■2016年11月20日 第8回 さつまいも・柿 〜 講演「さつまいもの需要と品種動向」 一般財団法人いも類振興会 理事長 狩谷昭男氏
◇さつまいもの生産・消費動向
 1.生産動向
  • 過去10 年間におけるさつまいもの生産動向は、おおむね作付面積は4万ha、生産量は100万t、10a当たり収量は2400kgで推移しています。2010年(平成22年)以降は、全国的に作付面積、生産量とも微減傾向ですが、主産県の茨城県では微増しています。

  • さつまいも生産における過去の最高値は、作付面積では1949年(昭和24年)の44万ha、生産量では1955年の718万t、10a当たり収量では2005年(平成17年)の2580kgです。
一般財団法人いも類振興会 理事長 狩谷昭男氏
  • さつまいもの主産県をみると、青果用および加工食品用では茨城県(1位)、千葉県(2位)、鹿児島県(3位)、徳島県(4位)、熊本県(5位)、宮崎県(6位)です。でんぷん用は鹿児島県のみで、いも焼酎などのアルコール用は鹿児島県と宮崎県が主産県です。
 2.消費動向
  • さつまいもの消費動向を示す資料として、農林水産省の「さつまいもの用途別消費調査」がありますが、この調査は、都道府県からの報告を農林水産省がまとめた大まかなもので、実態とは合わない点もあり留意が必要です。
 (1)用途別消費の推移
  • 農林水産省のデータによると、さつまいもの用途別消費量は、でんぷん用と青果用が減少傾向にあり、いも焼酎などのアルコール用と加工食品用が順調に伸びています。

  • 特に加工食品用は、1985年(昭和60年)頃から消費拡大傾向にあり、生いも換算で年間8〜10万tが消費されています。
 (2)消費が伸びている加工食品の品目別仕向量の推移
  • 加工食品用を品目別でみると、干しいも用、いもけんぴやスイーツなどの菓子用、焼きいも用、大学いも用は、いずれも増加傾向にあり、色素用は横ばい傾向にあります。

  • 2013年(平成25年)度の生いもの使用数量でみると、干しいも用は4万5,600t、菓子用は2万4,000t、焼きいも用は6,800t、大学いも用は1,800t、色素用は1,600t、惣菜用は700tとなっています。

  • 農林水産省のさつまいも用途別消費調査における加工食品用向けの生いもの使用数量は、実態を反映した数字になっていない点もあります。そこで、一般財団法人いも類振興会では、さつまいもの加工食品企業関係者からの聞き取り結果も加味して推計を試みました。それによれば、焼きいも用は約6万tないしそれ以上、干しいも用は約5万t、菓子用は約5万4千t(うち、いもけんぴ用は約2万4千t、菓子用ペースト・いもようかん等は約3万t)、大学いも用は約1万2千t、惣菜用は約5千t、色素用は約1.6千t、合計でおおむね18万tでした。つまり、実際にはさつまいもの加工食品用の消費量は、農林水産省のデータの2倍程度あると推測されます。
◇さつまいもブームの主な要因
  • 現在、加工食品用を中心に進行中のさつまいもブームの要因は、次の4 点だと考えられます。
 1.すぐれた健康食品
  • さつまいもは食物繊維を多く含むため、腸内環境を整えるとされ、栄養価や、ビタミン、ミネラルといった機能成分からみても「準完全栄養食品」と呼ばれている健康食品です。

  • さつまいもは農薬の使用量が少なく、焼きいもや干しいもなどの加工食品でも添加物を使用しません。さつまいも自体が持つ素材の味を十分生かすことのできる自然食品です。

  • 高齢化社会を迎え、国民の最大関心事は「健康」です。さつまいもは高い健康志向の潮流に乗り、おいしいことに加え、健康の保持・増進にも寄与するすぐれた食品として、人気があります。
 2.甘いしっとり・ねっとり系品種の育成
  • 1800年(寛政12年)〜2000年(平成12年)頃までの長い期間、さつまいもは肉質が締まったかたくてほくほく系の品種が人気で、水分の多いやわらかい品種は不人気でした。

  • 2003年(平成15年)頃を境に、甘くておいしいしっとり・ねっとり系の鹿児島県種子島産「安納紅」を主体とする"安納いも"が普及していきました。また、2007年(平成19年)に育成されたしっとり・ねっとり系の代表品種となった「べにはるか」は、2011年(平成23年)頃から急速に全国で普及し、人気No.1品種となっています。
 3.さつまいもの周年供給と新加工技術の開発
  • キュアリング貯蔵技術の進歩によって、さつまいもはかつての冬季の食べ物というイメージから、"夏でもさつまいも(焼きいも)の時代"へとさまがわりしました。キュアリング貯蔵技術とは、収穫後すぐに30〜35℃、湿度90〜95%の貯蔵庫で4日間おくという処理です。キュアリングによって、さつまいもの表面に近いところにコルク層ができ、病原菌や腐敗菌をガードしてくれるため、その後、定温貯蔵庫で長く貯蔵できるようになります。

  • 加工技術の開発も盛んに行われ、焼きいもでは電気式自動焼きいも機、干しいも製造では天日干しの自然乾燥から機械乾燥が急速に普及しつつあります。このように、新しい加工技術の開発が、さつまいも加工食品産業の発展を支える大きな要因となっています。
 4.マーケティング・イメージアップ戦略の展開
  • 1990年(平成2年)代後半から企業・農協はマーケティング活動にも挑戦していきました。たとえば、スーパーマーケットなどに電気式自動焼きいも機を設置し、いつでもどこでも購入できる体制を整備しました。干しいもではコンビニエンスストアやドラッグストアにも、売り場を確保しつつあります。

  • さつまいものマイナスイメージをプラスに変えるイメージアップ作戦も進められました。たとえば、1994年(平成6年)からフェスティバロの郷原茂樹会長は空港でお洒落なさつまいものレアケーキを販売し、客室乗務員・観光客から大好評を得ました。2004年(平成16年)には大阪の白ハト食品工業が、東京・銀座の三越で焼きいも専門店を開設し、焼きいものイメージアップに大きく貢献しました。
◇さつまいも品種の新たな潮流
 1.スター品種の登場
  • 1945年(昭和20年)に「高系14号」が育成され、その後この品種から選抜された"なると金時"、"五郎島金時"、"紅さつま"などは今も活躍しています。

  • 1966年(昭和41年)には、「コガネセンガン」という用途の広い万能品種が育成されました。この品種は当初でんぷん用でしたが、その後いも焼酎用の主力品種となったほか、いもけんぴ用や菓子用のペーストとしても広く利用されています。

  • 1984年(昭和59年)には、ほくほく系の代表品種「ベニアズマ」が育成されました。

  • 2007年(平成19年)には、しっとり・ねっとり系の代表品種「べにはるか」が育成されました。

  • このように、1945年(昭和20年)以降、おおむね20年ごとに主力となる新品種が登場しました。この4つは、今もまだ現役であり、非常にすぐれた形質を持っていることを示しています。
 2.3つの大きな変化
 (1)ほくほく系からしっとり・ねっとり系へ
  • 肉質と食感からみた青果用と加工食品を含む食用さつまいもの品種は、粉質(ほくほく系)、粘質(ねっとり系)、中間質(しっとり系)の3種類に分類できます。掘り取り直後でいえば、代表品種は、ほくほく系が「ベニアズマ」、「パープルスイートロード」、「種子島ゴールド」など。ねっとり系が「べにはるか」、「安納紅」、「べにまさり」、「ひめあやか」など。しっとり系が「高系14号」(派生系統"なると金時"、"五郎島金時")、「クイックスイート」など。ただ、これは、品種の特性、貯蔵条件などにより、変化することもあります。

  • "安納いも"が注目され始める2003年(平成15年)以前は、かたいほくほく系品種一色だったのが、2007年(平成19年)に「べにはるか」が育成され、その後の普及拡大によって、ほくほく系からしっとり・ねっとり系の品種へと急速に代わりつつあります。
 (2)嗜好が甘みの強い品種へ
  • 2002年(平成14年)以前までは、「ベニアズマ」、「高系14号」のように、ほどほどの甘みを持つ品種が主流でした。

  • 2003年(平成15年)以降は、"安納いも"、「べにはるか」のようにしっとり・ねっとり系でしかも甘みの強いおいしい品種が人気を呼び、消費拡大を牽引しています。
 (3)色調に富む多彩な品種へ
  • 世界には約2000種のさつまいもがあるといわれており、多彩な色調を有するカラフルな品種が数多く存在しています。日本では1900年(明治33年)〜1980年(昭和55年)代までの間、消費者からは主として表皮が赤色系、肉質は白色系が好まれてきました。

  • 1990年(平成2年)代以降からは、カロテン(黄色系)やアントシアニン(紫色系)を含む多様な色調を持つ品種が登場しています。黄色のカロテン系は「ベニハヤト」(菓子)、「農林ジェレット」(ジュース)、「サニーレッド」(パウダー、ペースト)、「アヤコマチ」(惣菜)、「ハマコマチ」(干しいも)、「ヒタチレッド」(干しいも)など。紫色のアントシアニン系は「アヤムラサキ」(色素、パウダー、ジュース)、「ムラサキマサリ」(色素、焼酎)、「アケムラサキ」(色素)などで、機能性成分にも注目が集まっています。

  • 消費者がさつまいもを購入する際は、従来のおいしさを構成する食感・甘さ・香り(風味)の基本要素に加え、新たに目で楽しむ色調も重要要素となってきています。

◇加工食品用さつまいもの品目別動向と使用品種

 1.焼きいも

  • 日本における焼きいも商いの歴史は300年間で、この間、4回のブームが起きています。2003年(平成15年)からの第4次焼きいもブームは現在も続き、年間約6万t以上が消費されています。

  • 焼きいも用の品種は、これまで東日本では「ベニアズマ」、西日本では「高系14号」とその派生系統が主体でした。近年では、これらに加えて、「べにはるか」が全国的に普及しています。

 2.干しいも

  • 干しいもの発祥地は静岡県の御前崎で、1824年(文政7年)から商品製造が始まりました。現在は茨城県が干しいも生産量の約90%を占めています。

  • 近年の干しいもは、乾燥を軽くし、やわらかく食べやすい甘い製品が多いのが特徴です。形状は、平干しが主流ですが、丸干し、角干し、焼き干しいもなどと多様化しています。

  • 干しいも用の品種は、従来の「タマユタカ」から、甘くてしっとり・ねっとり系で色調がきれいな「べにはるか」へ移行しています。

 3.いもけんぴ

  • いもけんぴは、さつまいもを短冊状に切って食用油で揚げ、砂糖を絡めたスナック系の和菓子です。

  • いもけんぴ用さつまいもの年間使用量は、約2万4,000tです。いもけんぴの主力製造企業は高知県の澁谷食品で、総生産量の約50%を占めています。

  • いもけんぴ用の品種は、「コガネセンガン」が大部分を占めています。

 4.大学いも

  • 大学いもとは、食用油で揚げたさつまいもに糖蜜を絡めた菓子で、名前は東京大学の学生が考案したことに由来する、といわれています。

  • 大学いもの生産量は、白ハト食品工業が約80%を占めているとみられます。また、大学いも用に使われているさつまいもは約1万2千tです。

  • 大学いも用の品種は、"紅さつま"、「ベニコマチ」、紫色系・黄色系品種などです。

 5.菓子

  • さつまいもスイーツとしては、洋風菓子、和風菓子など多種多様な商品が販売されており、1985年(昭和60年)前後から消費が伸びています。

  • スイーツ商品は、規格品の大量生産・大量消費型ではなく、個性的なものが多く、スイーツ製造企業の創意工夫によって新商品が生まれている、といえます。

  • スイーツ用の品種は、商品用途によってさまざまですが、主なものとして、「ベニアズマ」、「高系14号」、「コガネセンガン」、「ちゅら恋紅」などが挙げられます。

 6.惣菜

  • 惣菜では、一般的にてんぷらや煮物に利用されることが多く、業務用惣菜として約5千tが使用されているとみられます。

  • 惣菜用の使用品種は、東日本では「ベニアズマ」、西日本では「高系14号」とその派生系統などが多くなっています。惣菜用品種は、スイーツのような甘さはそれほど重要ではなく、むしろ甘さ控えめで、食感、風味の良さが求められています。

 7.色素

  • アントシアニン系着色料の中で、国産さつまいもから抽出して製品化されている色素の一つに、紫さつまいもの色素があります。2013年(平成25年)度に色素用に使用されたさつまいもは1,600tでした。

  • さつまいもの色素は、主に菓子用ゼリーや飲料の着色料として利用されています。
◇茨城のさつまいもについて
  • ここまで、さつまいもの需給動向と品種の動きについてお話ししましたが、本日は、茨城のさつまいもについてのリーフレットをお配りしましたので、それについても少し説明します。

  • 茨城は、でんぷん、焼酎用を除いたさつまいもの生産量が日本一の県です。品種は、「ベニアズマ」、「べにまさり」、「べにはるか」。今までは、「ベニアズマ」が消費量のトップでしたが、現時点では、2007年(平成19年)に世に出た「べにはるか」がトップになっていると思います。12〜1月くらいまでが「べにはるか」、そのあとに「べにまさり」を出し、熟成の遅い「ベニアズマ」を3〜8月くらいまでと、この3品種で周年供給体制をほぼ確立しています。

  • さつまいもの甘さは、麦芽糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖の4種の糖で構成されています。掘り取り直後はでんぷんの糖化が進んでいないので、少なくとも1ヶ月くらいは寝かせて、糖化が進んだいもを出荷します。

  • さつまいもには、いろいろな食べ方があります。リーフレットには、さまざまなレシピが載っていますので、参考にしてください。

  • でんぷんが糖に変わるためには、外側の温度が200〜220℃だと中は70℃前後になり、β-アミラーゼという分解酵素がよくはたらきます。ですから、焼きいもは、この温度でじっくり焼くとおいしくなります。落ち葉のたき火で1時間〜1時間半ほど焼くとおいしい焼きいもになりますが、それほど時間がかけられないのであれば電子レンジで8〜15分、オーブントースターなら30〜40分でおいしくできあがります。

  • 産地や時期にもよりますが、一般的なおいしいさつまいもの選び方は、全体が均等な色で、ハリとツヤがあるなめらかなもの、よく太った紡錘形のものがよいといわれます。極端に細いもの、デコボコしたものは避けたほうがよいでしょう。また、ひげ根のあとがあまり深くないもののほうがおすすめです。

  • さつまいもは、もとは亜熱帯産の作物です。日本に入ったのは1605年(慶長10年)、今年で411年目です。品種、栽培技術の進化、温暖化などにより、10年ほど前から北海道でも経済栽培ができるようになりました。

  • さつまいもは、寒さと乾燥に非常に弱い作物です。貯蔵温度は13〜15℃、湿度80〜90%がベストで、産地では定温貯蔵庫で保存しており、9〜10月に収穫したものが8月くらいまで食べられます。かつては冬の食べ物というイメージでしたが、今は夏場でも少しずつ需要が出てきています。

  • 購入後のさつまいもは、絶対に冷蔵庫には入れないでください。新聞紙に包んで段ボールなどに入れ、常温で保存しましょう。

◇質疑応答より

    Q:ひげ根のあとが浅いものと深いもの、形が丸いものと長細いものでは、食味も変わるのでしょうか?
    A:中身の品質や甘さにそれほど影響はないと思います。ひげ根のあとが深いと皮を多くむかなければならないので、使いやすさを考えると浅いものがおすすめです。

    Q:店に来るお客さまが「さつまいもは太るから毎日は食べられない」というのですが、本当ですか?
    A:女子栄養大学の香川綾先生はいもが大好きで、じゃがいもかさつまいもを毎日150g食べておられたそうです。150gというと、中サイズのさつまいも半分くらいです。それぐらいであれば毎日食べても太らないし、いろいろな栄養素も摂れて健康にいいと思います。

    Q:「さつまいもを食べると胸焼けする」というお客さまがいるのですが、いい対策はありませんか?
    A:ほくほく系のさつまいもは、牛乳やお茶など、水分といっしょに食べると胸焼けを起こしにくくなるはずです。最近、ほくほく系よりも、しっとり・ねっとり系が人気なのは、胸焼けを起こしにくいという面もあるのかもしれません。

    Q:肉の色と甘みに関係はあるのでしょうか?
    A:品種による違いのほうが大きく、色と甘さは直接は関係していないのではないでしょうか。品種により、食べ頃の時期があるので、最もおいしい時期を把握して仕入れと販売をすると、消費者の方にも喜ばれるのではないかと思います。

    Q:「シルクスイート」という品種の長所やほかのさつまいもとの違いを教えてください。
    A:5〜6年前に群馬のカネコ種苗から出た品種で、色は赤紫で肌がなめらか、ひげ根も浅いさつまいもです。しっとり・ねっとり系で、上品なバランスのよい甘さが特徴で、徐々に人気が出ており、関東方面を中心に、少しずつ増えています。

 

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