■2016年8月21日 第5回 なす・なし 〜 講演「なす」について 八百屋塾元実行委員長/杉本青果店店主 杉本晃章氏
◇はじめに
  • 北千住で八百屋をしている杉本です。私は50年間、市場に出回るなすを見続けてきました。新潟県の長岡など、全国各地の産地になすを見に行ったこともあります。そうした経験から、なすについてお話しします。
八百屋塾元実行委員長/杉本青果店店主
杉本晃章氏
1.なすの種類
  • 日本のなすは、大きく分けて、九州の長なす系統、関東の卵形なすの系統、東北・長野・京都あたりに存在する丸なす系統に分類されます。

  • 高知の「小なす」はずいぶん改良されており、もとは「小丸なす」です。よく辛子漬けにして売られている山形の「民田なす」と似たものです。

  • みなさんが販売しているのは、関東の卵形なすの系統がほとんどだと思います。品種は、栃木県中心に作っている「千両2号」です。昔の「千両1号」を改良したもので、これをさらに改良したのが「式部」です。皮をかたくしたため、日持ちがよくなり、色もボケにくいので、八百屋としては売りやすくなりました。ただ、中はスポンジ状で、いくらでも油を吸ってしまいます。

  • 外国のなすと日本のなすは、ヘタの色で見分けられます。外国のなすはヘタが青、日本のなすは紫色です。外国のなすは総じて、皮がかたく、中がやわらかい。皮がかたいなすは、しなびにくいので、売りやすいのは確かです。皮がかたいかどうかは持つとすぐにわかります。

  • 最近は皮が縞模様の「ゼブラなす」のような変わったなすを見かけるようになりました。イタリアンのお店の人がよく買ってくれます。皮がゼブラ模様なだけで、調理法はほかのなすと同じです。
2.なすの食べ方
  • 最近は、「なすを生で食べたい」というお客さまが増えています。生で食べておいしいなすとして最も有名なのは、大阪の「泉州水なす」ですが、ふつうのなすも生で食べられないわけではありません。薄切りにし、塩をパラリとふって、しばらくおくと水けが出てくるので、ギュッと絞り、そのままかしょうがじょうゆなど、好みの味つけで食べる。サラダに入れてもいいですね。そういう食べ方を提案してください。

  • 関東の人は、なすの食べ方というと、麻婆なす、焼きなす、味噌汁くらいです。新潟では、なすは蒸かして食べます。2〜3キロいっぺんに蒸かし、粗熱を取って冷蔵庫で冷やします。めんつゆなどに漬けて味を含ませて、冷たいまま食べます。いっぺんに大量に作るので、なすの消費量が関東とはまったく違います。もし、お店に来るお客さまに新潟の人がいたら、八百屋が逆においしい食べ方を聞くといいと思います。私の野菜の先生は、「産地に見学に行ったら、食べ方も教わってきなさい」と、よく言っていました。伝統品種は、何百年ものあいだ、その土地で育まれてきたものです。現地には、その野菜をおいしく食べる食文化も継承されています。

  • 一般家庭ではなすの漬けものをしなくなりました。市販のなすの漬けものは、色が飛ばないよう、みょうばんを加え、強い塩分で下漬けし、そのあとに水で脱塩して、調味液に漬けています。私がなすを漬けるときは、なすの重量の4〜5%の塩分にしています。8%くらいにすると塩辛い、といわれます。今の消費者は水で塩出しして食べるといったことはしません。
3.伝統品種とハイブリッド
  • なすは、地方野菜、伝統品種として固定されたものが非常に多い野菜のひとつです。

  • 関東で一般的な卵形のなすを売っていて、お客さまから「この間のなすはおいしかった」などと言われたことがありません。ハイブリッドだからです。ハイブリッドは、「雄性不稔(ゆうせいふねん)」といって、タネができないようにしてあります。花が咲かないのでトウが立ちにくく、生産者にとっては栽培しやすくなります。これに対して、伝統品種は、1軒1軒の農家がタネを採り、伝え続けています。

  • 新潟の長岡では、20種類ほどの固定種が栽培されています。系統を調べると、少しずつ違うそうです。ルーツは同じでも、生産者が違うとまた違う。1個1個のタネに個性があり、今のハイブリッドのものとはまったく違います。

  • 伝統品種のなすは、実がしまっていて緻密です。煮物にしても崩れにくく、揚げてもあまり油を吸いません。また、皮がやわらかいので漬物にしても食べやすいのが特徴です。今日は、「十全なす」と「真仙中長」の2種類を漬けものにしてきましたので、のちほど食べてみてください。
4.伝統品種の売り方
  • うちの店では、関東で一般的な卵形のなすも売っていますし、丸なす、小なす、伝統品種のなすも扱っています。ほとんどのお客さまは卵形のなすを買いに来るのですから、そこがプロの腕の見せ所です。伝統品種のなすは、食べ方などを説明しないと買ってもらえません。市場には、今の季節、長岡のなすなどもたくさん入ってきています。おいしいわりには市場では知られていないので、それほど高くありません。ただ、知っている人は値段には関係なく買ってくれますから、安く売ればいい、というものでもありません。八百屋塾で勉強しておけば、市場でそういうなすをみかけたときに、自信を持って仕入れることができます。

  • この時期は、「丸なす」、「大長なす」などの伝統品種が豊富に出回ります。先日、ある飲食店で、米なすの田楽が出てきて、ちょっとガッカリしました。おそらく1年中、「米なす」と注文しているのでしょうが、今の季節ぐらいは、伝統品種の「丸なす」を使えばいいのに、と思いました。「丸なす」や「大長なす」のように形状に特徴があるなすは、店のカウンターに並べて見えるようにしておけば、「これ何?」と話題にしてくれます。1回食べれば、おいしいのはすぐにわかりますから、次からは「今日はあれないの?」と聞いてくるようになります。

  • 先日、学校給食でなすの注文がありました。何に使うのか先生に聞いたら、ズッキーニやかぼちゃといっしょに夏野菜カレーにする、というので、新潟のなすをおすすめしました。実がしまっているので煮込んでも崩れません。伝統のなすは、そういう提案をすれば需要が伸びます。
◇おわりに
  • 今日は、いろいろな伝統品種のなすが並んでいます。よく覚えて、市場で見かけたら、さっと買えるようにしてください。

  • お客さまにおすすめするには、まず、自分で食べないとダメです。特徴がわかる一番いい方法は、ゆでること。自分の好きな料理にしたら、おいしいと思うのはあたりまえですから、味つけせずにそのままシンプルな調理で食べてみることが大切です。
 

【八百屋塾2016 第5回】 挨拶講演「なす」について|勉強品目「なす」「なし」|食べくらべ