■2013年7月21日 第4回 〜 講演「かぼちゃについて」 カネコ種苗(株) くにさだ育種農場 果菜類担当主任技師 野口総一郎氏
◇おいしいかぼちゃの選び方
  • かぼちゃを選ぶときは、まず、タネを見てください。タネがふっくらしていて、割るとタネの中が充実して、ふくらんでいること。これが、タネにとっては大切です。

  • 形も大事です。ラグビーボール型のかぼちゃ、扁平なかぼちゃなど、さまざまなものがありますが、味とリンクしているとは限りません。

  • 今年は、「九重栗(くじゅうくり)」、「イーティー」、「くりあじ」など、お尻の尖ったタイプのかぼちゃも、若干扁平気味です。形が変わるのは、畑や樹の状態によります。かぼちゃは、最初、節と節の間が短いのですが、だんだん長くなっていきます。この節の長さが、かぼちゃの形に影響します。株元付近についたかぼちゃはやや扁平で、株元から遠いものは若干甲高になります。
カネコ種苗(株) くにさだ育種農場
果菜類担当主任技師 野口総一郎氏
  • 今の時期、栃木のかぼちゃは、まだ出始めで、根元付近の実なので、扁平気味です。だんだんと着果位置が高いものが出荷されるようになると、扁平ではなくなります。神奈川の「三浦かぼちゃ」は、6月前半から出回りますが、その頃はなっている位置が株元付近なので、若干扁平な場合があります。ところが、温度が上がると、縦に伸びて、かぼちゃが丸くなってきます。ですから、同じ産地でも、出始めと途中では、形が変わります。

  • 節間の長さは、気候によっても変わります。今年の春は寒くて、非常に乾きました。こういう年は、かぼちゃの節と節の間が短くなります。つまり、どの品種でも扁平になります。逆にいえば、扁平になった年は、乾いているわけですから、おいしいんです。お尻の尖る品種なのに扁平なのは、水はけのいい場所で作っている証拠です。水はけの悪い場所で作ったら、乾かないので、扁平にはなりません。八百屋さんには、そういうことを、ぜひ、お客さんに伝えてもらいたいと思います。

  • ウリ科の作物は、最初、縦に伸びたあと、次に横に伸びます。縦に伸びるのは、開花後、20日間くらいで、横に伸びるのは25日間くらいです。最初、春先についた株元の実は、まだ寒いので、縦に伸びる時期に、あまり伸びることができません。横に伸びる頃には温度が上がって、伸びることができる。遠くのほうについた実は、最初から温度が高いので、縦にも伸びることができ、ボール型になるというわけです。後半の条件がいいと横伸び、前半から条件がいいと縦伸びの強いかぼちゃができます。

  • かぼちゃの果皮の色は、株元についているほうが濃く、遠くなるにつれて薄くなります。同じ産地のかぼちゃでも、寒い時期のかぼちゃは、果皮の色が濃く、温度が上がってくると、淡くなります。また、光が当たると、果皮の色が淡くなってくることもあります。

  • かぼちゃは、出荷前に磨き機で磨いて、光沢を出しています。お店に置いておくと、だんだんぼけてくるのは、かぼちゃが自分自身を守ろうとして膜ができるためです。品種によっても違いますが、基本的には、かぼちゃの皮の色は完熟になると若干ぼけてきます。

  • シートを敷いて作るかぼちゃは、グランドマークがつきませんが、北海道のものなどにはついていることがあります。グランドマークが濃いほど、果肉の色も濃くなっています。

  • かぼちゃは、品種によっても、果皮の色、果肉の色が違います。西洋かぼちゃは濃く、日本かぼちゃは薄い。白皮のかぼちゃは、基本的には果肉の色も薄いです。

  • 果肉の色が薄いタイプのほうが貯蔵向きで、日持ちする傾向があります。果肉の濃いものは、どちらかというとあまり日持ちしません。

  • かぼちゃは、果肉中の色が濃いもののほうが完熟しているイメージがあると思います。事実、実がついてからの日数が長いほど、果肉の色は赤みを帯びてきます。ただ、過熟になると、濃い黄色というか、だいだい色〜赤に近い色になり、これは注意していただいたほうがいいと思います。

  • かぼちゃの赤や黄色の色素がカロテンで、豊富に含まれているため、栄養価が高い野菜として評価されています。

  • 果肉の厚さは、樹の状態に関係しています。最初、いいところについた実は、果肉が厚くなります。樹がまだできていない頃や、最後に樹が弱くなってからついた実は薄くなります。ただ、水はけのいいところで、畑が乾いていると、若干薄くなるので、その点はご注意ください。樹が弱っているから薄いのか、水はけがいいところで作っているから薄いのか、産地のクセをつかんでおくことが大切です。

  • かぼちゃの花落ちの部分は、大きいほど、樹の状態が強い場合が多い。花落ちが小さいのは、樹が弱い傾向があります。

  • へたの状態は、よく乾いているので、あまり参考にはならないと思います。

  • かぼちゃは、よく、「果皮がかたくなったら収穫期」といわれ、かぼちゃに爪を立てて、爪が入らなくなると、完熟した、と判断する人がいます。ただ、これは、品種によって違いがあり、白系のかぼちゃは若干早くかたくなる傾向があります。「鹿ヶ谷」などの日本かぼちゃは、本当にかたくならないと、完熟ではありません。

  • 「九重栗」は、皮がかたくなりません。輸送性、貯蔵性が高くないことが欠点ですが、皮がやわらかい品種を好む方にはおすすめの品種です。「九重栗」は私が初めて作った品種で、他とはちょっと違うハート形で、中の色が濃く、おいしい品種です。1回買った方に、また買っていただきたい、と思って作りました。果皮がかたくないため調理しやすく、病気にも強いので品質的にも安定しています。
◇かぼちゃのおいしさ
  • 関東はホクホク系のかぼちゃが主流で、西のほうはねっとり系が主流ですが、全体の傾向としては、粉質系に移っています。

  • かぼちゃは、旬のものが一番おいしい。かぼちゃの産地はリレーしていき、今の時期は、鹿児島を中心にした九州が終わりかけで、三浦もほぼ終わりかけています。三浦から北関東に移り、東北、北海道と移っていきます。

  • かぼちゃは、夜の温度が23℃を超えると、デンプンが蓄積されにくくなり品質の劣化が起こります。そのため、温度の上昇とともに、産地が移っていきます。八百屋さんは、たいてい、次の産地のかぼちゃが出てくると、それを扱いますよね。次の産地のほうが夜の温度が低いので、おいしくなることを経験的にわかっているからです。

  • かぼちゃは、花が咲いてから20〜25日あたりでぐっと肥大して、その後はあまり肥大しません。デンプンの含有量は20〜40日頃に上がり、その後はだんだん落ちて、糖分が上がります。このデンプンと糖分のバランスがいいときが一番おいしい、と私は思っています。

  • 実がなり、熟してきて、樹の状態が悪くなると、かぼちゃは子孫を残そうとしてタネを充実させて、甘くなる。私は、産地の方にもいっているのですが、「もうすぐおいしくなる」というときに収穫することが大切だと思っています。かぼちゃは、収穫するタイミングが非常に重要です。
◇安定したかぼちゃの生産に向けて
  • 私は、20年以上、かぼちゃの品種改良を行っていますが、つくづく思っていることは、かぼちゃのおいしさは、品種のチカラもありますが、農家さんのチカラのほうが大きい。最初にじょうずな方に作ってもらうと、その品種は普及します。やはり、かぼちゃは産地しだいです。作っている人によって品質が変わります。

  • 一時期、大玉のかぼちゃは、1/4カットにしても大きすぎて売りにくいと、嫌われました。でも、一番おいしいかぼちゃは大玉です。樹の状態がいいほどかぼちゃは大きく、おいしくなり、日持ちもします。7玉ぐらいが好まれますが、本当は3〜5玉のかぼちゃが一番おいしい。

  • かぼちゃは収穫したあと、「風乾」といって、乾かす作業をします。風乾を短時間でやればやるほど、日持ちがよくなります。

  • 最近、昔に比べて、夜温が相当高くなっています。平均温度の積算が影響するといわれていますが、夜温の積算も影響していて、早く仕上がるようになってきていると思います。夜温が高く、収穫までの日数が短いと、食味が淡白になり、収量が落ちます。そこで、最近、いろいろな産地で、親ヅルの一本仕立て、1個しかつけないという栽培方法が増えています。有名なのは、青森の「ダークホース」。カネコ種苗の品種、「恋するマロン」もこの方法で栽培しています。この栽培方法だと1株当たり1個しかとれないので、倍の本数を植えてもらいます。普通は10アールに400〜450株のところ、800株くらい植えて、株数で勝負するわけです。もちろん品質も安定しています。

  • 「恋するマロン」は、ズシリと重い品種で、味の面では非常に自信があります。変わった名前ですが、みなさんにかぼちゃを好きになってほしい、という思いを込めて、私が名付けました。
◇貯蔵のポイント
  • かぼちゃの理想的な貯蔵温度は、10℃だといわれていますが、一番大切なのは、温度変化をさせないことです。20℃ならずっと20℃で一定のほうがいいです。

  • 温度変化をさせると結露が起こります。冷蔵庫のものを外に出すと、結露するのと同じです。北海道などで11月にかぼちゃが腐るのは、夜温の低下でかぼちゃに結露が起こるためです。結露を起こさせないような条件にすることが大切です。

  • 光を当てないことも重要です。光を当てると、果皮が赤くなります。特に白皮のかぼちゃは、結構赤くなってしまいます。

  • もうひとつの注意点は、風を動かすこと。かぼちゃをたくさん仕入れたら、必ず箱から出してください。箱に入れっぱなしだと腐ってしまいます。産地では、扇風機を当てて風を動かしており、出荷する直前に箱に入れます。

◇白皮のかぼちゃについて
  • 最近、冬至の時期も黒皮を扱いたいというお店が増えて、白皮のかぼちゃが減ってきました。でも、12月頃に本当においしいのは、白皮のかぼちゃです。

  • 白皮のかぼちゃは、加熱したときに、薄皮のようなものが残ることがありますが、異物ではありません。白いので、自分を守るために薄い膜を作るんです。もし、買った方から、「あの膜は何?」と聞かれたら、きちんと説明してください。

  • カネコ種苗には、「白い九重栗」という品種があります。「九重栗」はあまり日持ちしないので、白皮の品種を作りました。私は、ぜひ、もう一度、みなさんに白皮のかぼちゃを見直していただきたい、と思っています。

◇かぼちゃ産地の取り組み
  • 神奈川県の三浦地方では、「みやこ」という品種を前面に出しています。とてもおいしいかぼちゃです。三浦は海沿いなので、夏でも夜温が上がりにくく、かぼちゃの品質が低下しにくい。内陸に比べると、温度条件が有利です。

  • 福島の浜通りから、「黄色いハート」という名前で出ているかぼちゃがあります。品種は、「九重栗」です。機会があれば、取り扱ってみてください。

  • 帯広個性園芸出荷組合の「九重栗」は、東京青果の長掛さんが扱っています。
◇かぼちゃ作りの問題点
  • 「がんべ(イボ果)」が出ると、売りにくいといわれますが、実は、「がんべ」のあるものは間違いなく完熟していておいしい。私がかぼちゃを買うときは、「がんべ」のあるものを選びます。

  • 品種によって、「がんべ」が出やすいものと、出にくいものがあります。どちらかというと、白皮のかぼちゃには出やすいです。

  • 市場の方や八百屋さんが、「がんべ」が出たのは扱いたくない、となると、生産者は「がんべ」が出る前にとってしまいます。そうすると、完熟していないので、おいしくない。おいしくなければ、お客さんは買わなくなります。それが一番悪いパターンです。ですから、「がんべ」のかぼちゃは、病気ではなく、完熟すると出やすいんだということを、お客さんに説明してください。

  • まれに、かぼちゃの果肉に白いかたまりが出ることがあり、「クリスタル症状」と呼ばれます。クリスタル症状の果肉を顕微鏡で見ると、細胞はきちんとできており、かぼちゃの組織で、異物ではありません。水はけのいいところで出やすいと思います。

  • 中が白っぽくなるのは、「白色化症状」です。日焼けで外皮に傷がつき、そこから水分が飛んだとか、かぼちゃを乾かすときに日の当たるところにおいてあったなどの理由で、中が乾いてしまうと起こることがあります。白い部分は、カビではなく、繊維質とデンプンで、かぼちゃの組織の一部、ということも、お客さんに伝えてください。
◇かぼちゃ産地の現状と新品種の開発
  • かぼちゃは、他の野菜と違い、面積当たりの収量が増えていない数少ない野菜のひとつです。反収が増えないので、北海道のように面積で勝負している産地はある程度やっていけますが、他の産地は非常に厳しい状況になっています。生産者にとっては魅力がない野菜になりつつあり、私も非常に心配しています。

  • そうした中で、私どもは、「栗五郎」を作りました。節間を短くすれば、畑にたくさん植えられます。しかも、1株からたくさん収穫できます。

  • 夏にまいて、年末から年明けに販売する抑制のかぼちゃのニーズが高まっています。そこで、「九重栗イレブン」を作りました。白いかぼちゃと黒いかぼちゃの中間タイプです。黒いかぼちゃはたくさんとれるのが魅力で、白いかぼちゃは日持ちがいい。両方のよさを併せ持った品種です。

  • 家庭菜園をしている方におすすめなのが、ミニかぼちゃ「パンプキッズ」です。短節間で、少ないスペースでも作ることができるかぼちゃです。

◇ズッキーニは未熟なかぼちゃ
  • かぼちゃには、ペポかぼちゃ、日本かぼちゃ、西洋かぼちゃがあり、ズッキーニはペポかぼちゃの代表格です。

  • ズッキーニは未熟果で、花が咲いてから3〜5日で収穫したものです。完熟すると、ものすごく大きくなります。

  • ナスとズッキーニは、調理法も食べ方も似ています。ズッキーニは西洋料理に使われるイメージがありますが、油炒めや汁の実、浅漬けなど、意外に和風でも合います。

  • 栄養価はあまりなく、だからヘルシーともいえる野菜です。評判がよく、確実に取り扱いが増えています。
◇質疑応答より
  • Q:よく、終わり頃の輸入かぼちゃに、実と皮の間が白くなったものがありますが、原因は?
  • A:現物を見ないと正確にはわかりませんが、可能性としては2つあります。1つは、打撲により一部の組織が壊死して、その部分の水分が飛んだためではないか。もう1つは、日焼けにより、表皮の一部が死んでしまったのではないか。一部が白くなっていたとしても、それは繊維とデンプンで、カビではありません。

  • Q:「グランドマーク」とは?
  • A:かぼちゃは、地面についている部分の皮が果肉と同じ色になります。それを「グランドマーク」と呼んでいます。1/4にカットしたとき、「グランドマーク」がついているところは売りにくいので、「グランドマーク」をつけないようにしている産地もあります。

  • Q:「グランドマーク」があるほうが甘い、ということはあるのですか?
  • A:それはありません。ウリ科の野菜は、上と下では甘さが違います。花落ちのほうが甘く、やわらかい。かぼちゃを1玉買って、家庭で保存するときは、ひっくり返して花落ちを上にすると、かたいほうが下になるので、日持ちします。

  • Q:「恋するマロン」は株数を増やして栽培しているそうですが、面積的には問題ないのですか?
  • A:まったく問題ありません。親ヅル1本仕立てといって、わき枝をとってしまうので、面積的には問題がなく、おいしいものができます。私は、いい栽培方法だと思っています。

  • Q:かぼちゃは追熟しますか?
  • A:追熟する野菜です。ただ、私は、貯蔵用の品種以外は、とってすぐのほうがおいしいと思います。

  • Q:冬至のかぼちゃはおいしくないといわれるのですが…?
  • A:それは先入観だと思います。冬至のかぼちゃには、貯蔵するタイプと、抑制タイプの2種類があります。貯蔵は、北海道を中心に、9月にとったものを11月以降に売ります。抑制は、7〜8月に播種して、11〜12月に収穫します。抑制のかぼちゃは甘くありませんが、粉質感、果皮色はいい。貯蔵のかぼちゃは、甘みは強いのですが、欠点は果皮が汚いこと。どちらを選ぶかは、お客さん次第です。ホクホクがいいか、甘いのがいいかを聞いておすすめするといいと思います。

  • Q:貯蔵用のかぼちゃはデンプン含量が少ない、ということですか?
  • A:貯蔵用はデンプン含量が高い場合が多いです。糖化する速度が遅いんです。白いかぼちゃが典型ですが、とってすぐよりは少し経ったほうがおいしいと思います。かぼちゃは、最初にデンプンがたまって、それがだんだん糖分に変わっていきます。そのときに水分も出るので、時間が経ち過ぎるとベチャかぼちゃになってしまいます。デンプンと糖分のバランスがいい時期がおいしい。その変化の仕方が品種によって違うわけです。

  • Q:白いかぼちゃも、畑で熟させるとおいしいのですか?
  • A:畑で熟させるとおいしいのですが、「がんべ」が出ます。知り合いの農家さんがいたら、白いかぼちゃを「がんべ」が出るまで畑においてもらってください。見た目は悪いけれど、本当においしいかぼちゃができます。また、白いかぼちゃは、加熱すると薄い緑色になります。白いまま食卓に上ることに違和感があって買わない方がいるので、それも伝えていただきたいと思います。

  • Q:個撰のかぼちゃは、味のばらつきが結構多いと思うのですが…?
  • A:個撰だから甘い、甘くないということはないと思います。かぼちゃは、とるタイミングが難しい。たまたま、とるタイミングが揃わなかったのではないでしょうか。個人でもしっかり収穫時期を見極めている方はたくさんいらっしゃいます。

  • Q:今後、こういうかぼちゃを作りたい、というのがあれば聞かせてください。
  • A:私は、みんなが好きになってくれるかぼちゃを作りたい。それが、すべての目標です。

  • Q:八百屋はどのような取り組みをすればいいのでしょうか?
  • A:八百屋のみなさんには、かぼちゃについて正確にご理解いただき、それをまた消費者の方に伝えていただければありがたいと思います。

 

 
 

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