■2009年7月26日 第4回
〜 講演「“かぼちゃ”について」 みかど協和(株) マーケティング本部 飯野芳治氏 |
◇かぼちゃの概要 |
- かぼちゃの原産地は、中央アメリカ、南アメリカあたりです。
- 日本には、江戸時代中期に、カンボジアから入ってきました。本当かどうかは分かりませんが、カンボジアから来たために、「かぼちゃ」と命名された、といわれています。
- 野菜の中では、面積が減っていない作物のひとつです。現在、全国で15,000ha。
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- これからの時期、北海道が最盛期を迎えます。全国の栽培面積15,000haのうち、北海道はその約半分。今年の北海道の作付けは、7,500ha〜8,000haぐらい。北海道の今年の天候は、寒かったり、暑かったり、乾燥したり、大雨が降ったり…。そのため、かぼちゃを始め、スイートコーンなどが非常に遅れています。1週間〜10日遅れ。
- かぼちゃの栽培面積を市町村別にみると、30位以内に北海道が26も入っています。他が4ヶ所だけというぐらい、北海道にかぼちゃが集中しています。
- 近年、ニュージーランド、トンガ、メキシコなどからの輸入かぼちゃも増えてきています。ニュージーランドだけで、北海道と同じ量が日本に入ってきています。今から20年ぐらい前、日本のかぼちゃは、冬場は栽培できませんでした。ニュージーランド、トンガ、メキシコから輸入かぼちゃが入ってきたおかげで、一年中、同じ量が供給できるようになり、消費の安定を招いたわけです。ということで、かぼちゃというのは、非常に安定して伸びてきているというのが現状です。
- ただ、今年の輸入かぼちゃの状況を見ると、国産志向が高まっているせいか、非常に安値安定といった状態に入ってしまって、輸入業者も非常につらいという状況です。輸入かぼちゃも、味は非常においしいのですが、やはり、国産にこだわっているという状況だと思います。
- かぼちゃの月別の消費量をみると、ほとんど毎月同じような状況で入荷しています。東京中央卸売市場には毎月約4000t、関西方面の市場(大阪中央卸売市場)はその約半分、2000t弱というのが一般的な状況です。
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◇かぼちゃの分類 |
- みなさんがよく食べているかぼちゃは、「西洋かぼちゃ」という分類に入ります。
- 江戸時代中期に、カンボジアから日本に入ってきたのは、「日本かぼちゃ」。戦時中まで、たくさん食べられていました。粘質系で崩れが少なく、和食に合うかぼちゃ。
- 現在流通している「日本かぼちゃ」というのは、黒皮系。産地は宮崎県、熊本県が主体です。関東の人はあまり食べません。京都や、関西の人は食べます。日本料理に向いているかぼちゃですが、料理が上手じゃないとおいしくない(笑)。素材としては非常にシンプルな味なので、料理によって、このかぼちゃが引き立つ、という感じです。
- 「ペポ」というかぼちゃもあります。みなさんも食べていますよ。「ズッキーニ」のことです。今はやりの「そうめんかぼちゃ」もペポ系になります。
- 今、日本で食べられているのは、「日本かぼちゃ」、「西洋かぼちゃ」、「ペポかぼちゃ」の3種類です。世界にはあと2種類ありますが、日本人は食べていません。
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◇日本各地で作られている変わったかぼちゃ |
- 「赤皮栗かぼちゃ」で有名なのは、加賀野菜の「打木赤皮かぼちゃ」という品種。
- 変わったかぼちゃとしては、「鶴首(つるくび)かぼちゃ」というものがあります。愛知県、宮崎県、鹿児島県で、今でも作られています。
- 「ヘチマ型」のかぼちゃもあります。これも、鹿児島を中心に、まだまだ栽培されています。どうやって食べるかというと、貯蔵して、冬場、味噌汁に入れる。今でも、間違いなく、食べられています。
- 「鹿ヶ谷(ししがだに)かぼちゃ」は、京野菜。京都で多く作られています。
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◇冬至とかぼちゃ |
- なぜ、日本人は、冬至にかぼちゃを食べるのかというと、ビタミンAが豊富だから。カロテンが豊富なため、風邪をひきにくくなります。それから、中風(脳梗塞)になりにくい、といわれています。
- 今は、さまざまな人たちの努力の結果、一年中、緑黄色野菜が手に入ります。でも、その昔、寒い時期は、手に入らなかった。かぼちゃは日持ちするので、冬場まで食べられます。そういったことから、日本人は、冬至にかぼちゃを食べてきたんです。ところが、今は、冬至に向けても、新鮮な野菜が出てくるようになっています。
- 近年、注目されているのは、栄養価の高さです。従来の西洋かぼちゃ、日本かぼちゃのビタミンA含量からすると、3倍近い数字になっています。そこが、みなさんに受け入れられているのではないでしょうか。かぼちゃというのはもともと非常に栄養価が高いのですが、育種が進むにつれて、カロテン、ビタミンAがさらに多くなっています。
- 中生の「くりゆたか」というかぼちゃは、抑制かぼちゃ。冬至に向けて出荷されます。みなさんも必ず食べているはずです。北海道では、富良野、JA北ひびき、名寄、きたはるかなどの産地が、「くりゆたか」をかなりの量作っていおり、貯蔵かぼちゃとして、今年もまた面積が増えています。
沖縄も鹿児島も、「くりゆたか」が中心品種です。国産にこだわって、沖縄から北海道までリレー出荷して、みなさんにお届けする、というかぼちゃに育て上げてきました。海外では1tも作っていない、という品種です。
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◇北海道でのかぼちゃ栽培状況 |
- 北海道は、昼夜の温度差があるため、非常においしいかぼちゃができます。
- 大きな産地としては、富良野、和寒町(わっさむちょう)、剣淵(けんぶち)、名寄(なよろ)、美深(びふか)など。
- 和寒というところは全国一。一市町村で、1,000町歩というかぼちゃを栽培しています。見渡す限りのかぼちゃ畑。冬になると、雪の中からキャベツを掘り出す産地です。和寒町は、最大の産地で、人口よりもかぼちゃのほうがよほど多い、というぐらいです。
- 名寄を中心に作られているのは、「味皇(あじおう)」というかぼちゃ。フラットで、色の濃いかぼちゃです。
- 美深は、「くりゆたか」の産地です。9月、10月、11月頃、東京市場にもかなり入ってきます。非常に寒いところなので、おいしいかぼちゃができます。
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◇沖縄でのかぼちゃ栽培状況 |
- 今、栽培が増えているのは、沖縄です。国産かぼちゃが見直されたことから、沖縄のさとうきび畑を転換して、かぼちゃを作っています。沖縄は、輸入が始まる前は、日本の冬場のかぼちゃ産地でした。しかし、輸入とバッティングしたため、減ってしまいました。このところ見直されているため、沖縄本島、宮古島、石垣島など、ほとんどの地域でかぼちゃを作っています。ただし、値段は高い。宮古島、石垣島などは、まず船で本島まで持っていって、それからまた船に乗せて…。運賃がかかるので、非常に値段が高くなってしまいます。
- 沖縄は、気温が下がっても15度なので、冬場、かぼちゃを作りやすい。1月〜5月頃まで、冬場に沖縄のかぼちゃが出てきます。沖縄のかぼちゃは、非常においしい。沖縄の人たちもがんばって作っていますので、ぜひ、食べていただければ、と思います。ちょっと単価は高いかもしれませんが…。
- 宮古島では、風が強いため、暴風網を張って栽培しています。
- 宮古島は、灌漑が発達したすぱらしいところ。自然にできた地下用水というのでしょうか、天然の水が、地下に層で貯まっています。水が非常に豊富にある産地です。
- 畑にはマットを敷いて栽培しています。マットを敷くと、グラウンドマークがつきません。グラウンドマークというのは何かというと…。土についたところだけ、色が出ない。緑色にならず、そこにコブができたりします。私は産地の方によく言うのですが、「1/4カットで売られているかぼちゃを買うとき、そこがあたってしまったらイヤですよね」、と。マットを敷いていただくと、それがなくなり、病気にもなりにくい。大きな面積ではなかなかできませんが…。
- グラウンドマークがある場合、その色を見ると、熟期が分かります。みかん色になると、収穫時期です。グラウンドマークの色と肉の色は共通です。それで収穫を見極めることができます。ニュージーランドや北海道のかぼちゃには、よくグラウンドマークがついていますので、その色が濃くなっていれば、肉の色もかなり濃い、ということです。みなさんが玉で買う場合は参考にしてください。カット売りは中が見えますので、関係ありませんが…。
- 沖縄の生産者は、1本仕立てとか、2本仕立てで、一方向に流してかぼちゃを作っています。北海道は「畑全部がかぼちゃ」というところが多いのですが、沖縄は、面積が小さいこともあり、そのようにして育てています。
- 沖縄では、かぼちゃを植えておいて、さとうきびを風よけにします。こういった工夫もされています。
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◇日本の三大かぼちゃ |
- かぼちゃの品種名は、意外とよく知られています。まず、圧倒的に面積が大きいのは、「えびす」というかぼちゃです。関東の人は、「みやこかぼちゃ」をよく食べています。それから、「味平(あじへい)」という品種も、かなり、みなさんの食卓へ届いているはずです。この3つが、三大品種です。
- 「えびす」は粘質系のかぼちゃで、調理にも向くし、崩れがない。逆に、「みやこ」や「味平(あじへい)」は、粉質で、甘みも強く、サラダ等にも向くかぼちゃです。
- 日本では、早生、中生のかぼちゃがほとんどで、晩生、というのはめったにありません。「みやこ」や「味平」などは、着果してから40日で収穫できます。これが、早生かぼちゃといわれるもの。早く出荷できるかぼちゃです。
- 産地の要望としては、市場性が高い、つまり、消費者がよく買ってくれる品種。それと、棚持ち。つまり、貯蔵性がある、ということ。
- 日本の生産地では、沖縄を除けば、10月収穫が限界です。北海道でも。貯蔵した中で甘みを出してくる、という面があるので、貯蔵性のよいかぼちゃが求められる、ということになります。
- 栽培のしやすさでいえば、低温時の着果性がよいとか、収量が多いとか…。生産者としては、やはり、収量が多いほど安定して出荷できる率が高くなる。そうした生産者側の要望にマッチさせられるように、私どもが品種開発をしています。
- 遺伝的に、おいしいかぼちゃほど、収量は少ない。それを解決するのは非常に難しい状況です。玉がつく、大きくなる、収量が上がる…という品種は、粘質でベタベタ。ですから、おいしい粉質のかぼちゃは、少し高くても、納得していただけるとありがたい。
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◇その他のかぼちゃ |
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◇粉質と粘質 |
- 昔から、関東では粉質、つまり、芋のようなかぼちゃが好まれ、関西方面では、粘質系のかぼちゃが好まれるといわれています。でも、最近は、流れが変わり、全国的に、粉質系のかぼちゃが多くなってきています。そのまま、素材として、サラダで食べることも多くなっていますから。ホクホク感、粉質というのが重視される傾向にあります。
- 粉質と甘さというのは、逆行します。甘さが出ると、粉質がなくなる。
- スイカやメロンと違い、とれたてで食べるとおいしくないのがかぼちゃです。勘違いされている方も多いと思うのですが、とれたてのかぼちゃは、非常に甘みが少ない。糖度で計ると、スイカ、メロンは、13度とか16度とか…。かぼちゃは、収穫時期は、9〜12度。みなさんが食べるときに16〜17度になっています。
- 市場のみなさんも消費者のみなさんも、粉質で甘みが強いのがいいといいますが、甘みというのは、後で出てくるもの。一般のかぼちゃで、収穫してから約3週間、21日経った頃がいちばんおいしい、と私は思います。これに合わせるのは非常に難しい。でんぷんが糖に変わることにより、後で甘みが出てくるんです。
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◇果皮の色 |
- 果皮の色は、緑、白、赤…。さまざまありますが、濃いほうがいい、といわれています。果肉の色も濃いほうがいい。
- かぼちゃは、収穫時期が近づくと、果皮の色がくすみます。果皮の色がまだ若く、ピカピカしているものは、収穫にはまだ早かったものですから、避けたほうが無難です。ただ、日焼けという問題があり、この見極めが難しい。本当は日に焼けて色があせているだけで、中身はまだ若いことがある。この見極めができればたいしたものです。
- 輸入かぼちゃで、どす黒いほど色の濃いものは、糖化(とうか)してしまっていますから、ベタベタでおいしくない。少し黄色っぽいほうがいいと思います。意外と、黄色いのは人気がないのですが、粉質で、ホクホクしているんですよ。甘みは砂糖を入れてしまえばいい。だいだい色のもののほうが、調理したときにおいしくなります。
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◇おいしいかぼちゃを見分けるポイント |
- 同じ棚に並ぶ、同じ品種だったら、間違いなく、溝が深いほどおいしい。なぜかというと、木が強い証拠だから。木が枯れて、弱ると、ツルッとしてしまう。収穫時期まで木がしっかりしていると、デンプン質が貯まり、非常においしくなる。これが見分け方のひとつです。
- カット売りのものは、タネが見えます。タネが充実しているものが良質。
- 果肉の色については、非常に微妙なのですが…。基本的には、だいだい色。若いものは、誰が見てもおいしくなさそうに見える。かといって、あまり濃くなっても、粘質に変わるので、おいしくなくなってしまいます。
- 本当は、ヘタがついているとよく分かります。ヘタの周りに、コルクができるんです。ここがコルク質になったら収穫しなさいよ、と、生産者に指導しています。でも、今は、なかなか、ヘタがついていませんので、見分けることは難しいですね。
- 「大きい=まずいかぼちゃ」ではありません。基本的には、大きいほうがおいしいかぼちゃだと思ってください。なぜなら、木に力があるから。木に力がないと、小さくなります。かぼちゃは、木に最後まで力があったほうが、でんぷん質の蓄積が多くなりますので、尻がちょっとぐらい大きかったからといって敬遠する必要は全くありません。
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◇栽培ポイントと風乾作業について |
- 栽培ポイントについては、八百屋さんにはあまり関係ないかもしれませんが、ひとつぐらい覚えて帰ってください。かぼちゃというのは、1m20cmぐらいのところに着果させます。つける位置があるんです。これより遠くなると丸くなってしまうし、近くなると小さくなってしまう。そういうかぼちゃの特性があります。
- かぼちゃは、雌と雄が同じ株にあって、雌の中に花粉はありません。苗をホームセンターで買った人から、「うちのかぼちゃつかないんだけど?」という質問を受けることがありますが、雄花の花粉を雌花につけてあげないと、絶対につきません。メロンは、雌のほうに花粉がある。スイカは雌雄別々です。ウリ科でもいろいろ、ということです。
- かぼちゃは、朝、太陽が出ないうちから花が咲く…という、ウリ科の中でも非常にめずらしい性質があります。メロン、スイカなど、ほかのウリ科の花は、太陽が出てから30分後に咲き始めます。かぼちゃは、温度さえあれば、午前3時でも咲いています。その代わり、昼には閉じてしまいます。ですから、その間に交配してやらないと、着果率が落ちてきます。
- 収穫したばかりのかぼちゃは、かたくないんです。もちろん、差はありますが…。そこで、「風乾(フウカン)」という作業をします。風乾とは、果実を涼しい場所、温度の低い条件におくこと。涼しい場所でゆっくり乾かして、日持ち性を促進させる。温度が高いところで、果実表面の水分をどんどん飛ばすと、長期間もつことはありません。生産者向けの指導のなかで、いちばん大切なポイントです。
- 北海道で、11月、12月に出している貯蔵系のかぼちゃは、JAの大きな倉庫で、空調して風乾しています。北海道ですから、冷房ではなく逆です。霜で凍ってしまうので、温度を高くしたり、温風にしたりします。かぼちゃは凍ると腐ってしまいますので、凍らないようにしています。
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◇まとめ |
- 生産者は、できるだけおいしく…との思いで一生懸命かぼちゃを作っています。私どもは、品種改良を含め、今後も生産者への指導をしていきますので、ぜひ、おいしいかぼちゃを一年中食べていただきたい、と思います。ありがとうございました。
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