり1200haぐらいあったのが、だいぶ減っている。ただ、あちこちにいろいろな作型があるので、一年中供給はできる。
◇作付け面積と生産量の推移
  • 「きゅうりの年次別作付け面積と生産量」を見ると、面積が激減している。1963年(昭和38年)頃は、38,000 haぐらいあったと思うのですが……。1965年(昭和40年)には、34,500haです。この時代から比べると、今、もう60%以上減ってしまっている、ということになる。

  • ところが、生産量を見ると、2割ぐらいしか減っていない。栽培している産地は減っているのですが、みなさんが扱う量としては、支障がない程度の減り方。むしろ、多すぎてしまうから、値段が出ないのかもしれません。それでも、これだけ減ってくると、トマトに比べれば、最近は、きゅうりの値段の方がまだかたいところがあります。

  • 1965年(昭和40年)というのは、ちょうど、ビニールハウスが建ち始めた頃。この頃から、生産量が急に伸びた。ひとつには、私などが、「黒いぼよりも白いぼの方がおいしいよ」と、ハウスの中で、白いぼきゅうりを作らせた、というのがあります。もうひとつは、ビニールハウスでのきゅうり栽培というのは、それまで、技術的にまったくなかったので、品種はどういうのがいいのか、いつまいたらいつ頃とれるのか、それから、夜と昼の温度管理はどうすべきか……。いろいろな研究をやってきた。
    それで、当時は、5〜6トンだったものが、8〜10トンになり、今は20トンというところまでいっている。オランダに行けば何十トンとれる、という話もあるのですが、それは別として……。単位面積あたりの収量が非常に増えて、昔の収量からみると2〜3倍になってきている。

  • 施設栽培での技術確立がなされると、面積は減っているのに、生産量は100万トンを超えた。ただ、その後は、面積の減りのほうが大きかったため、なかなか食い止めることができず……。それでも、今、こういう状態にある。みなさんは、入手するのにあまり不自由しない。また、作型が非常にたくさんあり、いろんなところから年中出てくるので、そういう意味では、荷の引き合いの不具合というか、苦労は少なくなっているのかもしれません。かつては、そこの産地のものしかありませんでしたから、大変だった。
◇きゅうりの品種
  • かつて、早出しが出た頃、東京の砂村や京都の聖護院、そういう都(みやこ)の近くに産地が形成された。

  • きゅうりは、たとえば、相模、高井戸、淀、針ヶ谷、日向、金沢、聖護院……。代表的な品種名に、地名が出てくる。昔は、その産地の中でいい品種があると、産地の名前をつけて販売していた。銘柄的にもそうだし、品種にもそういうものがあった。

  • 昔は、「いぼなし何号」とか、「試交何号」とか、「なんとかみどり」とか……。タネ屋さん独特のつけ方があって、品種を見ると、「ああ、これはあのタネ屋さんのだな」と、だいたい推測できた。最近は、やたらとカタカナの品種名がつけられる傾向があり、私も全然わかりません。

  • 昔は、産地の中でタネを取っていましたから、毎年、いい親を選抜してタネを取って、その産地で使っていた。そこから、今度は、種をもらってきて、自分の地域なりのものにしたり……。そういうことがだんだん増えてきた。昭和30〜40年代に入ってから、きちんとした系統のいい親を見つけ出して、それを掛け合わせることによって、揃いがいいものを作ろう、と。そこから出てきたのが、資料3ページのいちばん右側にあるような品種になるわけです。
◇埼玉県におけるきゅうりの主な作型と品種の変遷
  • 昭和30年頃から、ビニールが普及し、トンネル栽培であるとか、ハウス栽培が発達した。 この頃は、「青節成」、「埼落」といった品種が作られており、昭和30年代の終わり頃、「早春」、「若水」、「試交9号」、「松のみどり」、「久留米H」などが作られている。最後の最後に残ったのが、「久留米H」という品種ですが、黒いぼです。

  • 昭和40年代に入って、「夏埼落3号」というのが出てきた。これが、いわゆるハウスで白いぼになった品種です。これは、黒いぼの品種と白いぼの品種を掛け合わせた中の、いぼの白いもの。白いぼが劣性なので、なかなか出にくいのですが、たまたま、白いぼ、というものです。だから、顔だけが白いぼなんです。

  • 昭和40年頃は、世の中に、品種として普及をみなかったけれども、発表はされたというのがある。そういう品種がきっかけとなり、白いぼきゅうり、ということになった。 その当時、露地では、「ときわ」、「近成ときわ」、「新光A号」などが作られていた。

  • 昭和48年にオイルショックがあり、この頃に、「光促成」、「光A号」、「王金促成」が作られている。その前に、サカタ種苗の「さつきみどり」というのがあった。これは、千葉県の千倉でハウス栽培していたのですが、非常に早くからハウス栽培された品種で、おいしいきゅうり。今でも、直売ではこの品種が売れている。40年に出てきた品種ですが、今でも根強い。ちょっと長くて、とっくり首になりやすいのですが、非常においしい。それこそ、サカタの「フリーダム」以上においしい。この時代までは、江澤さんのいう「おいしさ」があった。「さつきみどり」にしても、「ときわ夏節」にしても、おいしいものを親にした系統が、ずーっときていた。品種改良をしている人や、八百屋さん、市場の競り人などが、みんな、自分で食べて、自分なりのおいしさというものを持っていた。だから、これを作れ、あれを作れ、あれのほうがいい、という話があった。今、そういうことをいえる人がいない。つぶして、数値がいくつだから、これがおいしいはずだ、というのが、今の世の中。説得力はあるが、おいしさというのは、そういうものなのかな……、と思います。

  • 「筑波白いぼ」は、いい品種だった。20センチぐらいと、やや短かったけれど、曲がらなくて、たくさんとれて、樹が強くて。私は、農家の人に、「これを作れば絶対儲かる。作れ、作れ」といった。とにかく、曲がりきゅうりが出ないんですから。今の「フリーダム」みたいなものかな。あれよりもうちょっと短くて、非常に肩のハリがよく、尻の収まりがいい。当時でも、ちょっと色が鈍いところはありましたが、揃うんです。箱詰めしたら、きれいに揃う品種。ところが……(笑)。自分の親父に、漬物にして出したことがあったのですが、「おい、オマエ、なんか味の違うおかしいきゅうりがある」というんです。親父は研究者ではありませんからそんなに詳しいわけでもないのに、漬物は好きだったから、食べるとわかるんですね。私は試験場にいた当時、とにかく、いかに産地を豊かにするかが仕事でした。産地としてはいい品種だったので、ある産地に3年ほど作らせましたが……。食味という点からいくと、クセがあった。

  • 昭和43年、「ハウスキング」というのも、非常に顔のいい、スタイルのいいきゅうりでした。樹の姿もいいし、実も非常にいい。でも、普及はしませんでした。 また、その頃、「女神2号」(昭和53年)というものが出てきた。これが出た頃に、江澤さんが、「きゅうり屋、オマエ、まずくなったんじゃないか?」と、私のところに来た。 ほかの野菜もそうなのですが、野菜の味が少しおかしくなったのは、オイルショックのあと。第2次オイルショックというのが、50年代に入ってから55年くらいまでありましたが、その頃からですね。スーパーや量販店が、急速な勢いで街に進展し、八百屋が街から姿を消されていったとき。画一的な品物、規格と数の流通になったでしょう? 私なんかは産地側にいて、産地が元気にならないと困るから、大規模な出荷組織であるとか、品種の統一とか……。でも、品種を統一すると、10人が10人、なるべく作りやすいものでなければいけない、となるわけですから、だんだん偏ってくる。だから、トマトをみたら「桃太郎」、きゅうりをみたら「シャープ1」になってしまうんです。やっと今、少しばらけてきましたけれど、試験場の人間でも、市場も、八百屋さんも、だれもばらせる人がいない。そういう時代になってしまったんですね。それで、今、大変になってきている。これからどうなるかわかりませんが……。

  • 昭和50年代に入ってから、「ひじり」という品種が出た。これは、久留米原種育成会というところのもので、非常に顔のいいきゅうり。色が黒いというか、グリーンが強くて、肩が張っていて尻部の整いが良くて……。市場がきゅうりの産地に対して言ったのは、「グリーンが強いこと」。それから、「テリがあること」、「いぼが大きいこと」。昔、そういうものを市場が産地に求めてきたんです。だから、産地は、そういうものを作ろうと努力した。ところが、「ひじり」が典型的ですが、こういうものは、冬から夏へ気候変化して暑くなってきても、まったく顔色を変えない。普通のきゅうり、たとえば、昔の「近成ときわ」や「ときわひかり」だとかは、暑くなると汗をかいて白くなり(ブルーム)、黄色い斑点が入って、果色がボケてくる。今の品種は色ボケしてこない。暑くなっても、寒いときのまま、顔色を変えないんです。まして、ブルームレス台木にしたら、絶対に変えないですから、みなさんをごまかすのも簡単ですよ(笑)。

  • かつて、スーパーから買ったきゅうりを割ってみたら、中が凍ったみたいになっているということがあった。産地では、そんなきゅうりは出荷しません。どこかで荷がとまっている。あるいは、ロットを間違えたとか、出す順番を間違えたとか……。 1月下旬になるとよく出た。 それは、12月20日を過ぎると、神田市場で、きゅうりが5kg3000円になったから。だから、12月に入ると、3000円を目指してストックし始めるんです。仲卸もやる。保冷庫のようなちゃんとしたものもなかったので、それが正月あけてから出てくると、「中がおかしいよ」となった。今は、3月頃からが非常に多い。保冷庫から出したものを常温におくから、温度が急にかわって、急速に進む。きゅうりは生きていますから、呼吸をしています。老化が進んでいるのですが、常温に出されると、それがパーッと進む。これはどうなっているんだと、いろんなところから、私に問い合わせの電話が来ます。八百屋さんは対面販売で、「これは昨日仕入れたものだから、ややしおれているけれども、少し皮をむいて、水に漬けてから食べるとおいしいよ」とか、「これはもう3日前のものだから、1/3の値段にするけれど、刻んで野菜炒めの中にでも入れてしまえば、おいしく食べられるよ」とかいうことがあるじゃないですか。会話がある。今の流通体系にはそれがない。だから、顔がきれいなものがよくなってしまうんです。鮮度とかおいしさとかは、どちらかといえば、物流の過程では軽視されがちになってしまうのです。
◇きゅうりのおいしさについて
  • 私は、ブルームレスきゅうり反対者ですから、ブルームレスきゅうりが出たときに、「何をもっておいしいというのだろう?数値で表さなければいけない」、と。きゅうりは歯切れだろうと思ったので、果皮と果肉の硬さを調査した。その結果、果皮が柔らかくて、果肉が硬いきゅうりがおいしいのでは……、と提案した。

  • 「満州系」は手に入りませんが、昔の地這いきゅうり、露地きゅうりです。それから、「四葉」。「ときわ夏節成」。これは、久留米の試験場でずっと昔に作った「夏節成」の血をひいたもの。これらは、歯切れの良い品種といえる。

  • きゅうりを折ってみると、折ったところに段差がつくものがある。そういう品種は、新鮮であるとか、風味がいい。やっぱり、いわゆる風味なんですよ。ですから、おいしさは数値ではなかなか表せない。

  • 昭和60年にブルームレスが話題になりました。このとき、産地が非常に儲けさせてもらったのですが、そうしたら、みんな飛びついた。本心では、「これでいいのかな?」と、感じていた。それで、ブルームレス反対論者になり、いろいろデータを取ったりしたところ、果皮がかたくて、果肉がやわらかい、ということがわかった。

  • 平成19年あたりで、きゅうりは、200〜300トンぐらい輸入されています。生鮮は韓国から入っている。それは、どうということはないのですが…。中国から、塩蔵ものが入っています。これが、ブルームきゅうりを古漬けにしたもの。ブルームレスを漬けると、果皮色がアメ色(褐色)にならないで、黒くなる。それで、漬物屋さんが、全部、塩蔵ものを外国から手に入れるようになった。それが60年頃です。 60年というのは、ブルームレス台木と、上にのった品種がガラリと変わった頃。ブルームレスだけの悪さではないと思うのですが……。分かりやすく、時代的にいうと、そういうことになる。 流れからすると、きゅうりの品種が、国際結婚している。今までは、国内結婚。九州と北海道が結婚してできた子どもだったりしたわけです。ところが、最近の品種は、片親が外国のもの。父親か母親かはわかりませんが……。昔の品種だと、だいたいどこの系統だかわかるのですが、今は私にもわかりません。日本にはない、親としていなかったものを使っています。だから、顔は非常にいい。スタイルもいい。でも、味は、やはり、日本の食文化に合わないところがあるのでしょう。

  • きゅうりのおいしさを、強いて「歯切れ」ということでいえば、品種によって、大きな差がある。ただ、今、研究者がやっているのは、親同士が兄弟であったり、同じようなグループの中での品種を集めているのが多いんです。そうすると、親がそれほど変わらない。また、今出回っている品種というのは、親がかなり近い。突拍子もない親ではないから、どれを食べても、それほど変わらない。ですから、おいしいとか、おいしくないとかいっても、それほどは違いがない。よっぽどわかっている人でなければむずかしいでしょう。昔は、きゅうりがあったら、八百屋さんや競り人がかじったりして、やりとりをしましたが、今はそういう時代ではありません。 流通の人は、数あわせ。 中を開いてちゃんとチェックしているかどうかも怪しいものです。
◇時代によって、受け入れられるきゅうりも変わる
  • ブルームレスについてですが、仙台にある松島採種場というタネ屋さんが、西洋種とのF1だと思いますが、強力新和という台木を出した。このときに、富山の試験場の女性研究員が、これに接ぎ木をすると、きゅうりが白くならないようだ、というのを発表しているんです。でも、その時代は、だれもそれを使おうとしなかった。昭和59年になって、そういう話が出てきたときに、みんなそちらにいってしまった。時代なんですね。私も長く研究してきましたが、一生懸命成果を出しても、評価されないときもある。時代によって普及するときもある。タイミングがあります。

  • 色がよくて、テリがよくて、いぼが大きくてというのは、樹の若さにはかなわない。きゅうりは、収穫が始まってから、だいたい60日ぐらいは、どの品種でも、どこの産地のものでも、絶対に大丈夫。ところが100日を過ぎてくると、いろいろなものが出てくる。やっぱり、若いものにはかなわない。私は、本当においしいきゅうりを出すのであれば、60日のきゅうりをとろう、と思った。ただ、60日だと収量が上がらない。でも、そういうものを一年中作って、その中で品種を使い分けましょう、という提案をしたのですが……。昭和60年頃は、だれも評価してくれなかった。昔から付き合いのあった、九州の方に行って、10月にまいて6月までにとっていた産地に、「もう、そんな時代は終わりだ」といってやってもらったのですが、今、そこがいちばんいい産地になっています。

  • 冬はいいのですが、2月が過ぎて温度が高くなってくると、顔かこわくなってきたり、味だとか香りだとか……。ちょっと変化があります。夏になれば、また別ですが。そういう意味では、冬は黒いぼで、夏は四葉だっていいのでは……、と思います。

◇フリーダムは業務加工用
  • あるとき、きゅうりの消費拡大をしようと思っていろいろ調べました。そうしたら、あるお弁当屋さんから、「きゅうりは、業務用としては、いぼがあるから使いにくい」という話があった。「だったら、いぼがなければいいんだね?」といったら、「いぼがなければ非常にありがたい」という。じゃあ、いぼをなくしてやろう、と思って、品種改良をしている研究所に行って、いぼなしのきゅうりを提案した。もともと、ヨーロッパの中にいぼなしのものがあるので、それを親にして、日本的に改良するのはわけないことなんです。

  • 「フリーダム」は、業務加工用としては、今申し上げたようなことから、非常にいい。そのために生まれた品種です。某コンビニエンスストアで扱っています。業務用としては大事なものですが、青果用としてはいぼなしでなくても良い品種はたくさんある。私は、「いぼなしきゅうりは、青果用ではなく、業務用としての位置づけにしなさいよ」と、はっきりいっています。その目的で育成された品種なのですから……。

  • 今、植物工場が話題になっています。密閉された中で、衛生管理であるとか……。そこだけを必要とする野菜の流通があるんですね。そういう作り方もあるし、品種もあるのですが、位置づけを間違えないようにしないと、また、あとあとになってから、いろいろな問題が出てくる。

◇最後に
  • 今日、このあとにあるきゅうりの食べくらべでは、ちょっとクセがあるものもあるでしょう。その香り、食味を感じていただけたら、と思います。そして、どのような調理に合うかなど、みなさんで考えてみたらよいと思います。
 

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