■2016年9月11日 第6回 西洋野菜 〜 特別講演「より一層のプロ意識を持つ」〜 納めの仕事について、プロの八百屋としての心構え、考え方 〜 を学ぶ  多摩支所 柳澤俊宏氏
◇八百屋を継ぐまで
  • 東京多摩青果多摩支所青年会、青年副会長の柳澤俊宏です。国立市で八百屋「Yショップ柳澤」をしており、現在50歳です。

  • 私が子どもの頃からうちは八百屋でした。当時の住所は国立町谷保村、店の前はバス通りでしたが、砂利道で、バスが通るとホコリが舞い、父親がはたきでよくほこりを落としていました。店のまわりは麦畑で住宅はほとんど建っていませんでしたが、お客さまは、早朝、店を開ける前から来ましたし、開けるといっぱいになって、毎日2トントラック2台分くらい野菜を売っていました。暮れには、みかんをケースで買われるお客さまも多く、団地の5階まで階段で父親がみかん箱を2つ重ねて運んで、小学生だった自分がその後ろからりんごを持って手伝ったりしました。そのうちにスーパーが増え、正月でも買い物ができるようになり、かつて国立に11軒あった八百屋さんが、今は3軒に淘汰されました。
多摩支所 柳澤俊宏氏
  • 今から14年前、私は当時、電気工事の会社で工事部長になっており、年収もかなりありました。そんなとき、父親から相談されて、八百屋兼コンビニのような店に作り直すことにしました。初期投資額もそれほどかからないのが利点でした。店を改装するまでの間、会社を休みました。その3ヶ月間に、知り合いの方などから「うちの店に野菜を納めて」という依頼を7〜8軒もらったのですが、父親がやっていた頃は、納めは1軒だけでしたから、両親の手には負えなくなりました。家業ですし、いつかは継がなければならないと思っていたので、会社に頭を下げて退職させてもらいました。
◇店売りから納品業務へ
  • 父親の後を継いだ当初は店売りを一生懸命やりました。ところが、あまり名前の知られていないコンビニには、お客さまが来ません。今日売れても、次の日はもう売れないんです。安く売らないとお客さまが集まらないし、八百屋は10個仕入れたら10個すべて売らないと利益が出ない、ということもわかりました。店売りが主では行き詰まる、これからどうすればいいのか、と考えたとき、地域に密着した小回りの利く商売をする、納品業務に参入せざるをえない、という結論にいたりました。
◇納品業務という仕事
  • うちは私と3人の従業員さんでやっているのですが、経理も伝票も仕入れも、すべて私がやっています。性格的なこともありますが、基本、八百屋は人をたくさん雇って自分がラクをしよう、ということはできないアナログな商売だと思います。

  • 納品業務は覚悟を決めて全勢力を注ぎ込まないと、簡単に足もとをすくわれます。今、多くの八百屋さんが納品業務に移られていますし、大手の納め屋さんもいます。

  • 学校や病院は1ヶ月分の納品書を出してくれますが、うちのお客さまは60%が個人のお店で、件数が多い。飲食店は閉店が遅いので、発注書が夜中の1時過ぎに来ることもあります。私は、すべての発注書を確認してから寝ます。絶対に欠品したくないからです。80〜90%は東京多摩青果で仕入れていますが、あちこちにアンテナを張り、築地や大田の仲卸さんに頼むこともあります。届けてもらうタイムリミットがあるので、最後のFAXまで全部見て、余力があれば伝票も全部作ります。2時前に寝たことはありません。1〜2時間寝て、仕入れをして、パートさんに仕分けをしてもらって、都内へ配達に行きます。

  • 学校への納品で、鮮度やサイズが問題になることがあります。それは、よくいわれる「ホウ・レン・ソウ」不足。報告、連絡、相談が足りないからです。たとえば、今、台風の影響でにんじんが高騰しています。そうなる前に予兆はあるので、栄養士さんに「高くなるだろうし、輸入品になるかもしれません」といった報告をすること。知っていれば栄養士さんも対応しやすいので、事前に相談することがとても大事です。
◇新規の仕事は明日への活力になる
  • つい先日獲得した、新規の仕事の話をします。納品しているお店のすぐそばにイタリアンレストランがあって、その前を、日々、台車を引いて通っています。オープン直後に営業に行きましたが、チェーン店で決まった取引先がある、と断られました。6ヶ月経った頃、店長さんに呼び止められて、「今、○○っていくらしてるの?」と聞かれ、その日の価格を答えたら、「配達のあとで店に寄って」と言われました。そこで、現状、困っているという話を聞き、納品されたばかりの野菜も見せていただきましたが、あまり鮮度はよくありませんでした。うちの見積もりを出すことになり、私は、現在の仕入れ価格を教えてもらいました。自分が納品を引き継いだときに、このお店に利益を出してもらえるのか、確認したかったからです。家に帰ってうちのその日の納品額を赤ペンで書き、扱ってない野菜は築地、大田に確認して後日お知らせすることにして、翌日持っていきました。うちの見積もりのほうが数千円安かったのですが、新規のお客さまになっていただくために安くしたわけではありません。最初だけ安くても続かないので、通常価格を記載しました。きゅうり、トマトなど、今、うちで扱っている野菜も1個ずつ持っていったところ、店長さんと料理長さんから、「明日から来てくれる?」と言われて、すごく嬉しくなりました。

  • 一生懸命やったにもかかわらず、相手先が閉店してしまったり、もう明日から来ないでいいよ、と言われたり、悲しくなることもあります。でも、新しい仕事をいただけたときの喜びは明日への活力になり、市場で品物を選ぶときの真剣さも違ってきます。お客様が喜んでくれる商品を、人より早く市場に行って探す。これが鉄則です。
◇営業をしよう
  • われわれは、大手にできないことをやればいい。まずは地元の飲食店から少しずつ声をかけてみてください。とにかく遠慮せず、扉をどんどん叩くことです。そういう私も、店を継いですぐの頃は日々の仕事で精一杯で、営業などできませんでした。

  • 忙しいのはいいこと、ありがたいことです。今、仕事がヒマという人は、明日から営業してみてはどうでしょうか。野菜の納品に関して困っている飲食店は、みなさんが思っているより多い。値段の問題だけではありません。

  • 配達のとき、時間もガソリン代ももったいないので、途中の店にも営業するようになりました。みなさんも、「今の八百屋さんよりいいものを持ってくる自信がありますよ」と、扉を叩いてみてください。10軒に1軒ぐらいはお仕事をいただけると思います。
◇大切にしていること
  • 仕事に自信をもつ
    うちの店では、使ってはいけない言葉が3つあります。「…かと思った」、「…かな、と思った」、「…だろうと思った」は禁止です。もしかしたらダメかもしれない、そうじゃないかもしれない、自信がない、という気持ちの現れだからです。自信のない仕事は最終的にクレームになります。間違いない、絶対に大丈夫だ、という仕事をしてください。そうすれば失敗やクレームは減るはずです。店売りでも納品でも、商売に気持ちを込めていけば、まだまだ個人商店も捨てたものではなく、十分やっていけます。昔ながらの肉屋さん、魚屋さんがほとんど町から消したのは、冷凍できる商品だからです。野菜はそうはいきません。鮮度が命。だから八百屋は強いんです。「大丈夫かな?」と思うものは、納品してはいけない。それが、私の信念です。

  • 感謝の気持ち
    自分のしている仕事は、「やっている」のではなく「やらせてもらっている」という気持ちで向かってください。依頼する立場なら、「仕事をしてもらっている」という気持ち。「仕事してやっている」、「仕事させてやっている」では、うまくいきません。八百屋だけではなく、どの業種にもいえることです。

  • 細かい気配り
    サニーレタス、グリーンカールなど、ビニール袋に入れやすいのはお尻から。出しやすいのもお尻から。だから、頭からビニール袋に入れて納品すれば、葉がひとつも取れずに出せる。できる限り、相手が出しやすいようにする。こんな細かいことも気にしてください。セロリ1株の注文に、「あのお店は1度に全部使い切ることはないな」と思ったら、また袋が使えるように、破らずに納品してください。こうしたささいなことが信頼を生みます。

  • たくさん話す
    天候の話でも、報告でも、相談でも、とにかくお客さまとたくさん話をすることが大切です。信頼を得ると、値段のことを言われなくなります。そうすればいいものを持って行けます。C品を注文されたら一生懸命Cを探せばいいのですが、そうでなければ、A品でちゃんとお金をもらってください。最終的に価格ではなくなるように、自分をレベルアップすること。お客さまに喜ばれる納品をしてください。

  • 天下無敵
    「天下無敵」という言葉があります。これはケンカをして勝つことではなく、地上に敵を作らないことが本当の「天下無敵」だと、この年になって気がつきました。どんな方とでもじょうずに話ができて、接することができる。それが最終的に利益につながります。みなさんも明日から、「天下無敵」になってください。

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特別講演「より一層のプロ意識を持つ」食べくらべMr.八百屋のここだけの噺