■2016年6月12日 第3回 トマト・スイカ 〜 Mr.八百屋のここだけの噺 樋口公一氏
◇第2回「いい店と呼ばないで、変わった店と呼んでください」
 橋本さんのスイカの説明の中で、「三山」という名前が出ました。その昔、千葉の牧山といえば、「三山」でした。

 「三山」は、あっという間に皮が割れてしまうスイカで、ネットに入れて思い切り持ち上げるだけでも割れてしまうほどでした。割れ方にも特徴があり、身と皮が外れ、極端にいうと湯むきしたトマトのようになりました。その後、品種改良をして、多少は皮が厚くなりました。先日、山形の大久保で、「三山」を作っている人がいるらしい、という話を聞きました。私ももう一度、食べてみたいな、売ってみたいな、と思います。

樋口公一氏

 橋本さんのお店も、杉本さんの北千住のお店も、大変な人気店です。お二人に共通しているのは、強烈な個性の持ち主だということです。おいしいものはおいしい、まずいものはまずい。決して嘘は言いません。商売人にとって、本当のことを言い続けるのは難しいこともあります。「これ、おいしい?」とお客さまに聞かれたとき、つい、「まあまあですよ」と言ってしまったりもします。橋本さんは、絶対にそんなことは言いません。

 昔は能力や立地条件にかかわらず、モノが売れた。厚利多売ができた時代でした。今、野菜や果物は八百屋ではなく、スーパーマーケットが主力です。個人店が大型店に対抗するのは無理な話です。

 では、八百屋さんはダメになる一方なのか? まだ、生き残る道はあります。八百屋さんは、四季折々の野菜と果物に接することができ、自分の扱うもので人の健康に貢献できる幸せな商売です。売れないから辞めた、と簡単に投げ出してしまうのはもったいない職業だと思います。

 八百屋さんの利益率はどれくらいかというと、一般的には20%前後、目標は25%といわれています。でも、分母が1500万と3億ではだいぶ違います。分母を変えたいなら、小売だけでなく、納品事業を始めるべきです。安定しているのは、行政関係。小学校の給食から始めるといいと思います。分子を変えたいなら、加工品を作って販売するのが一番の近道です。保健所の許可が必要ですが、それほど難しくはありません。

 私は主に果物を扱っていますので、実がやわらかくなってしまった早生りんごや、傷が入ってしまったいちごをジャムやペーストにしています。カットフルーツも4種類くらい、毎日切って売っています。ただ、カットフルーツは、人通りがないと成功しません。100人以下の客数では厳しく、逆にロスが出る可能性もあります。

 おすすめは、「むき栗」です。私はもう9年やっています。1年目はうまくむけませんでしたが、2年目からきれいにむけるようになり、3〜4年目になると予約が入るようになりました。今は、8月末になるとお客さまから「むき栗まだなの?」と、催促が来ます。むき栗は、凍らせておくことができます。月に1〜2回、それを甘露煮にすると、また売れます。パートさんを雇ってむいてもらうのは大変ですが、自分で店番をしながらむくのであればできますよね。今シーズンも、かなりの量を冷凍していたのですが、2月にはすべて売れました。

 

 むき栗がなくなったら、「らっきょう漬け」です。お客さまに「やらないの?」と言われて、作ってみたら、「おいしい!」と褒められたのがきっかけです。私は、らっきょう漬けをビニール袋やパックではなく、もっとおしゃれなパッケージで売りたい、と思いました。去年、100円ショップで見つけたのが、ハンドルのついた瓶。4種類あり、250グラム入ります。これで販売したところ、今年のブレイクはすごかった。20代、30代の若い子も買ってくれますし、リピートしてくださるお客さまもいらっしゃいます。根付きと洗いでは味が違う、と言われたのですが、やってみたところ、どちらも変わりませんでした。むしろ、洗いのほうが漬かる時間が早いので、2週間ほどで出せます。もっと日にちをおくと差が出るのかもしれませんので、そのうち試してみたいと思います。
らっきょう漬け4種

 先日、TVKの番組の撮影隊が店の前を通りかかり、らっきょうを食べたいというので、食べさせてあげたら、放送が終わったとたんに引き合いがたくさんありました。翌日には、遠方からもお客さまが来てくれました。

 月に1回、商店街でやっている売り出しのチラシに、私が何を書いているか。「俺のスイーツ」、いちごゼリー、メロンゼリー、その他各種。「俺のらっきょう」、甘酢、しょうゆ、甘梅酢、塩の4種類。函館ホタテ飯の素、博多スープラーメン、ご当地グルメガチ対決。1000円以上お買い上げで抽選1回、などなど…。何のお店かわかりませんね(笑)。大根がいくら、玉ねぎいくら、というのはもうやめました。アンケートをとったところ、8割の方が、「もう一度来たい」と回答してくれました。

 これからは、どうやって存在感を出していくか。いい店でなくていい、変わった店になりなさい。嫌いと言われるのが50%だとしても、好きだと言ってくれる人が50%いればいい。そうなったとき、初めてあなたのお店は成功している、といえるのではないでしょうか。

【八百屋塾2016 第3回】 挨拶講演「ミニトマト」について|勉強品目「トマト」「スイカ」|食べくらべMr.八百屋のここだけの噺