■2016年9月11日 第6回 西洋野菜 〜 Mr.八百屋のここだけの噺 樋口公一氏
◇第3回「ぶどう」
 先日、お客さまに、「大田市場の仲卸で、果物を見ただけでおいしいかどうかわかる人がいるんですって?」と聞かれました。テレビでそういう番組があったんですね。でも、「アールスメロン」、スイカ、なし、どれも、見ただけでは味のわかるものは一品もありません。

 高級な「アールスメロン」は生産者の名前が入っていますから、名前を見れば、技術の高い人かどうかはわかります。でも、私の知っているメロンのプロは、温室の棟が変わるたびに切って食べています。私が知る限り日本一のスイカの目利きのプロも、自分が扱うスイカは毎日切って食べています。見ただけでおいしいかどうかわかるというのは、嘘だと思ってください。それよりも、自分の目、舌、鼻を信じて、それを磨いてください。食べなければ、おいしいかどうかはわかりません。それがプロとしての最低条件だと、いつも心に刻んでおいてください。

樋口公一氏

 「アンデスメロン」は、「安心です」の略です。ネットが「アールスメロン」に似ていて、大変重宝された時代がありました。ところが、「アンデスメロン」は糖度を上げるとすぐに発酵してしまいます。食べ頃が続く時間が極端に短い。「安心です」どころか、「危険です」メロンなんですね。私が納品している先も、2年前まで「アンデスメロン」だったのですが、どうも評判がよろしくない。かたければおいしくありませんし、おいしいものは1日で発酵してしまいます。そこで、かわりに「タカミメロン」を持っていきました。可食期間はアンデスが4日だとしたら、タカミは10日。糖度もあり、発酵しません。赤肉のメロンであれば、「レノン」をおすすめしています。名前はジョン・レノンに由来しているそうですが、タネが少なくて、肉の厚さがどこもほとんど変わらず、皮のすぐそばまで食べられます。学校給食というのは、一度決まったメニューはめったに変えてくれません。いつまでたっても、2月にはっさく、3月に甘夏と言われ、キウイフルーツもかたいほうが歓迎される。それはないでしょう、と言ってもなかなか難しいのですが、諦めず、相談や提案をしていくべきです。

 ぶどうの話に移りましょう。私はぶどうとの最初の出会いは「デラウェア」だったと記憶しています。タネありでした。そのうち、タネなしの「デラウェア」が出て、「ずいぶん食べやすくなったけど、ちょっと粒が小さいな」と思っていたところに、「巨峰」が出ました。信州の「巨峰」は、当時、びっくりするほど売れました。それからタネなしの「巨峰」が出るようになり、「もっと大きいといいのにな」と思っていたら「ピオーネ」が出ました。でも、「皮ごとは食べられないんだよな」となって出てきたのが、「シャインマスカット」です。皮のまま食べられて、甘くて、タネがなく、香りがいい。ぶどうとしては、100点満点です。山梨、長野、岡山あたりが主産地ですが、いまやぶどうの産地であればどこでも作っています。

 岡山の「シャインマスカット」がまだ出たてで価格も高い頃、特上品はほぼすべて同じ仲卸さんの札がついていて、上海、香港に輸出される、と聞きました。富裕層恐るべし、と思いましたが、そのうちにおいしいものは何でも、値段のことを言わないところに行ってしまうかもしれません。

 石川県の開発したぶどう「ルビーロマン」は、赤くて、ピンポン玉ぐらいの大きさがあり、1房1万円を超すものもあります。粒の大きさはすごいので、値打ちはあると思います。味も悪くはありませんが、目をつぶって食べると、「藤稔」の香りがするんですね。「巨峰」や「ピオーネ」とは違う昭和の香り。好みですが、価格を考えるとなかなか販売は難しいと思います。

 本日は、「雄宝(ゆうほう)」というぶどうをお持ちしました。粒が大きく、皮ごと食べられるのですが、あまり甘くない「天山」と「シャインマスカット」を掛け合わせたものです。岡山と信州のもので、色は緑です。甘さは「シャインマスカット」のほうが上でしょう。一昨日、山梨からアメ色になった「シャインマスカット」が届き、糖度を測ってみたところ、23度ありました。甘いスイカが12〜13度ですから、べらぼうな甘さです。甘すぎてたくさんは食べられません。「雄宝」は、糖度18度でした。

 お客さまから、「ナイフとフォークで食べられるほど大粒のぶどうは初めて」と言われました。皮は、岡山の「シャインマスカット」よりもっと薄いのではないか、と思います。粒が大きいだけではなく、味のグレードがここまで高いのは私も初めてです。甘さだけではなく、全体のバランスがいい。みなさんもよければ味見をしてみてください。緑色のぶどうは売れないという定説は、「シャインマスカット」以降、崩れました。来年以降、これが潤沢に出てくるかどうかはまだわかりませんが、こういうものがどんどんぶどうの世界では増えてくるはずです。ほかの商品に関しても同様で、げにこの商売は楽しきかな、です。

雄宝

 

【八百屋塾2016 第6回】 挨拶講演「西洋野菜を改めて考える」|勉強品目「西洋野菜」|
特別講演「より一層のプロ意識を持つ」食べくらべMr.八百屋のここだけの噺