■2009年9月13日 第6回 〜 講演「“レタス”について」 東京青果 産地開発室課長 田原氏 |
◇洋菜類の最近の産地状況 |
- 9月も上旬を過ぎ、中旬に入りました。いま、レタスを中心とした洋菜類に関しては、長野県、岩手県、群馬県などの高冷地、準高冷地から、茨城県、栃木県といった関東近辺に産地が移行し始めているところです。
- 先週、茨城の産地を4カ所、栃木を1カ所回りました。農協の担当者によると、豊作だそうです。畑を見た限り、私もそう思いました。1株の欠株もない。真っ青なグリーンの絨毯が畑に敷きつめられているみたいで、大豊作という感じです。
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◇市場外流通の増加と相場 |
- 私が神田市場に入社した昭和52年ごろは、取引が簡単明瞭でした。雨が降ればものが減る。ものが減れば、値段が上がる。
- バブルがはじけたのは平成元年ですが、市場のバブルは平成5年にパンクしました。それ以降は、右肩下がりです。ここ10年ぐらいをみていると、相場の形成が非常に難しくなっている。私個人の意見では、「2段ロケット」の相場態勢。いままでは、ものが減れば、ポンッと相場が上がりました。いまは、ものが減っても、なかなか相場が上がらない。今年のお盆前、雨が非常に多くて、レタスに病気が発生するなどして、入荷が減りました。それで、相場が上がるのかと思えば、なかなか上がらない。ものが減ったのに、相場がついてこない。しかし、ある一点を超すと、馬鹿みたいに上がります。7〜8年前、台風が来たときに、茨城のレタスが1万円、8000円になりました。それは、2段ロケットの最終ロケットに点火された、というような感じです。その理由は、市場の経由率が下がってきているからです。
- 昭和52年ごろ、野菜は、95%ぐらいは市場経由。卸売会社を通して、仲卸、あるいは小売りに販売された。いまは、70%台ぐらいまで落ちています。市場外でものが動いている時代になってきている。
- レタスの入荷が雨で減ったとします。市場にものがなければ、「違うところで仕入れましょう」、と。市場外専門で取引しているお店も結構あります。大手量販店も、産地と直接値段や数を決めて、取引することが多くなっている。従って、少々荷物が減っても、それが市場の価格に反映しない。ところが、それを通り越した不作になると、大暴騰します。それはなぜかというと、日々、市場外流通で、産地と契約している量販店の方も、そこの品物がいよいよなくなれば、店で売るものがなくなるので、市場に顔を出す。量販店の方は、ふだん、レタスは仲卸を通じて買っていないとしても、きゅうりやトマトは買っているわけです。従って、「ちょっと、頼むよ」と言われれば、仲卸さんもレタスを集めざるを得ない。そのときに大暴騰するわけです。
- これから、市場外流通というのは、まだ増える。それが相場に影響するという事態は、これからも続くと思います。
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◇江戸時代から変わらない野菜の栽培面積 |
- 私が会社に入ったころ、日本の野菜の生産量は、1700万トンありました。いま、国産の野菜は、おそらく、1300万トンに届かないと思います。4〜5年前、1250万トンぐらいだという農水の発表がありました。ただ、輸入の野菜が、加工品、冷凍品、あるいは生鮮野菜…、こういったものが入っていますから、それらも全部あわせれば、1600万トンぐらいではないかと思っています。どちらにしろ、生産量は、ますます減少気味だということです。
- 政府は、今年、自給率が41%になったと大喜びしています。私個人の意見ですが、日本で自給率100というのは絶対無理だ、と思っています。私は昭和26年生まれですが、そのときの日本の人口は8000万人。いまは1億3000万人ですから、1.5倍ぐらい人口が多いわけです。
- 戦国時代が開けて、江戸時代に入ったころ、日本の穀物も入れての栽培面積は、確か、460万町歩だった。日本の国土は、3700万町歩。ですから、そのうちの1/8〜1/9に当たる土地が、江戸時代の作付け面積だった。人口はだいたい4000万人ぐらいで、それ以上はなかなか増えなかった。子どもが7〜8人当たり前にいた時代ですが、食べるものがないし、衛生環境も悪かったため、それ以上は増えなかった。
- いまの栽培面積は、500万町歩〜400万町歩のあいだで、江戸時代とほとんど変わっていないと思います。それで1億3000万人を養うのは絶対に無理。農薬や肥料ができて、機械があって…。いろいろと効率化が進んでいますが、そうしても、養っていけるのは、おそらく、私が生まれたころの人口8000万人ぐらいが限度じゃないでしょうか。
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◇日本のレタス生産量/全体
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- レタスは、日本全国で、約40万トン生産されています。野菜全部で1300万トンです。米はもう1000万トンをきっている。そのなかで、40万トンの出荷があります。
- 1ケースが10キロの計算ですから、4000万ケースです。1億3000万の人口で、4000万ケースの出荷ということは、だいたい、1人1/3箱を食べている。結構食べているのではないかと思います。
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◇日本のレタス生産量/産地別:長野県
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- 日本のレタス生産量40万トンのなかで、生産高のトップは、長野県です。全農長野の出荷統計では、14万トン、1400万ケースの出荷があります。
- ちなみに、キャベツの大産地、嬬恋は1700万ケースですから、長野はそれに匹敵するぐらい大きな産地ということです。
- 川上村は、600万ケース。つまり、約半分ぐらいの出荷数量があるということになります。
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◇日本のレタス生産量/産地別:茨城県
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- 2番目は茨城です。秋と春、2作あり、全農茨城の出荷数量は、秋と春で、各180万ずつ。あわせて360万ケースです。ただ、系統経由率というのですが、農協を通さない出荷がかなりある。おそらく実態は300万ケース近くある、と思います。ということは、秋と春で、だいたい600万ケースぐらい。
- 茨城は、県西、県南、県北、県央の4つの地域に分かれています。レタスを作っているのは県西地区で、結城、岩井、栄町、この3農協がメインです。ここだけで、8割〜9割、レタスの生産を握っています。
- これからレタスを作っていきたい、という新しい産地は、石下、八千代など、常総ひかりですね。白菜が多かった産地が、レタスをやりたい、ということで…。ここ4〜5年で、おそらく100町歩ぐらい面積が増えています。まだ、これから先も増やしたい、という話を聞いています。
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◇日本のレタス生産量/産地別:兵庫県淡路島
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- 茨城の次にレタスの出荷数量を持っているのが、兵庫県の淡路島です。
- 昭和58年ごろ、淡路島のレタスは、100万〜130万程度しかありませんでした。いまは300万ケースを出荷しています。
- 10月〜6月までの9カ月間という非常に長い期間出荷しています。出荷しないのは3カ月だけです。
- 昔はそれほど大きな産地ではなかったが、レタスの生産量がかなり増えており、非常に重要な産地だといえます。
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◇日本のレタス生産量/産地別:香川県
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- 兵庫県淡路島の次が、香川県です。ここは零細な農協が多いのですが、300万ケースのレタスを持っています。淡路島とほぼ同じ時期に出ますが、出荷時期は短い。
- 香川は、かなり急速に出荷数量が落ちています。原因は、一人当たりの耕地面積がせまいということ。最低でも5反とか7反ぐらいは作っていないと、なかなか収入にはつながりません。レタスは、非常に選別が細かい。いまはかなり緩やかになりましたが、昔は18等級もあった。秀品の3Lから2Sまで、優等で3Lから2S、それから、ABCと…。非常に細かい等級があったので、小さい面積で作っていると、秀品率が落ち、いいものが出せなくなってしまう。いま、5反以下で作っている人は減ってきている。
- 出荷数量減少のもうひとつの理由は、高齢化。平均年齢はおそらく70歳を超えているのではないかと思います。集荷場に行くと、だいたい、軽トラに紅葉マークがついています。80歳前後のおばさんがレタスを5〜6ケース持ってきて集荷場に下ろす、という光景が当たり前です。
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◇日本のレタス生産量/産地別:群馬県
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香川県の次の産地が、群馬県です。系統扱いで200万ケースぐらい。ここは、どれぐらいレタスを持っているのか把握できません。夏場、ほとんどのスーパーで、群馬県のレタスを売っているのを目にしますが、市場抜きの取引。
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群馬県は系統で200万ケースですが、おそらく500万はある。コンニャク畑が10年ぐらい前から、かなりレタスに変わってきました。新しく開墾した畑もあります。
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ただ、よく見ていると、またコンニャクが増えて、レタスの生産量が落ちているようです。なぜかというと、市場外流通で、大手量販店との契約がだいたい70円〜150円。それ以上はなかなかお金が取れないような状況がある。
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◇日本のレタス生産量/産地別:岩手県
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群馬県の次が岩手県ですが、かつては、200万ケースぐらいありました。岩手県は5キロ換算ですから、10キロ換算に直すと100万ケースぐらい。
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岩手県は、条件がよくない。ひとつは、距離の問題です。たとえば、岩手県の奥中山農協は、東京からだいたい500キロ。昔のトラックは飛ばして6時間ぐらいで来ましたが。ボンボン跳ねますから、着いたころには、箱がグチャグチャになっていました。もっとゆっくり走れないかと思ったものですが、市場に着く時間が遅くなるので、できなかった。いまは、大型は最高スピードが80キロ以下に抑えらていますから、だいたい、9時間〜10時間かかります。市場に着くのが、遅いときは朝の5時。ふつうでも夜の2〜3時になってしまい、いまの流通に間に合っていません。市場では、夜の12時までに着かなければ延着扱いで、翌朝までものが残りっぱなしになってしまいます。
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もうひとつの問題が、温暖化です。長野県の準高冷地というのは800〜1000メーター。高冷地が1000〜1500メーター。川上村は1300メーター前後です。昔は、札幌の気候と川上村の気候が、だいたい同じだった。それが、かなり変わってきました。いま、東京の年間の気候が、昔の鹿児島とだいたい同じぐらいだ、といわれています。最低でも500キロぐらいは、緯度が下がっているのではないでしょうか。岩手の標高800メーターぐらいのところ、奥中山には、非常に酪農家が多い。いま、酪農家というのは危機に瀕しており、やめていく人が多い。それで、去年あたりから、牧草地を圃場に変え、レタスとキャベツに移行しています。今年も8月のお盆を境に、その品物が若干出てきましたが、まずまずの品物ではないか、という気がしています。
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岩手は消費地から離れているため、京浜にものを出しても、採算が合わない。また、京浜地区では、群馬県と長野県が大決戦をやっています。その争いに巻き込まれると、ほかの産地なんて吹き飛ばされてしまいますから、岩手では、県内重視、東北重視の傾向があります。盛岡、仙台、福島などを重点的にしていこう、と。昔は京浜地区で、岩手のレタスを8000〜1万ケース売っていましたが、いまは、多いときでも1500ケース。少ないときは400〜500ケースしかありません。
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◇日本のレタス生産量/産地別:九州地区
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いちばんの新興産地は、九州地区です。長崎の島原半島はジャガイモ、ニンジン、春白菜の大産地ですが、レタスの大産地でもあります。ここも、市場外流通が多い。おそらく、農協でつかんでいる数は、100万ケースないのでは…。実態は300万ケースぐらいあり、出荷期間は、10月中旬〜4月ごろまで。割とロングランで作っています。
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島原では、行政も応援して、レタスの作付けを増やしていこうとしています。いまはだいぶ変わってきましたが、昔は無施設でした。マルチもなく、露地栽培で、葦簀をかけてレタスを作っていました。かなり粗放的な作り方で、品質が伴わない。レタスの形はしていましたが、小売り店の店先で売りにくかった。ただ、お金をかけていないので利益は上がりました。だいたい、10キロ箱で、1000円〜1200円ぐらい。運賃を考えると、かなり安い。福岡、熊本のような大都市が近くにありますから、量販店から農家の方へのオファーもあったと思いますが…。「もっと、品物をよくしましょうよ」、「そうすれば、もっと高く買いますよ」、ということで、マルチをひいて、トンネルをかけるというように施設栽培のほうに若干変わってきています。生産量は頭打ちです。
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諫早の干拓地では、業者の方が、60町歩ぐらいで、レタスを始めています。レタスは、1町歩でだいたい3〜4トンとれます。ということは、60町歩あると、200トンぐらい。けっこうな数がとれます。そういったところが2〜3カ所増えてくれば、かなり、変わってくるかな、という感じもしています。
- あと、昔、九州地区でいえば、宮崎や熊本といったところ。ここは、個人レベルではなくて、農協を定年になった方などが生産法人を立ち上げて、出荷している。
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◇日本のレタス生産量/産地別:静岡県
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関東地区では、静岡県も非常に重要な産地です。系統扱いで、150万ケース。一時は200万ケースありましたが、おそらく、今年か来年あたりには、120〜130万ケースまで落ちる可能性があります。
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静岡県では、お茶畑をやめて畑に変えたい、という話もあるようですが、それには5年ぐらいかかるそうです。お茶畑は多肥料で、すごい酸性土。一方、野菜は、ある程度アルカリ性でないとだめです。畑に行くと、よく、白いものが混じっていますが、あれは、石灰です。お茶畑を野菜畑に変えるのは難しいにもかかわらず、畑に変えたいという相談が出ています。
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レタスも同じで、3反、5反といった面積の方が、かなりやめている。一方で、1町歩以上の人が増えてきていまして、それで数量をこなしています。おそらく、これから先、かなりの急角度で生産者が減り、生産量も減ってくるのではないかと思っています。
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◇ラップの産地とハダカの産地 |
- ラップの産地とハダカの産地では、レタス農家の考え方が違います。ラップの産地というのは、茨城、栃木、香川、静岡、兵庫。彼らは、値決めをすごく嫌がります。
- かつて、淡路島の担当をしているとき、農協に契約取引(値段を決めた販売)をすすめたいと提案したことがありましたが、見事に断られました。「値段はすべて市場にお任せします」と。「どこに売ろうが農協は関知しません。出た量を全部売ってください」と、そういうことを言われました。
大手量販店からも、市場外流通で取引をしたいと、農協に直接話がいったようです。ところが、「市場を通していただければやります」と。そういうわけで、ほぼ100%近い出荷を市場のほうに任せていただいています。
- ラップ産地は、市場のその日の相場を非常に楽しみにしている。ところが、ここ3年ぐらい、ラップの相場もなかなか出なくなってきました。だいぶ様子が変わってきました。
- ラップ産地も、ハダカでものを出すような時代になってきた。小さい面積の人はラップで出してもいいのですが、広い面積の人は、ラップをしていると間に合わない。オートラップという機械があっても、5町歩では、半分以上ハダカでものを出さないと、出荷できません。かなり、ハダカのレタスの流通が高くなっていると思います。
- ラップを作っている産地がハダカを作るということは、ハダカの品質がかなり上がってくるということ。ハダカのレタスとラップのレタスでは、かなり品種が違い、作り方も違うのですが…。ラップを作っている産地というのは、古い産地が多いですから、技術力があり、品質については、いいものを作ってきます。近年、それに目を付けたのが量販店です。
- いま、小売りのほうでは、かなりの割合でラップのレタスを扱っていると思いますが、これからは、ハダカの時代になる可能性が強いのではないか、と。ただし、そうなると、生産力が格段に伸びる可能性があります。
- 長野県は、年間で100日しか出荷がありません。朝の2時に起きて、電灯をつけて作業をしているので、ものすごく働いているようなイメージがありますが、出荷の方法は楽。畑でものを切って、そのまま畑で詰めて、集荷場に行けば終わり。茨城は、朝2時に起きて夜の6時まで、365日働いています。朝2時に起きて、ラップ詰め。前日の夕方までに収穫したレタスをコンテナで作業場に持ってきて、しなっとするのを待って、朝の8時〜9時ごろまで機械でラップして、箱詰めして、集荷場に持っていく。一休みしたら、昼から収穫。あと、圃場のトンネルを閉めっぱなしだと、温度が高いときは高温障害を起こしますから、すそをあけて、夕方になれば、また、すそを下げる。畑をぐるーっと回って、毎日やっているわけです。ラップの作業がなくなると、畑で詰めていけばいいわけですから、すごく作業効率がよくなる。ということは、面積がいまの1.5倍ぐらいに増える可能性がある。
- 茨城でレタスを作っているのは県西地域ですが、県央や県北といった地域でも、今後作る可能性がある。メロンが、ここ3〜4年、値段が出ないこともあって、メロン農家が、作るものを野菜に変えています。施設も畑も余っているので、レタスに転換すると、かなりの面積が変わる可能性がある。また、いままでは、秋と春しか出ませんでしたが、温暖化の影響で、秋、冬、春。3つの時期に出す自信がある、と言っています。市場としては、春と秋はいいのですが、冬はちょっと待ってくれないか、と言っています。いま、まともに冬に出てくると、大暴落するおそれがあるからです。
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◇まとめ |
- 先の総選挙で民主党が大躍進しました。財源の問題、無駄遣いがどうのこうの…、と、いろいろと取りざたされています。役人が無駄遣いをしている、とよくいわれますが、われわれも、無駄遣いについては、大いに反省すべき点があると思います。道をクルマで走っているとそこらじゅうにゴミが落ちている。それをきれいにするのも行政の仕事です。また、モンスターペアレンツだとか給食費を払わないといった学校でのさまざまなトラブル。こうしたことは、やはり、国民の責任だと思います。
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大田市場も、見た目は新しくてきれいですが、粉塵がまっています。私は朝の4時半に来て、5時ごろから掃除を始めています。パレットをきれいにして、掃除をして…。民間の企業、特に食品関係は、木のパレットなんて使いません。プラスチックです。木はボロボロとゴミが落ちるので、使いません。それぐらい神経質になっているのに、市場は非常に遅れている、と私は思います。ゴミを捨てていく人もいるし、拾う人はいない。そういったことも、行政の無駄遣いにつながるのではないかと思っています。これから、大いに反省すべきではないか、と…。
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日本は核家族化が進みすぎました。いまの日本を現状を打破するには、大家族制にすべきだと思います。そうすれば、日本の家族というのは、もっとよくなると思う。野菜の消費量、米の消費量が落ちているのも、それが大きな原因ではないか、と。こうした点を何とか直せば、もっとすばらしい日本になるのではないか、と思っています。
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本を読めばいろんなことが書いてあるし、畑を見ればいろんなことが分かってきます。自分で見て、考える。それが非常に大切ではないかと思っています。
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